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偽りのピンクブロンド ~貴方が愛されている『理想のヒロイン』は蔑ろにしていた貴方の婚約者本人です~  作者: 川崎悠
第二部 サラザール編

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【49】三通の招待状

 とうとう一年生の三学期を迎える。

 この時期に発生するのは【王族からのダンスの誘い】イベントだ。

 攻略対象のうち二人のヒーロー。

 『王太子』レイドリック殿下と『王弟』サラザール殿下が対象のイベントよ。

 レム恋における共通ルートの最後のイベントになる。

 ここでレイドリック殿下から誘われるか否かが殿下攻略の成否にかかっているわ。

 このイベントを乗り越えさえすれば、あとは個別ルートに入っていく。


 個別ルート、つまりそれぞれのヒーロールートだけど、実は驚くほど短い内容なの。

 共通ルートで他ヒーローが入り乱れている状態で攻略を進めていくのがゲーム部分の醍醐味だから、ルートに入ったあとは惰性というか。

 発生するイベントのほとんどは、そのルートのヒーローのもののみとなる。

 そこで選択肢を間違えず行動していくのみだ。

 一応、それで好感度やステータスが足りなければグッドエンドに辿り着けないこともある。

 あとまぁ、バッドエンドもあるにはある。

 あったところで、それはヒロインのもので悪役令嬢は別に勝利せず、変わらず破滅エンドなわけだけど。


 ダンスパーティーといえば、入学前に催したパーティーのことを思い出す。

 あの時のレイドリック殿下が『私』へ向ける冷たい表情。

 この一年で『アリス』として多くの交流を重ねながら、だんだんと冷めていった気持ち。

 どんなにアリスとして情熱を向けられても『私』の姿になれば苛立ちなどの悪感情を向けてくる殿下。

 とうに私の心は冷え切り、かつて抱いていたはずの恋慕の情など欠片も残っていない。

 さぁ。レイドリック殿下の招待状は誰に届くのかしら。

 アリス? それとも、アリスター?

 礼儀として『私』に断りの手紙を送っておいて、アリスには招待状を送る可能性もあるわね。

 なんにせよ、今日までやれる限りのことはやってきたのよ。

 あとは待つだけだわ。



 学生寮で『アリス』として暮らす私。

 その日、三通(・・)の招待状と同封された手紙が届いた。

 一通目は『アリス』宛ての招待状。レイドリック殿下からだった。

 ……まぁ、攻略は順調ってところね。

 私にこの招待状が届いたということは、レーミルには送らなかったのかしら?


 二通目はシェルベル公爵家から。

 これは、中に手紙と招待状がそのまま同封されているので、家に来たものをお父様が学生寮にいる私に送ってくれたものね。

 中は『私』宛ての手紙と招待状。これもまたレイドリック殿下からのもの。

 もはや、完全にアリスと『私』が同一人物であることには気づいていない。

 騙している側としてあれだけど、なかなか滑稽ね。


「それにしても。ふぅん……」


 こういうのは送ってくるんだ? いつも『私』のことは放置しているくせにねぇ。

 まぁ、私の方も交流を断っているので、そこは責めないけど。


 あと、この『私』への招待状。

 定型文だし、それに筆跡がレイドリック殿下のものじゃないわ。

 アリス宛てのものと比べても、それは明らか。

 殿下付きの使用人の誰かに代筆させたのでしょう。本当にふざけている。


 アリスも誘い、『私』も誘うのはなんだろう?

 『私』が誘いを断り、出てこないと決め込んでいるのかしら。

 剣技大会などには出たのだから、こういう行事には参加する可能性があると思うけど?


 それとも『私』を壁の花にしながら、アリスとダンスをする予定かしら。

 ……ありそうだわぁ。

 むしろ、悪役令嬢あるあるだ。

 でも、残念ながらアリスと『私』は同じ人間なのよねー。

 その計画はすでに破綻しているのよ、殿下? ふふふ……。


 ……で。

 問題なのは三通目なのよね。

 レイドリック殿下からの招待状は予想の範疇。

 三通目の差出人が大問題よ。


「──サラザール殿下から。なぜ?」


 断っておくけれど、私のアリスとしての活動中、サラザール殿下と絡んだことはない。

 ほぼゼロのはずよ。攻略イベントだって一つもこなしていない。

 だというのに、なぜ私に殿下からの招待状が?


「謎すぎる……」


 えー……?

 どうしてサラザール殿下がアリスを誘うの?

 知り合ってなんていないわよ? これは絶対。

 私は招待状とともに同封されている手紙を開き、目を通す。


 『アリス・セイベル嬢へ。

  一年生での生徒会役員入り、おめでとう。

  レイドリックたちが認めた優秀な女性であると誇りを持ってこれからもがんばってほしい。

  ついては貴方と話してみたいと思っている。

  どうか、誘いを受けてくれることを願う。

  王立学園 理事長 サラザール・ウィクター』


 生徒会入りしたアリスに興味を抱いたサラザール殿下が動き始めた、と?

 つまり『ヒロイン』に興味を持った王弟ルートってこと?

 いやぁ! いらない!

 くっ……。

 これは乙女ゲームあるある『違う攻略対象が引っかかる』現象かしら!


 サラザール殿下といえば、ロッテバルク公爵令嬢シャーリー様のことが頭に浮かぶ。

 シャーリー様が好意を抱いている相手がサラザール殿下という説だ。

 確定情報ではないけれど……。


 もし、アリスとしてサラザール殿下の誘いを受けたら彼女に目をつけられるかもしれない。

 それはちょっとねぇ。

 でも、真意を知りたくはある。

 いったいどういうつもりでアリスを誘ったのか。


 もしかしてサラザール殿下は『私』がアリスとして学園に通っていることを知っているんじゃないかしら。

 陛下経由で聞かされる可能性はある。

 だってサラザール殿下は学園の理事長なんだもの。


 ちなみに理事長といってもサラザール殿下はかなり若いわ。

 前世でいえば大学を卒業したばかりくらいの年齢のはずよ。

 攻略対象としてストライクゾーンに入る年齢ってことね。


 私は学生寮の机の上に三通の招待状を並べる。


「どうしたものかしらねぇ?」


 ここでどう立ち回るのか。

 それがこの先の私の生活に大いに影響することは間違いないわ。


「……明日、ヒューバートに相談しよ」


 困った時のヒューバート頼りである。


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