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71 大会当日

 女剣士スタイルの衣装で、試合会場へと赴く。


 学園行事だけど、学園外での催しなのよね。

 そのため、生徒会は現場での運営には回っておらず、騎士科の代表と教員たちが、会場管理者と意思疎通を図っての運営を行う。

 警備に関しては学園の警備と同様に配置されているわ。

 他国とバチバチやり合っている国ではないし、私の知識上にもそういう話はない。

 『原作』知識も含めてね。なので、まぁ警備面は問題ないでしょう。平和な国よね。


 そんな試合会場の馬車停めへ、シェルベル公爵家の家紋入りの馬車で乗り付ける私。

 当たり前のように待ち構えていたのは……ふふ。


「ミランダ様。ごきげんよう」


 金髪縦ロールな彼女の下へ挨拶へ向かった。

 ミランダ・ファムステル公爵令嬢が、私を待っていたのよ。


「……本当に来られましたわね。アリスター様」

「ええ。せっかくのお誘いですもの。それにしても盛況ですわね」


 注目を浴びている行事で一応、学園外の近親者たちも見学には来れる。

 ここの会場には、それだけのキャパシティがあるの。

 既に叙任済みの騎士団員たちだって、将来有望な者たちの実力を見たいでしょう。

 だから、騎士団関係の見学者も入っている。

 大規模イベントと言っていいだろう。


「そうですわね。ですが、それよりも注目を浴びるのは貴方じゃないかしら? アリスター様」

「そうですか? 今日は、未来の騎士様たちのお祭りよ。私は胸を借りるつもりで来ているのですが」

「剣の腕には自信がおありじゃないと?」

「自信だなんて。まともに剣を握ったのは、この1ヶ月で初めてですわ。

 ミランダ様からのお誘いがあったからこそ嗜んでみましたの。ふふ」


 公女モードで喋る私。若干のヒューバート式演技指導もあり。

 『アリス』とギャップを生むために必要以上に高慢な雰囲気に。

 こういうことをしているから、余計な『悪役令嬢』要素を生む? それはそう。


「真剣に試合をなさるつもりはないのかしら」

「あら。もちろん真剣に臨むに決まっています。でないと怪我をしますし、対戦相手にも失礼でしょう? 私の持てる力を尽くす所存ですわ」

「……そう。では、貴方と当たるのを楽しみにしていますわね?」

「ふふ。ミランダ様ったら。私など目の前に立つ相手の方だけで精一杯ですのに。ミランダ様は剣に自信がおありですのね?」

「当然でしてよ」


 バチバチと張り合うような空気。

 でも悪い感じはしないのよね。いっそ気持ちのいい雰囲気よ。

 陰湿じゃないっていうのかしら? それこそ『ライバル』だと思われているような。


「まだ、対戦の組み合わせも見ていませんから。ご期待に沿えると良いのだけれど」

「そうね。そう願うわ。では、また後ほど」


 ミランダ様と彼女を慕うグループの女子生徒たちは颯爽と去っていった。

 私も真っ当に学園に通っていたら、あんな感じのグループになっていたのかしら?

 周囲に令嬢たちを侍らせて。

 むしろレイドリック様の態度がああだと分かっていたら余計に孤立しそうよね。


「……アリスター。本当に来たのか」


 そして、数メートルも歩かない内に、私の前に立ち塞がったのはレイドリック様。

 ついでにジャミル、ロバート、クルスも一緒だ。

 お決まりの4人だけ?

 レーミルは私が来るって分かったなら何か仕掛けてきそうだと思ったけど。


 事前の情報からすれば今回は、ホランドと一緒になって働いているとか。

 剣技大会イベントなのにロバートと一緒に居なくていいのかしら?

 試合前の控室で彼の応援へ向かう予定? レイドリック様にも声を掛けそう。


 剣技大会当日の今日、生徒会としての仕事は、ほとんどない。

 『アリス』は体調不良と伝えて貰っている。

 なので、皆てんでバラバラに分散しているのだけど、レイドリック様周りは、お決まりのメンバーでの活動になるのね。

 クルスは、お決まりのメンバーとは言えないか。


王太子殿下(・・・・・)。お久しぶりですわね」

「……ああ。そうだな」


 名前で呼ばずに身分で呼称し、礼を尽くす。

 今、服装が剣士スタイルのズボンなのでカーテシーではなく騎士風の礼をしたわ。


「……こんな時ばかり顔を出すとは。恥ずかしいとは思わないのか?」

「ふふ。そう言っていただけるなら何より」

「なんだと?」


 喧嘩をふっかけてきてるようにも感じるけど。

 いえまぁ、これは、すっごく真っ当な指摘だからね?

