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75 大会は佳境へ

「……悔しいですわ!」

「ふふ。ミランダ様の武器がレイピアや得意なものであれば、勝敗は分かりませんでしたわ」

「そこまで見抜けますの」

「鍛錬なさった成果のようでしたもの。私では、まだまだ経験不足。

 今回は、大会のレギュレーションに救われただけですわ」


 実際、実戦というか決闘形式でルール無用などであれば、この結果を引き寄せられた自信はまだない。

 ええ、まぁ経験不足だもの。


「では、ミランダ様。勝負の結果ですから」

「……ええ。ファムステルのダンジョン調査が終わり次第ですが。善処は致しますわ」

「ありがとうございます。それから私の所在を『聞かない』ことも、ですわね?」

「くっ。失敗しましたわ!」

「ふふ」


 賭けの景品にしたんだもの。聞いちゃダメよね。


「私に勝ったのですもの! きちんと優勝を目指しなさいませ!

 この後すぐに負けるなんて許しませんわよ!」


 なんてミランダ様はそう言い残して颯爽と去っていったわ。

 やっぱり気持ちいい人よねぇ。『原作』の悪影響を受けないといいのだけれど。


 そうして始まる4回戦目。

 レイドリック様は、自身に継ぐ優勝候補、人気も3位の騎士科3年生相手に勝利。流石ね。

 そしてロバートとフィアナ嬢の試合が始まる。


「……行くぞ。フィアナ」

「ええ。来なさい。ロバート」


 うーん。ライバル感。ここからロバートがヒロインに傾倒するのって、どうなのかしらねー。

 ヒーローとして選ばれなかった場合の救済キャラ扱い?

 まぁ、本人たちにそんなこと関係ないか。

 2人の試合はレベルが高かった。レイドリック様の試合よりもずっと。

 実際の実力はフィアナ嬢の方が高い……?


 ロバートでも魔力の動きを見て、相手の動きを予測している様子はないわね。

 トップレベルだと通用しない技術なのか。

 或いは、私だから使える技術なのか。どっちなのかしら。

 どちらかと言えばヒューバートの方が知ってそう?


 2人の動きを観察しながら、その対策を頭の中で立てておく。

 私も、私の才能でどこまでやれるのか。興味があるのよね。

 4回戦に勝利できれば……次に当たるのはレイドリック様だ。いよいよ佳境になってきたわ。


 試合は、やはりロバートの勝利だった。でもフィアナ嬢はよくやったと思うわ。

 少なくとも彼のこれまでの対戦相手より、よほどロバートが手こずっていそうだった。

 ……もしかしたら、今までフィアナ嬢には、こういう場面が多かったのかも。


 トーナメント形式の試合。

 レイドリック様と位置が逆だったら、フィアナ嬢が決勝まで上がっていたかもしれない。

 早い段階でロバートと戦うことになるから彼女は負ける。それで活躍の場が少なくなる。

 結果、あの予測になった、と。

 本人は別に事前の実力評価を気にしていそうな気配はないけど、なんだか歯痒いわ。


 騎士科や騎士団の中で、きちんと彼女の実力は評価されているのかしら?

 あの人気投票結果も、フィアナ嬢の方がもっと上位に居ておかしくなかったはずだ。

 『ロバートに負けたくせに』とか、自分は直接戦わないくせに、かつ自分だってロバートに勝てないくせにフィアナ嬢を見下す人間が居たり……それは考え過ぎ?

 彼女が、その実力に相応しい名誉を得る機会を作りたいわね。


 次はヒューバートの試合。

 流石に4会場で一気に試合という形式ではなくなってきて、2つの会場で同時進行になる。

 決勝や準決勝になれば会場は1つだけになり、全観客の注目が集まる仕様よ。

 ヒューバート的には注目度の高まる、そういう終盤の試合には出たくないはず……。

 そう思っていたんだけど。あっ。


「──勝者! ルーカス・フェルク伯爵令息!」


 ……4回戦も普通に勝っちゃった。相手だってトップ10位入りする選手なのに。

 ビックリした。次の対戦相手はロバートになるわよ?

 そこで善戦しようものならルーカスとしての知名度だって上がるはず。

 むしろ、それでいいのかしら? 『黒髪』のルーカスを目立たせる方が。


「…………」


 驚く私にヒューバートが視線をチラリと向けて、そして微笑んできた。

 ええ? 私、なんて言ったらいいのかしら。

 意外とヒューバートも負けん気が強い?


 さ、流石に『近衛騎士』キャラのロバートに剣技で勝てるのは……ないわよね?


 『王家の影』キャラ。正攻法以外の戦闘であれば勝ち目があるだろうけど。

 王道の、試合というレギュレーションの中で騎士キャラのヒーローに勝てるのだろうか。

 これは注目の一戦過ぎるわね……。


 そして、私の4回戦だ。

 事前の予測、人気では上位5位の選手。騎士科3年生、男子。

 2回戦の傲慢で軽薄そうな相手とは違い、如何にも無骨で寡黙な騎士という印象の相手。


「始めっ!」

「はっ!」


 今回は私から突進し、勝負を仕掛けていく。

 実力が上から5番目だと目されている相手。

 ここで勝利できるのなら、私には既に確固とした実力があることになる。


 ガキン!


