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偽りのピンクブロンド【商業化予定】【全体改稿予定】  作者: 川崎悠
第8章 ダンジョン攻略と文化祭
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83 ミランダ、再び

 2学期はゲーム上では地道な作業。私たちの日常は、そんな細かい積み重ねによって構築されていく。


 生徒会に来ている以上は攻略対象たちとの接触は生まれるけれど。

 でも誰か個人に絞って行動しているのなら少々じれったい時期となる。『現実』だから特にね。


(目立った進展がない時期だもの)


 イベントとイベントの間の小休止。逆ハーレムルートについて正確な情報が私にはないので、実際この時期でこれが正しいのかは分からない。

 それぞれの話がどう魔王復活に繋がるのかも分からないわ。


 ただ『バザー』がアルス司祭の個別イベントに繋がることは確実でしょう。

 それは『ヒロイン』レーミルの動きからも推測できる。

 ……バザーに出て来る品に、何か特別なアイテムがあったりするかしら?


(私の知らないルート、魔王復活。雑な流れを推測すると『ヒロイン』は聖女扱いされる展開がセオリーよねぇ?)


 教会から何かそういう聖女にまつわる文献が出てきてもおかしくはない。今更だけど。

 というか、その文献は『捏造』されたものかもしれないし。

 王国としては『勇者』を王族から輩出し、その伴侶に『聖女』を据えたいという思惑がある。


 今の時点で教会と話が進んでいれば、バザーに何かしらそういう『聖遺物』を混ぜておくとか、あるかも。

 それを偶然にも手にするのが王族。或いは聖女というストーリー。

 市井受けも教会受けも良さそうな展開よね。



 ヒーローたちのイベントが強化されているとすると、この時期で気になるのは『大商人の子』ホランドもだろうか。


 どういう商品が入ってきたとしてもヒーローたちの『好感度上げ』に左右するはず。

 何かしらの『必須アイテム』があったりするかも?

 その中にはレイドリック様の好感度を上げるためのアイテムも存在する。

 ただ現実でのそれって『効果』はあるのかしら? 多少の印象は変わる気もするけどー……。


 そうして。

 日々は過ぎていく。

 問題なく。

 ええ、問題なんて、何もない。



「で? そろそろお話いただけませんこと?」


 ……ミランダ様が、そう言って私の前に立ちはだかるまでは。


 一応、タイミングは見計らってくれたらしく、周囲に生徒会メンバーは居ない。


 ミランダ様の方も友人を連れずに、そこはかとなく人通り自体が少ないタイミング。

 ただしヒューバートは私と一緒に居るわ。学園では主に彼と行動しているものね。



「ぇえー? 何の話ですかぁ? ミランダ様、怖ぁい!」

「……喧嘩を売っていますの?」


 あらまぁ。そんな、はしたない。わたくし、そのような事はしなくてよ。

 ちょっと悪ふざけで『アリス』しただけ。

 私はそのままの流れで、スススッとミランダ様に近付いて囁きかけた。


「ミランダ様は『約束』も守っていただけませんの? 『私』が何をしているのかは探らないはずでは?」


 と。

 いえね。『バレてるなー』とは思ってたの。だから彼女の指摘に動揺はしないわよ。

 バレていた上で、皆の前では指摘しないことを徹底してくださったミランダ様。


 その時点で私としては彼女への好感度が高いわよね。

 だから、こうして彼女が話し掛けやすい状況をこちらで作ったの。

 そうして今の状況よ。


 ミランダ様は、私の誘いを理解していたのでしょう。乗ってきてくれた。



「その言葉の時点で『答え』のようなものですわよ?」

「ええ。もちろん。でも、ここで話すのはどうかしら? 何か丁度いい場所はありません? 人払いはして欲しく思いますわ」

「……仕方ありませんわね」




 と、いうワケで、後日。

 週末を利用し、貸し切られた王都のあるカフェにお招き頂いたの。

 私とヒューバートは、滅多にない週末デート風のスタイルで学生寮から街へ出掛けた。


 そのカフェの場所は、人気の中央通りとは異なる、外れた通りにある。

 絶妙に人は入るけれど、物凄く忙しくはない、計算された立地。

 赤字経営なんのそのスタイルなのに、赤字にはなっていなそうな……。

 ファムステル家が、こういうお話などで利用するためにある店のようだった。



「さて。どこから尋ねて良いのかしら? アリスター様(・・・・・・)