 だって私って、ずっと学校をサボっている女扱いだもの。


「殿下であれば、私が国王陛下とシェルベル公爵が承認の下、普段の生活を過ごしているとお知りになられるはず。

 ご安心下さいませ。普段の私には、きちんと『王家の影』でしょうか? 護衛と監視、ですわね。

 そういった方が周囲にいらっしゃるようですので。一人きりになる愚は犯しておりません」

「は? 影……だと?」


 そこで驚くの? まぁ、驚くのかな?


「はい。はっきりと、そう名乗られたわけではございませんが。

 陛下の話があったとは聞き及んでおります。

 その気になれば、陛下ならば私の行動記録もご覧になられるでしょうね。

 陛下にお伺いになられては如何(いかが)でしょう?

 私の行動すべて、陛下がご存知であるとおっしゃってくださいますわ」


 『王家の影』が私に付いていることは、レイドリック様にとって意外なことであったらしい。

 ポカンとした表情をされている。

 ジャミルとロバートも? なんでかしら。

 そこまで驚くようなことでもないと思うけど。

 一人で勝手に遊び歩いているイメージだったのかな。

 それを前提に怒っていたとか。

 ちなみに街を遊び歩いていたのはジークの方でしてよ。


「まぁ、殿下。そのような顔をされて。表情が緩んでいましてよ? ふふふ。とっても可愛らしい」


 私は余裕を持ってレイドリック様に微笑み、彼の怒りを受け流す。

 王家の影の監視を匂わせ、下手な言い掛かりなど出来ないと示しておいた。

 普段の『アリス』とは違う、怪しさを醸し出した微笑みを彼に向ける。


「なっ……!」


 『可愛らしい扱い』をされて顔を真っ赤にするレイドリック様。

 なんだろう。子供のようなものよね。

 前世の精神年齢なんて、今の私にあんまり引き継いでいないと思っているんだけどな。


「ば、ばかにするなよっ……!」

「ばかになど。可愛らしい殿方に、可愛らしいと申し上げているだけですのに」

「そ、それが私をばかにしていると言っているんだ……!」

「ふふふ」


 変わらず上から目線のような微笑みで応対をする。

 まぁ身長は彼の方が高いんだけど。

 でも、私は女の中では身長が高めの方だから様にはなっている、はず。


 そうしてレイドリック様との会話を楽しんでいたところで『お邪魔虫』が湧いてきたの。

 クルスよ。ずいっと私と彼の間に出てきたかと思えば、無遠慮にジロジロと私を観察してくる。


「ふーん?」

「…………」


 ウザ。婚約者同士の会話に割って入ってくるかしら、普通。

 まぁ、常識なんてないキャラだけど。


「あんた、」

「殿下。ここでお話をするのも吝かではありませんが、人が多いですので。またの機会に」


 当然、クルスのことは無視して、私はスタスタと会場へ向かった。


「なっ……」

「おい!」

「後でまた会えますわよ、殿下。リーゼルたち、先に行くわ。すぐ追いかけてきなさい」


 ひらひらと手を振り、優雅に早歩き。

 ナチュラルな『身体強化』で超スピードよ。ばびゅーんと。

 後方から喚く声が聞こえるけど、それも無視。

 ジャミルは呆れ顔だったし、ロバートにはそこはかとない敵意を向けられていた。

 クルスは、いやーな感じ。魔術レベルで目を付けられたのか、それとも馬鹿にしたかったのか。

 どちらにせよ地雷の反応だから。


 会場の作りは事前に頭に入れているので迷う事なく選手受付へ。

 レイドリック様たちを躱しても、私は注目を浴び続けた。

 馬車に一緒に乗ってきていたリーゼルと護衛は、私に置いてけぼりにされて困ってしまっただろう。


 受付に『アリスター』が来たことを伝えるとマジマジと顔を見られる。

 女子生徒だったわ。

 ニコリと悪意を感じさせないように微笑みかけると、ポッと恥ずかしそうな顔をされた。

 ……男装じゃないけど、剣士風スタイルだから?

