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偽りのピンクブロンド【商業化予定】【全体改稿予定】  作者: 川崎悠
第8章 ダンジョン攻略と文化祭
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89 ファムステルのダンジョン③

 ダンジョン産の魔獣たちは、ファムステルの先行調査部隊が殲滅したらしいのだけど。

 地下2階まで降りても、定期的な襲撃を受けていた。

 とはいえ、苛烈な量とは言い難く、群れでの襲撃もないので処理可能な範囲だ。


「やっぱり、これはどこかで『発生』していますね」

「……そうなりますの」

「ええ」


 魔獣とは本来、魔力を帯びて強力になった動物のことを指している。

 少なくともこの世界、ウィクトリア王国ではそうだ。

 だが、それとは別に『発生型』もある。魔力溜まりから発生するタイプと言えばいいか。

 ダンジョンにおける魔獣は、この発生型みたいだ。


 その証拠に、魔獣たちは倒したそばから光の粒子となって消えていく。

 割と幻想的な光景ね。光の粒子というか、どう言えばいいのかな。

 『少し色の付いた魂』みたいな。炎の先にある陽炎のような揺らぎが、一塊になってフワリと浮いたあと、霧散していく。

 魂とは異なるだろうと思えるのが、倒して出て来るソレが別に一つではないから。

 花火みたい、というか。

 複数の魂の『塊』が魔獣の形を形成していたみたいなもので、倒すとフワァっと広がってから消えていくの。


「定期的な魔獣の再発生(リポップ)。なるほど、これは『ダンジョン』と呼べるわね。今まで、こんな場所が野放しにされていた事の方が問題よ」

「そうですわね。こんな風に無尽蔵に魔獣が生み出されると言うのなら何故、今まで問題が生じていなかったのかしら?」


 問題はそこ。

 こうして魔獣が無限湧きするのなら、今までに人類の生活圏が脅かされていてもおかしくない。

 定期的な狩りによる数減らしがなかったのだ。

 単にダンジョンの外へ出ようとは思わなかったのか。

 外に出て行く習性そのものがない?

 魔獣が出現する目的は、このダンジョンを守るため、だったり。


「……まだ謎が多くて何も分からないわね」


 私もミランダ様もハイスペックとはいえ、2人きりのパーティーで対処できるレベル。

 ただし経験値になるわけでもなく、殲滅できるワケでもない。

 魔獣の身体が霧散してしまうため、素材も残らない。


「このままでは、戦闘経験が積めるだけで『旨味』がないわね」

「そうですわねぇ……。まぁ、ストレス発散にはなりますけど!」


 ミランダ様は軽快に魔獣たちを屠っていく。

 報告にあったように、カエル型、コブラ型、こうもり型、そして角つきのキツネ型の魔獣が襲ってきた。


「先遣隊は殲滅したと報告してきたのですよね?」

「ええ。そして地下2階までは調査済み」

「それ以降は?」

「下へ降りる階段が見つかっていないそうですわ。ただ、それで終わりとはまだ結論付けていませんけれど」


 こんなレベルの敵なのに、2階部分までで終わりってことはないでしょう。

 地下3階以降もあると思うけれど。

 ただ、先遣隊では見つけられなかった、か。

 『ヒロイン』やヒーローたちが訪れた場合、先への道が開けるとか?

 ゲーム部分がなかったとしても、シナリオ的にも『肩慣らし』が精々。


「何か怪しげな場所とかは聞いていませんか、ミランダ様。祭壇があったりとか。終着点のような場所は」

「そうですわねぇ。少し広めの空間、広間があったみたいですけど……」


 広い空間か。想像できるのは『ボス』の存在ね。

 というか、居るでしょう、ボスは。


「……そこには群れのボスと見られる、大型の魔獣が居たという報告はありますか?」

「いいえ。ありませんわ。何か心当たりが?」

「心当たりと言っていいか。ただ私の『常識』で言わせてもらえば、ダンジョンと言うなら地下2階では終わりではないということ。最低でも10階層は欲しいわ。

 それから1階・2階に『ボス』らしき大型が現れないなら……地下5階か、地下10階には出て来るべき、ね」


「出て来る『べき』ですの? ふふ、面白いわね。ですが他国にあるというダンジョンもそれと似たようなものと聞きましたわ」


 そっか。他国にはあるって話だっけ、ダンジョン。

 物語として、この国でも親しまれているそうだ。

 ということは、そっちがこの世界でもスタンダード?


