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58 ゴム

「魔王とダンジョンって……」


 私の知ってる『原作』と違うんですけどー?

 もう、言っても仕方ないかもしれないけど。

 その割に通常イベントは『原作』通りに起きるのよね。

 だから、まったく無関係の知識が私の頭の中に詰め込まれたわけじゃないと思う。


 この辺、もう考察しても仕方ないっていうか。

 あちらの世界に居た時なら『なになに? 続編? リメイク? DLC?』と調べればいいだけだった。

 だけど現実に起きている、こっちで私が生きている以上、もうそんな疑問を抱いていても仕方ないわ。


「……とにかく今、起きる可能性があるのは」


 おそらくヒロインとヒーローたちが、何らかの理由によってダンジョン攻略を始めるということ。

 それに『悪役令嬢』も絡んだりするだろうか?

 行きたくはないのだけれど、微妙ね。


 仮にレイドリック様がそういったものの調査に赴くとする。

 そこで婚約者の私が同行しなかったら?

 悪評が立ってしまうのは私の方になるだろう。

 加えてレーミルが同行していたら? 彼女の勇敢さを国民は讃えるはず。

 はい。これでヒロインと悪役令嬢の役割と評判の出来上がり。

 あとは坂を転げ落ちるように、だ。


「うーん……」


 ダンジョン攻略にだけは『アリスター』として同行する手もあるだろう。

 逆に『アリスター』の評判自体は、もう捨ててしまうのも一手?


 私としては乙女ゲーム期間を過ぎれば『アリス』の正体を公表するつもりだ。

 レイドリック様が致命的な何かを起こすまで。

 攻略が済めば、然るべきタイミングで正体を明かさなければ意味もない。

 2年間は『アリスター』の評判を捨て、『アリス』として立ち回って……。


「そうよね」


 元から、そういうつもりだったもの。この方針は今更、変えなくていい。

 『アリス』としても『アリスター』としても、それぞれダンジョン攻略に同行するのもいいわね。

 うん。それでいこうかしら?


