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36 生徒会問答

「アリス嬢が補習?」

「はい。心配ですので、彼女を待ちたいのですが」

「ただの補習だろう?」

「それはそうです。ですが、これは言ってもいいのか」

「何かあるのか?」

「お嬢には何もありません。ですが一人で居る場合は、殿下たちの影響があるかと」

「は?」


 ルーカスの意外な言葉に生徒会の3人は、首を傾げた。


「失礼ですが。レイドリック殿下は、多くのご令嬢をそばに置きますよね?」


 ルーカスの指摘に途端にムッとした顔を浮かべるレイドリック。


「それがどうした?」

「それなのに生徒会には彼女たちを入れません。どうしてですか?

 貴方が望めば、手の足りていない今、彼女たちは役員に入ってくれると思います」

「それは……」


 レイドリックは、そこでジャミルに視線を移す。


「彼女たちでは、まともに仕事してくれないんじゃないかと。俺が殿下にお願いしていたんだよ」

「……メイソン副会長がですか?」


 ルーカスは初耳だと、驚いた表情を見せる。


「ああ」

「しかし、お見受けしたところ、伯爵家以上の高位の令嬢がいらっしゃいました。

 彼女らに仕事ができないワケはないのでは?」

「まぁ、うん。能力はあるだろうね。でもほら、レイにしか、失礼しました。

 殿下にしか興味がなさそうというか。

 仕事ができないんじゃなく、仕事にならなくなると思ってね」

「……なるほど。では、なおのことです」

「うん?」


 ルーカスは、また無表情に戻り、続けた。


「そんな生徒会で、お嬢は紅一点。女子生徒でひとり役員になっています。……仮にですが。

 お嬢を一人にすると、嫉妬した彼女たちに目を付けられてしまうかと案じています。

 ですので補習授業の間も、俺は彼女の護衛に付きたいと思います。

 それに……俺もお嬢も、あくまで『仮』役員でしょう?