「なら、やっぱりまだ地下があるわね。でも、そこを私たち2人だけで攻略するのもどうかと思うけど」


 実力に自信はあるが、流石に舐めた行動過ぎるだろう。

 今回のこれだって先遣隊の報告があった上での行動だ。


「ですが、どの道、少数精鋭での攻略になると思いますわ。ゾロゾロと人員は連れていけません。それこそ『ボス』が居るのなら、この環境だとロクに逃げることが出来ない、撤退できないせいで余計な被害が出ましてよ」

「……それはそうですね」


 ダンジョンの通路は、やはり人工的だ。

 迷路と言うのが妥当な建造物。その通路の横幅は……戦闘は出来る。

 剣だって振れる幅と、それから高さもある。

 よくある狭い洞窟過ぎて剣が壁や天井に当たって振れなくなるといった事もない。


 でも、人数を割いて陣形を組んでの進軍は困難だろう。

 互いが互いの邪魔になる。

 またミランダ様が指摘したように、大型や強力なボスと接敵した場合、人数が邪魔になってロクに撤退ができなくなる事態もありえる。


「そうなりますと、その『少数精鋭』に私たちが組み込まれると思いますの。まぁ、こうして私たちが一緒に、とはならないかもですけど」


 それも妥当。

 高位貴族=高出力の魔法が使用できる、がこの世界の常識だ。

 今はまだ魔法の習熟度が低くとも、いずれはそうなる。

 私もミランダ様も魔力量は多いだろう。戦闘センスもある。

 であれば、この環境に投入するには最適な戦力に他ならない。


 ただの騎士を送り込んで調査するだけならいいけど、本格的な攻略を進めたいならば……。

 まぁ、まだボスの存在を確かめられてないんだけど。


 それぞれの領地にダンジョンを発見した以上、私たちが正式にダンジョンへ潜るならば自領となるだろう。

 そう考えれば、こうして私とミランダ様が連れ立っての攻略、というチャンスはそうはない。

 状況を舐めている、というよりは、今がむしろ最適な攻略態勢を取っていると言うべき……?


