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偽りのピンクブロンド【商業化予定】【全体改稿予定】  作者: 川崎悠
第8章 ダンジョン攻略と文化祭
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85 これまでと、アリスターの気持ち

 ミランダ・ファムステル公爵令嬢が、まっすぐに私の目を見つめている。

 貸し切りにされた王都のカフェの中。

 そばには『王家の影』見習いのヒューバートが控えているだけで、双方の侍女さえ居ない。

 3人だけの空間で、私はミランダ様と対峙していた。


 現在の私は、ピンクブロンドのウィッグを被り、『アリス・セイベル子爵令嬢』の姿をしている。

 でも、その正体は『アリスター・シェルベル公爵令嬢』だ。

 その事実を、ミランダ様に見破られて、ここに居る。


(……問われたのは、私のレイドリック様への気持ち)


 私と王太子レイドリック・ウィクター殿下は婚約関係にある。

 婚約初期の私たちの関係は良好だった。

 私の中に、彼を好きな気持ちだって確かにあった。


 だけれど、その関係に良くない変化が起きる。

 レイドリック様が王立学園へ入学して1年間。だんだんと私たちは疎遠になっていった。

 また彼は、私以外の令嬢とよく親しくするようになり始める。

 生来、女好きだったのだろう。まだ火遊びのような……肉体関係を誰それと結んだとは聞かない。


 そしてレイドリック様は何らかのコンプレックスを私に向けて抱えている様子だ。

 その証拠に、私を蔑ろにするように振る舞い、私が1年遅れて学園へ入学した際には悪辣な事を企てていた。


 生徒会の仕事を私へ割り振り、仕事だけをさせつつ……正式な生徒会メンバーには認めない。

 生徒会の役員入りをダシに一学期は私を酷使した後。

 2学期からは私以外の別の者たちを役員に入れた上、私だけは生徒会役員にしないつもりだった。


 もしも、その計画が通っていれば私の評価は『公爵令嬢なのに生徒会にも入れない』『婚約者のレイドリック王子に嫌われている女』だとして、貶められていただろう。

 ここまでは確実に『現実』で、そうだと言えること。



(……ああ。そうだわ。やっぱり、レイドリック様への私の気持ち、冷めてる)


