表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/115

61 『奇跡』とパーティー考察

「ダンジョンの踏破ですか」


 2学期が始まる前に改めてヒューバートに経過報告。

 競い合いについてと商会についても伝えたわ。


「まだ先の話になるけどね。今は、きちんと鍛錬しておきなさいってことらしいわ。

 各地のダンジョンについては合同調査中らしいからね」

「あまり実感は湧きませんが、戦争が迫っているような空気を感じられますね」

「たしかにねー……」


 私たちだけではなく、ダンジョンが現れたであろう8つの領地もこの事態を知っている。

 なら同時に『魔王』についても貴族間では既に出回っているのかも?

 おそらく公式でも『教会と魔塔が調査中』という解答が出るんでしょうけど。

 つまりは何も分からないということ。


「……どうされる予定ですか?」

「夏季休暇中も魔術鍛錬は怠っていなかったわ。ただ学園が始まってからの鍛錬がねー。

 『アリスター』としての魔法を他人に知られたくないのよ」

「なるほど」


 ヒューバートには手の内をほとんど明かしておく。

 どうせ陛下に報告されるでしょう。構わないわ。

 『水風船・音爆弾』についても教えておいた。


「ダンジョン踏破に関してなのだけど」

「はい」

「最終的にね? たぶん、私たち生徒が少数精鋭で、最大でも8人ぐらいかなぁ?

 そういう人数でダンジョンに潜りましょう! っていう話になると思うのよね」

「……創作物ですか?」

「創作物ね」


 こっちの世界に広まっている話でもそうなの?

 実際、この環境で『ダンジョン踏破しましょう!』ってなった場合、現実的にはどう動くのかしら?

 他国にはあるという話は本当?

 『アリスター』としても知らないわよ。この手の話に今まで興味がなかっただけかしら……。


「調査ってどう進めているのかしら?」

「騎士団がチームを組んで動くかと思いますが」

「でも、たぶんダンジョンの中って幅は広くないわよね? いえ、広かったとしても隊列は組めないというか。人数が居るほど、味方の動きが阻害されると思うんだけど。騎士団は厳しいのではない?」

「それは、たしかにそうですね」

「よね」


 ダンジョンの実物がどういったものかは知らないけど。

 イメージ通りならスペースの問題で、大量の人員を放り込むのは逆効果となる。

 そうなると騎士団の戦い方とは異なってくるわ。

 そもそも領地の騎士団は、治安維持のためにある組織。

 警察的な存在も兼ねているし、領主を守るための戦力でもある。

 だから、騎士団はダンジョン攻略に割きたい人員じゃないのよね。


「思うんだけどね。騎士団の仕事とダンジョンの調査・踏破って、全く違う戦い方や動き方になるんじゃないかなって」

「はい」

「それに調査が進んできたら、よ? もしかしたら民間人に解放したり、とか」

「それは流石に危険ではないですか?」

「でも、ないと思う? 民間人というか一定の戦闘技能があると認めた者たちにはダンジョンに入ることを許可するとか……。

 シェルベル家だけじゃなく、どこかの領地がやり始めると思うの。

 騎士にダンジョン調査に掛かりきりにさせるわけにはいかないし。

 それなら一般から募集して……。そのやり方が上手く行ったという成果が、どこかの領地から出れば、すべての領地が真似をし始めると思うわ」


 今、この国は『ダンジョン攻略』を目的とした『冒険者ギルド』の設立がされる『前』の国、とか。

 そういう状態じゃないかしら?

