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偽りのピンクブロンド【商業化予定】【全体改稿予定】  作者: 川崎悠
第2章 悪役令嬢はヒロインになる
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11 破滅ルート回避への方策

「ふぅ……」


 カリオスことヒューバートと話を終え、王都にある公爵家の屋敷へと帰ってきた私。

 いよいよもって、この世界が前世で知った乙女ゲームのひとつの世界だと明らかになってきた。

 そして私、アリスター・シェルベルは物語の中の悪役令嬢だ。

 ヒロインとヒーローたちの恋路の邪魔をし、立ちはだかる悪そのもの。


「ゲームのルートは、ヒロイン視点でグッドエンドが……9人分」


 これは攻略対象の人数そのままね。

 ゲーム性としては当然、彼らと結ばれるこのグッドエンドを目指すことになる。

 ヒーローが多いゲームだからか、それぞれのルートにおけるトゥルーエンドなどはなかったはず。

 つまり彼らと結ばれるとなったら、たった一つのハッピーエンドに辿り着くのみ。


 グッドエンドの9つがヒーローエンドで、そこがゴール。

 ゲームオーバー的なルートがいくつかあり、それらにならないように攻略対象を落とさなければならないゲームなの。

 ゲームオーバー枠の代表的なものが『ノーマルエンド』。

 これは攻略対象たちの誰とも上手くいかず、ヒロインが誰とも結ばれないエンディングね。


「……いえ、違うわ。たしか」


 スチル、一枚絵といったものが複数用意されているヒーローたち。

 彼らには当然、立ち絵と呼ばれるキャラクターイラストが存在している。

 イラストとシナリオテキストでゲームが構成されているのよ。

 だけどノーマルエンドでのヒロインは『立ち絵の存在しないキャラクター』とくっ付くの。

 つまり、どこの誰とも分からない、立ち絵もないモブキャラクターとゴールイン。

 ゲーム的にはバッドエンドだけど、それが望んだ相手で幸せなら現実的にはハッピーエンドと言えるわね。

 商人の子とのルートすらあるため、モブヒーローは平民か。或いは下位貴族の令息?

