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偽りのピンクブロンド【商業化予定】  作者: 川崎悠
第三章 1年生2学期~文化祭まで
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64 生徒会の活動

 クルスがソロで居た生徒会室から即時撤退を決め、私とヒューバートはレイドリック様を探しに向かう。


「おい……!」


 と、少し離れたところまで行ったところで生徒会室の扉が開いた音がした。

 知った事じゃないわね。無視無視。


「2年生校舎ってあっちよね」

「ええ、お嬢」


 スタコラサッサと離れていく私たち。


「何しに来たんだ!」


 とか、後ろの方で怒鳴ってる。いや、怒鳴ることなくない?

 あそこで受け答えしても、どうせ『あっそ』とか『はぁ?』とか、イライラリアクションをしてきたでしょ、貴方。

 というか、別に関わる必要ないじゃない。今の段階で。

 紹介もされてなければ名乗られてもないもの。


「……なんで怒ってるのかしらね?」

「さぁ」


 ちょっと無視しただけなのにね。

 一応、追いかけて来る気まではないみたいで助かったわ。

 どうせ見下した態度を取るのに、こっちからのリアクションは求めるの?

 面倒くさい男だわ。


 ……前世の私、たぶんクルスのこと推しじゃなかったんだろうな、ってちょっと思った。

 いえ、私は『アリスター』で、レイドリック様のことが好きだったのは事実の女なので。

 そりゃあ、あんまり他のヒーローたちには興味がなくて当たり前というか。

 そうして歩いている内にレイドリック様は見つけることは出来たのよ。でもね。


「…………」


 囲まれていた。主に女子生徒たちに。

 レイドリック様は王子様然として彼女たちに笑顔を振りまいている。

 『うわっ』って思っちゃった。

 はい、皆さん。あちらが婚約者が居る男の姿です。ここ、テストに出ます。


「あの状態で話し掛けられても困るわよね、絶対」

「そうですね。主にお嬢が困るのでは」

「そうよね……」


 目を付けられるに決まっている。私は本物の婚約者なんですけどね?

 あの姿を見てイラッとするあたり、私の気持ちも萎えていないのかな。

 本物のアリスターとして、あの場面に遭遇し、かつレイドリック様から冷たい態度を取られていたら。

 私は冷笑を浴びながら、この学園での悪評に晒されていただろう。

 そんな状態で学園での生活を楽しめるはずもなく。

 何故、自分ばかりがこんな目に遭わなくちゃいけないのだろうと鬱屈した気持ちを抱えていたはずだ。

 やっぱり耐え抜いた先に『断罪返し』をするなんてダメよね。

 この時間は貴重な時間なんだから。


「……学生生活、楽しまなくちゃね」


 私は遠い目をしてそう呟いた。


「どこまでもお供しますよ、お嬢」

「……ふふ。ありがとう。ルーカス」


 ヒューバートも『仕事』で私のそばに居てくれるだけ。

 状況から『王家の影』として私に付いてくれているだけだものね。


 遠目から、目を付けられない位置取りでレイドリック様の様子を窺う。

 ジャミルとロバートは少し離れたところから付いてくるわね。

 女に囲まれている状況については別に羨ましくは思っていなさそう。

 レイドリック様は生来、女好きなのかしら。

 美形で能力も高い。モテて当然でしょう。

 前世基準ではそうだけど、この国は身分制度のある国であり、彼は王族。

 だからこそ余計に人が寄ってくるのは、そうだけど。なんだかなぁ。


 別にあれでも私に対して、きちんとした態度を取ってくださるなら許容するわよ。

 万人に優しくするのもまた上に立つ者として、だから。

 でもそうじゃない。ああして女に囲まれてデレデレしておいて、婚約者にはあの態度だから。

 前世でも妻に対してだけ威張り散らす夫って沢山居たっけ。

 それでいて別れ話になったら追いすがるようになる。

 どういう心の動きなんだろう。たぶん、心理学とかで解析されてたんだろうな。

 ……ああいうの、やっぱり別れ話を本格的に成立させる段階に進めなきゃ、態度を改めないんじゃない?