 私の知る物語群の中では、既に冒険者ギルドの設立は、通過した後の世界であることが多い。


 冒険者という立場が確立され、ギルド運営のノウハウもきっちりとして、情報も出回って。

 誰もが実力さえあれば一攫千金? を狙える、そんな場所になる。

 現実のダンジョン内に宝があるとは限らないけど。

 宝箱等がないにしても、ダンジョン産の魔獣の素材が高く売れることもありえるわ。

 これから近い未来に『冒険者』という職業が出てくる。そんな世界。


 もちろん、ダンジョン出現なんて事態が、領地的にも、国的にも危機的な状況であるのは分かっているのだけれど。

 私の中では、どうしても、その。

 『ここって乙女ゲームの世界よね?』という気持ちが抜けない。


 乙女ゲームにもダンジョン攻略という要素や魔王という存在は割と出て来る。

 ただし、RPG部分が練り込まれているわけじゃなくて。

 たとえば攻略対象として、そもそも魔王が居る場合なども頻繁にある。


 冒険を通じてヒーローたちと交流することがメインであり、ノベル寄りのゲームなら攻略部分は端折られていても不思議じゃない。

 テイストとしてだけ存在するのよ。

 それに乙女ゲーム的にヒロインは『聖女』扱いされるのが王道。

 メインヒーローが王族になるぐらい、当然の展開と言ってもいいわ。


 この世界で今すぐヒロインとヒーローたちが動き始めるわけじゃないとは思う。

 ただ、どこかの領地でダンジョン踏破が話題になって『意外とダンジョンって安全?』という空気が、この先の王国で蔓延していくと思うの。

 魔法がある世界で、男女が共に戦闘力を持っている世界。

 前世とは異なる価値観が、この国の人々には根付いている。


 だから『自分たちの力で攻略してみよう!』という結論に、いずれは至るはずよ。

 踏破という概念がはたして実物のダンジョンにあるかはさておき。


 もし、そういうものがあるとすれば、ダンジョン踏破は『名誉』として扱われるだろう。

 特にウィクトリア王国は長く戦争が起きなかった国だ。

 それが名誉扱いになるならば、こぞって挑戦する貴族が居ても不思議じゃない。


「……国に大きな影響が出ますね」

「ええ。各領地は今、どう転ぶかを慎重に考えているでしょうね。

 騎士団の手を(いたずら)に費やすだけの『災害』になるか。

 或いはダンジョンが鉱山のような『資源』になるか。皆、望むのは後者でしょう」

「鉱山……。なるほど。そういう捉え方もありますか」


 魔獣の素材か、ダンジョンに蓄積された何かしらに価値が出れば、もう実質的に鉱山と同義だと言っていい。

 ヒロインに花を持たせる展開が待つなら、きっとそうなる気がする。


「調査が進めば、の話だけどね。今は災害と見做して慎重な調査をすべき時期なのは間違いないのよ」

「はい。その通りですね。楽観視するのはよくないでしょう。

 その上で何か、そういった未来を想定して。お嬢は何が言いたいのですか?」

「うん。あのね。私、最終的に『パーティーを組んで戦う』が主流になると思うの。

 それも、そのやり方は私たち学園の生徒が行うようになる。そう見ているわ」

「……ほう」


 戦争や領地戦を想定した、大規模な人員をぶつけあう戦闘ではなく。

 少数精鋭で連携を取り、狭い場所を進んでいく『パーティー』戦。


 ……ヒロインが固定かは微妙として。

 ヒロインとヒーロー、合計10人から選択してパーティーを結成し、それでダンジョン攻略を進めていく展開を予測する。

 パーティーメンバーに入ったヒーローの好感度が上がったり?

