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偽りのピンクブロンド【商業化予定】  作者: 川崎悠
第三章 1年生2学期~文化祭まで
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63 『魔塔の天才児』クルス・ハミルトン

 2学期、全体での始業式などは特になく、初日からしっかりと授業が始まる。

 容赦のない学園ね。

 私とヒューバートは教室へ辿り着いた後、友人たちに声をかけ交流を済ませた。

 そうして授業時間が始まる。


 1年生のこの時期。

 ゲーム上ですることは、ヒーローたちの好感度を稼ぐ『作業』みたいなものよ。

 スチルありのイベントを拾っていくというよりは、地道に狙ったヒーローと会うことを繰り返していく期間になる。

 まず『誰のルートなのか』を確定させる作業ね。


 当然、スチル付きのイベントはルートが決まってからの方が多くなる。

 そのため、この時期に起きるイベントと言えば個別のものよりも『学生生活』を謳歌するようなものが多い。

 前世で言えば、文化祭や体育祭とか、修学旅行に相当するイベントね。

 前世の学校がそうであったように、そういうイベント系は2学期に集中する。

 生徒会が忙しくなるのは自明の理だわ。

 来年の2学期では既にルートが確定しており、それらのイベントをヒーローと恋人状態か、ほぼ、それに近い状態で過ごすようになるの。


 また、ヒロインのステータスである『体力』『知性』『魔力』の値もエンディングやルート分岐に影響するため、この時期は特に『ヒロインをどのように育てるか』もゲーム的に重視される事になる。