 レイドリック様は『アリスター』に対して上に立ちたいのだろう。

 彼の様子から、その思惑が透けて見える。

 『なぜ』という疑問はあるけれど……それは既にある感情だ。疑問に問うても意味のない話となる。



 そして、これら現実の出来事や思惑とは別の話。

 私、アリスター・シェルベルは『転生者』だ。

 異世界転生。それもゲーム世界への転生となる。

 タイトルを覚えていないこの世界は、乙女ゲームの世界。

 そして私の役割は……『悪役令嬢』だった。


 ヒーローたち、それぞれにライバル令嬢となるキャラクターが居るタイプではなく、私という悪役が一人ですべての悪事を担当する物語だったと記憶している。

 つまり、ここから先の未来で『私』は悪として裁かれ、レイドリック様に婚約を破棄されてしまい、破滅するキャラクターだ。


 私の末路は多岐に渡っていて、婚約破棄は当然として、そこから処刑や国外追放、また歳の離れた悪趣味貴族に強制的に嫁がされるパターンもある。

 修道院行きもあるにはあるが、そのエンドでも身の安全は守られず、道中でならず者に襲われ、貞操を失う事になる。


 また『ヒロイン』視点でのバッドエンドも多岐に渡るのだが、その中にも地味に『悪役令嬢』のバッドエンドは潜んでいる。

 ヤンデレ化したヒロインに刺されて共倒れしたり、など。

 記憶上、ヒロイン側のバッドエンドだからと言って、悪役令嬢が良い思いをした、というパターンはなかった。

 必ずと言っていいほど、『私』に勝ちの目はないのだ。


 つまり正規ルート以外でも概ね、『悪役令嬢アリスター』は破滅し、不幸な未来が待っている。



 私がピンクブロンドのウィッグを被り、『アリス』として活動しているのは、この乙女ゲームの知識があるからだ。

 作戦はシンプル。

 普段は、悪役令嬢となる『アリスター』としては行動せず、『偽りのヒロイン』アリスとして活動する。

 そうして本来は悪役令嬢が被るはずだった不利益をすべて回避。

 それだけでなく『ヒロイン』側の攻略情報を駆使し、己の婚約者であるレイドリック様にアプローチして。


 『表』からゲームの流れをコントロールする事で、ヒーローたち、そして『ヒロイン』の言動を掌握し、『悪役令嬢アリスター』が被る破滅エンドをすべて回避する作戦。


 ……また、この行動は私の性格・性質が大きく影響している。



 私、アリスター・シェルベルは転生者だが……やはり、現地人そのものなのだ。

 つまり物語で『悪役令嬢』という役割を振られるような性格と性質、能力をしているのが『本当の私』になる。


 私は『ヒロイン』の鼻を明かしたいと思っている。

 それも同じ土俵で。相手の得意分野で、叩きのめしたいと考えている。


 だからこその『偽りのピンクブロンド』作戦。

 同じく転生者であろう『ヒロイン』レーミル・ケーニッヒと、ほぼ同じ立場からヒーローの『攻略』をする。

 そして、私が勝つ。


 こんなに爽快な事ってないでしょう?

 敵は、悪役令嬢というご都合主義の、何でも押し付けられる『悪役』が相手だと思っている。


 だから例えば、泣き落としとか。被害者面とか。

 ヒーローたちに向かって健気に振る舞い、泣いて縋って。

 『アリスター様にいじめられたんですぅ!』なんてパターンで彼女が攻めてきても。

 その相手となる悪役令嬢は学園に姿も見せない。だから悪役を押し付けようがない。


 それどころか『同じやり方』で私はヒーローの関心を得て見せよう。

 『偽りのヒロイン』として振る舞い、泣き落としてコントロールする。

 ヒロインの強みを使えないか、或いは同じように使える人間としてぶつかるつもり。



(……でも今は誤算が生じている)


 それは私の知るゲーム知識と現実の乖離が大きいという事。

 私の行動によって変化したのとは少し違う。

 『ルート通り』の雰囲気を残したまま、私の知らない未知のルートを進んでいる状況なのだ。


 その最たるものが『魔王復活の予言』であり、またウィクトリア王国内で見つかった8つの『ダンジョン』だった。


 私は、それらの要素を知らない。記憶上のゲーム知識にはない。

 だが、同じく転生者らしき『ヒロイン』レーミル・ケーニッヒは、その状況でも動じている気配がなかった。

 つまり彼女にとっては『ルート通り』の可能性がある、ということ。



 一応、先の展開についての予想は立てられている。

 基本は乙女ゲームであり、私の知るゲーム内容が反映されている事は確実。

 また発生タイミングが違うだけで、記憶にあるイベントもチラホラと起きている。


 推測しているのは、この世界の『現実』が辿っているルートが『魔王復活・逆ハーレムルート』の可能性。

 『ヒロイン』の動き方や、私の知識ではありえない攻略対象たちが生徒会に集う状況から、そう推測した。


 乙女ゲームの逆ハーレムエンド。乙女ゲームに出て来る魔王やダンジョン。

 世界の危機かはさておき、王国の危機にはなるだろう。


 そして『ヒロイン』は、ヒーローたちと手を取り合って魔王を討伐する。

 おそらく最終的には『聖女』と呼ばれる事になるだろう。

 聖女にまでなったなら、レイドリック様と結婚して王妃となる事も可能になるはず。

 他のヒーローたちを同時に侍らせたままかは怪しいけれど……。


(どのヒーローも貶めず、ヒロインの待遇としては最高状態になるような……なら、やっぱりレイドリック様の伴侶がメイン……)


 私の知識上の乙女ゲームから逆ハーレムルートを追加するというのなら。

 やっぱり概ね、ヒロインが未来の王妃になって、他の男たちはそばに侍らせるのがベストエンドだろう。


 そうすると『悪役令嬢』の私とヒロインが手を取り合う路線ではない気がする。

 そのベスト状態のヒロインにとって『王太子の婚約者』のままのアリスターは『邪魔』なはずだから。



(だけど、これらの事情は『乙女ゲーム』知識において、だから。ミランダ様に説明する『現実』とは話が違うのよね……)


 私には、私の破滅が見えている。

 だから『悪役令嬢』の立場に普段から立つつもりはない。

 そうではない令嬢として、暗躍しつつも……学園生活を充実させたいの。

 ひたすら我慢を強いられて、断罪イベントをこなす1年半後まで疎まれ、喧嘩し、蔑まれる日常なんて真っ平ごめんだから。


 私は、平和な学園生活を謳歌し、充実させたいわ。

 ……結局のところ、私が願っているのは、そこになる。


 レイドリック様との仲を修復し、愛し合う未来を……今の私は、深く望んでは……いない。

 それが私の本音だった。


「私は、レイドリック様への気持ちが……冷め始めていますわ」


ミランダ様に向けて、私は気持ちを打ち明ける。


「だから。可能なら……彼との婚約を破棄したい」


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