 『体力』『知性』『魔力』のステータスも、おそらくダンジョン攻略をすると上がる、と思う。


 ゲーム的に考えるとね。

 もちろん現実で、自分がやるので、とてもとても危険だと思うけど。

 その危険を担うのが、この国の貴族でもある。

 とにかく乙女ゲーム的な帰結として、そういうパーティー結成が、これから主流になると思うのよ。

 そして、そうなると、よ。


「推測だけど。いずれ『生徒会でダンジョン攻略をしよう!』という話の流れになるんじゃないかしら」

「……それは、ありえますね」

「でしょう? 加えて2学期からは『魔塔の天才児』が生徒会に参加するらしいじゃない」

「はい。なるほど。彼が参加するならば余計に『自分たちで行ってみよう』となるでしょうね」

「そうなの。とりわけレイドリック様やロバートは、戦闘方面でも優秀じゃない?」

「はい。ええ。なるほど。ならば、なおさらその展開が想像できますね」


 そうなのよねー。

 乙女ゲーム的にも絶対にそうなる流れだと思う。

 ヒロインのレーミルも2学期に入れば生徒会に入りたがるに違いない。

 なら余計にそういう展開になる。

 そして魔王なんて存在が出てくる以上、ヒロインとヒーローたちは、余計に戦闘能力を鍛えておくに越したことはないはず。


 それらの決着が着くのは2年生の終わり前後。

 あと1年半程度の期間で、様々なことの決着が着くはずだ。


 とすると、割と早期に生徒会メンバーがダンジョン攻略に動き始めてもおかしくはない。

 でも、まだ先かなー?

 今、調査中なのよね。そこまで展開は早くない?

 2年生になってから怒涛のエピソードが詰め込まれるとか??


「お嬢の見立てでは、生徒会に入る人員に『例の女』が来ると?」

「ん? ああ、レーミル? まぁ、入ってくるでしょうね。レイドリック様が認めるかは分からないけど」

「『アリス』のお嬢を威嚇した人物が、ですか。あまり薦められませんね。

 裏から追い出すという手も使えなくはないと思いますが……」

「ああ、ダメダメ。裏工作で排除とかやめて。それ、絶対に『私』のせいにされるやつだから!」

「お嬢の……?」

「独自に動いてもダメよ。むしろヒューバートは私の行動を監視してちょうだい。

 逐一、お父様や陛下に報告できる態勢を整えてもいいわ」


 そういうの、だいたいヒロインを排除できないのよねー。

 何より『アリスター』を学園に関わらせないようにした意味がなくなる。

 バッドエンドまっしぐら展開よ。

 一番いいのがヒロインにはレイドリック様以外のヒーローを攻略して貰うことなんだから。


「暗躍はなし! アリスターとしては学園にほとんど関わらないの。

 むしろ関わっていないって証明の方が大事」

「そうですか」

「うん」

「……その、お嬢の見立てを考えて、踏まえますと」

「ええ」

「残りの生徒会メンバーには、同じ1年生のアルス・マーベリック司祭が入ってきそうですね」

「え。なんで?」

「なんで、とは。もちろん、そういう腹積もりであれば、やはり『奇跡』を使える者が居た方がいいのでは……?」

「あー……!」


 そうか。そういう流れになる?

 くっ……。また攻略対象が生徒会に増えるフラグが!



