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62 2学期スタート!

 夏季休暇が終わる数日前には学生寮へと戻る。

 新しいウィッグもヒューバートから購入済み。準備万端ね。


 建て直し工事中の店舗については寮で連絡を受け取れるように手筈を整えている。

 その際にも一件、あってね。

 『鉄筋コンクリート』理論について建築士と相談したのよ。


 それで聞いてみたんだけど『聞いたことない』んだって。

 意外なこと。見た目は十分に発展しているような気がする街並みなのだけどね、ウィクトリア王国の王都も。

 地球の歴史でも割と近代というか、かなり後の方? で世に出てきたものだったような気がするから、そんなものなのかしら。

 各建築物の背も高くないものね。


 建材としてコンクリートを利用するわけだけど、たぶん私の知っているコンクリートと成分が違う。

 それでも仕上がりとしては木造よりも耐火性が上がるのは間違いない、と。

 耐震性こそを気にしているので『土台』部分も強固に仕上げて貰っているわ。


 もちろんメリットばかりの建築方法じゃない。

 今までなかった、ということは問題点を建築側が把握していない、ということ。

 私だって正確に把握しているとは言い難い。

 とりわけ、気を付けるべき部分は『空調』かしら? たしか熱伝導率の問題もあって……。

 それに気密性で湿気が溜まり易いとか何とか。

 思い出せる限りの問題点を挙げていった。


 それに『魔法対策』よね。

 この国には魔法回路を組み込んだ、魔石をエネルギー源とする魔道具がある。

 当然、建物にはそれらが組み込まれるわ。

 灯りや空調設備にも使われる、前世にはない技術。


 流石に、あそこに立て籠って魔法でドンパチし始めることは考えていないけど……。

 壁自体に魔法耐性を仕込む、というのは技術的に『ある』。

 そもそも魔法回路自体があるだけで、少しその役割を果たしているわね。


 ほら。どうしても発展するでしょう?

 『罪人』の扱いとかで『牢獄』が。

 つまり、建物自体にも魔法耐性がないとダメなような場所とか。王宮もそうよね。

 そういうものも仕込んでもらう。


 それからセキュリティねー。

 カラーボールって、どういう材料で出来てるのかな。

 監視カメラ系ってないのよね、この世界。この国。映像、動画系がないの。

 でも、それらが『ないからこそ』発展していく芸術がある時代だ。

 絵画系は、きちんと、そういう時期に研鑽し合わないと人類規模の財産が失われてしまうことになる。

 モナリザとか、ヴィーナスとか。

 ああいうのが『文化が発展しませんでした!』となったら悲しい事じゃない?

 あんまり時代の先取りしたって良い事ないわよね。この世界的に。

 まぁ、私が言うな、なことを考えているし、やっていくんだけど……。


 というか『アイデアを思い付く』だけなら、この世界の誰かが既に考えていてもおかしくない。

 現実に必要なのは、そのアイデアを実現できる技術者、研究者なのだ。

 作り手の方であり、ただのアイデアマンじゃないわ。

 前世では『消費する側』に過ぎなかった私だと踏み込めない分野よね。


 セキュリティ問題は、魔法技術を組み込みつつ、この世界に沿ったものを。

 こういうのを聞く機会もなかったものだから勉強になるわ。

 同時にセキュリティを突破する側に立っても考える。

 身体強化で2階まで飛び上がって侵入、とか。前世だったら、ありえなそうなことも可能よね。


 『商会長』のための部屋も作って貰った。

 基本、私はオーナーであって店長ではないんだけど。

 アリスター商会、唯一の店舗だもの。本拠地ということになるので一応ね。

 『会議室』なども作らせてあるわ。これから人が増えてくると良いのだけどね。


 物を作る企画をするのは楽しい。それが出来上がっていくのも。


 プラモデル、は行き過ぎだけど。似たような玩具もアリね?

 作る楽しみを子供たちに知ってもらうの。大人も嵌まれる趣味になるかしら。

 商会が出来るとなった今、メモが欠かせないわ。

 また、学園と公爵邸を行き来する際の『変身』の中継地点としても役に立つと思う。

 ちょっと方向が離れているけどね。


「ふふっ」


 商会が色々と動き始めたことで楽しさ増す。

 のめり込めば、もう学生なんてしていられないかもね。


 そして、ピンクブロンドの『アリス』になった私は、学生寮まで戻ってきた。

 それで、とりあえず学生寮の私の部屋の掃除を始めたわ。

 ほぼ1ヶ月、ここから離れていたもの。掃除で一日。最後にお休みして……。


「夏休み、最後の一日」


 前世では通り過ぎた思い出だと思う。

 もっと、はっきりと私自身のパーソナルデータが残っていれば、懐かしさで胸が熱くなったかもしれないわ。

 どうしようかな。

 夏季休暇は、帰省する生徒が多くて一緒に遊びに出掛けるとかはなかった。

 この世界、この国なりの夏休みだ。

 充実はしていたけど、十分に楽しめたかしら。

 たぶん『アリスター』として過ごして、レイドリック様とギスギスして、より険悪な関係になるよりは、ずっと楽しめた一ヶ月だったと思う。

 悪役令嬢の断罪回避のためだけに、貴重な学生時代を費やす気はない、という気持ちは変わっていない。


「楽しむことが大前提よね」


 ただ破滅を避けるだけじゃなく生きるのよ。

 そして2学期が始まったわ。


「お嬢」

「ん。ルーカス。今学期もよろしくね」


 黒髪ウィッグのヒューバートと待ち合わせをして『アリス』で2学期スタート!


