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偽りのピンクブロンド【商業化予定】【全体改稿予定】  作者: 川崎悠
第8章 ダンジョン攻略と文化祭
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91 バザーの約束

 1年生の時の『バザー』は、アルスのイベントが発生する。

 生徒会室に入る前、『ヒロイン』レーミルを廊下の先で見掛けたのだが……案の定、アルスとやり取りしていた。


「……元気ねぇ」

「まぁ、あれぐらいであれば許容範囲ではありますが」

「そうなの?」

「婚約者のいない男性に、同じく婚約者のいない令嬢がアプローチしているだけ、ですからね。

 互いに交際に至っていないので複数人に声を掛けたとしても、他人にどう思われるかが変わるだけです。

 あのアプローチを止めてしまうのは、他の人たちが困るのではないかと」

「たしかにそれもそうね」


 前世と明確に違う部分はそこだろう。

 『高校』と『大学』に該当する王立学園だが、そこでは多分に『婚活』も含まれる。

 だから、ああいうアプローチは自然なものでもあるだろう。

 そもそも、レイドリック様にアプローチしている女子生徒が沢山いる時点でさもありなん。

 ゆるふわな世界観なため、恋愛を謳歌したい感情もあるのは違いないけれど。

 婚約者のいない者は、ここは圧倒的に自然な出会いの場なのだ。

 前世もそうと言えばそうよね。社会人になると分かる男女の出会いの機会の少なさ……。


 いえいえ、そこを今、私が黄昏るのはおかしいわね。

 私も学生なのですもの。前世も曖昧。意識も学生。だから私は若い! うん。

 実際、明確な年齢感はないし、主観が現地人・アリスターなので大丈夫よ。



「あっ……」

「どうしました、お嬢」


 ふと、気付いてしまい、立ち止まって私はレーミルたちを見た。

 通常プレイでは先に言ったようにバザーは、ただのアルスイベントだ。

 ルート確定前の共有ルート中で、一気に彼の好感度を上げるためのイベントとなる。

 けど、今の状況を失念していた。


 今現在、おそらく『魔王復活・逆ハーレムルート』を進行中なのだ。

 そしてヒロインは、そのことを理解した上で攻略を進め、また起きるイベントもそれに準じている、はず。

 『剣技大会』は、どうもロバートのイベントを前倒しにした感じがあった。

 そう、逆ハーレムの都合上、各自のルートで起きるイベントが前倒しになっていると思われる。


 つまり、バザーでも『2年生になってから起きるアルスのイベント』が発生する?


「……そうすると。ルーカス」

「はい。お嬢」

「もしかしたら、バザーで事件が起きるかもしれない」

「……事件?」


 2年生でのアルスルートにおけるバザーイベント。

 バザーの出品物は、概ね教会への寄付品からなのだが……。

 その中にバザーなんかで取り扱うには、あまりに高価な品が紛れ込んでしまう。

 イベントの始まりは、バザー当日になってから。

 アルスは教会から、その報告を受ける。

 出品に紛れ込んでしまった高価な品なのだが……どうも『神聖な力を込められた』アイテムらしい。

 なんてふんわりした情報なのか、と頭を悩ませるワケだが。


 どうも、それは先代の教皇猊下が『奇跡』を込められた一品だそうで。

 で、それは『何』なのか? と言うと『分からない』という。

 なんと箱の中に保管されていたようで、教会の人間が確認した際、その箱が空っぽだったそうだ。

 つまり、回収しなければならないアイテムの特徴は『教皇クラスの奇跡が込められたもの』のみ。

 そのため、深く奇跡に精通しているアルスしか探すことはできない。

 折悪く、バザーには別に高額な出品物が紛れ込んだという話があり、そこで……学園に侵入した不逞の輩が、それを盗み出そうとする。


 まぁ、ドタバタしたイベントが起きるワケだ。

 高位貴族の子女がいる場に賊が侵入することが一番の問題な気がする。


「…………」


 もしかして、その賊の侵入って『私』の仕業だったりしないわよね?

 2年生の2学期だ。1学期から不遇の『アリスター』のストレスは相当のものである。

 そしてアルスルート中なので……、アルスは最終的にヒロインを虐げようとするアリスターを追い詰めるワケだが……。

 この一件の黒幕に『私』がいることを疑う何かがあった、とか?


「あ、怪しい」


 なんか私が黒幕な気がしてきた。

 むしろ私だったらどうするだろう?

 流石にシラフでそんなことはしない。かなり精神的に追い詰められている証拠とも言える。

 が、そんなこと周囲の人間は気にすまい。自力でそうならないようにするのが一番だ。


「お嬢? 大丈夫ですか?」

「うーん。あまりアルスに関わる気はないんだけど」

「アルス? マーベリック司祭が何か?」


 知っておきたいわ。このイベントの詳細。

 いえ、そもそも1年時に起きるイベントじゃないから、また1年後の話なんだけど。


「事件、起きるかもしれないけど、何も起きないかも、なのよ」

「はぁ……?」


 ヒューバートには伝わりにくいわよね。


「よく分かりませんが。お嬢の目的に、その行動は合っているのですか? であれば行動してもよいかと。私もフォローしますよ」

「……ありがとう」


 私の目的か。大目標は……当然、悪役令嬢としての破滅を回避することになる。

 そのやり方については、私の性格とか『意地』があるのでスマートとは言えないのだけど。

 とすると、危険なイベントには関わらない、が一番だ。

 レイドリック様攻略のイベント以外は基本的にスルーすると決めているから。

 でも、この場合って確認しておいた方がいいような気がするわ。


「懸念点として、学園の治安の問題に関わる気がするのよね」

「治安ですか。事件の確証はないんですよね?」

「ええ。普通に問題もなく過ごせるかも。でも、その場合、問題が起きるのは来年ね」


 レイドリック様はゲーム上ではバザーイベントには関係ない。

 ヒロインが今、アルスにアプローチしている以上、あちらの知識でもそうだと思う。

 地道な好感度アップを狙うなら、レイドリック様とバザーを回る約束を取り付けるのがベストだと思うのだけど。


「では、お嬢。当日は俺と一緒にバザーを回ってください」

「貴方と?」

「はい。当日の状況に合わせて、臨機応変に対応しましょう。フォローもしますよ。それともバザー前に対処できそうですか?」

「……いえ。たぶん、バザー当日じゃないとダメよ」


 高額な出品物を狙って動く賊は、現段階で活動しているのか怪しい。

 下手に調べて、その集団に刺激を与えると、1年後のイベントに悪影響を及ぼす可能性もある。

 事件が起きる前から逮捕しようとして上手くいくとは思い難いのだ。

 軽度の罪で投獄されて、より凶悪犯罪者になって帰ってくるとか。

 そもそも私が関わっていい相手かどうか見極めたい。

 『黒幕・アリスター』説を裏付ける根拠になどなっては堪らないだろう。

 なので、無関係を証明できる立ち位置に居つつ、可能な限り生じる事件を対処する。


「じゃあ、そうしましょう。バザーの日は貴方と一緒に行動するわ。デートね」

「デ……」

「うん?」


 いつも冷静なヒューバートが珍しく息を詰まらせるような挙動をする。


「どうしたの?」

「……なんでもありません」


 そうして私たちはバザーの日に起きるかもしれない事件に備えることになったわ。


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