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偽りのピンクブロンド【商業化予定】【全体改稿予定】  作者: 川崎悠
第6章 アリスとアリスター
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51 それぞれの選んだ場所

「アリスターも決めたか?」

「はい。お父様」


 結局、土地決めまでにヒューバートには相談出来なかった。

 身分を隠して、私と同じ年齢で店の経営をしている人などそうは居ない。

 ただ、彼も学生であることから普段は『エルミーナ』を経営している人間が別にいるのだろう。

 今、彼はどこで何をしているのかしらね?


「私の店の候補地は、この地区です」


 7つの指定場所の内のひとつを指し示す。

 そうすると、お父様は少し驚いた表情を滲ませて、すぐに引っ込めた。


「……本当にその場所でいいんだな?」

「はい。時間はありませんでしたが、私の方でも調べました」

「そうか」


 かなりの短時間だ。もっと情報量が少ないと思ったが、意外なほどのデータが私に返ってきた。

 元々、お父様が見繕っていた土地。

 事前調査したものが既にあったのかもしれない。

 公爵令嬢として動かせる人員は、ほとんどお父様経由の人々ってことね。

 お父様が公平な人で、私にきちんと愛情を抱いてくださる人で助かった。


 ……ゲーム上のお父様は、どうだったのかしらね?

 今の私よりも追い込まれていて、どうしようもなかったのか。

 ここからお父様の愛想を尽かされるような事が起きるのか……。


「では、アリスターとジーク。2人の店を出す場所が決まった」


 ここから本格始動……は、まだ先ね。

 まず商材が準備できていないから。


「2人には、同じ額の予算を与える。それぞれの土地には既に店舗にできるだけの大きさの『家』がある状況だ」


 私とジークは、コクリと無言で頷く。それは見て確認している。


「その『家』を改装して店に作り替えるも、よし。改めて建て替えさせるのも良いだろう。

 予算内で、お前たちが判断せよ」


 ……店自体にお金を掛ければ内装が整い、客の印象が良くなる。

 手の抜けない部分だろう。必要なコストと取るべきか、節約する点とするべきか。

 土台をそのまま活かして、ハウスクリーニングだけして誤魔化す?

 それとも一度取り壊して、改めて建て直す?

 お父様は、家屋の建て直しが可能なほどの予算を与えるつもりなのね。

 前世基準で言うと、何百万するのかしら……?


 『破壊』には魔法を使えるから、お金があまり掛からない?

 それに熟練の魔導士なら風魔法を駆使すれば、大きな物を浮かせることが出来る。

 重機が担当する作業部分を魔法で補うような感じだ。

 壁の補強とかも魔法で済ませるかも。

 前世よりは安上がりに済むのかしら……。

 逆に人件費が高そうね。重機扱い分の給料が発生したり?


 ウィクトリア王国の王都では、あまり地震が起きた事はない。

 また、海は遠いし、火山なども近くにない。

 耐震設計ぐらいはしておきたくはあるけど。

 一番怖いのは現実的に言うと『火事』かしら?

 と言っても木造の家ばかりじゃない。

 レンガやコンクリートに類する建材は、地球の現代のものとは異なるだろうが、この国にも存在する。

 そして、上位の土魔法使いが生み出す『土』は岩のように硬く、上質な壁や石柱にできる。


 ……『鉄筋コンクリート』って、この国にあるのかしら?

 流石にない知識だわ。

 うーん。分からない。インフラが想定以上に整えられている国だ。

 『ここは前世で言うところの中世で~』と、ふわふわの知識では判断しかねる。


「お前たちは『商会長』の立場に立つ。人事権もあり、誰を雇うかも決められる。

 ただし、それぞれ私の配下が適宜、監視・観察、護衛につくことは心得ておけ。

 自分たちの身分をしっかりと弁えておくように」

「はい。お父様」

「わかりました。義父上」


 まぁ、その辺りは妥当ね。商会長となっても私は公爵令嬢のまま。

 店の経営自体も誰かに委任することになる。

 あくまで私はオーナーであって店長になるワケじゃないから。


「そして……どんな商売をするか。それもお前たちが決めろ」


 予算配分、人事権、商材の選定権。

 商売を始めるに当たっての基礎部分。


「どんな物を売り、どんな店にするか。それらを決めて、どんな見通しで商売を継続していくつもりか。

 それらをまとめた『事業計画書』を作成して貰う。

 王国式の記入方法で、実際にそのまま商業ギルドへ登録可能なものを作成するんだ」


 あら。事業計画書は課題の内なのね。

 先んじて作っていたんだけど。でも、そうか。

 お父様に認められるものじゃなくて商業ギルドへ、つまり公的な機関へ、公的な書類として出せる計画書の作成ね。

 書類の不備など、身内の甘さで見逃されることはない。

 当たり前と言えばそうよね。実際に店を出すんですもの。


「事業計画書の提出は、3週間後を期限とする。アリスターは学園が始まる前だ」

「はい。お父様」

「お前たちが用意した物を私が確認した上で、不備がなければ……ギルドへそのまま提出する。

 お前たちは、その段階で正式な商会長になる」


 うん。やはり、お父様は競い合いこそさせるつもりだが、私たちに失敗する商売をさせたいわけではない。

 そりゃあそうだ。私たち個人以前に、公爵家そのものの威信に関わる。

 出来ればハイレベルな競い合いをして欲しいだろう。

 どちらかが赤字経営で破産しました、とかじゃなくてね。


 ……ジークは、私を蹴落としたいだろうけど。

 ここで経営手腕を見せれば、公爵になれずとも、彼の『実績』に繋がる。

 身分制度のあるこの国の感覚ではないかもしれないが、その段階で『身を立てる』ことが出来た証だ。

 生活を支える目処は立つだろうな。


「一つ目の課題だが、最も長引く課題にもなるだろう。

 結果を出すのも、おそらく最も遅くなる。改めて言うが、競い合いとして見るのは総合成績だ。

 短絡的な発想ばかりでは長続きしないし、無意味となる。長期的な視野での経営を見据えておくように。

 公爵となったなら、ずっとついて回る問題なんだ。一時的なものではなく、ずっと。分かるな?」


 一時期だけの華やかな栄華、それだけではだめ。うん。


「では。質問がなければ下がりなさい。二人とも。また尋ねたいことが出来たなら来なさい。

 競い合いの採点基準は教えられないが、必要なことであれば答えよう」


 ……ふぅ。

 まずは店舗を出す土地の決定ね。

 元々やりたい事に含まれていたものの、もう少し他人任せにするつもりだった。

 それを、ここまで自分でやる事になるとは。


 でも、とりあえず3週間か。

 夏休みも終わり間近の時期。

 夏季休暇は、これと魔術鍛錬で終わりそうねー。


 余談で、後から確認したことだけれど。

 ジークは、やっぱり大通り……中央通りとも呼ばれる一等地に店を構えることに決めたそうだ。

 対して私は7つの候補地の中から、もっとも寂れた? 地区を選択した。


 広く貴族の客も見込めるジークの店。

 どちらかと言えば平民向けとなるだろう私の店。

 真逆の選択が、どう、この競い合いに影響するか。


 そうして。私がここまで進んだ話をヒューバートに聞かせることになったのは、さらに3日経った後だった。


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