 長い髪も括って後ろでまとめている今の姿。皮の防具も付けてスカートではなくズボン。

 フィアナ嬢ほどじゃないけど、けっこう凛々しく見えているのかしら。


 『男装の麗人』枠って需要あるわよねぇ。主に女子に。

 フィアナ嬢がモテるだろうなって思うのは、そういうところ。

 騎士科の女子生徒たちなら同様に凛々しいとも思うけど。

 私の存在自体が珍しいせいもあって注目度が高い。


「お嬢様!」

「来たわね、リーゼル」


 専属侍女のリーゼルと護衛騎士たちがドタドタと慌てて追いかけてきて、私に追いついた。

 控室まで来て貰うつもりだけど、ひとまずレイドリック様たちは来てないわね。良かったわ。


 プンプンしながら男同士で愚痴りあっている彼らの姿が目に浮かぶ。

 王子、近衛騎士、宰相候補、天才魔術師で年下。

 ある意味、乙女ゲームの王道キャラたちだったなぁ。

 あの4人だけだと、そういう空気が余計に出てたわよね。

 悪役令嬢に一緒になって突っかかってくる姿とか。退散しておくに限るわ。


「こちらが対戦表になっています。シェルベル公女様」

「ええ。ありがとう」


 人知れずポケーっと私に見惚れてくれている女子から表を受け取って、与えられている選手控室へと向かった。

 護衛に部屋を確かめて貰ってから中へと入り、ようやく一息。

 トーナメント表を確かめていく。

 今日まで公開されていなかった情報だ。

 騎士科が実力と性別を考えて組み合わせを作ったという対戦表。

 忖度はないように心掛けたのだろう。

 そもそもレイドリック様には剣の実力もあると知っている者が多い。


「……ふぅん」


 注目して見るのは、レイドリック様、ロバート、フィアナ嬢、ミランダ様、私、そしてヒューバート。

 ヒューバートは『ルーカス・フェルク』の名前で登録されている。

 これらのメンバーが順当に勝ち上がっていく場合は、と。


「レイドリック様とロバートは反対側。決勝戦に残るのを見越しているわね」


 その辺りも考えていそうだわ。


「お嬢様。こちらが『予測投票』の結果だそうです」


 ホランド提案の優勝予測の投票結果。既に出ていたの?

 しかもリーゼルは、いつの間に手に入れたのかしら。

 そんなに離れた時間はなかったはずなのに。


「ありがとう、リーゼル」


 優勝候補予測は、安定のレイドリック様が……2位ね?

 ロバートが1位だった。既にそういう注目の浴び方をしているんだ。

 あまり関わってこなかったせいか地味だけれど、きちんとロバートも『近衛騎士』っぽく世間には認められているらしい。

 フィアナ嬢は7番人気。3位から6位は騎士科の生徒たちだ。

 ルーカスことヒューバートは、流石に名前が挙がっていない。


「ふんふん」


 実際に組まれたトーナメント表と人気選手たちの配置を照らし合わせていく。

 いい感じにバラけていると思うわ。

 それと実力伯仲と見られている選手同士がぶつかって盛り上がるようになっている。

 そんな中で私の立ち位置は、と。


「1回戦は、魔術科2年生の女子生徒」


 これは妥当なのかしら? 実力不明の選手だし、私って。

 魔術科でそれも2年生だから『身体保護』や『身体強化』の魔法だって優れているはず。

 でも剣は本業じゃないので本格的には強くない?


