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60 2つ目の競い合い

 お父様に頼って陛下の承認、オーケー。

 まだ競い合いについてはオープンにしていない。

 どちらの店も企画の正式始動前だものね。

 事業計画書の細部を詰め、予算に余裕を持たせて……。採算の見通しを立てる。

 前例があってないような商売よ。都度、修正を入れるとして……。


 夏季休暇の終わり頃。お父様に提出する期限になった。

 この件で奔走していたら、あっという間だったわ。

 ……もうちょっと友達作りに励んだ方がいい?

 『高校一年生』の夏休みのような時間。女友達は出来てはいるけど。

 まぁ、なんていうか、前世の学校とも、やっぱり勝手が違うのよね。


 身分制度がある国だから。同じクラスの中でもその差はあるし。

 それに王立学園へは遠くから来て寮に入り、夏季休暇は実家へ帰省する子が沢山いる。

 『アリス』もその内の一人という扱いよ。『ルーカス』もそうね。

 だから夏休みだー! 地元で遊びましょう!?

 ……とは、なりにくい。うん。

 私の友達作りが失敗しているからじゃないわ? ええ。


 そういうワケで夏季休暇は鍛錬と、商会の立ち上げに奔走して終わりそうだ。

 とはいえ、充実感はある。色々とやりたいことをこなしたと思うの。

 予想外の情報が入ってきたとはいえ、そちらはまだ大きな動きもないみたいだし。

 忙しいのは本当に2学期に入ってからなんでしょう。


 魔術鍛錬は、基礎の身体強化・保護に加えて『雷魔法』と『ゴム魔法』。

 そして『水風船』による音爆弾。

 これらが、だんだんと形になってきた。

 それこそ『初級魔法』の一歩手前あたりのレベルまでよ。


 雷の初級って聞くと、もっと強力なものをイメージしてしまうけど。

 ひとまず手の平を当ててバチバチとする、スタンガン未満の出力の魔法、というところまで。

 でも、その魔法を使う際に自分が傷つかないようにコントロールも出来るようになったわ。


 ゴム魔法は、ゴムそのものを生成するのではなく、魔力のゴム化をしている。

 つまり半透明の光のような『厚み』にゴムの性質を与えて操る魔法ね。


 これのついでに防護魔法のレベルも上がってしまったわ。

 防護魔法は『鎧』のような身体保護とは違い、『盾』のようなもの。

 前世で言えば『結界』ね。

 身体から少し離れたところに壁・幕を生じさせて身を守る魔法。

 自分だけじゃなく、他人も一緒に守ることが出来るわ。

 ただし、範囲が広がるほど、強度・密度は薄くなるので防御性能としては身体保護より弱くなる。

 この防護魔法の盾をゴムにして、色々と道具のように使えるようにする。


 電撃が通らないかのチェックを何度も。

 火や熱、温度の変化に弱い性質まで再現してしまうのは、私のイメージが影響しているのかしら。

 こういう弱点もないようには……難しいかな。

 どうしよう。ガムの性質も加えておく? あのイメージが強いわ、私。

 使い方が両手の間でグニグニさせているから余計に。

 『身体をゴムにする』のとは違う魔法だからね。


 ダメダメ。イメージを絞り込んではいけないわ。

 もっとあるでしょう。トランポリンにしてジャンプのサポートに使うとか。

 バンジージャンプの紐のように繋いだり。

 『鞭』にも出来るんじゃない? うんうん。この調子。



◇◆◇



 そして、期日。

 私とジークは事業計画書を整え、お父様へ提出したわ。


「…………ふむ」


 お父様がそれらに目を通す間、私たちは黙って待っている。

 公爵家として、子供2人が同時に事業の展開。しかも、それは爵位を懸けた競い合いだ。

