113 そして、いつものカフェで過ごす
「お疲れ様でした、お嬢」
「うん、ありがとう、ルーカス」
私たちは再び学内カフェに来ていた。
魔術対抗戦はクルスを撃退して、私の優勝で無事に終わりだ。
はっきりとしてきたのは『アリスター』とレイドリック様の周囲は、完全に決裂しただろうって事。
私が優勝しても、彼は言葉ですら褒める事はしない。
その表情には敵意すら浮かんでいた。
……本当、あの目を『私』に向けてくるのに『アリス』には微笑むのだもの。
どんどん気持ちが冷え込むばかりね。
クルスは、一度の敗北で折れるかどうか。
負けた相手が『悪役令嬢』だから、余計に拗らせそうで嫌よねー。
「それにしても」
「うん?」
「……お嬢は、凄まじいですね」
「なぁに、それ!」
「いえ、流石にあれは皆の見る目が変わると思いますよ?」
「あはは……」
魔法による近代兵器の再現。どう考えてもオーバーテクノロジーなシロモノだ。
恐ろしいのは、それを私という個人が行使できているところ。
そりゃあ、見方も変わるわよね。
「でも、あれはクルスの魔法と連携した上での事だから。私一人では流石に出力不足よ。それに、見て貰ったように一発打った後で彼は気を失ってしまった。いくら威力が高くても継戦能力とコストに難があるから……」
「お嬢が居るなら、どうにでも出来そうな気がしますけどね」
それはそうかもだけどね!
「だけど現状、雷魔法を使えるのはクルスと『アリスター』だけよ?」
「そうですね。天才児と言われる彼を、お嬢は凌ぐ才能を持っていると知らしめたワケです」
「あはは……」
こうして悪役令嬢は来年、ヒーローたちにリベンジされるのであった、まる。
よーし、来年は不参加でいきましょう。勝ち逃げ万歳。
「しかし、実際……」
「うん」
「お嬢が、対策を講じていなければ、本当に命の危険があったようです」
「そうね……。クルスは冗談では済まない攻撃をしてきた。そこは許せないわ」
私が死んでこそ、或いは死に掛けてこそ彼の反省に繋がったのかもしれない。
だけど、そんな役目は真っ平ごめんだわ。
だから、こちらも力で圧倒した。彼の流儀に合わせて魔法で凌駕して見せたのだ。
「魔法ってどこまで許されるのかしらねぇ」
個人で爆発だって起こせる。その気になれば物を浮かせて重機のような事も。
理論が構築されれば、天変地異だって起こせそうだ。
それらが個人の力量で叶ってしまう、世界。
違和感や危機感を持つのは私だけかしら。
まぁ、個人所有の武力でなければ安心なのかと言うと、そんな事もないと思うけどね。
「貴方は、私が怖い? ルーカス」
「……『アリス』は怖くないですよ、お嬢」
「あら、まぁ。ふふふ」
それは『アリスター』は、ヒューバートでも怖いって事かしらね?
ヒーローに怯えられるとか悪役令嬢しちゃっているわ。
「ああ、来られたようですよ、お嬢」
「ん」
学内カフェの入口に現れたのは、ミランダ様。そして。
「シャーリー様、来てくれたのね」
ミランダ様に案内されて、シャーリー様が学内カフェにやって来た。
二人の友人、いわゆる取り巻きは誰も居ない。
私が立ち上がって手を振ると、ミランダ様が笑顔で応え、シャーリー様は訝し気な表情を浮かべる。
「ごきげんよう、ミランダ様。そして、シャーリー様」
「貴方は……?」
私に馴れ馴れしく話し掛けられ、気分を害された様子だ。
つまり『アリス』の正体に気付いていない。
それにしても分からないものなのねぇ。
もちろん、意図して化粧を変えたり、口調を変えたりはしているのだけど。
私は微笑みながら彼女の問いに答える。
「私は、アリス。アリス・セイベル子爵令嬢です。生徒会では『書記』をしています。そして、」
私は無遠慮にシャーリー様に近付いた。
子爵令嬢と名乗られて、厳しい表情になるシャーリー様。
そんな彼女に顔を寄せ、耳元で囁きかけた。
「私が、アリスター・シェルベルですよ、シャーリー様」
……と、ミランダ様と違い、今度は私から正体を明かした。
「……!?」
バッと身体を離し、そして私の顔をまじまじと見つめるシャーリー様。
「ふふふ」
「あ、貴方……まさか、そんな。どうして、いつから……!?」
「私は1学期から、こうして学園に通わせていただいています。今では生徒会の一員として、レイドリック様の下、頑張っているんですよ? ふふふ!」
驚愕するシャーリー様。
そうして私は、彼女を私の計画に巻き込む事にしたの。
ええ、それは、つまり。
レイドリック様とは婚約破棄し、王太子をサラザール様に変更してさしあげましょう計画に!
「お嬢ってネーミングセンス、よくないですよね」
「何か言ったかしら!?」
まったくヒューバートったら。
でも、彼とこうして気軽に話せる関係が、今はもう好きになっていた。
だからね、私は……未来を概ね決めていたし、望む事があったの。
そんな私の態度こそが決め手になったのでしょう。
シャーリー様は、私の協力者になってくれる事になったわ。
生徒会にも参加してくださるそう。
これで……『公爵令嬢同盟』の結成ね!