 剣技大会においてのレギュレーションは、使用できる魔法が『身体保護』と『身体強化』に限ること。

 他の魔法を使っていると分かれば即時、反則負けとなるし、審判も各試合につく。

 他学科よりは荒事慣れしていそうな魔術科生徒は、それなりに実力もありそうよね。

 そんな私の扱いに対してミランダ様のお相手は騎士科2年生、女子。


「これは確実に実力者として認知されている対戦相手ね」


 1回戦で当たるには厳しそうな相手の肩書き。それでも良しとされているのね。

 ミランダ様の武勇伝など聞いたことがないのだけれど、私の知らない学園生活の中で何かあったのかしら。

 騎士科が把握しているぐらいの実力なんてねー。

 私が情報に疎くなったのね。


 ヒューバートはどの辺りで……、うん。目立たない場所に居る。

 相手は騎士科1年生の男子。妥当なような、そうでないような。


 試合会場は4か所あって、序盤は4試合が一斉に開始される。

 その中の初戦にはレイドリック様の試合があり、開始早々で『注目の一戦』といったところ。

 スケジュールで言えば2回目の試合開始にロバートが。

 その次にフィオナ嬢の試合があり、その辺りでヒューバートの試合が挟まれる。

 そして、さらに後にミランダ様の試合が。


 見事に注目を浴びないような、人気選手たちの合間に挟まれる試合タイミングのヒューバート。

 しれっと勝って、目立たずフェードアウトしそうな気しかしないわ。

 それでいて、そこそこに勝ち上がる。3回戦ぐらいまで行くかしら。

 その辺りでコソッと、わざと負けそうなヒューバート。

 うーん。むしろ注目したい。

 その『絶対に目立たない』という強い意志を込めた試合運び。


 そして1回戦の最後に回ってくるのが私の試合となる。

 トーナメント表と試合順のプログラムを見るに間違いない……と思う。

 わざとかしらね、これも。注目させていいのか、させない方がいいのか悩んだんだろうな。


 なんだかんだ言っても、今の私の肩書きは『王太子殿下の婚約者』のまま。

 本来ならば堂々と注目を浴びせたいけど、実力も分からないし、どんな人物かもいまいち分からない。

 学園に在籍しているけど、ほとんど姿を見せず、かと思えば期末考査に現れて堂々と首席を取っていった怪人物。

 謎過ぎるわね、我ながら。


 選手用の観戦場所もあるし。

 麗しの婚約者様の第一試合ぐらいは見ておきましょうか。

 ……この辺りで『アリス』を匂わせておくとか、どう?

 もしかして同一人物なんじゃないか……? とか思ってくれるといいわよね。

 なにか今、完全に別人判定をされていて逆に面白くない気がするし。


 よーし。その路線で行きましょうか。

 『アリス』スマイルでレイドリック様を応援して差し上げましょう。

 ギャップ萌えよ、ギャップ萌え。


『──これより本年度の剣技大会を開催いたします。第一試合、選手は会場へどうぞ』


 風魔法系の魔道具による音声拡張……すなわち『マイクとスピーカー』でアナウンスされる。

 こういうところが、アレよね。

 本格中世系の異世界とは程遠い、前世の現代風というか。

 やっぱり、ゆるふわ乙女ゲーム世界だわ、ここ。すごくチグハグ。

 この世界で純粋に生きていれば気にならないんだろうな。

 そんなことを考えている間に始まるレイドリック様の1試合目。


 風魔法による音の拡張ぐらいなら初級の域だから私にも出来る。意外と便利な使い道。

 それに『音爆弾』でも研究しているからね。

 なので拡張してキチンと聞こえるようにっと。


 スススーっと彼の試合会場近くへ移動し、すれ違う人たちからギョッとした目で見られる。

 何よ、いじめないわよ? 悪役令嬢がお通りなだけ。

 深く息を吸い込んで魔法を使ってっと。


「レイドリック様! がんばってー!!」

「……!!?!?」


 元気いっぱいに『アリス』スマイルで彼を応援してみた。

 失礼な事にビクッとして、こっちに注目するレイドリック様。

 あら、危ない。


「ぐっ……!」


 あわや、対戦相手の攻撃をまともに喰らいそうになるレイドリック様。

 うーん。集中力がないわね。鍛え直しよ。


「おおおっ!」

「うわっ!」


 華麗な剣技とは言えない、大分ゴリ押しのパワースタイルで押し切って勝利するレイドリック様。


『1回戦! レイドリック・ウィクター殿下の勝利でーす!』


 と、軽快なアナウンス。

 マイクパフォーマンスに情熱を傾けていそうな生徒がいるわね。

 そして、そのままズンズンと怒り肩と表情でこっちに向かってくるレイドリック様。


「──ゴム魔法・耳栓」


 完全防音じゃないけど、ちょっと聴覚保護してっと。


「貴様っ! アリスター!! 私の注意を逸らして、試合の妨害をするとは何のつもりだ!!」


 ……と。

 怒られちゃった。てへっ。

 『アリス』効果とは逆に『アリスター』効果で、なんでもマイナス判定されるのよねー。


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