 そして、この国では、というより私たちの身分ではそれが難しい。

 別れられるはずがないと思っているから、ずっとあのまま。


 女子生徒たちの集団があの3人から離れるタイミングを見計らう私たち。

 集団を率いた状態で話し掛けられたくはないわ。

 モテモテ男子に特定の女が声を掛けられる状況を避けたいの。

 今の私は子爵令嬢アリス・セイベルだものね。


 生徒会の人数は今、5人だけ。10人ぐらいは居てもいいはずのグループなのだけど。

 あの中から新たに補充することにはならないはず。

 彼女たちって生徒会に入ろうとは思わないのかな?

 まぁ、他にやる事や、やりたい事があるんでしょうけど。

 遠巻きにしつつ、視界には入らないようにして一団について行く私たち。


「じゃあ、皆。生徒会があるから。また会おう」


 と、王子様のお別れの一言。甘ったるい黄色い声で返事する女子たち。

 結局、生徒会室の前まで女子集団はついて来ていたわねぇ。

 なんていうか、アイドルとそのファンみたいな。

 ……出待ちとかしないわよね? やめてよ、部屋に入り辛くなるから。


「俺が一緒に居て良かったですね、お嬢」

「うん?」

「対外的には婚約者候補が居る女性なので。あの一団に目を付けられたとしても、睨まれずに済む確率は上がりますよ。お嬢一人で行動するよりは」

「それはまぁ、たしかにね……」


 絶対に何かしら言われていたのは間違いない。

 その点、『アリス』は『ルーカス』と一緒に行動する一生徒よ。

 一瞬、何か言いたくなるでしょうけど、男が居るんならまぁいいか、みたいな。

 お目こぼしをされる気はする。たぶん。


「……行きましょうか」


 なんだか疲れを感じながら、改めて生徒会室へ向かったの。


「あっ!」

「こんにちはー! 皆さん、お久しぶりです!」


 クルスが私たちに反応したけど無視して、元気よく挨拶!

 ヒロインらしい振る舞いを心掛けるわ。


「ああ、アリス嬢。ルーカス。久しぶりだね」

「はい! レイドリック様! ジャミル様、ロバート様も! 今学期も生徒会の一員として、よろしくお願いします!」

「ふ……。元気がいいね。アリス嬢」

「ありがとうございますぅ」


 全然、私に気付かないレイドリック様。貴方の婚約者はだーれ? っと。

 彼の中での私のイメージ、もう赤い髪しか残ってないんじゃないかな。


「皆さん、今来たところですか?」

「ああ。ついさっきね」

「そうですか。えっと。その方は……?」


 ヒューバートが白々しくクルスについて指摘する。

 さっき1回会ったことはなかった事にして。

 その間、私はクルスには目も向けず、レイドリック様にキラキラ目をして視線を向けてみた。


 仕事はしつつ、プライベートでは如何に他の男に興味がないか。

 それを示しておくのよ。

 この狭い空間で他の攻略対象とのフラグを立てないにはこれしかない。


 『ヒロイン』の動きだけど、転生者だから予測はし難い面はあるとして。

 たぶん今日は来ないんじゃないかな。

 生徒会入りする時は、レイドリック様から誘われてだから売り込みはしてこない……。

 あれ? でもレーミルって1学期の期末考査順位、30位以内に居なかったような。

 どうするつもりかしら?

 ……ホランドと一緒に歩いていたのよね。

 もしかしてホランドルート狙いだった? でも、すっごい『私』を睨んできてて。

 いや、転生者なら当然か。別に『アリスター』から危害を加えたことはない。現実では。

 彼女がホランド狙いなら和解もあり? でも、なんか性格的に、ねぇ?