「あら?」

「あちらは……」


 通学路の途中、何やら、なにかしら。

 こう『待ち伏せ』しているような一団がいらっしゃるわ。


「ロッテバルク公爵家のご令嬢、シャーリー様ね?」

「2学年の……」

「ええ。あの水色の髪と瞳にお顔立ちも。周りを囲う生徒たちも、ロッテバルク家の寄子(よりこ)よ」


 なんとなーく、私は彼女たちの一団から距離を置くルートを通って校舎へ歩いていく。


「何をしているのかしら?」

「……誰かを待っていらっしゃるように見えますね」

「誰を?」

「いえ、俺は存じ上げませんよ」


 うーん。うーん?

 あっ。ヤバ。

 気になって視線を向けていたら、シャーリー様と目が合っちゃった。


「…………」


 でも、一瞬だけ訝しんだ後で、すぐに視線を正門の方へ向けたわね?

 ホッとする。


「……なんとなく、なんですが」


 ヒューバートが彼女の様子を見て、何かしらの推測を立てようとする。


「いえ。気のせいだから」


 でも、私はその推測をピシャリと止めたわ。


「そうですか?」

「ええ、そうよ」


 まさか『アリスター』を待ち伏せているとか、ねぇ?

 そんなことあるわけがなくてよ。


「うふふ」


 関係なーい。

 私は、2学期の始めから繰り広げられるような、公爵令嬢同士のバチバチバトルには一切、関係がないわ?

 ええ、なにせ私ったら子爵令嬢の『アリス』なので!


「『2学期からは流石に学園に通うだろう』」

「うっ」


 ヒューバートが、チクチクと私に伝えてくる。


「『公爵令嬢の私が、その情けない態度について苦言を申さねばならない』」

「うぐっ」


 いやいや。まさか、そんな。朝も早くから公爵令嬢様が、そんな。

 アリスぅ、子爵令嬢だからぁ、わかんなぁい。


「……ということを考えていてもおかしくないですね。ロッテバルク公爵令嬢が」

「やだ、ルーカスったら、まっさかー! あはは!」


 ヒロインの誤魔化しスマイルよ!


「1学期は様子見。2学期からは本格的に、ですかね……」


 いえ、別にロッテバルク家と私やシェルベル家の仲が悪いワケではないのよ?

 ただ。ただ、ね?


「シャーリー・ロッテバルク嬢は、あえて正式な婚約者を作らない。

 婚約者『候補』止まりの男性と交流はしている、というお話はご存知ですか?」

「……知っているわ」


 だって、彼女も公爵令嬢だ。そして私と違い、レイドリック様と同じ年齢。

 たかが1歳差なんて考慮に値しないのはあるけど。

 でも順当に考えて、私とレイドリック様との縁談がまとまっていなかったのなら、彼女こそがレイドリック様の婚約者になっていてもおかしくなかった。


 彼女には、まだ正式な婚約者が居ない。

 候補は居ると明言されているし、問題なく学園を卒業し、1年ほど経った後は婚約すると。

 それも婚約期間を短くして、結婚までする予定だとか。


 なぜ、そんな変則的なことをしているのか。

 当然、それはレイドリック様と……結ばれる可能性が大いにありえるからよ。

 乙女ゲーの知識がない場合、順当に恋のライバルとなりえたのは、間違いなくシャーリー様だった。

 そして私が生きているここは現実なので……彼女が恋のライバルとして脅威であるのは事実のままだ。

 そんな彼女が、ああして2学期の始めに待っているのは、はたしてレイドリック様なのか。

 それとも。


「あ」

「ん?」

「……殿下が来られましたね」

「あっ」


 レイドリック様が来られたわ。ジャミル、ロバート……に加えて。


「うっ」


 銀髪、赤い目をした、私たちより幼い見た目の少年を連れていた。

 ギリギリ、私の世代の恋愛対象に入るけど、どうしても幼さが拭えないような見た目。

 ……あれが『魔塔の天才児』クルス・ハミルトン。

 やはり来てしまった攻略対象の一人……。


 そんな一団が、シャーリー様の一段と和やかに挨拶を交わしていた。

 アレで目的達成? ね、そうよね、シャーリー様。


「ああ!」


 なんか普通に二言、三言、話しただけで挨拶を終えてる!

 そして、全くレイドリック様の一団に追い縋らないシャーリー様!


「……やっぱり、あれは、お嬢待ちでは?」

「ぐぅ」


 なに? 気になるけど。言いたい事があるのは間違いなさそうだけど!


「へ」

「ん?」


 私の視線は、さらにレイドリック様やシャーリー様から逸れて、別の者たちを捉えた。

 それは男女の2人組。

 まるで今の私とヒューバートみたいな組み合わせの2人だ。


「ああ、あの女ですか。男連れですね」

「……そうね」


 この世界のヒロイン、レーミル・ケーニッヒ。

 その彼女が男連れで登校してきた。その、相手は。


「……『大商人の子』ホランド・サーベック」


 黒髪と緑色の瞳。大商会であるサーベック商会の跡取り息子。

 まだ、時期的にそんなに親密な関係になっているはずのない攻略対象。

 それが、とても仲が良さそうに『ヒロイン』レーミルと歩いていたのよ。

 仲良しコンビ状態。本当に今の私とヒューバートみたいに。


 え、あのコンビ状態で生徒会に入ってくるの?

 もしかしてヒーロー全員コンプリート生徒会なの??


「はぁぁ……」


 2学期は波乱が待っていそうね……!


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