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偽りのピンクブロンド  作者: 川崎悠
第三章 1年生2学期~文化祭まで

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74 ミランダ様との戦い

 それぞれの3回戦目へ試合は進む。

 レイドリック様は優勝候補、人気トップ10位以内の相手と戦うことに。

 流石に圧勝はできない相手のようで何度か切り結んでいた。

 真剣な戦いを観察していると、それだけで学ぶことがあるわね。

 一朝一夕で戦いの癖を掴めるワケではないけど。


 同じ動き、慣れた動きは分かりやすい。魔力の流れが滑らかになるから。

 それは、弱点というよりは隙の少ない得意な攻撃ということなのだけど。

 こちらが同等のレベルで反応・動作が出来るのなら、読みやすい動きのようにも感じる。

 あそこから派生の動きや、得意な回避のパターンとかあるのかしら?

 ずっと観察し続けていれば対策も見えてくるかもしれない。


「勝者! レイドリック・ウィクター殿下!」

「「「わぁああああああ!!!」」」


 勝ち上がっていく選手たちは人気のある者たちばかり。その中でもレイドリック様は別格ね。

 ロバートが反対側のブロックに居るから、決勝戦はこのまま行けば2人の攻略対象対決になる。

 ここに波乱をもたらせるとしたら同じ攻略対象のヒューバートになるのだけど。

 ヒューバートは、たぶん勝ち残ろうとはしないだろうな。


 このまま行けばロバートはフィアナ嬢とぶつかり、レイドリック様は他の優勝候補たちとぶつかる。

 私とミランダ様が居るのはレイドリック様側のブロックよ。

 ヒューバートはロバート側。ロバートとフィアナ嬢が先で、勝ち残っていれば次にヒューバートが相手。

 この辺りと対戦を避けるなら、あえて、この3回戦か次の試合で負けるかしら?


 どんどん試合のレベルが上がっていくのが分かる。

 勝機はあるけど、剣術を始めて1ヶ月未満の私では厳しいだろうとは思う。

 でも、それなりにいけるかもしれない……とも思うのよね。

 実際、魔力コントロールだけで言うのなら派手に活躍する彼らより上だと感じる。

 それが強さに直結しているかは微妙だけど。


 仮にここで攻略対象たちを圧倒できるほど、私に実力があるなら……。

 この件を機に彼らが1年間、努力を重ねて2年生の剣技大会で私は敗北する、とか。

 それは都合が良過ぎか。今回も来年も私が敗北して終わりっていうのがオチよね。

 負けたら悔しいから頑張る。でも勝てない、ってね。


「……ふぅ」


 暗い未来を想像しちゃう。試合を見学しながら、学べることはないかと吸収していく。

 『悪役令嬢』の才能を信じて、やれると思い込んで詰め込んでいくの。

 もっと明確なレベルのある世界とかなら分かり易かったのにね。


 レイドリック様たちは順調に勝利。ヒューバートも3回戦は勝つことにしたようだ。


「ミランダ・ファムステル公爵令嬢! アリスター・シェルベル公爵令嬢!」


 そして、とうとう私とミランダ様との試合が始まる。


「ふふ。ようやくですわね!」

「ええ。そうですね」


 輝く金色の髪は、私と同じように後ろに束ねているミランダ様。

 青い瞳は、まっすぐに私へ向けられ、そして好戦的な微笑みを浮かべている。


「……ところで何故、そこまで私と勝敗をつけたいと?」

「はい?」

「いえ。ミランダ様やファムステル家と何か事を構えた記憶も、心当たりもないのですけど」

「ああ! それはもちろんそうですわ! ファムステルの意思ではなくてよ!」

「では何なのでしょう?」

「もちろん! 私が貴方と競い合いたかったからでしてよ!」

「あ、はい。そうですか……」


 気持ちのいい人だなぁ。やっぱり何故か私のことライバル視してるんだ。

 レイドリック様のこと好きだったり……?


「それはそれとして!」

「ええ」

「私が勝ったら! 貴方がこの半年。いいえ、普段! どこで何をしているのか。教えていただきますわ!」

「……まぁ」


 なるほど。それを聞き出したいと。

 正面から尋ねても教えないし、誤魔化すだろうし?

 ならば戦って聞きだすのみ、と。脳筋なの?


