表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偽りのピンクブロンド【商業化予定】  作者: 川崎悠
第四章 公爵家の競い合い
113/115

114 学園2年生

新章開始です!

 時は少しだけ過ぎて、私は王立学園の『2年生』になった。


「アリス、おはようー!」

「おはよう、テッサ。今日も元気ね」


 なんて軽口を叩く私は、今もピンクブロンドの髪をした『アリス』として学園に通っているわ。


「おはようございます、お嬢」

「ルーカス、貴方もおはよう」


 学生寮からの登校、毎日続くその風景にふと感慨深く感じるものがある。


「……まさか、『このまま』で進学するなんてねぇ。ルーカスだって」

「ふ、まったく、その通りだと思いますよ。お嬢のお陰です」

「なに、嫌味なの?」

「ご想像にお任せします」


 ヒューバートもまた本名ではなく、『ルーカス』として黒髪のウィッグを被り、学生時代を1年過ごしてしまった。

 間違いなく『私』のせいよ。でも、きっと彼は気にしないのでしょうけど。


「1年生の時は、なんだかんだで色々とあったわねぇ」


 11月の末日に魔術対抗戦があって。

 私は『アリスター』として攻略対象の一人、『魔塔の天才児』クルスを打ち負かした。

 その後のクルスはというと……。

 プライドは、へし折られつつも敗北したのが私であったせいか。

 あまり、改心した雰囲気はない。でも以前と比べて、ロバートを見下したりは出来なくなったみたいね。


 彼は一時期、剣技大会で私に負けた『近衛騎士』ロバートを下に見ていた。

 『あんな奴に負けるなんて』というのが、きっとクルスの言い分だったのだろう。

 だが、同じ相手にクルスは負けてしまったのだ。それも、己の得意分野の魔術で。

 その状態で上から目線が出来るほど、厚顔無恥ではなかったらしい。


 だから、あの時期よりも、かなりクルスは大人しく、丸くなったと言えるだろう。

 敗北を知らなかった天才魔法使い少年に、敗北を教えて上げ、その万能感を叩き潰してやった。

 あとは『ヒロイン』の仕事ってヤツでしょう。


「アリス! おはよう!」

「……!」


 朝から声を掛けてきたのは、あろう事か『私の婚約者』だ。


「レイドリック様、おはようございます」


 ニコリと彼に笑いかける『私』。

 淑女としての冷淡な微笑みではなく、年相応の、女の子らしい笑い方で。


「ああ、アリス。今日から新学期だ」

「ふふ、そうですね、レイドリック様」


 レイドリック様の近くには当然、彼の側近であるロバートと『宰相の子』ジャミルが居た。

 お決まりの生徒会トリオね。私とヒューバートは立ち止まって、彼らと挨拶を交わす。


「朝から、どうされたんですか? レイドリック様」


 どうも、3人とも校舎へ向かわず立ち止まっていたみたいだけど。


「キミを待っていたのさ、アリス」

「え?」


 新学期早々、レイドリック様の情熱の込められた視線が『アリス』に注がれる。

 彼からの好意は、こんな風に表面化し始めていた。

 どうやら『アリス』として、レイドリック様の好感度は、かなり稼いでいるらしい。


 ……その表情、視線は、かつて私が知っていたものだ。

 私たちが婚約した当初に『アリスター』に向けられていた、もの。

 それが今は『アリス』に注がれている。


「本当ですか?」

「ああ、本当さ」


 悪びれず、まるで恋人のように。愛しい者へ向ける態度で、レイドリック様は『アリス』に接するの。

 その視線が『赤髪の私』に注がれていたら、どんなに。……そう、何度も思ったわ。


「ええ、ウソですよね? ジャミルさん?」

「あー……、ええと、あはは」


 なにその愛想笑いは。はっきりしなさいよね。

 私は、なんとも言えない表情をしているのを見て、種明かしとでも言うように彼は笑った。


「あはは、いや、朝からキミに会えて嬉しいとは思ったけど。実は、アリスを待っていたワケじゃないんだ」


 ところで私のそばにはヒューバートも居るんだけどね。

 ウィッグを外せば、青髪・青目の攻略対象の一角。

 『王家の影』見習いのヒューバート・リンデル侯爵令息が。


 同じ生徒会に所属しているはずの彼に対して、軽い挨拶もしないなんてどうかと思う。

 それだけヒューバートが溶け込んでいるのかしら。

 まるで、この場所には『ヒロイン』と生徒会トリオだけが存在しているかのようだ。


「じゃあ、誰か別の人を待っていたんですか? あ、婚約者のアリスター様?」

「アリスターは、どうせ学園に来ないさ。あの女(・・・)は、学園の生徒たちを見下しているんだ」


 その名が出ただけで、レイドリック様の表情が陰る。眉間に皺を寄せて。