 ヒューバートは同席せず、店内の警戒に当たっている。

 たぶん、聞き耳を立てているスタッフなどが居ないか注意してるのね。

 地味に風魔法……音系魔法で、こちら側からの音を遮ってもいるわ。

 ミランダ様は、ヒューバートのしている事を理解していて注意をしない。


「尋ねない約束でしたわよね?」


 ミランダ様は『私』に勝てば、この半年、どこで何をしていたかを教えろと要求した。

 そして負けたのだ。だから勝負の結果を無視して聞くのはルール違反。

 彼女の誇りと信用の問題となる。


「貴方がこの半年、普段はどこで何をしているか? を聞かせろと私は言いましたのよ。

 ですが『それ』は、こうして明らかになりましたわ。

 なので言及するまでもありませんわよね? ですから、その先の話をしますわ」

「ふふふ。まぁ、そうですわね」


 自力で辿り着いてしまったのだから聞いてはいない、ね。

 ここで私が、しらばっくれるなら黙っているしかないでしょうけれど。

 でもいいのよ。バレてしまったのなら。

 それにミランダ様のことは人間的に信用していいと思えるの。


「貴方、生徒会入りは『間に合っている』と言っていたでしょう? 始めは内々で殿下と契約を交わしているかと思いましたけれど。まさか、こういうことだとは。

 生徒会に探りに来て正解でしたわ」

「……一目で見抜かれました?」

「いいえ。しばらく観察してから、初めて確信を得ましたわ」


 まぁ。じゃあ変装レベルとしては申し分なかったのかしら。それは朗報。


「それに、先日の生徒会室でのやり取りも気になりましたわね。

 かなり強引に話を誘導していたでしょう、貴方?」

「……ダンジョンのお話かしら?」

「ええ、そうですわ」


 アレは流石に違和感を持たせたかぁ。

 無理矢理だったものね。

 他の皆は『?』と首を傾げるぐらいだったんだけど。

 『ヒロイン』レーミルだけは不満そうだった。


「気付けば、貴方としか見えなくなりますわ。

 ですが、よくもまぁ……。意外と他の方には気付かれておりませんのね、貴方のその姿」

「ふふ。そうなんです。バレていないんですよねぇ」


 ミランダ様が正体を見破られた第一号よ。


「……演技でやっているのだとしても、とても貴方の振る舞いは自然でしたわ。

 もっと高位貴族の令嬢らしい所作が()そうなものなのに。

 貴方は意識もせず、完璧に『違う人間』に切り替えられていますわね。

 一体、どこでそのような技術を学びましたの?」

「学んだワケじゃありませんけど……」


 もしかして私に前世の記憶がある事で、より変装のクオリティが上がっていたのかしら。

 あとは私を見るみなさんの『思い込み』も大きそうね。

 あの女がそんな振る舞いをするワケがない、って。



「……それで。なぜ、そんな真似を?」


 さて。ミランダ様にどこまで説明するべきかしら?

