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偽りのピンクブロンド【商業化予定】【全体改稿予定】  作者: 川崎悠
第8章 ダンジョン攻略と文化祭
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93 イベント『アルスの探し物』

 さて。これから、ヒロインの代わりにお困りのアルスに声を掛けるワケだけど。

 必要以上に彼の好感度を稼ぐつもりはない。

 なので、ヒューバート主体でいくことにする。

 困った時の丸投げヒューバートよ。ふふふ。


 アルスの好感度を稼ぐヒューバート。

 これはヒーロー同士という禁断の可能性が!


「お嬢。不穏な表情を浮かべながら俺を見ないでください」

「まぁまぁ。私、理解のある方よ?」

「何の理解ですか……」


 冗談はさておき。アルスへの声掛けはヒューバートにお願いする。


「マーベリック司祭。どうしたんですか?」


 私とヒューバートは話し掛けながらアルスに近付いた。


「ああ、貴方たちですか……」

「こんにちはー、アルスくん!」


 好感度を上げ過ぎないようにしつつ、元気目の笑顔でヒーローをくん付け呼び!

 ふふ、このムーブ、とてもヒロインっぽいわ。


「先程から、どうもバザーを楽しんでいる様子には見えませんでした。司祭、何かお困りですか?」

「困っているなら私たちも手伝いますよー? 同じ生徒会役員の一年生ですからね!」

「それは……いえ、2人はバザーを楽しんでいただければ」

「私たちは、もう午前に一通り回った後ですから! 遠慮しなくていいですよ、アルスくん!」


 少し強めに押すと、アルスは困惑しつつも……事情を話してくれた。

 どうやら相当、参っていたらしい。

 天の助けのように感じてくれているだろうか。

 まぁ、そう思うくらいでなければヒロインの好感度だって上がらないでしょう。

 ここは男女がどうこうというより、人間としての好感度を上げておきたいわね。

 アルスは、ジャミルやロバート、クルスと違って『アリスター』に対して、まだ敬意を欠いたことはない。そこは大きな違いよ。


「……実は、バザーに出すべきではない品が流れてしまったようで。

 教会から回収するように言われているのです。朝からずっと探していたのですが……」

「見つからない、或いは既に売れてしまったの?」

「……はい。まだ見つける事ができていません。売れたかどうかは考えないようにしています」


 まぁ、売れたかどうかなんて分かるワケないものね。

 なにせアルスには『物』が何かすら分からないのだ。

 だから、それらしき物を見つけて、込められている『奇跡』……神の残滓? やら何やら、アルスにしか掴めない力を掴む必要がある。

 絶対に違うだろう物は見ただけで弾けるらしいが、それでもバザーに集められた出品物は膨大な数だ。


 私は、その正解が『聖霊のロザリオ』というアイテムだと知っているワケだが……。

 ゲーム上、このイベントはバザーの日、丸一日を費やすことになる。

 しかし、それはゲームの上でテキストによって流されての話だ。

 現実で丸一日、何かも分からない物を探し続けるのは、かなり精神に来るだろう。


 もしかしたらレーミルは夕方、このアルスイベントが終わる頃に出て来るのかもしれない。

 ゲーム知識があるからこそのズルな考え方だ。

 『ロザリオが見つかるのは夕方だから』。

 そして『アイテムさえ見つけてアルスに渡せば好感度が上がる』。

 そう考える場合、最も効率的なプレイ(・・・)が、夕方に颯爽と現れて、探し物を見つけてアルスに手渡す、ということになる。


 実際、『アイテムを見つける』という結果が重要なのか。

 或いは『アイテムを一緒に探す』過程が重要なのか。

 どちらかは分からない。

 私が見つけてしまえば過程も結果も私のものとなるワケだけど……。

 別に私はアルスを攻略したいワケじゃないのよね。

 なので最後にヒロインが現れて、このイベントのいいとこをかっさらうなら、それでもいい。

 むしろ、その方が油断を誘えていいかも?

 やんわりとアルスからレーミルの好感度が『上がらない』といいな、ぐらい。

 好感度アップ値が一緒に探したらプラス5のところを、渡すだけならプラス3になる……みたいな。

 ヒロインをそこまで好きじゃなければ悪役令嬢への対応もじわりと向上するかもだ。



「どういった物を探しているんですか? 探し物であれば人手があった方が良いでしょう。俺たちも手伝います。ね、お嬢」

「うん! 困った時はお互い様だよね!」


 ふふ。元気な『だよね』語尾! ピンクブロンドムーブよ!


「…………」


 正体を知っている人が相手だと、私のこのピンクブロンドムーブは白い目で見られる。

 そして私の羞恥心を刺激するの。

 こら、その『何言ってんだ、お前?』な冷たい目で見るのを止めなさい、ヒューバート。


「……ありがとう、ございます」

「いいの、いいの! それで一体、何を探しているの?

