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偽りのピンクブロンド【商業化予定】【全体改稿予定】  作者: 川崎悠
第8章 ダンジョン攻略と文化祭
84/115

84 恋心

「どう考えても、その行動は突拍子がありませんのに、今のところは問題になっていないと」

「ええ。そうですわ」


 あら、ミランダ様、不満なお顔。


「本当にそれだけが貴方の理由ですか、アリスター様。別人になろうだなんて、それだけで思います?」


 その点は『乙女ゲーム』について分かっていないと疑問ですよね。

 私もこのピンクブロンドの髪を見て思いついたこと。

 これだ、と思ってしまったの。


「ミランダ様。それよりも本題です。貴方は、このことを黙っていてくださいますか?」


 私は彼女の疑問を退け、一番大事なことを聞いた。

 喋ったからって武力行使で黙らせることは出来ない相手。

 彼女に『アリス』の正体を明らかにされ、そのことを広められれば、すべてが終わりだ。


 私の平穏な生活は、そこで終わりを迎えるだろうな。

 そうしたら本当に学園に来ることは……やめよう。

 公爵位の競い合いに全力を尽くす方針に切り替える。

 レイドリック様との婚約も、もう諦めることになるだろう。

 ただの恋愛の駆け引きならそこまで思わないのだけれど。

 『原作』を考えると高望みは出来ない。

 私が、せめて『破滅しないこと』を目的とするべきだ。

 そうでなければ、あらぬ罪を着せられたり、処刑や国外追放もありえる。


「…………」


 ミランダ様は口を真一に結び、私をまっすぐに見つめてきた。

 彼女が、このことを隠し続けるメリットはない。

 また公爵令嬢として、本当は殿下の伴侶となりたかった可能性もある。

 私を追い落とす良い機会とも……。



「ねぇ、アリスター様。

 貴方、レイドリック殿下のことを……今でもまだ、好きですか?」

「え?」

「少なくとも『以前の貴方』は確かに殿下を慕っていたでしょう。

 ですが、今の貴方からはあの頃の情熱をあまり感じられませんわ」

「それは……」


 私はミランダ様から視線を外した。

 以前の私は、本当に彼を好きだった。それは間違いない。


 『本来』ならば、きっとレイドリック様の変わってしまった冷たい態度に内心で大いに傷つき、苦しんでいたはず。


 でも、私はそうやって本当に傷つく前に前世の記憶を思い出してしまった。

 それだけではなく、彼がどういう態度を『私』にする男なのかを『ゲーム』を通じて思い知った。


 また、前世の人生で心が蓄積した年数もある。私は知らずに『大人』になっていた。

 いつの間にか誰よりも大人になった私は、彼への恋心を……摩耗させてしまったの。


 私の好みは変わっていない。

 でも、きっと……どこかで彼のことを『ないな』と……思って……しまった気がする。


 それは何も劇的な変化なんかじゃなくて。

 婚約破棄されたとか、別の女に手を出していたとか。

 そういう裏切りの経験を経て、私たちの関係が壊れてしまったワケじゃなかった。


 じわじわと……彼にあまり魅力を感じないな、なんていう気持ちへ変わっていったの。


 今の私に残っているのは、おそらく自己保身やプライドだけだ。

 恋愛に関する情熱を抱いているとは言い難かった。

 『立場があるから』レイドリック殿下の婚約者を維持している。

 そうしようと努力して、隙を見せないように……。

 かつ彼を籠絡できるように振る舞う。


 でも、それだって。

 『私』の性格・性質として『ヒロイン』の鼻っ柱を折ってやりたいからそうしている面が否めない。


 ジークと公爵位を賭けて競い合うように。

 ロバートを剣技で叩きのめしたように。


 それが『私』だから、そうしているだけ。

 『ヒロイン』の立場から勝利して、あの女に目にモノ見せてやりたいから。


 そこにレイドリック様への恋愛感情は……今でもあるのか。自分でも分からなくなっている。


「…………」


 私は助けを求めるようにヒューバートに視線を向けた。

 彼は無言だけれど、私を見返す。

 そこに何かの感情がないかと、私は自然に探るけれど。

 相手は『王家の影』の見習いだ。そんな熱は感じさせなかった。


「……もし、今。仮に殿下に婚約の破棄、解消を申し付けられたとしても。

 或いは『ああ、そうか』なんて。そんな風に受け入れられてしまうでしょうね」

「そうですの。分かりましたわ」


 彼との婚姻に消極的。でも積極的に破綻させたいワケではない。

 これは今だけの気持ちだろうか。

 それとも、これから先もずっと抱える気持ちなのか。


 だとしたら私は、この冷めてしまった気持ちこそレイドリック様に伝えたい。

 そうすれば彼も余分な怒りを覚えないでしょう。

 私だけが彼を想い続けるなんて事はないのだと。


 『私』の立場を悪くしようと画策する男に、好意を抱き続けることはない。

 だから婚約破棄をあの大会で匂わせたことに後悔はしていなかった。


 どの道、理解も出来ていない様子だったし。

 私からの愛が失われるはずがない、と。レイドリック様は高を括っている。


 ……ダメでしょう、それは。

 もちろん私に対して溺愛する姿勢を見せてくれるならば問題はない。

 でも他の女に鼻の下を伸ばしながら、そんなふざけた確信を持っているなど、ありえない。



 これから先。

 もしも彼が、『私』の正体に気付いた素振りもなく。

 それでいて『アリス』に恋をするのなら。


 『アリス』への恋心が膨らむほど、私は彼に……失望していくんだろうな……。


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