 グッドルートから比較して考えた場合、社交界でも話題にならなそうな相手……だと思う。


 それでグッドエンド、ノーマルエンドの他にあるのは無数のバッドエンド。

 選択肢を選んで進めていくゲームなのだけれど。

 バッドエンドは、どのルートにも入れないどころか途中でゲームオーバーになるエンディングね。

 気を付けなければいけないのは、このゲームオーバー。

 あくまで『ヒロイン視点』のものである、ということ。

 どういう意味かって言うとね。

 そのバッドエンド、場合によっては『悪役令嬢と刺し違える』とか。

 そういう類の……つまり、とばっちりで私までバッドエンドを掴まされるパターンもあるのよ。


 ヒロイン視点と比べて私視点だと、そこかしこにバッドフラグが待ち受けている状態。

 さっきの刺し違えるルートはヒロインが攻略対象と結ばれないのを悲観して、とうとう私を襲ったという逆襲ルート。

 ゲームの表面上には表示されない隠しパラメータがあって……。

 ヒロインの取る行動、選択が毎回、頭のおかしな……というか『病んでる』パターンを選ぶと行き着いてしまう。

 隠しヤンデレポイントを稼ぎ過ぎてしまった場合のエンディングがそれね。

 ヒロインとしてもバッドエンドだし、悪役令嬢の私は言わずもがな。


「……こわっ」


 そういう素養があるのだとしたらヒロインを虐め過ぎるのは、悪役令嬢としては不味い。



 破滅回避のための方策として大前提。

 私は、公爵令嬢としての権力と武力による、ゲームスタート前にヒロインを排除する手は使わない。

 『使えない』という方が正しいわ。

 何もしていないヒロインを傷つけることは間違いなく私の瑕疵となる。

 そのことが明るみに出れば、私は社会的に終わってしまう。

 王家の影という諜報機関が存在することが分かっているのだ。

 彼らを出し抜いて犯罪行為を隠蔽するのは無理筋と考えた方がいい。


 よくある公爵家の権威を使えば、あの程度の相手は裏で抹殺……なんて、ナイナイ。

 だいたい、そのことがバレて困る相手は社会に、というよりも王家にだ。

 王家がその事実を知ったからこそ婚約破棄だ! なんて破滅に繋がる。

 だから公爵家の権威もへったくれもないのよ。

 元から王家と敵対する気とか、陰から支配する気とかなら別だけどね。



 グッドエンド9つ。ノーマルエンド1つ。そして複数のバッドエンド。

 これらがゲーム的な終着点。

 そして、全体のシナリオ構成としては『共通ルート』でヒーローたち全員と交流し、そこでの選択肢次第で個別ルートへと進んでいく形式。

 気になるのは『逆ハーレムルート』なのだけれど。


「……なかった、はず」


 少なくとも私の記憶にそういったルートはない。

 隠しルートなるものも存在してなかったはず、よね。

 それに仮に逆ハーレムルートがあったとしても、そんな事をすれば、周囲の人々から顰蹙(ひんしゅく)を買うのは明らかよ。

 登場人物が限られるゲーム上ならともかく。学園では多くの生徒たちが在籍している。

 社交界では貴族たちの目もある。

 よっぽど脳内お花畑で一時の快楽主義ならともかく。

 逆ハーレムなんて、もう社会的な自殺みたいなものよ。


「……対策としては」


 まずゲーム的なイベント発生ポイントに近付かない、関わらないという手段が思い浮かぶ。

 ただ、フラグ完全回避タイプって、上手くいったような話は見た事がないわ。

 それもまた『物語』なのだけれど。

 運命の強制力的なものが発生し、否が応にもイベント発生に関わってしまうことになる。

 避けるならば大きく避けるべき。それこそ自らこの国を捨てて出て行くとかね。

 やんわりと避けるだけだと、結局は運命に追いつかれるパターンが考えられるわ。


 それに、この手の派生として、ヒロイン側が故意に仕掛けてくるパターンも知っている。

 それが私が警戒していた、私以外にも転生者がいる可能性。

 それも悪役令嬢である私が破滅に向かうことを辞さないタイプ。

 『ゲームでどうせ落ちぶれるのだから』『私の幸せのために犠牲になればいいでしょ』っていう人が、転生者として存在している場合。


 なにもレーミル自身が転生者じゃなくても『似たような立ち位置』の人物が現れて、彼女の代わりにヒロインの立場を謳歌する……なんてやってくるかもしれないわ。


 今の私はレイドリック様の婚約者のため、他の転生者がいても『一緒に頑張りましょうね』と持ちかけてくることは、ほぼないでしょう。

 そもそも、悪役令嬢本人だと思っている……本人なのだけど……はずだから。

 シナリオに関わろうとするのなら私への接触は、ほとんど挑発行為に近い。

 『魔王の顔でも見ておくか』っていうものよ、それ。

 ヒロインや他の誰かが、仮にレイドリック様以外が好きな人物だとしたら、なおさら私に関わってくる意味がない。

 ゲームに登場した人物以外への転生者がいたとして、気にするのは私が王妃になれるかどうか?


「シナリオ上から大きく逸脱した行動を取った時点で、私が転生者だとバレてしまうわよね?」


 少なくとも事情を知る人間が居た場合は真っ先にバレるだろう。

 共通ルートでのレイドリック様への接触に嫉妬する予定の私だけど、そこで嫉妬からの嫌味や嫌がらせをしなかった段階で『あれ、こいつ?』って思われるわ。

 他の誰か狙いならともかく、レイドリック様を狙う人物であった場合、私の破滅は必要事項。

 そこから予期せぬ何かしらを仕掛けられて苦労させられる羽目になる……。

 冤罪とかね。仕掛けられそう。

 なまじ『整合性』という意味では取れそうなゲーム知識があるし。


 私の知る時代では、乙女ゲームは数多くあった。

 悪役令嬢ものと呼ばれるシナリオも多岐に渡って存在している。

 報復もの、因果応報ものとして『ざまぁ』みろってタイプのシナリオもあったわよ。

 できれば、ああいう形で華麗に破滅を回避したくもある。


「……だけど」


 私ね。ああいう【ざまぁモノ】ってどうかと思ってるの。

 だってね。悪役令嬢『本人』の私から言わせて貰うとよ?