 至らないと判断されるならば、生徒会から追い出していただいて構いません。

 お嬢も流石にあれだけ働いて、認められもせずに追い出されるなら、そう判断するはず」

「え!? い、いや、それは困るよ!」

「……困る?」

「あ、いや、その」


 ルーカスが首を傾げる。


「……偶々、俺たちは、こうして縁がありましたが。

 殿下が声を掛ければ、すぐにもっと有能な役員が集まると思いますが……?」

「いや。そうなんだが」

「何か理由が?」

「理由ってほどじゃないんだけどさ」

「……そうですか。俺から言うことではありませんが。

 皆さんも必要と感じてくださっているなら、せめて、お嬢は正式な役員と認めてくだされれば、と考えます。

 まぁ、俺は元からお嬢の護衛でしかありませんので、別に構いませんが。

 あれだけ、お嬢は頑張っていたので。

 それは、殿下も見ていてくださったと思うのですが……」

「……そうだな」


 レイドリックもそれを認めた。


「でも彼女、補習を受けるほどの、その。成績だったんだろう?」

「いえ、補習を受けるのは成績ではなく、期末考査の際に体調を崩してしまったためですよ」

「あ、そうなんだ? え、病気かい?」

「……いえ。病気ではありません。まぁ、女性の……です」

「あ、あー……うん。それは、うん……」

「コホン!」


 ルーカスは、ジャミルたちが怯んだところに咳払いして仕切り直す。


「とにかく、そういう理由でお嬢が心配です。

 俺にとっての最優先事項ですので、生徒会の仕事は本日は下がらせていただきたく思います」

「……わかった。仕方ないな」

「殿下」

「まぁ、問題があるとも思っていないが」

「はい。俺もそうあって欲しいと思います。ですが、一人で居ると妙な気を起こす者が湧くのも事実です。それに」

「それに?」

「……お嬢は、可愛いですからね。クラスの、まぁ、婚約者のいない男子にも注目されていますので。

 令嬢たちは殿下に関しての嫉妬で、と申し上げてましたが。

 俺としては、そういう男子たちを遠ざけたいのです。

 流石に『婚約者が居る男』は、お嬢に近付いたり『分別のないこと』はしないんですが……」

「…………」


 そこでレイドリックは思い当たることがあるのか、視線を逸らした。


「では、本日は失礼させていただきます。

 話のついでに出た話題ですが、仮役員の件は一考していただけますと幸いです。

 お嬢もまだ別の道に進む余地がありますから。それでは」


 ルーカスは、そう言い残して生徒会を去っていった。

 アリスが補習授業を受けるため、今日は3人だけの生徒会だ。

 彼が去ったあと、誰からともなく溜息が漏れた。


「たしかに今日までの仕事ぶりを考えれば、ルーカスもアリス嬢も十分に役員の仕事をこなせます。

 まだ一年生ですが、能力はありますよね」

「そうだな」

「実際、2人には助けられていますし。今日、2人が来ないと聞いて『困ったな』と思いました」

「ああ」

「役員の数は増やしてもよいですね」

「……ああ」


 ジャミルはレイドリックの様子を見ながら、また溜息を吐いた。

 そこでロバートが続ける。


「シェルベル公爵令嬢は、期末考査で現れたそうです」

「!」


 その名を聞いてレイドリックの表情が固くなった。


「どうも、彼女のクラスメイトには『次の考査で』と言い残したらしいので。

 そもそも彼女、王立学園にまともに通う気がないようですね」

「くっ!」


 ドン! と机を叩くレイドリック。


「あの女、私をバカにしているのか……!?」

「レイ……」


(期末考査の日にだけ姿を見せて、試験を終わらせた後は、誰と交流するでもなく公爵邸に帰っていったらしいな……)


 突然のことで誰も彼女を呼び止めることが出来ないし、対処できなかった。

 まるで嵐のような存在だ。

 学園に姿を見せない理由も明かされておらず、公爵や国王に抗議を入れても好きなようにさせろと返ってくる。

 国王が認めているため、レイドリックは何も言えない状態だった。


(たぶん、一番、レイが腹に据えかねているのは……成績だな)


 アリスターは授業を受けていないにも拘らず、学年首席を取ってしまった。

 もちろん彼女には既に公爵令嬢としての教育だけでなく、王妃教育という高度な教育が施されている。

 だから、そうなってもおかしくはないのだが……。


(アレで、彼女の意向がある種、はっきりとした)


 『私に学園の教育は必要ない』と。……その能力の高さを示した。

 だから、彼女は学園に通っていなかったのだ。

 今どこで何をしているのか定かではないが、まるでそれは既に学園を巣立った、一足早く大人になったような。

 生徒会でレイドリックの下につくどころか、その頭を飛び越えた振る舞いだ。


(この上、さらに学園の外で何かの功績をあげようものなら)


 アリスターとレイドリックは『大人』と『子供』のような差があると言われかねない。

 殿下の振る舞いは所詮は学園の中でのこと。

 公爵が容認しているのなら、アリスターは領地経営なども公爵の指導の下、既に始めているかもしれない。

 生徒会の役員をすぐに埋めなかったのは、アリスターに関してのレイドリックの感情的な面が大きかった。

 アリスたちの申し出があり、渡りに船と受け入れて場を凌いだが……。


「アリスター嬢のことは、もう考えずにルーカスたちを役員に入れ、他のメンバーも随時、増やしていくのが良いでしょうね」

「くっ……。そうだ、な……」


(レイの思惑は、きっと全て、はずれてしまったんだろうな……)


 自身の婚約者に対して拗らせた感情を抱いているのは、側近のジャミルにはよく分かった。

 アリスターの行動は問題だが……。

 2人が、これ以上に諍うことにならなかったのは不幸中の幸いと言うべきか、と考えた。


(まったく、おかしな一学期だったな……)


 拗らせた結果、どうにも哀れな姿を見せる王子。

 何を考えているのか分からない公爵令嬢。

 それから。

 ジャミルの心を動かす『女性』との出会い。


 もうすぐ、波乱だった期間が終わり、生徒たちが楽しみにしている夏季休暇だ。


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