 お父様の目も自然と厳しくなっているのを感じる。

 多くの領民の運命も巻き込むだろう案件。ここを妥協されることはないでしょうね。

 そうして時間が経った後。


「……いいだろう。2人共、よく出来ている。公爵として承認してもいい出来だ」

「!」


 やったわ。なんだかすごく嬉しいわね。


「では、この事業計画書を商業ギルドへ申請し、登録するように」

「はい。お父様」

「わかりました。義父上」


 いよいよ。私とジークは、これで『商会長』になるのね。

 うーん。前世で言えば社長、オーナー。なんだかニマニマとしてしまう。

 ジークも満足気にしつつ、私には敵意を向けてくるわ。

 こうして見ると恋心とか、そういうのじゃなくて『ライバル』として意識されている感じ。


「では続けて。2つ目の競い合いについてだ」

「! 2つ目ですか……」


 まさか、今日そう来るとは。それは予想してなかったわ。

 少し浮かれた気持ちになっていた私とジークは、冷や水を掛けられて真顔になる。


「と言っても、これもまたすぐに決まるような話ではない。

 ただし、決着が着く時は、あっさりと着くことになる」

「……?」


 どういう競い合いかしら?


「既に情報が入っているかもしれないな。(いたずら)に広めることではない事だが。

 お前たちには知らせておく。1月ほど前の話だ。

 教皇猊下より『託宣』があったと枢機卿がこの国を訪れた」


 あ。その話? 魔王の復活という謎の予言。

 詳細は分からない。もしかして何か分かった?


「……魔王? の復活、ですか? それは一体?」

「まだ分からない。教会と魔塔を挙げて調査しているところだ。

 ただ、そのこととは無関係ではない事態が起きている。それが……ダンジョンだ」

「ダンジョン?」


 ダンジョン。乙女ゲームには似つかわしくないような、或いは逆にあるあるなのか。

 その言葉が父からも出て来た。

 一体それが競い合いに何の関係が……。ちょっと待った。まさか?

 公爵位を懸けた競い合い、という言葉からは想像ができないほどに野蛮で、脳筋で、原始的な。


「シェルベル家の公爵領にも、それは発見されているのだ」

「わ、我が領地にも、ですか?」


 我が領地って言い方。今の発言はジークよ。

 まぁ、傲慢ったら。何を競い合っていると思っているのかしらね。


「もしも魔獣が領地に発生すると言うのならば対処しなくてはならない。

 高位貴族は、時に戦場に駆り出されるものだ。そのことは理解しているな?」

「……はい。お父様」

「ええ。もちろんです」


 つまりだ。


「高位貴族は強くなければならない。民を守るためにも。簡単に当主が死ぬわけにもいかない。

 逆に強い当主は、それだけ領民に安心をもたらす。幸い、ジーク。お前も魔法の才能は十分にある。

 高位貴族の一員だと言っても良いほどに、だ」

「あ、ありがとうございます。義父上」


 そこ。いちいち私にマウント取ったような視線向けてこないで。

 別にお父様は私を貶してないでしょ。


「だから……お前たちには『武力』での競い合いもして貰う。それが2つ目だ」


 やっぱり! なんて野蛮な競い合い! これは流石に想定の範囲外過ぎる。


 いえ、でもこの世界なら『アリ』だったわ。

 高位貴族にとって高魔力での戦闘行為はノブレス・オブリージュの範疇!

 魔法技術は、男女の差を埋めてしまうほどのもの!

 だからこそ、こういう社会でも女の爵位継承が認められる下地になっている国、世界!


 前世知識があるからこそ、もっと頭脳戦的な競い合いを想定していたわ。

 一つ目の商会運営なんてまさにでしょう?