 卒業記念のパーティーに向けて色々と動いて、隠れて、罠を張ってって。

 どうして、そんな事しなくちゃいけないの?

 学生時代の間、ずっと婚約者に蔑ろにされてしまうパターンも多かった。

 婚約破棄をされてから、ようやく報復。

 でも、それ。学生時代がほとんど終わっているのよ?


 前世を朧げに覚えているからこそ私は知っている。

 学生時代って人生で本当に貴重な時間なのだ。

 それなのに、ずっと婚約者に蔑ろにされて、それに耐えてって……ありえないわ。

 だったら最初の段階で婚約解消してから入学したい。

 晴れて自由の身になって、きちんと学生生活を楽しみながら誰かとの恋を探したいわ。


「……公爵令嬢らしくないかしら」


 前世の記憶は私にどこまで影響を与えているのでしょう。とにかく。

 私は嫌なのよ。学生時代の間、私に冷たい婚約者と過ごすとか。

 その婚約者が他の女と仲良くしている姿が目撃されたり、目にしたり耳にしたりするのが。

 それで、そのことで周りから何かを言われることが……嫌。

 最後のシーンで『ざまぁみろ』と出来るからいい、なんて私は思わない。

 結果が良くても過程が充実していないのは嫌なのだ。

 だから私は普通に学生生活を楽しみたい。ヒロインに邪魔されたくないし。

 レイドリック様が他の女ばかり見るのなら、それに関わりたくもない。


「先に婚約解消を願い出るのは、お父様はともかく、陛下が認めるわけもない……。

 学園での殿下の態度とか調べて……でも、それではまだ足りないはず」


 王家と公爵家の縁談を破棄できるほどの醜聞は、流石にこの時点で犯しているはずがない。

 だって、それでは流石にシナリオが成り立たないし。

 レイドリック様だって、それぐらいの分別はあって……欲しいわ。


 王太子であるレイドリック様の婚約者の立場に据えられながら……。

 それでいてヒロインに悪役令嬢として目を付けられることなく。

 イベントフラグ自体はどうにか受け流し、コントロールできて。

 婚約者が他の女ばかり追いかけている哀れな女、なんて見られたり、揶揄されもせず。

 そうしていながら学生生活を普通に楽しめる。

 ……それが理想的な破滅ルートの回避じゃない?

 学生生活を楽しみながら破滅を回避するのが。


「一番いいのが、すべてが杞憂のパターン」


 レイドリック様が、実は私を溺愛していて、別にこんな風にああだこうだ考えるまでもないパターンよ。

 ヒロインなんて目にも入れてなくて。私だけを溺愛している。理想的ではあるけど。


「……レイドリック様」


 私と彼の仲はどうだろう。少し前のお茶会では結局、顔を合わせていない。

 彼が学園に入学してから手紙などの交流が疎かになっている。

 王妃教育の忙しさもあったため、私の方からも彼とは疎遠になっていた。

 1年前までは、そんなことはなかったのに。

 私たちは、しっかりと仲睦まじく過ごせていたはず……。


 現実での彼との交流を思い出す。

 そしてゲーム知識と照らし合わせて。

 レイドリック様は……確かに私のことを……好きで。だけど、それは。その私は。

 きっとヒロインのような、私だ。

 王妃教育を受ける前の、淑女からは遠い令嬢だった『私』。

 そうでなくなったからこそ、彼の私への情熱は冷めていって。

 レイドリック様はヒロインのことが気になるようになっていくの。

 それは、過去の私に恋するように。

 ……彼の愛した『私』は、かつての『私』だわ。


※攻略対象数、修正しました。

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