「ああ。2人共、紹介しよう。彼はクルス。クルス・ハミルトン。魔塔から来てくれた特級魔術師だ」

「……魔塔から。特級の、ですか。では噂の?」

「ルーカスは知っていたか」

「ええ。噂程度ですが、耳には入っています。あの魔塔でも天賦の才を持ち合わせているとか」

「そうだな。彼は優秀な魔術師でね。少し事情があって今学期から学園へ籍を置くことになった。

 一生徒でもあるが、生徒会預かりとなる。仲良くしてやってくれ」

「そうですか。会長の預かり、ということは生徒会の役員なのですか?」

「名目上な。立場が特殊過ぎて通常の業務を任せることはない。ひとまず前学期までの業務体制が続くと思ってくれ」

「わかりました」

「クルス。この2人は『書記』のアリス・セイベル嬢。そして『会計』のルーカス・フェルクだ。

 アリス嬢は子爵家の令嬢で、ルーカスは伯爵家の出だ」


 そこで爵位を説明する辺り、なんだかこの国って感じよね。

 一応、例の『学内では身分問わず』論はあるんだけど、まぁそれはそれ。


「改めて言うが私が生徒会長。ジャミルが副会長。ロバートが体育部長だ。クルスは……まぁ『名誉役員』かな」


 ふぅん。『庶務』じゃなくて名誉役員なのね。

 まぁ、クルスが雑用係みたいなことをするはずもないし、させられるはずもない。

 ……なんで居るの? ってなりそう。仕方ないことだけどね。


「ルーカスです。よろしくお願いします。クルス様」

「……ふぅん」


 と、品定めをする目で、たぶんヒューバートを見ているクルス。

 その声色的に悪くないと思ってる?

 ヒューバートって前の授業の時もそうだけど、実力はあるけど隠している感じよね。

 実力主義のクルスからすると『あれ、こいつ、やるんじゃね?』みたいになるのかしら。

 と、まぁ、それはそれとしてよ。


そんなこと(・・・・・)よりレイドリック様。この前の夜会の時は、挨拶も出来ず退席してしまい、申し訳ありません。あの時は慣れない夜会に参加して体調を崩してしまって」

「んっ……。あ、ああ。そうか。いや、気にしなくていい。アリス嬢」


 クルスに自己紹介するイベントをスルーしてレイドリック様にアピール。

 これ、群がっていた女子生徒たちと同じかしら? まぁいいわ。


「…………」


 案の定、クルスから何かしら不穏な気配がこちらに向けられているけれど、無視。

 私は視界にレイドリック様だけを捉える。

 クルスは、どうせ品定めしても挑発するような態度を取るだけ。

 そして、別に彼と友好的になる気はないので我関せずでいいの。


「会長。今日は生徒会の仕事はあるんですか?」

「ああ。仕事ということもないのだが……。まず、例年の2学期の行事と、今後の方針だけでも確認しようか」


 あ、まともに仕事するレイドリック様だわ。

 なんだか久しぶりで新鮮ね。演技じゃなくて、本当に目線がキラキラしたかも。


 とりあえず、それぞれの席に座る私たち。

 クルスは別の場所で座ったわ。

 ちなみに生徒会室は割と広めなのよ。


「ジャミル。用意していたものを」

「はい。まず、例年通りであればある2学期の行事です」


 貴族子女の通う学園でも、何だか前世の学校みたいなことするわよね。

 皆、カラフルな髪色してるけど。それは私もだから言いっこなし。恥ずかしいとも思わないし。


「まず、騎士科が行う『剣技大会』」


 なんて思っていたら、すぐに今世風のイベントが出てきた。そりゃあ、あるわよね。

 前世で言ったら球技大会とかになるのかな?