「……調査隊は2階までしか確認できなかったんですものね」

「ええ。他人に任せても見つからないけど、どうしても終わりとは思えませんから。ならば私は自分で確認したいですわ」


 時間を掛ければ彼らでも何か見つけるかも、と思うけど。

 いやいや、そうじゃないわね。


 乙女ゲーム的に、このダンジョンに『ヒロイン』たちが関わってくるのは、ほぼ確実。

 ということは『その他』の人間にダンジョン攻略なんてされては困るのだ。

 ここを完全攻略するのは、ヒロインかヒーローたちでなければならない。

 だから調査隊では先に進むルートを発見できない。

 この世界の人間の常識では見落としてしまうか。

 ヒロインかヒーローを承認してからでしか開かない扉がある。

 彼ら以外で、先へ進むための『何か』を発見できるとしたら、転生者である私ぐらいのはずだ。


「ひとまず、その広い空間とやらに向かいましょう。警戒はしておいて」

「ええ! そうこなくては!」


 そうして私たちは進んでいく。

 着いたのは報告にあった通りの広めの空間だった。

 部屋の形としては円形。如何にもボスフィールドっぽい。

 地下へ続く道を探しているのだから、ここにあって欲しいのは地下への隠し扉なのだけど。


「最終的には床をぶっ壊して調査ですわね」

「……うーん。まぁ、でも。ここの壁や床、天井って」


 私は、片膝をつき、手を床に押し付ける。

 そして魔力を軽く押し付けるようにして……。


「ええ。魔法耐性のある建材、ですわね。王宮を建てる際に使われている技法に似ているそうですわ」

「やっぱり。そうなると床を力尽くで吹っ飛ばすのは手間ですね」

「そうなのよねー……。あと単純に崩れたら崩れたで怖いもの」

「たしかに」


 今現在、ここは地下2階だ。

 ダンジョン自体が崩れでもしたら一溜りもあるまい。

 私の魔力量でも……もう少し土魔法に対する熟練度が欲しい。

 身を守るのに防護魔法を展開するもアリだけど、そういう事態の場合はシェルターとなる物質を生成するのが最適解だもの。


 とりあえず今、言えることは。


「……ここに訪れただけでは『何も起きない』わね」

「そのようですわね。もう少し調査していきます? 丁度、魔獣たちの襲撃も止まりましたし」

「魔獣の襲撃が? そう言えばそうですね。さっきまでは、それなりの頻度で発生していたのに」


 『ボス部屋』には入って来れない、発生しない、とか?


「やっぱり、ここ。ボスが出て来そうな空間ね……」

「アリスター様は何かアイデアはありますの? ここから先へ進むか、何かを起こすような」

「うーん」


 合言葉を言う。何か必要なアイテムがある。

 領地に現れているのだからファムステル家の何かを示す?

 ミランダ様がいるので血統に反応するタイプじゃない。

 そもそもヒロインかヒーローに反応して欲しいので、ミランダ様が必須な展開は変だろう。

 私の知らない『魔王復活・逆ハーレムルート』では、もしかしたらミランダ様がお助けキャラクターとして登場したかもしれないけど……。

 でも『ヒロイン』の反応的には、あんまり関係してないと思う。



 私としては、ヒロインと関係ないところで、どうにかダンジョン攻略を進めておきい。

 今日、この機会を得られたことは私にとってチャンスなのだ。

 だから、どうすべきか。


 9人のヒーロー、8つのダンジョン。

 内、非戦闘員のヒーローが一人で、『大商人の子』ホランドがそれ。

 概ね、ヒーローたちに該当するだろう領地にダンジョンは発見されている。


 『王太子』レイドリック様が賜る予定の王領。

 『王弟』サラザール様の管轄の王領。

 『宰相の子』ジャミルのメイソン侯爵領。

 『近衛騎士』ロバートのディック伯爵領。

 『王家の影』ヒューバートのリンデル侯爵領。

 『公爵令息』ジークのシェルベル公爵領。


 この法則からあぶれているのは、ファムステル公爵領とロッテバルク公爵領のダンジョンだ。

 だから、この2つに該当するであろうヒーローは、消去法で『魔塔の天才児』クルスか、『大司教の子』アルスになる。

 つまり、クルスかアルスの『攻略イベント』として、このファムステルのダンジョンは存在する……かもしれない。

 だとすれば……。



「ミランダ様。このダンジョンのところどころに散見される装飾ですけど、心当たりはありませんか?」

「心当たり?」

「ええ。出来れば教会か魔塔、どちらかを連想するような」

「教会か魔塔……」


 2人のヒーローのどちら用のダンジョンかを推測できれば、そのヒーローが取りそうな手段が『鍵』となる可能性がある。

 私も思い出そうとするけど……正直、教会と魔塔に深い関わりを持っていなくて分からない。

 私が主に関わってきたのは王家だから。

 関係を蔑ろにしていたつもりはないけど、今の私としては、まず王家との関係を重視していたし。


「そう言えば……こちらの装飾は、どこか教会のものと似ているかもしれませんわね?」

「教会の……?」

「ええ。なんとなく雰囲気が、ですけど」


 教会関係ということは『大司教の子』アルスのイベントでここは使われるのかな。

 アルスの場合、ここに来て『何』をするだろうか。

 クルスと違って、何か具体的な行動をする気がしない。

 逆にクルスが該当者だったら、それこそ魔法で強引に床をぶち抜きそうだ。

 アルスはその逆ね。


 もっと静かに、合言葉を知っていたり?