 教会の探し物ってことは何か教会に関係している品?」


 答えは知っているものの、具体的な指摘は流石に避けておくわ。

 でも、さりげなく誘導はしておくことにする。


「それが何かも分からないのですよ」

「ええ!?」


 と、大げさなリアクションをしておいた。

 だから、ヒューバート。私のリアクションをいちいち白々しいとでも言いたげな目で見ないで。


 アルスは相当、お困りだった様子で色々と話してくれた。

 なんだか余裕がないっていう感じがするわ。

 普段は、どうしても糸目キャラの胡散臭さが出ているアルスだけど……。

 こうして本当に困っている様子だと少し親近感が湧くわね。


 私たちは話しやすいように休憩場所に移動して、ひとまずアルスに休憩させた。

 そして彼の事情を聞き出す。

 今のところ私の知っているゲーム情報との差異はなさそうだ。


 つまり2年生の個別ルートで起きるはずのイベントが、この時期に起きたということ。

 やはり私の知らないルートであることは確定だと思ってよさそう。

 ゲームではなく現実だからと、完全に物語から外れているのではなく。

 あくまで私の知らないルートを進行中なのだ。

 今後の攻略は、そのことを念頭に置いて対処しなければならないわね。

 今のところ魔王とダンジョン関係以外はただのイベントの前倒しなだけだけど。

 2年生に上がってからは、もう知識には頼れないことになりそう。



「そういう状況であるならば、あまり人海戦術で手分けして、では意味がありませんね」

「うーん。一旦、一緒に行動して、今度は見落としがないようにする?

 『あ、これ、教会に関係ありそう!』っていう品があったら、どんどんアルスくんに教えるよ!

 ほら、やっぱり一人だと見落としがあるかもだもん」

「……そうですね。見落としがないようにするには……」

「それに教会の偉い人が贈ったプレゼントなんだよね? 個人宛てじゃない。

 だったら、そこまで変な物は贈らなそうっていうか。教会で保管するような品だし。

 もっと、こう完全に『教会にありそうなモノ』だと思っていいんじゃないかな!」

「……たしかに。それもそうですね。すみません。

 どうやら、並んだ品の多さに私も動揺していたようです。冷静でなかったらしい」


 うんうん。

 ここで『アルスくんでも、そんなことあるんだね!』とか。

 ヒロインスマイルを向けたら好感度が上がりそう。

 やらないけどね!


「じゃあ、さっそく端から確かめてみよう。

 あと、もう既に他人が持っている物だったらキリがないから。

 そこは潔く諦めましょう。変に人の持ち物にまで意識を向けていたら集中力が削がれるわ」

「え、ええ……。そうですね。そうします。そこも目移りしてしまっていました」


 でしょうねぇ。アルスは、かなり動揺していたみたい。

 案外、ヒロインと一緒に探す行為は、アルスの気持ちを落ち着かせるためであって、彼を落ち着かせたら『答え』を導き出せるんじゃないだろうか。


「しかし貴方は意外と……いえ、ありがとうございます。セイベル嬢、ルーカス殿」

「いえいえ! お礼は、ちゃんと探し物を見つけてからで!」


 そうして私たちはアルスの探し物に付き合うことになった。

 レーミルは、やはりバザー会場に現れない。

 それとなく周囲に気を配っているのだけど、アルスの様子を遠くから窺っているということもなさそう?

 まぁいいわ。

 とりあえず現実でこの探し物イベントは、かなり苦労する。

 正解を知っている私こそ、しっかりと注意して見落とさないように気を付けるべきでしょう。

 なにせ『聖霊のロザリオ』は先代教皇の奇跡が込められたアイテム。

 万が一、魔王討伐にとって重要なアイテムだったら、この国の存亡に関わる。

 その場合、誰より事情を知っているヒロインは何してるのよ? って話だけど。


 バザーの端から3人で連れ立ち、虱潰(しらみつぶ)しにしていく。

 正解がロザリオだと知っており、おおよその形状も把握しているのだが。

 アルスが何かに気付いてこそ発見できるアイテムかもしれない。

 彼の『私』への信用も関係してくる。

 なので面倒臭がらず、教会関係っぽい物品を端から逃さず指摘していった。


 時間は掛かるし、全然見つからない。めげそうになるが……。

 答えは分かっているのだ。

 そして負けず嫌いな私は簡単に諦める気になれない。

 たとえ、最後にヒロインが現れて美味しいところをすべて持っていくとしてもだ。

 そうして。

 3人で2時間ほど、バザー内を虱潰しにしていたところだ。

 私は見つけてしまった。

 『聖霊のロザリオ』ではない。

 明らかにバザーで出すには異質な、いや、紛れていてもおかしくないが。

 粗悪な品に紛れた、黄金のカップ……?