 誰が当主の器を計るのに『武力』というアンサーを出すのよ。

 逆に盲点だったわ。


「ただし、今すぐではない。必要なのは個人を制する武力ではないからな。

 ジークは学園にも通っていない身だ。まだ公平な競い合いには至らない。

 だからこそ、こうして先に伝えている。

 ……まだ、ダンジョンの詳細は掴めていない、が」


 あ、もしかして。


「アレがもし、教会や魔塔が示すようなシロモノならば。

 領地に被害をもたらしかねない、魔獣の温床だ。

 このダンジョンを『踏破』できた方を、2つ目の競い合いの勝者とする」


 そう来たのねー。なるほど。でも納得かもしれない。

 ダンジョンは『突然に現れた』と言っていた。それが公爵家の領地に。

 つまり、それは『領地に起きた災害』に等しい。

 その領地を襲った災害をきちんと解決してみせろ、それが領主の器である、と。

 ……未成年の私たちが、魔獣と殺し合いになるかもしれないのに。

 でも、それがこの国、この世界の高位貴族なのだ。


「今すぐに向かうものでもない。まずはダンジョンそのものを調査している。

 他の領地とも連携している調査のため、功を焦って踏み出さないように。

 ダンジョンが想定しているようなものでなければ、別の形で競い合いを行う。

 ただし『武力』を計ることは変わらない。

 だから……今は己を鍛えることも怠らないようにしろ。

 当然、商会の運営をこなしながら、学園の授業を疎かにしないようにしながら、な」

「はい。お父様」

「ええ。当然ですね、義父上」


 なんでそこで私にマウント……。

 あ、そうか。ジークの中で私って学園はサボってることになっているのよね。

 そう思っているとしたら、今のお父様の台詞は、忠告じゃなくて嫌味にも聞こえる。

 まだ、どれも始まっていないのに勝ち誇るのはどうかと思うけどね。


 そうして私たちは、お父様の前から下がる。

 でも、なるほどねぇ。


 公爵位を懸けた3本勝負の競い合い。

 1つ目は『商会の運営』による総合成績で。

 2つ目は『ダンジョン踏破』による武力を。

 まさに文武両道。どちらもこなしてこその話。


 ……それに。お父様はダンジョンを『一人で』踏破するようには規定していない。

 おそらく、この先もそうだろう。

 騎士団を率いて踏破して見せてもいいわけだ。

 何故なら、それこそが公爵家の当主でもあるわけだし。


 それはそれとして、ダンジョンに潜るなら当然、自分を鍛えておくに越したことはない。

 特に基本の身体保護と身体強化が出来るだけでも生存率が跳ね上がるはず。


 また、魔王騒ぎとダンジョン騒ぎはウィクトリア王国全土に関わる問題よ。

 そんな時勢の中でダンジョン踏破を成し遂げた、というのは……間違いなく領民人気にも繋がる。

 カリスマ、名声としても申し分ない。

 うん。考えて見れば、妥当な采配だ。流石はお父様。


 むしろ、私は前世知識での『貴族』イメージが邪魔をしていたところがある。

 もっと、こう。スマートに頭脳的なやり取りで競い合うイメージを抱いていた。

 それこそチェスで決めるとか。


「……うん。頑張りましょう」


 何気に夏季休暇でやろうと思ってた事と、どっちも噛み合っているのよね。

 だから私としても文句はない。

 まぁ、『雷魔法』と『ゴム魔法』が、はたして戦闘に向いているかはさておき。

 趣味の領域だったものね。


 『悪役令嬢アリスター』の得意魔法は、火の設定だ。

 効率を考えると、そこを伸ばしておくのがいいかもしれない。

 でも今更、路線変更をする気はない。だから、このままいく。


 そうして。

 晴れて商業ギルドに登録を済ませて。

 私、アリスター・シェルベルは『アリスター商会』の商会長になったの。

 本格的に店舗の建造の開始。そして商品の開発スタートよ。


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― 新着の感想 ―
[良い点]  「アリス」は徹底して非殺傷系の魔法取得ですか。  キャラにそっていていいですね。  ただ「アリスター」としても魔法を伸ばしておかないと何があるかわかりませんから厄介ですね。  最悪王命で…
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