 今の対戦相手の動きを模倣するのではなく、観察したレイドリック様の動きを真似てみる。


「……!?」


 覚えている。理解できている。やはり私には剣の才能があるらしい。

 騎士たちの戦い方とは異なるレイドリック様の剣技。

 別の師が付けられていたのだろう。『王宮剣術』とでも言うべきか。

 この数試合で見たレイドリック様の戦い方を模倣した剣技に、私の『予測』を加えて立ち回った。


「シッ!」


 『身体強化』の魔法も私の方が上回る。レイドリック様との比較は分からないけど、男に劣らないパワーによる剛剣も交えて攻撃する。女が繰り出すとは思い難いような力での勝負。


「うっ……!」


 動きを組み合わせて、最適化して、相手の動きの予測に合わせて。

 レイドリック様の王宮剣術にミランダ様の華麗な剣技を合わせて。

 豪快で大胆でいながらも、優雅さを意識して。回転し、身体を捩じり、踊るように。

 加えてヒューバートが目立たないように行っている受け流しの技術も交えて。


 ガギ! ギン……!


「くっ……!?」


 相手の勢いを利用し、バランスを崩させ、回転する剣の動きで巻き取るように。

 『予測』と『高速移動』、そして舞う動きを合わせて、相手の動きすらも計算して、私の思うままに。


「ハッ!」


 相手が動かそうとする前に、その動きを抑えるように斬り付け。

 ステップと上半身の揺らぎ、視線のズレに合わせて。


「そこ!」

「おわっ!?」


 相手のバランスを崩させたところに剣を打ち込んで。


「ぐっ!」


 対戦相手は剣を持ったまま膝を突いた。


「な……」


 自身の動きだけでなく、相手の動きまでコントロールしての、勝利。

 いいえ、まだ勝利は決まっていないけれど。


「まだ続けまして?」

「…………」


 やっぱり身体強化の魔法差が大きい。問題なく戦えている。

 攻略対象たちが相手でもなければ、性能差だけで圧倒できるほど。私には才能がある。

 もしかしたら、本当にこのまま1年生の剣技大会では優勝できるかもしれない。

 ここで勝つと真剣に鍛錬に励んだレイドリック様やロバートに、来年はコテンパンに負けるフラグが立ちそうだけど。


「……参りました」

「そう。潔いわね。よくてよ」


 優雅にそう言い残し、そして私は4回戦に勝利した。

 さらに次の試合さえも勝てば……次はレイドリック様が相手となる準決勝だ。

 ここまで来るとレイドリック様も私を無視できないのだろう。

 ギラギラと睨みつけてくるが、目が合えば優雅に微笑み返してあげている。

 そして、ヒューバートの方は一足早くロバートとの試合を迎えていた。


「ルーカス。ここまで上がってくるとは思っていなかった」

「……運が良かったんですよ」

「まぁ、そうだろうな」


 うん。ロバートは割と自然にヒューバートを下に見ているわね。

 自分が決勝まで進むことを疑っていない様子。

 レイドリック様とは好敵手のような視線を交わし合いながら、時々、私のことは睨んでくるんだけど。


 アレよね。全然ヒロインの存在とか関係ないわよね、あの態度。

 レーミルの攻略なんて、まだ序盤でしょうし。

 つまりヒロインも乙女ゲームも関係なく、レイドリック様やロバートは私のことを睨んでくるの。

 絶対、この先で『ヒロインのせいだ、騙されたんだ』とか言い訳なんてさせないんだからね。


「では、始めっ!」

「行くぞ! ルーカス!」


 ロバートは実力を下に見ているけど。

 相手は同格の攻略対象、ヒューバートなのよね。

 それもジャミルやクルスみたいな頭脳や魔術側よりも、武闘派寄りなヒーロー。

 正攻法オンリーの攻め手なんて格好の餌食でしょうし。

 番狂わせが普通にあるんじゃない? 少なくとも私からすると彼ら2人は同レベルの実力者だ。


 『アリス』の姿なら声援ぐらい送ってあげたんだけどな。

 流石に黙って観戦に徹することにする。

 ヒーロー対決。そこから学べるものは計り知れないはずだもの。

 特にヒューバートの動きには注意して見ていましょう。

 何か私でも使える手を隠し持っていそうだし。


 ロバートとヒューバートの試合は、かなり長引いた。

 やはり、派手さや華やかさはない立ち回りなんだけど。

 ……なんだか、アレって。


 ヒューバート。勝つ気がある戦い方じゃないかも。ただ負ける気もなさそう。

 戦いを長引かせるような……? それにロバートの動きを引き出すような素振りがある。


 手の内を吐き出させるまで継戦こそを重視した『負けないための』戦い方。

 勝つ気がないから深く踏み込まない。

 その代わりに隙が少ない。ロバートが攻めあぐねているのが分かる。

 防戦ばかりをしているのではなく、時に攻撃を繰り出し、その攻撃によって相手の動きを牽制している。


 見る人が見れば、もうこの時点でヒューバートを高評価しそうだ。

 ただし、ヒューバートにいつもの余裕があるわけじゃない。

 かなり苦しそうではあるの。汗もかいている。

 油断すれば、きっとロバートに一撃で負けてしまうんだろうな。


 凄く、情報を引き出すような戦い方をしているわね……ヒューバート。

 アレって、私のため……だったりするんだろうか。

 他の誰よりも私のやっていることを理解していそうだし。

 目の曇ったレイドリック様よりずっとね。


 命懸けじゃあないけど。

 体力の限り、ロバートの癖を引き出すような戦い方をヒューバートは行っていた。

 その戦い方からして、けっして自分のためにしている雰囲気じゃない。

 なら、やっぱりアレは私のため……。


 ……ヒューバート。

 その『期待』に応えてあげなくちゃいけないわね。

 彼も私の才能に目を向けているのかも。うんうん。

 そうして、さんざん試合が長引いた後、辛くも勝利したのは……ロバートだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点]  「物語」に登場しないミランダ嬢とか他の学生やらは真っ当な人間で読んでいて気持ちいいですね。  それに比べるとヒューバート以外のヒーローズ(+ヒロイン)は凄く違和感を感じるのは流石ですw …
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