「……これ」


 メッキじゃないわね。

 この世界、この国は、メッキ技術もそれなりに発展しているらしい。

 もう、どこが異世界なのだと言いたくなる。

 とはいえ前世・現代ほどメッキの品が安上がりとは言えまいが……。

 私が今、手に取ったカップは、展示されている値段の品ではないだろう。

 だが、その価値を理解されていない。売る側がメッキだと思っているのだ。

 なので簡単に手に取らせて貰えた。販売しているのは教会の人間のようね。


「見た目に対して、重いわ。やっぱり中身も?」


 普通に、これは『黄金』で出来たカップでは?

 いえ、別に聖杯だなんだと言う気は流石にないけど。もっと、お高い品では?


「ルーカス、これ。このカップを手に持ってみて?」

「ん? ああ……。何故こんなものが?」


 ルーカス(ヒューバート)にも私の言いたいことが分かったようだ。

 確かめてみた限りでは、やはりメッキのカップではなく、黄金のカップっぽい。


「どうしましたか」

「アルスくん。これさ。どうかな」

「えっと……。ん。……ええと、これは」

「もしかして探し物は、それだったりする? アルスくん」


 黄金の杯。まぁ、そんなものに教皇クラスの存在が『奇跡』を込めたって言うのなら、それはやはり聖杯と言えるかもしれない。

 これが答えだったら、少し感動があるわね。

 アルスは何やら意識を集中している様子だ。

 ほんのりとカップを手に持った部分が光っている?

 『奇跡』について私は門外漢なのよね。単純な回復魔法系統の異能とは違うっていうか。


「……残念ですが、探し物ではないようです。ですが、こちらは」

「アレですよねぇ」


 これは黄金よ! なんて、ここで言ったら騒ぎになってしまう。

 黄金と言っても、そこまで高価な量ではないのだけど。

 そして別に私はお金に困っていないため、金銭的な掘り出し物を見つけても、がっつく理由がない。

 とはいえ、これは適正な価格で取引しておきましょうか。


 黄金というと、どうしてもキラキラしたものをイメージしてしまうのだけど。

 これは、なんというか色が(にぶ)いというか。

 『真鍮(しんちゅう)』のようなものこそ一般人としては『金』だと言いたくなる。

 この杯は、そっち系のキラキラは発していなくて、代わりにまさに金を加工して作ったという感じの品だった。


「ルーカス。このカップの適正価格って、いくらぐらいだと思う?」

「うーん。価値はありますが、それほど。適正と言いますと、やはり……」


 ルーカスの示した金額は展示された値段よりは割高だ。

 うん。でも価値的にはそのぐらいだと私も思う。

 その額で、この黄金のカップを購入させていただこう。


「え、こんなに……これの値段は、」

「受け取ってください。それだけの価値がある品ですから」


 ニコリと微笑んで私は店番にお金を支払った。

 まぁ、こういうのにきちんとお金を払うのも貴族の役目の一つだものね。


「ごめんね、アルスくん。寄り道しちゃった」

「……いえ。手伝って貰っているのは私の方ですから。それにしても、セイベル嬢の印象は普段とはかなり違いますね」

「うん?」

「今回の探し物を始めた時の指示も冷静で、今の対応も……高位貴族のような振る舞いに感じました。

 資金は問題ありませんか? 私にも支払わせてください」

「ええ、そんな、悪いですよ。大きな買い物ではありませんし」

「……銀貨を支払われた様子ですが?」


 ん。この国の物価と兌換率は……とかは置いておいて。

 子爵令嬢がポンとバザーで出すお金としては相応しくなかったかもしれない。

 うーん。ここで下位令嬢感を出すには、どうすればいいか。よし。


「ふふ! 掘り出し物を見つけて、後でいい感じに売るんです!

 そうすると、私のお小遣い稼ぎになりますから!」


 お金にシビアな感じを出していくスタイル!

 商会をやるんだから、きっちりシビアになってないとダメよね。これも勉強よ。


「ならば、安い値段で購入するべきだったのでは……?」

「……そこはそれ!」


 誤魔化し完了! ってことで。

 とはいえ、だ。気になった点。気にするべき点。

 私は黄金のカップを見つめた。


「値打ちものよねぇ」


 アルスイベントと同時に発生する、賊の侵入。

 彼らは『高額な出品物』の噂を嗅ぎつけてやってくるはずだ。

 まさか、この黄金のカップがそれとか?

 いや、でも、そこまでするほどの値段があるワケでもないんだけど……。

 こういった掘り出し物が他にもあるとか。


 絶妙に不穏な気配を感じながら、私たちは引き続き、アルスの探し物を続けた。

 そして。


「ちょっと! それ、私が先に見つけたんだから! 返しなさいよ!」

「ぁあん? うるせぇぞ!」


 聞き覚えのある声と共に、騒ぎが起きた。


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