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偽りのピンクブロンド【商業化予定】  作者: 川崎悠
第四章 公爵家の競い合い
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116 生徒会のジーク

 放課後、生徒会室へ向かう途中。

 私は、山程の書類を抱えた男子生徒を見掛けた。


「あの、手伝いますよ」

「え? あ、ありがとう」

「ね、いいよね、ルーカス」

「お嬢がそうしたいなら」


 書類を抱えた男子生徒は、青い髪の男子生徒だった。

 ヒューバートの地毛と同じような髪の色ね。

 なんだかんだで久しく見ていない地毛のヒューバート。

 私も他人に『赤髪の私』を見せる機会がすごく少なくなったわ。

 いっそ、ウィッグじゃなくて地毛をピンクブロンドに染めようかしら。

 まだカラフルな地毛に使える染め粉ってないのよね、この国。


「……あれ?」

「え、なに?」

「いえ、どこに運ぶのですか?」

「ああ、職員室へ……」


 今回のこれは見掛けてしまったから、気まぐれの人助けだったのだけど。

 何だろう、この男子生徒って見た事がある気がする。

 んん? でも知り合いじゃないわよね。『アリスター』としても知らない人のはずだ。


「ありがとう、助かったよ。ええと、君って」

「アリス・セイベルです。2年生の、」

「……ああ、あの(・・)


 ……『あの』とは。いえ、分かるけどね。

 そこそこに有名になってしまった『アリス』な私。

 それでも、まだ『アリス』にそこまで悪意を向けてくる人は少ない。


 ヒロインいじめは私の知る中での、最新の乙女ゲームの定番だけど。

 アレが過熱するのって罪を押し付けやすい『悪役令嬢』が居るからなのよね。

 悪女を隠れ蓑にして、己の嫉妬心や加虐心を満たそうとなるのだ。


 しかし、この環境には『悪役令嬢』がおらず、そのために『ヒロイン』へ攻撃した際の言い訳が用意し辛い。

 『アリスター』は、学園内に派閥すら作っていないのだ。

 だから、その取り巻きなんて存在もしないし。


 ミランダ様には婚約者が居て、シャーリー様は、派閥に自身の意向を周知している。

 都合のいい押し付け役がいない環境では、ヒロインをいじめたい人たちも沈黙するしかない。


 それにレイドリック様が婚約者以外の女性を侍らせているのは周知の事実だ。

 その中にヒロイン一人が紛れ込んだところで、大きな差はないだろう。


 もっと時間を重ねて。

 だんだんと、レイドリック様の『特別』が明らかになってきた時。

 その時にこそ、ヒロインへの嫉妬が爆発するのだと思う。


 はたして、その時の『ヒロイン』はアリスか、レーミルか。



「では、これで失礼しますね」

「あ、うん。ありがとう」


 ヒューバートと共に男子生徒の手伝いをしてから生徒会室へ向かった。


「さっきの男子生徒、見た事があるんだけど。ルーカスは分かる? 『私』の知り合いじゃないと思うのだけど」

「……あれは、俺の『身代わり』ですね」

「身代わり?」


 なにそれ。随分な響きだけど。


「覚えていませんか? お嬢が言ったんですよ」

「え、私が?」


 ヒューバートの身代わりを?


「去年、入学したての頃です。特定の時間と場所に『俺』の身代わりを用意しろ、と。あの青髪に覚えがあったのでは?」

「あ!」


 思い……出した!


 彼、『出会いイベント』でヒューバートの代わりを務めて貰った子だわ!

 レーミルに『実写のヒューバートは微妙~』とか比較されてしまった可哀想な子!


「男子生徒Aくん!」

「……何ですか、それ」

「彼の名前、知らないもの」


 そっか。当たり前だけど、彼も普通に学園で過ごしているのねぇ。

 ヒロインや攻略対象たち以外だって、当然。

 ゲームには登場しない多くの人が、この学園で、この国で暮らしている。


 それなのに『攻略』が思う通りになんていったら、逆に凄いのかもしれない。

 不確定要素なんて、あまりにも多く存在しているのだから。


「また1年の感慨を感じたわね」

「……あれから1年ですからね」


 乙女ゲームの出会いイベントをこなしてから1年だ。

 うーん、現実の進行なのもあるけど。

 『好感度』や『パラメータ』が可視化されていないのでゲームのように『今』の立ち位置が分からない。


 体感でいえば、今の私はレイドリック様ルートには入っているけど、好感度が『ゲームクリア』に足りているかは微妙なラインというところ?