「賭け事ですわね。でしたらミランダ様は、私に負けたら何をしていただけるのかしら?」

「何か私に望むものでもあるかしら? 見合ったものは賭けてみせますわ!」

「そうねぇ……」


 見合う程度のことなら、まぁ。


「生徒会入りには応じてくださったのでしたか」

「貴方が望むなら譲ってあげてもいいわ。きちんと学園へ通うならだけど」

「それは、けっこうです。間に合っていますから」

「……間に合っている?」

「ええ」


 ふふふ、と微笑み返してあげた。


「では。ミランダ様。ファムステル領には例のダンジョンは現れまして?」

「ダンジョン……ええ。発見されたそうですわ」


 立地的にそうよね。シェルベルにあるのなら、王都から均一の距離。さもありなん。


「私が勝てば、そのファムステルのダンジョンへ私が入る許可をくださいな」

「……ダンジョンに?」

「ええ」

「何故、わざわざ貴方が……」

「少々、理由がありまして。その内に公表されますわ」

「ふぅん。まだアレは調査中なのですけど」

「シェルベルもそうですわ」


 でも、私には予想がつく。

 王国に姿を現わした8つのダンジョンは、ヒロインとヒーローたちが入れるようなシロモノだと。

 つまり難攻不落の要塞などではなく、学生の実力でまぁどうにか出来るような、そんな場所。

 ……でも攻略レベルのようなものは、あるかもしれない。


 例えばファムステルのダンジョンは適正レベルが30で、シェルベルはレベル50とか。

 この世界にレベル概念はないけど。

 8つのダンジョンすべてをきちんと把握しておかないと詰む可能性がある。


「……分かりましたわ。では互いに勝った場合は、そのように」

「ええ。では快く提案を受けましょう」

「アリスター様の2回戦を見ていましたわ。私に勝つ自信が芽生えたかしら?」

「それは剣にて語りましょう」

「ふふふ」


 互いが微笑み合い、そして定位置へと下がる。そこに審判の声が響いた。


「始めっ!」

「ハッ!」


 開始の合図と同時にミランダ様が駆けてくる。

 魔力の流れで、それは分かっていたけれど、スピードが段違いよ。


 ガキィイン!


 私の剣を払いのけるような動き。

 華麗さと大胆さを内包した映えのある剣術だ。

 人に見せることも考えられた……鍛えられた剣技。

 基礎の型だけを覚えた私の無骨な剣技とは対照的な、華ある女剣士のそれ。魅せ剣術。


「はい! はい! はい!」


 ガキン! ガキン! ガキィイン!


 時に身体を捩じり、回転させ、より動きを派手に。

 それでいてパワーもスピードも申し分ない。

 私と同じく見た目とは裏腹に魔力量とコントロール技術に支えられた実力。


「はい! はい! ハイ!」


 この剣技。たぶん鉄の剣は得意な武器じゃないわね。

 レイピアとかの細身の剣を使って戦うために修めたんじゃないかしら。

 流石に、あえて突き攻撃は封印している様子。つまり、まだまだ様子見ってところね。


 華麗で止まらぬ連続攻撃が私を襲う。

 剣ではすべてを捌き切れず、保護された肌を何度も叩かれた。

 手加減ありでこれでは、やはり分が悪いか……。


 でも、まったく私にダメージは入っていない。

 すべて身体保護の魔法で弾き返している。保護を貫いてくる気が相手にあるかどうか。


 集中しましょう。身体の動きに惑わされず、魔力の流れに。

 ステップを踏むように。ダンスを踊るように。

 ミランダ様の相手をするには剣での戦いを一度忘れる必要がある。

 これは新しく教えられるダンスの手解きだ。

 見て、感じて、その技を盗め。そして『理解』をしろ。

 何故、このタイミングで身体をそう動かすのか。

 鍛錬で磨かれた先にある彼女の剣術は、理論が構築されている。

 そこにある合理を読み取れ。


「ハイ……!?」


 速度合わせ。相手のペースに乗り、息を合わせる。


 ガキン! ガキン! ガキン!


 相手がスピードを上げれば、こちらもスピードを上げ、相手がゆっくりになればこちらも同じく。

 勝機を見出すのではなく、この一瞬でもまだ貪欲に『学ぶため』に。

 ミランダ様の動きをすべて知り尽くしたい。


「ハイ! ハイ……!」

「はい! はい!」


 彼女の声と合わせながら同じ動きで鉄の剣を打ち合わせる。

 振るう力すら同じになるように。

 いつ腕を振るか、足を捌くか、首を向けるか。

 視線はどこにあるか。魔力の流れから読み取り、予測し、術理を理解して。


「ハイ! ハイ! ハイ!」

「はい! はい! はい!」


 ガキン! ガキン! ガキン!


