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偽りのピンクブロンド【商業化予定】【全体改稿予定】  作者: 川崎悠
第8章 ダンジョン攻略と文化祭
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80 ヒューバートの報告

 優雅に3日ほど休息をしてから学生寮へ戻り、私は学園へ向かう。

 ちょっとした『物』を用意してね。

 通学までの短い道の先で待っていたのはヒューバート。連絡していたわけじゃないのに。


「ルーカス。よく今日、来るって分かったわね」


 私は待っていた彼に歩み寄っていく。


「いえ。連絡はありませんでしたので、ただ連日待機していただけですよ」

「え、毎日?」

「はい」

「それは……なんていうか、ごめんなさい」

「お嬢が気にすることではないですから」


 まぁ、そうなんだけど。護衛であり、監視の彼。絶妙な立ち位置を保ち、いつも私を助けてくれている。感謝の気持ちが自然と湧くわよね。


「ルーカス。はい」


 そんな彼に私は小さな包み紙を渡した。


「……これは?」

「クッキーよ」

「は?」

「学生寮だと材料さえ持ち込めば手作りが出来るのよ。ちょっとした調理用スペースがあるから」


 身分的な問題もカバーしなくちゃいけない寮だから、借りられるスペースは人によって違ったりするけどね。

 公爵令嬢としての私が王都の邸宅から馬車で通学するように、学生寮に入る生徒と言っても、そのほとんどが下位貴族。


 そうそう問題となることはないけれど、それでもまぁ、それなりにセキュリティがきちんとしている。

 私の居る寮だと特にね。レーミルが居る方は知らないわ。


「俺に、ですか? お嬢が作られたのでしょうか?」

「『実家』だと作れないからねぇ。いえ、作れない事はないんだけど。

 学生寮の方が気楽に作れるから。ルーカスは大会で頑張ったでしょう? 私も助けられたもの」


 助けられたことは、まぁ『アリス』状態では大きく言わないとして。


「だから、そのお礼よ」

「……そうですか。ありがとうございます。お嬢、俺の方からも」

「え?」


 ヒューバートはポケットから何かを取り出し、私に差し出す。

 手渡されたのは小さな小箱だ。お洒落な感じの。


「これは……?」

「小物入れですね」

「はぁ……? 小物入れ? なぜ?」

「小さな飾りを入れておけます。お嬢は最近、金細工を手になさったとか」

「金細工……」


 私が個人で手に入れた金細工と言えば、まぁ剣技大会で優勝した際に頂いた『金の勲章』ね。

 アレと共に私は、騎士爵持ちの『アリスター卿』になった。とてもいい記念品。


「サイズもピッタリねぇ。よくこんな物を用意したわね?」


 パカっと開けて見るけど、別に中に指輪が入ってたりすることはなかった。

 流石にそこまでキザなことしないわよね。

 でも小箱系の小物入れを差し出されると、前世知識のせいか、ちょっとドキっとするわ。


「ありがとう。ルーカス」

「ええ。こちらこそ、ありがとうございます。お嬢」


 互いに礼を言い合って、ありがたく贈り物を受け取り合い、鞄にしまい込む。

 金の勲章は、生憎とシェルベルの屋敷に持ち帰ってそのままだけれど。

 また週末にでも家に帰って、この小箱に勲章を入れ直しましょうか。


「教室へ向かう前にここ3日の学園について説明しても?」

「何かあったの?」

「ちょっとした変化がチラホラと、ですね」

「そう。聞かせてちょうだい」


 学園へ入り、教室へ向かう前に少し寄り道。中庭でちょっと人がまばらなところへ。

 ベンチが一つ空いていたので私はそこへ座った。

 ヒューバートは立ったままでベンチの後ろへ。

 今は『アリス』だし、隣に座ってもいいと思うけどね。


「まず。ファムステル公爵令嬢が生徒会に入られました」

「まぁ。来てくださったのね、ミランダ様」


 流石に公爵令嬢を『モブ』とは思わないでしょう、『ヒロイン』も。

 私が学園に顔を出さない状況で現れる金髪縦ロールの公爵令嬢……。

 絶対、『ヒロイン』に標的にされるタイプよ。転生者が相手だから尚のこと。


「ルーカス。ミランダ様をあの女が貶めようとするかもしれないから。気を付けていてあげて欲しいの」

「……彼女を? 分かりました」

「よろしくね。もしもの時はウィッグを外して見せて。それだけであの女はフリーズするはず。その後で貴方に媚びてくるかも」

「……俺のことをそこまで知っているんですか、あの女」

「まず間違いなくね」


 『影』であることも。何気に私もまだ、その件については言及してないけど。

 私の場合は彼の正体を推測できる状況だから、知ってたってヒューバートも驚かないでしょう。


「ファムステル嬢は『文化部長』に就任し、今度の文化祭の責任者になりました」

「まぁまぁ! 大役ねー」


 でも文化祭前にその席が埋まったのは大きいわね。仕事が楽になるわ。


「彼女は、早々に月末の文化祭へ向けて動かれています」

「うんうん」

「それから『殿下とその婚約者』についての噂ですが」

「噂?」

「はい。殿下が婚約者に『べた惚れ』で、大会では手を抜いたとか。

 ロバート殿にも同じように手を抜くようにと言い付けたとか」

「まぁ……」


 彼らが私に負けたのは事実だけど、そこに何かしらの理由付けが欲しいのかしら?