 教会に伝わる何かしらの言葉が鍵になっている可能性も……いや、待って。


「あの。ミランダ様。先遣調査隊に『奇跡』を行使できる者は同行していましたか?」

「え? 奇跡は……聞いておりませんわね。教会から購入しているポーション類は持参していたと思いますわ」


 ポーション……は、この世界にあるのよね。

 ご存じの通り、傷薬的な回復薬で『奇跡』によって作られる……は、今は置いておいて。


「もしかしたら『奇跡』持ちをここに連れて来れば、何か起きるかもしれません」

「『奇跡』を?」

「はい」


 ということは現在、奇跡を身に刻まれていない私たちでは先に進む術がないということ。

 『奇跡』……教会が管轄している、いわゆる回復魔法系のもの。

 魔法とは体系が異なる超常の力、そして現象。

 『ヒロイン』レーミルには、奇跡を覚える素養がある。けど『悪役令嬢』の私にそれがあるかは語られていなかった。

 あるかもしれないけど、あまり期待は出来ないわ。


「……別口で連れて来てから調査続行させるのも手ですわね」

「はい」

「ですが、たしか学園では生徒全員に対して『奇跡』の素養確認と修得を課していますわね」

「あ、はい。そうですね」


 例の魔王関連やダンジョン発見を受けて、学園では生徒全員に対して『奇跡』の素養確認と修得を課す方針を打ち出している。

 3年生から順番に、教会の協力を得て、それを行っていたはずだ。


「私は既に済ませていて『素養なし』でしたの」

「そうなんですね」


 まぁ、正直、素養があっても困るだろう。

 『奇跡』は魔法と違って、日々の祈りや巡礼によってしか使用回数をストックできない仕様だもの。

 神の御業であり、技術の修得とは異なるのだ。

 そりゃあ使い勝手はある。でも、公爵令嬢の私たちが覚えるには……ちょっと。

 ストックのための祈りや巡礼で賄えるのか怪しいから。



「ですが、アリスター様は……まだ分かりませんわね?」


 ミランダ様は、ニコリと微笑んだ。


「……私に素養があれば、」

「また私たち二人でダンジョン攻略が出来ますわ! 人数は増やして良いかもしれませんけど。ですが先遣隊にこの事を伝えて、もし何かが起きましたら……その光景を見れない、立ち合えないのは損ですもの!」

「あはは。そうですね」

「では! 一旦、戻ってアリスター様に『奇跡』を修得していただくか。或いは『奇跡』持ちを同行させるか、ですわね!」


 ミランダ様は好奇心で動かれている。

 でも、私としてはありがたい。下手に事態が進展するよりは……こうして私が把握できる範囲で物事が動いていてくれた方がいいもの。



 こうして私たちの初めてのダンジョン攻略は、あっさりと切り上げになった。

 一泊するぐらいの覚悟はしていたけど、こればかりは仕方ないわね。

 それに魔法の試し打ちも出来たし、次の方針も決まったから、ひとまず良しとしましょう。


 『奇跡』の修得は、学園のものを待ってもいいのだけど。

 モノによっては簡単に『アリス』と『アリスター』を同一視されかねない。

 流石に自分が高位の奇跡を賜るとは自惚れていないけど……。


 でも、私って悪役令嬢だし。

 下手をするとレアリティの高い『奇跡』を賜る可能性もある。

 期待していいんだか、ダメなのか分からないわ。


 とりあえず今月、10月に起きるイベントは各ヒーローたちの個別イベントがある『文化祭』。

 そして、アルスがメインのイベント、『バザー』がある。

 そこでアルスに同行を頼むとか思い浮かんだけど……。いやいや。

 奇跡の素養持ちと言えば、やはりアルスなのだけど『私』としては、やっぱり関わりたくはない。

 まぁ、生意気なクルスよりはマシかもだけど。


 回復役として、こちらに引き込める人員が他に居れば……いいわね。


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