 彼女が押してくれば引き、引けば押す。けして離れず、近寄り過ぎず。

 心地良い距離を保ちながら、魔力で強化された尽きぬ体力の限り、剣の舞を踊り続ける。


「くっ……!?」


 私が、この舞に付いて来れると分かったミランダ様はスピードを上げた。

 魔力が膨らみ、より力強く。だんだんと……激しく!


「はい! はい! はい!」

「くっ……!」


 ダンスは音楽と共に。鉄の剣が打ち鳴らす無骨な音は、私たちの舞を彩る。

 だんだんと強く。激しく。

 時に緩やかに。徐々に速度を上げて。急激にアップテンポに!


「はい! はい! はい!」

「うっ、くっ……くぅぅう……!」


 ミランダ様の表情が、にわかに崩れる。苦悩すら美しい。

 ああ、素晴らしいわ。すべて見せてちょうだい、ミランダ・ファムステル。

 私は、この試合だけで貴方の培ってきたすべてを吸収し、やがて凌駕して見せる。


「ふふふ!」


 楽しい。とても楽しいの。私、剣を持つの、本当に向いてるわ。

 意外な才能過ぎる。公爵令嬢なんてやってる場合じゃないわね。


「もっとエスコートしてくださらないの? ミランダ様」

「くぅっ……!」


 いつの間にか剣の舞は、わたしのペースに。私がリズムを作り、ミランダ様はペースを乱している。


「もっと上げて(・・・)いきましょう? ミランダ・ファムステル。せっかくのダンスだもの」

「くっ……! 調子に乗らないでくださいませ……!」


 ああ、すべてを奪い尽くし、圧倒したい。

 相手の得意な分野で、それをすべて吸収し、覚え切って凌駕したい。

 同じ土俵で戦って、同じ舞台で踊りましょう?

 そして最後に私が勝つ。勝って見せるの。私には、それが許されるだけの才能がある。


「はい! はい! はい!」

「くっ! あっ! くぅ!」


 ミランダ様の動きを模倣した上で、さらに強く踏み込み、さらに流麗に軽やかに。

 パワーとスピードを上げた『己の剣技』を前に貴方はどう対処するのか。

 それすらもすべて私は観察する。

 返しの技さえ模倣して差し上げましょう。だって、それが礼儀だから。


「うぅぅ……!」


 どんどんと下がっていくミランダ様。でも彼女が下がる分だけ私は進む。

 逃がさないわ。貴方のすべてを私に見せて貰うまで。


「こんな……! こんな戦い方……をぉ!」


 魔力の爆発を予測する。

 これまでの流麗な剣技とは違う。これは『感情』の一撃。

 追い込まれたミランダ様が振るう起死回生の一手。

 この動きの模倣はしない。代わりに。


「はぁああああ!」


 2回戦と同じようにその動きを予測し、回避しながら死角へ潜り込む。


「くっ……! はぁああ!」


 避けられた動揺を見せつつもミランダ様はそこで終わらず、連続攻撃を仕掛けてきた。

 無骨で力任せに。それでも、その力と速度は申し分ないもの。

 溢れるような魔力で力尽くで流れを引き戻すかのように。


「やぁあああ!」


 パワーとスピードがありながら読みやすいその動きに合わせて私は動く。

 彼女が右側を向こうとする流れで、左側へ移動し。

 左へ振り向く勢いに合わせて右へ移動する。

 私を追いかけようとする動き、予測しての動きの、悉く逆に行動して。


「くっ……!」


 なまじ超スピードの攻防のために、余計に彼女は私を視界に納めていられなくなった。


「あっ」


 完全に無防備な形のミランダ様を相手に。

 私は、とうとう『背後』を取って見せた。

 そのまま首筋に剣を突きつける。背後からね。


「うっ……」

「まだやりますか? 私は楽しいから良いですけど」


 ミランダ様の手の中には、まだ剣が握られている。

 審判も敗北とは言えないでしょう。でも、この場面で背後を取られ、剣を首元に突きつけられた。


「……参り、ましたわ」


 ミランダ様は潔く負けを認めてくださって、剣をその場に手放したの。


「良かったわ」


 良い経験になりました。ええ。とても楽しかったわよ。


「勝者! アリスター・シェルベル公爵令嬢!」


 これで3回戦突破! ついでにファムステルのダンジョンヘ入る許可もゲット予定! ね!


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[一言] 全ての作品と更新に感謝を込めて、この話数分を既読しました、ご縁がありましたらまた会いましょう。(意訳◇更新ありがとな、また読みに来たぜ、じゃあな!)
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