 ヒロインが何を言うまでもなく、悪役令嬢を嫌う王子様ルートだ。

 それってどうなの? いえ、そういうものかしら。


「遅れましたー!」


 と、元気いっぱいに生徒会室の扉を開いてみる。

 そこには公爵令嬢らしい奥ゆかしさなんてない。

 元気のいい明るい言動が許される下位令嬢の振る舞いだ。


「アリス、来たんだね」


 そしてレイドリック様が『私』に反応して、嬉々として近寄ってきた。

 まぁ、まるで好意を寄せ合う婚約者のようだわ!


「ふふ、レイドリック様。今日も頑張りましょう!」


 私は、両手をぐっと握り締めて頑張るぞー、というヒロインポーズを決めた。

 ちょっと『昔のアリスター』とは別な気がする。

 最近は、ヒロインムーブといっても媚び媚びなのは控えているのよ。

 なんていうか、レーミルのムーブを間近で見た後だと、中々アレはできなくなるわ。


 そんなレーミルは、生徒会室の奥で私を睨み付けていた。

 立ち位置を見るに、男性陣に囲まれていたところに私が現れ、水を差したと思われる。


「これで皆が揃ったな。今日は新しい生徒会の仲間を紹介する。ジャミル、彼を呼んできてくれるか」

「はい、殿下」


 席に着いた私たちは、ジャミルが誰かを呼んでくるのを大人しく待つ。

 部屋の中にはミランダ様もシャーリー様もいらっしゃるわ。

 シャーリー様は現在、もう一人の『副会長』を担っているの。


 そして、姿を見せたのは……『私』の弟、ジーク・シェルベル。

 とうとう学園に彼が出てきてしまったわ。

 バレるかしら? バレないかしら。

 アリスの正体を知る人たちが、チラチラと私に視線を向ける。


「はじめまして、皆さん。僕はジーク・シェルベルです。今日から生徒会に入りますので、よろしくお願いします」


 真っ当に。普通の挨拶をするジーク。

 彼と顔を合わせると、だいたい喧嘩みたいになるから、とても新鮮だ。

 まるで、まともな美形男子のような雰囲気を見せているわ。


 なんていうか、ね。

 レイドリック様にせよ。ジャミルにロバート、クルスにせよ。

 『アリスター』に対しては皆、ひどい態度を取るものだけど。

 他の人には、まともな態度なのよね。

 ジークも、きっと生徒たちの人気を得ていくはずだ。


 私が、私のまま学園で過ごしていたら『彼らは皆の人気者、誰にでも優しい』『そんな彼らに憎まれるアリスターは、きっと最低な悪女なのだろう』と。

 そんな風に言われていたのだと思う。


 私が少し脱線して考え事をしている最中もジークの紹介と、彼を中心とした話し合いは続いた。

 そして一人ずつ、元から居る生徒会メンバーの紹介をしていく。

 やがて私の順番が回ってきて……。


「はじめまして、ジークさん。私はアリス。アリス・セイベルです。これから、よろしくお願いしますね」

「……ああ、よろしく、セイベル嬢」


 ニコリ、と。ジークは人たらしのように笑顔を浮かべた。

 そして『それだけ』。

 やがて、レーミルの自己紹介に移り、彼はむしろ彼女の方に興味を惹かれたような態度で。

 つまり、ジークは『アリス』の正体に気付かなかったのだ。


「……ふふ」


 思わず失笑がこぼれた。扇があったら口元を隠したいわ。


「アリスさん、少しよろしい?」

「シャーリー様?」


 皆、自己紹介が終わって、席を移動して自由に話し始めた時にシャーリー様から耳打ちされた。

 新学期が始まってからすぐなので、今日の仕事は少ないはずよ。


「こちらの手紙をあとで読んでいただけます?」

「手紙ですか」

「ええ、招待状よ」


 招待状?


「ミランダ様と『彼女』と。お茶会を開こうと思っています」

「……! それは」


 公爵令嬢アリスターとして参加しろという事ね?


「ふふ、分かりました。しっかりお伝えしておきますね!」

「……貴方、本当」

「はい?」

「いいえ、自然な笑顔でよろしいと思います」


 何をおっしゃっているのやら。


 こうして生徒会に正式にジークが加わり、ヒーローたちは完全に勢揃いした。

 私は、期末考査ぶりに『アリスター』として、公爵令嬢3人でするお茶会にお呼ばれしたわ。


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― 新着の感想 ―
面白いです!一気読みしてしまいました。更新再開を楽しみにしています。
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