 『奇跡』とは、前世風に言ってしまえば『回復魔法』と言える御業(みわざ)だ。

 魔法は一般的に普及しているけれど、『奇跡』を扱える人口は比較すると、かなり少ない。

 また『奇跡』と『魔法』は異なる系統の力になる。


 代表的なものが、外科的手術に該当する『治癒(ヒーリング)』。

 それから、どんな毒でも癒せる『解毒(アンチドーテ)』など。


 毒なんて一口で言い表せるものじゃないのは皆、知っている。

 それでも『奇跡』の解毒であれば、なんだって治せる……というシロモノになるわ。

 魔法だと、そんなことは出来ない。

 だからこその『奇跡』という言い方なのかもね。


 奇跡の最上位に、教皇猊下が使える『託宣』があると言われている。

 予言に近しいそれだ。その名に恥じない御業と言えるだろう。


 『奇跡』は魔力で起こすものじゃない。

 なんと『ストック式』なのよ。


 まず、神に何らかの『奇跡』を(さず)けられる。

 人によって使えるものは変わるわ。

 教皇猊下しか『託宣』は使えないと言われるのは、それが理由ね。


 そして日々の祈りや巡礼によって『奇跡』のための何らかのエネルギー? が蓄積される。

 そうしてストックしたものを切り崩して行使するのが『奇跡』。

 大雑把に言えば『奇跡』は、1日に何度かの回数制限があるものなの。

 ここが魔法と大きく違うところ。


 だから、この世界は回復魔法を連発することはできない世界というわけ。

 お陰様というか、私の視点だと、回復魔法系にそういった制限がある世界だからこそ、薬学や医療が未発展になっていない理由だと思える。

 感謝すべき事よね。


 ただ、ダンジョンの攻略なんてするのなら『奇跡』持ちは必須になるでしょう。

 そして王立学園で、生徒で、『奇跡』を誰よりも使えるとしたら……。

 『大司教の子』アルス・マーベリック司祭。彼に間違いない。

 レイドリック様が、そういう未来を想定しているならば、生徒会には彼を誘うでしょうね……。


 ヒロインであるレーミルにも『奇跡』を賜れる素養があるわ。

 まぁ、当然っていうか、なんていうか。

 悪役令嬢の私が『奇跡』を使えるかの記述はなかったはず。

 そういう描写は知らないし、現実の私は『奇跡』の素養を調べたことはなかった……と思う。

 幼い頃は分からないわ。


「2学期の生徒会に新たに入るメンバーは、レーミル・ケーニッヒ男爵令嬢。

 アルス・マーベリック司祭。魔塔のクルス・ハミルトン。

 この3人は来る、という予想ですか」

「……そうなるわねぇ」


 はい。攻略対象2人、追加ー。

 レイドリック様、ロバート、ジャミル、クルス、アルス、レーミル!

 加えてヒューバートに、実は中身は悪役令嬢の私!

 ……地獄のメンバーかしら?


 来年度になったらジークも入る予定。うふふ……。

 年齢の違うサラザール様はさておき、この流れで『大商人の子』ホランドは、はたして仲間外れになる?

 ならない。絶対、何かの流れで来るわ。もう絶対よ。

 おかしいなー。

 『高位令息ルート』で他の生徒会メンバーって、普通にモブキャラだったはずなんだけどなー。

 ヒロインだって想定していない流れでしょ、これ?

 なのに逆ハーレムの下地が着々と出来上がっているんですけどー?


「はぁ……。ふ、ふふふ」

「お嬢? 怖いですよ」


 ヒューバートとリーゼルが私の笑いに引いている。

 だってねー! なんか、何なの? って感じなのよ。

 私の知らない『魔王とダンジョン』要素。

 どんどん生徒会に集結する予定の攻略対象たち。


 なぁに、これ。逆ハーレムルートは存在するの?

 オマケ要素で全員集合のお祭り展開なの?

 その場合の『悪役令嬢』の役割って何かしら?


 ヒロインの味方になって協力して魔王を倒す展開??

 でも、それって高確率で『貴方こそがレイドリック様に相応しいですわ……私は身を引きましてよ』とか。

 そういう『私』が折れて、ヒロインに道を譲るパターンじゃない?

 それは精神的にキツい。

 特に私の意識、人格は、いわゆる現地人。公爵令嬢のものだ。

 男爵令嬢、それも『恋敵』となる相手に頭を下げたり、一方的に道を譲る展開は……厳しい。

 できなくはないかもだけど、レーミルの性格が悪そうだから余計に難しいの。


 だけど和解展開じゃないなら……ヒーローたち『全員』を敵に回す展開が来る?

 単独でも個別の能力だと『私』はヒーローたちに劣る設定なのにぃ?

 どう私が強化されれば、9人ものハイスペック男子が連携した状態の敵になるのよ。


「……やっぱりキナ臭いのよね、魔王って」

「きな臭い?」


 嫌な予感がするというか。

 『悪役令嬢』の私にとって『魔王』って、本当にどういう存在になるんだろう?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 知らない展開ながらも自分の持ち得る知識と周囲の状況から魔王ルートの核心に近い予想を立てているアリスターのスペックの高さが良いです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