 将来、騎士を目指す生徒は多いので、当然、学生時代でもしっかり鍛えられる学科が存在する。

 鍛え時だもんね、今の年齢なんて。

 ただ、一般教養もやはり学ばせる必要があるので、騎士科と言っても延々と剣を振るっているワケじゃないわ。


 学園にはAクラスなどの人数を分けた教室がいくつかあるワケだけど、その上で専攻学科の授業時間にそれぞれの学科へ向かう感じ。

 前世で言うなら『選択授業』時間ね。


 騎士科以外だと領地経営科、社交科、魔術科など前世じゃありえなかった学科がある。

 他に農業・商業・芸術・医療・国文化もあるわ。


 これらの学科は一年からでも選択していけるものだけど、意外と柔軟で、正式な手続きさえ踏めば途中で学科の変更が可能になっている。

 前世ほど、国のあちらこちらに学校があるワケじゃなく、多くの貴族子女がこの王立学園に集まる環境だもの。

 途中で歩む道を変えられるのは、こちらの学園の良いところだと思うわ。


 騎士科が行う『剣技大会』はそのまま。

 遠距離の魔法戦ではなく、身体保護・強化のみを組み合わせた武器を使った武芸大会になっている。

 ま、この分野だと『近衛騎士』ロバートが活躍するためのものね。


 ロバート寄りにストーリーを進めていると『アリスター』もこの剣技大会に駆り出されることになる。

 というか、たぶん『私』の性格だと自らの意志で乗り込んでいく。

 まぁ、それは来年の話だけど。決勝戦は、私とロバートの一騎打ちよ。


 ……なんで今の私から、そこまで剣技が強くなっているのかしら?

 忖度? 忖度なの? まぁ公爵令嬢だし。

 私は騎士科じゃない。ということは、そのルートだと『私』は学科の途中変更をした。

 悪役令嬢としては勝ち上がるために対戦相手に工作していてもおかしくないんだけど。

 『私』はそんな事しないわ。となると、やっぱりそれぐらい強くなれるのよね、私?


「教会と提携した『バザー』の開催」


 『大司教の子』アルスが関わるイベントね。


「魔術科生徒による『魔術対抗戦』」


 『魔塔の天才児』クルスのイベント。


「全生徒による『文化祭』」


 満遍なくヒーローたち全員にイベントがあるわ。

 1年生の時でもね。2年生の時の方が恋愛イベントとしては濃いの。


「領地経営科による『討論会』」


 『宰相の子』ジャミルのイベント。


「それから、これは学園全体とは異なるが、生徒会役員だけの『交流会』もある。まぁ、ここに居る私たちだけの交流会だな。これから人員も増やすつもりだが」


 『王太子』で生徒会長、レイドリック様のイベント。


「……例年通りであれば、こんなところか」


 1年時の個別イベントは、そんなところね。

 こうして考えるとヒーローたちの扱いも平等じゃないのよね。

 ホランドは別口でイベントがあるし、ジークとサラザール様も同じくあるんだけど。

 きちんと学園行事にイベントが組み込まれているメンバーには華やかさがあるわよね。


 というかヒューバートのイベント、この時期になくない?

 うぅ、不遇な不人気キャラ、ヒューバート。こんなところでも扱いの差が。


「…………」


 私が謎の哀れみの視線を向けると、ヒューバートはジト目で返してきたわ。

 『なんか変なこと考えてませんか、お嬢』とかいう目付きと表情よ。

 私は元気付けるように笑顔を浮かべてあげる。

 気にしないで、私は貴方の良さ、知っているからね……!