 シンプルに私が彼らを凌駕したとは認めたくない感情が透けて見えるわねー。


「ロバート殿は、ここ2日ほど休みを取っておられました。学園へ来たのは昨日です」

「あら」


 ロバートも休んでいたの? 怪我ならあの場で治して貰ったと思うけど。


「話を漏れ聞いたのですが、大会の後に、より厳しい鍛錬に打ち込んでいたそうです。

 大会で『彼女』に負けたことが、よほど悔しかったのだと見ています」

「そうなのね」


 敗北を知った天才騎士かぁ。

 これで来年の剣技大会まで真面目に鍛錬をするようになるのかな、ロバートは。

 そうすると、やっぱり来年の大会では勝てないか。

 リベンジマッチをしたいでしょうけど来年は私、不参加でいこうかなー?

 その方が悔しいでしょう。

 勝ち逃げするのよ、勝ち逃げ。うふふ。


「そのロバート殿に対して、また殿下に対して。クルス殿の態度が悪化したようです」

「んん?」


 いや、なんで?


「実力的に殿下やロバート殿を己の『下』だと見做したから、でしょうか。

 クルス殿は、以前はまだ殿下の言うことに従っていたのですが……大会の後、随分と彼らを見下した態度に変化していました。

 俺も対象なのでしょうが、こちらには注目していない様子です」


 王家の影キャラの影の薄さがそんなところにまで影響を!


「大会の結果が理由で彼らをバカにするって、それってつまり『アリスター公女』も下に見てバカにしているってことじゃない?」


 そうなるわよね? 私のことを認めているのなら、私に負けたところで彼らを見下す理由がない。

 『弱い私』に負けたから、レイドリック様やロバートのことも下に見るようになったのだ。

 その態度は半分、『私』に喧嘩を売っているわね。



「そうなりますか」

「そうね。面倒くさ……。生徒会の空気、悪いんじゃない?」

「はい。ファムステル嬢やドノバン嬢のお陰で何とか持ち直していますが……良くはないですね」


 3日も経たない間にまぁ。ヒーローの中でも問題児だからね、クルスは。

 それがレイドリック様とロバートの『管理』から逸脱ねぇ。


 ロバートが剣技大会でレイドリック様と決勝を戦って勝利していたら。

 クルスは彼らを『対等』だと敬意を払ったのかしら?

 今のところ、自身の得意ジャンルでは誰かに叩きのめされた事のない少年だ。

 増長もやむなしとは言える。

 命令してくる人間に対して『でもアンタ、あの時に負けてたじゃん?』というスタンスならば聞く耳さえ持たなそう。



 ……その流れだと、彼の生意気な態度を力尽くで正せる人間が、私だけになる気がするんだけど。いやいや。そんなまさか。



「レーミルはそれ、どうしているの?」

「何も。困った顔をして生徒会では彼の言動を受け流している様子です。

 ただ、クルス殿の研究室へは通っているようですが」

「ふぅん」


 逆ハーレム狙いなら下手にどちらかには肩入れしにくい状況でしょうね。

 すり寄るにしても個別にか。選択肢次第で両方から嫌われそうなものだけど。

 そこは上手くやり切りそうよね、あの女。


「生徒会内での諍いかぁ……。じゃあ、交流会は先送りかしら?」

「むしろ親睦を深めるために開くのでは?」

「うーん。そうかな。まだ、そうなるには先じゃないかしら?

 レーミルがクルスと折り合いを付けてから少し丸くなって……って流れの後とか?」

「……その確信を抱いているのは、お嬢だけだと思いますよ。彼女に成果を『期待』しているのも」


 それはたしかにそうかも。

 私だからこそ『ヒロインが何とかするでしょ』と考えるだけで、他のメンバーはそうじゃない。

 レイドリック様に無用な苛立ちを覚えさせたくはないのよねー。

 私への風当たりが『八つ当たり』のそれに成り果てそうだから。



「ひとまず報告はここまでです」

「わかったわ。ありがとう、ルーカス」


 新たな波乱は、すぐそこね。


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― 新着の感想 ―
[良い点]  >王家の影キャラの影の薄さがそんなところにまで影響を!  www
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