 『アリスター』という存在が、苦々しく、忌々しい存在であるのだと、彼の表情が示している。


「……、ええと」

「ああ、いや、すまない。アリスに嫌な気持ちをさせたいワケではないんだ」

「そうですか」


 レイドリック様が『アリス』に、とても好意的な態度を取るようになった反面。

 彼からの『アリスター』への態度は、より厳しいものへと変わっていた。

 そんなレイドリック様の態度が、どれだけでも『私』の気持ちを萎えさせることを彼は知らないまま。


 未来の方針を明確にしてから。

 私は、彼の態度について考察を重ねるだけでなく、周囲の信頼できる人たちに彼の言動の理由を探って貰った。


 レイドリック様は、どうして『アリスター』に対して、あんな態度なのか。

 それは本当に『私』が学園に通わないせいなのか。


 まだ彼の口から本心が語られたワケではない。

 ただ、彼は……『アリスター』へ嫉妬を拗らせている、劣等感を抱いているのではないか。

 そんな風に仮の結論に至っている。


 私は、1年間で『アリスター』としての活動は限られたことしかしていない。

 けれど、その中で私は成果を出していた。


 剣技大会・魔術対抗戦の両方での優勝。それも、それぞれの優勝候補を降しての優勝だ。

 騎士爵を賜り、『アリスター』個人が既にある意味で自立している。

 それから3回の期末考査、そのすべてで私は学年首席を取った。

 文武両面において、学園における最高成績を叩き出したのだ。

 討論会でも議題に挙げられるほどの女子生徒。


 普段は、まったく学園に通わず、生徒たちと交流なんてしないくせに、ね。


 生徒たちの注目を集め、優秀さを示す『アリスター』をレイドリック様は気に入らないらしいの。

 なにかしら、それって。

 だって婚約者なのよ、私は。


 王妃教育を受けて、おそらく他の生徒たちよりも厳しく教育された。

 だから多少なり、他の生徒より優れた成績ぐらい出せる。

 もちろん、当人の資質によるものだとは思う。それでも、だ。


 己の婚約者が優秀で何が悪い。

 それが王妃になるというのなら喜べばいい、受け入れればいいでしょう。

 でも、レイドリック様には……それが受け入れられないらしい。



「待っているのは、アリスターではない。……彼女の『弟』さ」

「え?」


 弟、ジーク・シェルベル? 何故……いや、まさか。


「もしかして、生徒会に誘うのですか?」

「ああ、よく気付いたね。そうなんだ。シェルベル公爵令息は、今年から学園へ入学する。だから最初から声を掛けておこうと思ってね」

「そうなんですね。……、……『また新しく生徒会のメンバーが増えるんだ』」


 なんてゲームの台詞(・・・・・・)を、ちらりと挟んでみた。

 『ヒロイン』が発するこの台詞の後で『公爵令息』ジークは、生徒会へやって来るの。


 とうとう、乙女ゲームの攻略対象たちが学園に勢揃いしてしまうのだ。

 ヒロインと多彩なヒーローたちが織り成すラブストーリー。

 それが名前を忘れてしまった、乙女ゲームの物語。

 『転生者』である私が、知っている展開だった。


「そうなんだ。今年も、きっと忙しくなるぞ、アリス」

「『ふふふ、楽しみです、レイドリック様』」


 生徒会の『交流会』は、ダンジョンが思ったようなものではなかったことで頓挫していた。

 他のイベントは概ね順調に進んだと思う。

 私の知っている内容よりも、ずっと先までね。


「レイドリック様ぁ! ジャミルくん、ロバートくぅん! おはようございますぅ!」


 そこで、本家本元の『ヒロイン』が登場する。

 きっと新学期の開始を告げるイベントを起こしたかったのでしょう。


 残念、一足先にジーク登場フラグ、立てちゃった。

 全然、望ましいものじゃないんだけどね。学園に通うなとは言わないけれど。


「…………」


 一瞬、彼らに気付かれないだけの時間。

 黒髪・黒目の『ヒロイン』レーミル・ケーニッヒは『アリス』に厳しい視線を向けた。


「皆ぁ、今日から新学期だね! とっても楽しみですぅ!」


 媚びっ媚び。ヒロインの可愛さを武器にそのスタイルを貫かれると、きっと攻略対象たちもイチコロだろうな。


「…………」


 私は、間近に居る『天敵』から視線を逸らして、ヒューバートを見た。

 今、気になるのは彼の心が、動かされるかの方……なんだよね。


「どうしました、お嬢?」

「ううん、なんでも」


 でも、生徒会トリオと違ってヒューバートは平然とレーミルを見ていたわ。


「ふふっ」


 そんな彼の態度に、私は少し沈んだ気持ちが上向きになったの。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