 ヒーローたちと生じるイベントは日常的なものが多くて取るに足りないようなもの。

 ゲーム的に言うと、むしろ攻略対象『ではない』キャラクターたちの好感度を『上げ過ぎない』立ち回りが求められる。

 そうしなければ狙っていない別の攻略対象のルートに入っちゃうからね。


 なのでレイドリック様のイベントも2学期では、これといって目立ったものはなく、ただ日々の接触回数……話す機会を多めに持つことこそが攻略のカギとなる。

 だからこそのヒロインの生徒会入りでもあるわ。

 生徒会に入ると必然的に生徒会メンバーとの交流が増えるから。


 私の知る『原作』では『高位令息ルート』の生徒会入りを果たすと、レイドリック様、ジャミル、ロバート、ジークの4人の出番が必然的に増えていく仕様になった。

 反面、アルス、クルス、ホランド、ヒューバートたちの出番は減っていくの。

 サラザール様は立ち位置としては隠しキャラ……じゃないんだけど。

 隠しキャラと似たようなポジションとなり、攻略手順が変わってくる感じ。

 だからレイドリック様狙いなら生徒会入りはしなくちゃいけなかったのよ。


 とにかく『狙い』との出会いは多めに。

 そうでない相手との出会いは少なめに。

 そういう立ち回りが、この時期の正解で、あとは自己鍛錬ね。

 ステータスが上がっていないと望んだルートに入れないから。

 大きく私の知識からはもう外れているけれど。やる事は基本は一緒よ。


 ヒロインに扮してレイドリック様の1点狙い。

 如何に『ヒロイン』レーミルが、他の攻略対象と仲良くしていても気にしない。

 私がするのはレイドリック様イベントの間接的な妨害であり、彼の攻略だけよ。


「ルーカス。生徒会室に行きましょう?」

「ええ。お嬢」


 子爵令嬢アリスとその婚約者候補、伯爵令息のルーカス・フェルク。

 この関係はきちんと周囲に認知されており、誰も何も言ってこないわ。

 伯爵令息と言っても嫡男ではないとヒューバートは告げているし。


 婿にするのに彼をわざわざ狙う令嬢は、ひとまずAクラスには居ないみたい。

 顔立ちは当然、美形だと思うんだけどね。

 特に目立たないし、私のお付きみたいなことをしているから。

 ヒューバートは将来的に大丈夫なのかしら、って思うけど。

 将来的に彼は『王家の影』となる予定だ。

 ここで目立つよりも影が薄い方が本人としてもいいのかもね。


 生徒会室へ入るとレイドリック様たち3人は居なかったわ。

 代わりに……部屋の中には一人の男の子が居た。

 そう、男の子。銀髪で赤い眼をした、少年が居た。


「なに? アンタら。ここ、生徒会の部屋なんだけど?」

「…………」


 ヒューバートがスッと私の前に立って庇ってくれる。

 『魔塔の天才児』クルス・ハミルトン。

 容姿からして間違いない。攻略対象の一人が生徒会室に居た。


 ウィクトリア王国にある『魔塔』とは、魔法の研究部署の総称を示す。

 教会とは異なり、王国所属。

 また『王宮魔術師団』という組織もあり、その組織の母体でもある。

 戦闘・研究、様々な分野のエキスパートたちが集う一大勢力よ。


 そんな魔塔にクルスは『天才』として認められており、既に身分を得ている。

 年齢は私の2つ下だから今は14歳。

 『特級魔術師』という称号、立場になっており、それは現在『男爵位』と同等として扱われている。

 これから先の彼の功績によって、その立場が持つ身分は上がっていく予定だ。


 王太子であるレイドリック様や、侯爵家以上の令嬢・令息は、別に彼の下手に出る必要はない。

 ただし、あくまで親が爵位持ちでしかない、無位無冠の子供たち。

 それも伯爵家以下の家の者だと、ただの男爵とは違うクルスに対して大きな態度に出るべきではない。


 また、攻略が進んだ後ならば……ショタ枠……として可愛げのある性格になるのだけど。

 攻略前の状態の彼は、いわゆる『クソ生意気なガキ』になっている。

 その実力に裏打ちされた傲慢さで、大体の相手を見下している実力主義者なのだ。


 攻略する気がないのなら『関わらない』一択の相手と言えるでしょう。

 仮に、こちらから下手に出たとしても、彼の態度はこちらを見下す対象として見做すだけ。

 本人は別に挑発しているつもりもないのでしょうけど。


 その性格は、当然ながら多くの貴族子息と反りが合わない。

 問題を多く起こすトラブルメーカー。

 それでいてプライドの高い貴族たちが売って来る喧嘩は真っ向から買い、叩きのめす方針。

 その実力を知っている令息・令嬢が、引いた態度なら『臆病者』と言わんばかりに見下してくるの。

 かと言って実力で叩きのめしたら、それはそれで絡んできてウザいタイプ。

 負けず嫌いなところがある性格なので。


 クルスの牙が抜けるのは攻略の後となる。

 それかヒロインに対してだけは、だんだん甘くなるか。

 『主人公目線』で言えば、可愛げのあるキャラクターになるわ。

 だってデレるからね。

 でも、そうじゃない人間からすると、まさに地雷。

 レイドリック様ルートしか狙っていない私としても関わりたくはない。

 またゲーム上、彼のルートにおける『アリスター』のことは序盤は見下してくる。

 所詮、自分よりも『下の魔術師』に過ぎないから。

 その態度を『私』が許せるはずもなく、こっちはこっちで魔術の実力を上げていくのだけど。


 ヒロインの攻略が進んでくると彼女の味方をするようになり、当然『私』とは敵対関係になる。

 そして、アリスターを挑発してきたりするようになるのよ。

 ヒーローたちの中でも短絡的な方で、とにかく悪女など実力で叩きのめしてやればいい、という考えをしている。


 どうしようかしらねぇ……。

 彼に対してヒロインスマイルを向ける意味はない。

 興味を引かれてもイヤだし。

 敵意はないと下手に出ても、彼みたいなタイプは鼻で笑ってバカにするようになるだけ。

 よし。


「ルーカス」


 私はヒューバートの服を引っ張り、そして。


 ──ピシャン!


「……は?」


 一歩下がって、生徒会室の扉を閉めた。

 当然、私たちは廊下側。クルスは生徒会室の中。

 一枚の扉が私たちの間にある。


 無言。無返答。

 何のリアクションも返さずに引き返す一択!

 当然よねー。


「レイドリック様たちを捜しましょうか、ルーカス。

 ここから2年生の教室側へ向かって歩いていれば合流できるわよ、きっと」

「……そうですね」


 生徒会室の位置的に1年生の私たちの方が早くここに来てしまっただけ。

 なのでレイドリック様たちと合流してから改めて生徒会室へ入り、彼を紹介してもらいましょう。

 うん。フラグは立てないに限るわよねー。


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― 新着の感想 ―
[良い点]  素晴らしい対応w  見えてる地雷を踏みに行くのは余っ程アレな人ですよね。
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