 なら、やっぱりヒューバートに言われたように『キャラ作り』が大事だわ。

 無駄に才能に溢れた悪役令嬢な私。

 各分野のトップになるにはヒーローたちより劣るが、総合力があり、各分野を網羅できる。

 『魔法使い』タイプと『戦士』タイプの戦闘スタイルを使い分けるぐらい出来るはずよ。

 戦闘行為を重視するのも、なんだか乙女ゲームらしくない……。

 恋愛だけしていればいいわけじゃないのよねぇ。


「はぁ」


 まぁ、今は日々の魔術鍛錬を欠かさないことね。

 同年代の皆と比べて、私は魔力コントロールに時間を割く必要がない。

 とは言っても日々の鍛錬は怠らないけど。

 ゲーム上の私が『近衛騎士』ロバートの相手が出来たのって、これのお陰なんだろうな。

 膨大な魔力量に加えて、澱みなく全身に『身体強化』の魔法を掛けられる。

 同時に『身体保護』の魔法も。


 この2種類の魔法は、ある意味で基礎の中の基礎だ。

 日常生活の延長線で使えると言っていい。


 身体保護の魔法は、魔力の鎧を着込むようなもの。

 しかも隙間のない鎧で、重さのない鎧よ。

 雷魔法で確かめてみたけれど、ある程度の出力なら、これだけで雷魔法も防ぐことができる。

 どのような属性の魔法であっても『魔法攻撃』に分類されるからだ。

 ただし、身体保護の魔法は攻撃・衝撃を受けるほどにすり減るし、維持には魔力が必要となる。

 攻撃側の魔法威力が上がれば、突破ができる。

 保護されていない身体に当たれば、電撃の付加効果はいわずもがな。必殺の一撃になるでしょう。

 相手が生物ならね。


 なら、対策魔術として考案している『絶縁体』と『避雷針』は必要ないのか……と言えば、そうじゃない。

 『岩の壁』を構築すれば風が効かなくなるように。

 基本となる属性を伴った攻撃魔術に対しては、相応の対策魔術が付き物なの。


 それから、この世界における魔法は、あまり概念的なものはない。

 というか聞かないわ。国語的な? というか。

 どちらかと言えば科学、理系の分野なの、魔法って。


 『空気が動けば風になる』ように『魔力を回路に流せば火が熾る』。

 そういう理屈が通る事象よ。

 自然現象、科学現象に『魔力という電池で回路を起動させれば該当事象が起きる』という魔法事象が加わった世界。


 たとえば『どんな物でも切断できる魔法』や『どんな魔法でも1回だけ防げる魔法』は概念的なものになり、出来ない。

 でも『すごく魔力密度が高くて威力の高い切断の魔法』は出来るし、『すごく分厚くて硬い保護の魔法』なら出来る。

 国語的な魔法じゃなく、科学的な魔法ね。


 ストレートに『雷を必ず防ぐ魔法』は出来ない。

 『魔力を雷が効かない性質のものに変化する』のは出来る。

 そこで私は魔力を『絶縁体』に変化させようとしたわけなのだけれど。


 絶縁体。有名なものは? 『ゴム』だろう。

 魔力を火や水、岩に変えるように。

 魔力を『ゴム』に変化させる魔法を現在、開発中。

 そして、そこまで至った私は気付いたの。


 『ゴム魔法自体も強くない?』って。

 前世は現代日本人。スマホのある時代の生まれの私。

 ゴムは強いし、戦闘のバリエーションもあると植え付けられている。

 ええ、こうやって対策魔術を考えていて至ったのよ。

 雷魔法のように派手ではないかもしれないけど、応用性のあるゴム魔法……よくない? って。


 ついでにだけど『ゴム製品』について。

 見掛けないわね? 身近過ぎて見落としていたわ。

 馬車の車輪に巻き付けられていたりしないかな、と思ったけど、そういうのもない。

 もしかしたらゴムそのものが存在しない可能性もある。

 でも、この世界に存在しているなら……ぜひとも取り入れたいわ。


 ゴムは偉大よ。色んな商品に欠かせない素材になる。

 服もそうだし、玩具にだって使うわ。

 一番最初の野生の? ゴムは、樹液が固まって出来たものだとか。

 最初のそれは、それこそ『ボール』として、玩具に使われたと聞いた事がある。

 あとは防水用の加工か。


 純粋なゴムは、温度の影響を受けやすい。私の身近にあったものとかもそうね。

 地球人類の歴史がゴムの加工に至ったのも、かなり時代が進んだ後のはず。

 どこ基準で話しているのかって話だけど。


 この世界には『電気』の発展が乏しいみたいだけれど。

 私が『雷魔法』を世に出した後は、どうなるか分からない。

 もしかしたら、これを機に世界が変わったりして……?


 電気とゴムは、たぶん産業の要のようなものでしょう。

 将来的な発展はともかくとして、ゴムボールという玩具として流通させ、広めておくのも吝かではない。

 玩具を狙って戦争は起こさないでしょう。……たぶんだけど。


 ただし、ゴムの木がウィクトリア王国に存在しないなら、どこかの国で黄金並に高価なものとして輸出規制をされている可能性が高かったりする。

 夢を見るのはいいけど、今の時点じゃ捕らぬ狸の皮算用ね。


「逆にゴムに代わる素材があってもおかしくないわよね?」


 だって異世界なんだもの。地球と同じ生態系をしている方がおかしいわけで。

 いえ、人間は人間の姿をしていますけどね? それはそれ。

 ゴム系の性質を兼ね備えた、私の知らない植物や素材が存在している可能性……おおいにある。

 『アリスター商会』としてもゴムの発見は、新製品の開発に繋がるし。


 ……というわけで、すごく思考が脱線したんだけど。

 『アリスター』の私は、雷魔法に加えて『ゴム魔法』を駆使した戦闘スタイルを模索していくわ。

 ダンジョン攻略イベントなんてものが発生するかは未知数だけど。


 魔王なんて単語が出てきて、王都近隣にダンジョンが現れた現状。

 戦闘方面のスキルツリーを伸ばしておかないのは論外でしょう。

 悪役令嬢にふりかかる災いは軽くないのよ。


 身体強化の魔法の方も『アリスター』に回した方がいいわね。

 私が出来る全力の戦闘力を発揮するのがアリスターの姿。

 ……剣技のロバートと、魔術のクルスをどちらも敵に回す可能性があるからね。


 なのでアリスターではしないスタイルをするのが『アリス』になる。

 既に人に見せているのは『シャボン玉』の魔法だ。

 『アリス』では元気に走り回る、と考えていたけど。

 動き回ると、その動きの鋭さに気付かれてしまうかもしれない。

 だから身体強化はあまりせず、『アリス』では身体保護に極振りする。

 棒立ちで魔術を使うスタイルでシャボン玉から発展させるなら……。


 そんな風に考えて、さらにさっきのゴムについても一緒に学ぶことを加えて。

 『アリス』として次に修める魔法を決めたわ。


 それは『風船』よ。シャボン玉の延長線。

 そして、その先は……『音爆弾』。


 シャボン玉の見た目でフワフワと浮遊して空間を埋め尽くし、誰かが触れたりして弾けるとパァン! という大音量で相手をびっくりさせる魔法。

 アリスとして単独行動する気はないから。誰かのサポート魔術としての運用。

 非戦闘員っぽいし、ヒロインっぽいイメージもギリギリ崩れない? と思うので『アリス』はこの路線を突き詰めていくわ。


「うんうん」


 ああ、ゴム。ゴムは素晴らしいわ。

 つい、雷魔法の開発に飛びついちゃったけど、こっちの方がメインになる予感がする!

 ゴムの木も探さなくちゃよ!

 商会としてではなく、個人として人とお金を動かしちゃいましょう!


「うふふ」


 学生寮のベッドで一人、想像しながら私は笑いを浮かべるのだった。


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