 『乙女ゲーム』については伏せるわ。

 信憑性がない問題以上に、今となっては私も知らない展開を見せている。

 これでは何も証明できる事はなく、余計な知識で混乱させては彼女の判断を鈍らせるでしょう。


「レイドリック殿下との仲を深めるため、ですわね」

「殿下との?」

「ええ。殿下が私より先に入学した1年間。ずいぶんと『お楽しみ』であったことは知っています」

「……そう」


 ミランダ様が気まずそうな表情を浮かべて、視線を逸らす。

 レイドリック様と同世代ですもの。当然、彼の素行はご存知なのでしょう。


「……陛下や、シェルベル公に相談なさらなかったの?」

「もちろん相談しましたわ。ただ、陛下たちから注意を促すのは止めていただきましたの」

「なぜ?」

「レイドリック様の意識を変えるには効果が薄く、むしろ逆効果となって私たちの関係が悪化すると判断しました。

 『傲慢にも国王陛下に訴える女』なんてね。言われたくはありませんでしたから。

 殿下も年頃の、ただの男子。私に張り合い、保ちたい面子もあるでしょう?」


 私は用意していただいたティーカップを手に取り、入れられていた紅茶で喉を潤した。


「……分からなくはない判断ですけれど。不敬ではありませんの?」

「王族とて、それ以前に人間ですもの。年頃の男子など、どこの国でも変わりありません。

 平和な国ですからね。戦場に育てば違うかもしれませんけれど」


 甘ったれが許される治安の国、王宮といったところかしら。

 ゆるふわ乙女ゲーム世界ですもの。まぁ、魔王が復活するらしいですけど。


「ですが、そのアプローチの意図がよく……」

「『アリスター』のままの私で、レイドリック様の前に立つと。それだけで彼が私を嫌うのですよ。

 どういう心の動きかは、私でさえ測りかねますわ。

 ……何かしらのコンプレックスかと思いますけれど。

 まず1学期については姿を見せなくて正解であったと確信があります」

「確信?」

「ええ」


 私は微笑みを浮かべてミランダ様を見つめ返した。


「殿下は、人手の足りない生徒会の仕事を私にさせようとしていました。

 ただし、その際。私を正式な生徒会役員にはせず、『試験』と称して仕事だけをさせる腹積りで。

 『労働力』だけは搾取し、それでいて『私』のことは認めず、優位な立場を保ち続ける。

 ……かつ、2学期になれば『他の役員』の正式採用は進めたでしょうね。

 『アリスター』の役員入りだけは認めずに。そうして噂も流れたはずよ?

 『殿下の婚約者で、公爵令嬢なのに生徒会にも入れないアリスター・シェルベル』……と」


 『原作』の基本ルートとしての『悪役令嬢アリスター』の扱いの下地は、そうして作られていくはず。

 その環境で追い詰められ、嫉妬や屈辱で追い込まれる私。


 泣きついた父や陛下は、私の心痛を慮ることはなく。頼りにできず、状況は悪化。

 ジークもあの有様では、家でも突っかかってきただろう。



「様々な情報を基に考えますと……どうにも『アリスター』のままではレイドリック様とまともに対話が出来ないと判断致しました。

 であるならば、彼が懐に入れてもいい女に扮し、関係を再構築するまで。

 陛下とお父様には、そのように話し、許可を頂きましたわ。

 実際、功を奏していますのよ。私が『私』のまま接するよりも、ずっと距離が近いですわ」


「……突飛な発想だと思いますけれど」

「ふふ。でも、レイドリック様と無意味な争いをするよりは、ずっと学園生活を楽しめていますわ。

 心も幾らか穏やかに過ごせていますの。

 これって大事なことでしょう? 私にも、学園生活を謳歌する権利がございます。

 ええ、レイドリック様のように」

「殿下のように?」


 そこでミランダ様は視線をヒューバートの方へ向けた。


「……彼は、陛下に求められ、普段の私の護衛に就いてくれているの。ねぇ、ルーカス」

「ええ、その通りです」

「陛下から? もしかして……」

「その命令系統に言及はしていませんわ。あまり聞かないようにしていますの。

 ただ、彼を信頼はしていますのよ。現にこの半年間、陛下から私の行動についてのお叱りは受けていません」

「…………」


 ミランダ様は私の言葉について考えるように、手を口元に当てて沈黙する。


「『私』とレイドリック様の関係は、きちんと構築できていると自負していますの。

 不必要に私の品位を貶められることはなく。

 王家との関係など悪化する要因は発生させない。

 公爵令嬢として、王子の婚約者としての、私の『価値』もしっかりと示しています。

 文武両面においてね? 実績を出しました。

 また『私』の行動は、すべてレイドリック様との良好な関係に繋がる動きばかりです。

 『婚約者として』問題ないアプローチを繰り返し、彼の反応も良好。

 生徒会での私たち婚約者同士のやり取りを見たでしょう?

 頬を染め、満更でもないご様子で私の作ったクッキーを食べてもくれましたわ。

 それに殿下にすり寄る『他の女』に対しての牽制も、きちんとこなしていますでしょ?

 ええ、婚約者としての義務は十二分に果たしていると。そう考えていますの」


 示すべき事。やるべき事は、実はこなしているのよ。

 生徒会役員として、普段からの彼の仕事のサポートもしているわ。

 それでいてレイドリック様からの『悪意』を躱し、学園生活を謳歌している。



 『アリス』と『アリスター』が同一人物と知り、また普段からの言動が陛下に報告されているのなら。

 ええ、理想的な? 関係構築でございましょ。

 少なくとも国王陛下に渡る情報だけ見れば。

 知らぬは殿下ばかりなり。


 ……知ってて私の茶番に付き合ってくれている、優秀さと好意があれば申し分なかったのですけどね。


 剣技大会などで『私』に見せる言動から、残念ながら、彼はまんまと私の正体に気付かないままなの。


 そこがねぇ。本当……。でも『ガワ』が、ゆるふわ乙女ゲーム世界なんだもの。

 王子は悪役令嬢を遠ざけ、ヒロインに惹かれるもの。

 そこだけは、やっぱり運命の強制力があるのかもしれないわね。


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