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偽りのピンクブロンド【商業化予定】【全体改稿予定】  作者: 川崎悠
第6章 アリスとアリスター
49/115

49 下見

 お父様が王都でピックアップした土地を回るルートを決め、侍女と護衛を伴って『下見』へ行く。


「ここは……、評価が……」


 私は、その土地の採点基準を事前に決め、何枚かのレポート用紙を作成していた。

 チェック項目がいくつか並べられたようなレポートよ。

 それぞれの土地を、その基準によって採点して、気になったことはメモを取っておく。


 商材の方針はあるけれど、まだヒューバートにも相談していないのよね。

 ダメ出しをされて『これらは、この国ではウケないですよ』とか言われる可能性がある。

 私の感覚が、前世記憶のせいで、どこまでズレているか。

 公爵令嬢という身分と生い立ちも、市井の者からすればズレているでしょうし。

 既にこの地で商売を成立させているヒューバートの意見はとても参考になるはずだ。

 採点基準と気になった点をとにかくまとめて、判断材料を増やしておきましょう。

 彼に相談する機会がこのままなくても、私は私で決断する。

 流石にそこまで他人に依存していないもの。


「どこも大通りほどの一等地ではないけれど、それでも、ずいぶん良い立地だと思うわ」

「そうですね。流石は旦那様の選ばれた場所です」


 お父様も私たちに『失敗する商売』をさせたいわけではないだろう。

 土地選びも、きちんとしていたってことね。

 将来的な視野で見るなら、そもそもお父様のこの働きぶりにこそ発見がなければ、かしら。


 短期間でこれだけの場所を王都からピックアップできたのは部下の調査能力?

 それとも以前から何かするつもりだった?

 公爵の名があれば3日から1週間程度なら土地の契約を留めておけるかもしれない。

 その分の迷惑料とかを払ってもまだ余裕があるか。


 王都にスラム的な場所はない、はず。

 悪漢にヒロインが襲われてヒーローたちが助けてくれるのは、イベントのセオリーだけど。

 そういった治安の都市部で、のこのこと出歩いて平民っぽいデートイベントをこなすのは無理がある。

 特にレイドリック様という王族とさえ、そうして出掛けるパターンがあるもの。


 ……でも、それは公爵令嬢の私だから知らないだけかしら。

 現代の日本にだって住む家をなくした人たちは居たし、外国にも。


 それに孤児院というものもある。

 この国では、主に教会に併設されている場所だ。

 行き場のない子供たちが居るなら、行き場のない大人だって居てもおかしくはない。

 前世を含めた私の感性が、世の中がそんなに綺麗なはずないだろうと告げる。

 スラムとは言わないまでも、アウトローというか。

 下町? のような雰囲気のある場所はあるのかも。


「大通りから離れた場所もあるわよね。当然」

「はい。そのようですが」


 大雑把に言えば食事処が並ぶ通り、オシャレな店が並ぶ通り、と。

 なんとなく似たような雰囲気の店は、同じ地区に集まっている。

 消費する側も、その方が分かりやすくていいのだろう。

 ヒューバートの『エルミーナ』は、オシャレ系の地区ね。

 こういう同系の店が集まるのは、どこの国でも一緒なのかもしれない。


 お父様がピックアップした場所は、全部で7つ。

 その内の1つは大通りの一等地で、おそらくジークが目を付けるだろうポイント。

 手渡される際にチラリと見たけど、私とジークに渡された地図に差異はなかったわ。

 先に言ったように地区によって盛んな商売が異なっている。

 もちろん、絶対にその系統以外の店がお断りかと言うとそうでもないのだろう。

 ただし、系統の異なる地区に店を出せば、確実に売り上げに響いてくる。

 その地では『需要がない』ということだから。


 食事系はどこでも、とも思うけれど、オシャレなストリートで、ギトギトの油っこい料理を提供されてもね? 

 近隣から苦情が入るし、売れるとも思えない。そういうことだ。


 第一、食事系は取り扱うつもりがない。

 ヒーローの一人のジークがするとは思いたくないが、工作によって衛生的な問題を発生させられれば一発アウトな食事系店舗での競い合いはリスクが高過ぎる。


 やるなら管理が明確にできるタイプの店だろう。

 ファッション系も一手ではあるんだけど……。

 『公爵令嬢』としての私で、社交界に販路を広げていく必要が出て来る。

 それは、この競い合いにおいては……。

 『公爵位を懸けた勝負での公爵令嬢』としては真っ当な戦略かもしれない。


 でも普段の私は『アリス』として過ごすつもりだから。

 『アリスター』の出番は極力ない路線が望ましい。


「うーん……」


 やりたい事と、やらなければいけない事が違う気がしてきたわ。

 あまり高価な商材にできるとは思えない。

 特許制度のない国なので、売れたら売れたで真似する者が出てくるだろう。

 そもそも国になかった物を提案するつもりなので需要がない可能性もある。

 もっと無難な商売を目指すべきかしら?


「お嬢様、最後の場所です」

「ええ。ありがとう」


 馬車が着いたのは、王都の中でも平民寄りの区画だった。

 調べないと分からないけれど土地の値段は安そう。

 先に挙げたような『食事処区画』や『オシャレ区画』などには属していない。

 生活品を取り扱っている店がチラリとあるような……。でも人はきちんと居るわね。

 その雰囲気、空気は、前世で言えば……そうね。

 マンションとか団地が集まっている場所の近くにある、個人経営の商店がチラホラある通り。


 また小教会と孤児院がこの近くにあるようだ。

 そのことが、ひときわ私に『近くに保育園がある地域』を感じさせた。


「……ここね」

「はい?」


 この場所は、公爵令嬢のアリスターが店を構えるには、あまり向いている雰囲気とは言い難かった。

 下町。治安はそこまで悪いとは思えないが……より平民の生活に近いような。

 だけど。


「『アリス』なら馴染めそう」


 店舗責任者はアリスターで、アリスは従業員、というのはどう?

 この地域にとても合っているんじゃないかしら?

 私は、この場所について重点的に調べることに決めたわ。


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