 という母親のような感想を思い浮かべる私。

 ますますヒューバートの視線が胡乱になった。なぜかしら。


「これらに加えての話になる。生徒会の皆には話しておこう。

 既に出回っていても、おかしくない話なのだが……」


 レイドリック様は、この場でダンジョン出現について語ってくれたの。

 正式に共有するのね? その話。でも『魔王』については語られなかったわ。


「この件に合わせて学園のカリキュラムが見直され、いくつか変更点と追加の行事がある」


 ここから先は、私の知る知識にはなさそうな話ね。


「まず騎士科の剣技大会だが、騎士科以外からも参加者を募る。騎士でなくとも『武力』は貴族に必要だ。

 魔術科の魔術対抗戦も同様。それにあたって規模が拡大するため、運営側に立つ私たちの仕事も増えるだろう」


 なるほど。学科以外からの参加ね。

 ……『ヒロイン』のレーミルは参加してきそうだ。

 あまり裏方に回って可愛いらしくしていればいいっていう乙女ゲームでもないもの。

 むしろ、こういうことには積極的に参加してヒーローと絡んだ方がいい。


「それから全生徒に対して『奇跡』の素養確認を行うことになる」

「……『奇跡』の?」

「ああ」


 全生徒に対してなんて、それはまた大変なことを。

 『奇跡』の素養確認は別に義務ではない。

 だから素養持ちが居ても本人は知らないままの可能性がある。


 ……『奇跡』、回復魔法使いを可能な限り増やしておきたいんだろうな。

 取りこぼしがないように身に付けさせるのか。

 はたまた素養確認だけはして把握しておくだけか。


「また領地経営科の討論会の題材に、ダンジョンの有効利用について、が上がることになる」

「……目下、8領地の関心事ですからね。当然です」

「うむ。それに当たって、だが」


 レイドリック様はそこで私たちの目を改めて見た。


「いずれ、交流会とは別に。この生徒会で独自に(・・・)ダンジョン調査を行うことを計画している」


 うん。まぁ、うん。やるでしょうねー、そういうこと。

 2学期初日に宣言されるとは思わなかったけど。


「クルスも連れて行くし、私やロバートは十分に力もある。けして無理なことではないはずだ。

 ジャミルだって全く鍛えていないワケではないだろう?」

「ええ。まぁ。僕は魔法寄りですけど」

「むしろバランスがいいじゃないか」


 レイドリック様は当然ながら剣の腕も鍛えている。不真面目王太子ではないもの。

 女好きだけど。女好きだけど。

 あとダンジョンにときめきを覚えている男子マインドもあるのかな?


「……問題は、俺らじゃなくて、そっちの2人じゃん?」


 と。そこでクルスが割り込んできた。

 そっちの2人って私とヒューバートよねぇ。


「まぁ、無理に2人に付いてこさせるワケには行かない。どうだろうか、アリス嬢、ルーカス」


 私とヒューバートは目を見合わせる。

 たぶん私次第だよね。ヒューバートの答えは。


 どうしようかな。

 ダンジョン攻略については私の知識にはない。

 でもレイドリック様が向かうなら、そこにはレイドリック様とのイベントがある気がしてしまう。

 それに、その展開だとレーミルは参加するだろう。たぶん。


「……もちろん一緒には行きたいんですけどぉ。私、攻撃的な魔法はあんまり得意じゃないんです。水魔法でサポートが少し出来るかな? ってぐらいでぇ」

「ハッ」


 鼻で笑われた。クルスに。


「足手纏いじゃん」


 さらに追い討ち。でも無視無視。


「いや。まだ一年生なんだ、アリス嬢は。魔術もこれからだろうし、サポートが出来るなら有用だろう。

 その分、私たちが強いからな!」


 と、レイドリック様。

 どういう気持ちで言ってるのかなー? ダンジョンでも女の黄色い声は欲しいとかかな。


「…………」


 普通、こういう場面ならヒューバートが『お嬢は俺が守りますよ』とか言ってくれそうなものだけど。

 レイドリック様が私を守るつもりなら、と身を引いたのかしら。

 ヒューバートは無言のノーリアクションだった。


「うふふ! では、レイドリック様、私を守ってくださいねっ! それなら私もついて行けますし、魔法だって頑張ります!」


 と、ヒロインスマイルを向けておく。


「ああ! アリス嬢は俺が責任を持って守るとしよう。では、この場の皆、参加でいいな」


 ヒューバートの意見、聞いていないけど?


「……ええ。及ばずながら俺も参加致します。会長」


 と、ヒューバートが付け加えた。きちんと言うの、偉い。うん。


「そうか! ありがとう、ルーカス。そう言ってくれると思っていたぞ!」


 なんて調子のいいレイドリック様。

 ジャミルとロバートが苦笑いして、微妙にヒューバートに同情の視線を向けているのが印象的だわ。


 いえ、違うのよ。

 婚約者候補の『アリス』が『ルーカス』をそっちのけでレイドリック様を見ているんじゃないの。

 正式に婚約者なのが『私』とレイドリック様なのよ。

 ヒューバートもそれを知っているのよ。

 だから、おかしなやり取りじゃないわよっ。


「はぁ。困るんだよねー。足手纏いがいるとさぁ」


 クルスは無視よ、無視。

 リアクションしたら負けな男だわ、この子は。


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