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偽りのピンクブロンド【商業化予定】  作者: 川崎悠
第四章 公爵家の競い合い
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110 約束

 その日は休日で、私は頭を悩ませていた。

 もちろん、今朝、見た夢……いいえ、『予知夢』の事でだ。

 まさか、予知夢を見る事の出来る『奇跡』だなんて。

 私は、そこまで『奇跡』について詳しくはない。門外漢だ。

 でも、予知夢が見れる人を聞いた事がない。つまり、超レアな『奇跡』……。


「それもあるけど、差し当たって問題は」


 私に死の危険が迫っていることが大問題なのよね。

 元からそういう危険はあったのよ。なんたって『悪役令嬢』だから。

 しかも、『ヒロイン』に悪意があり、王太子が最低なパターンの悪役令嬢。

 彼らをどうにかしない限りは、未来に破滅が待ち受けているのは確かだった。


 でも、そういうのとは毛色が違うっていうか。身近に迫った死の危険なのよね。

 ……別に魔術対抗戦なんて、出る必要性はない。ないのだけど。


 じゃあ、今回の参加を見送れば、それで私が安全かって言うと違うと思う。

 だって、クルスはレーミルに焚き付けられて私を標的にするのだ。

 そして、彼が私の『雷魔法』に目を付けることも必然。

 ならば、あのデッドエンドは、魔術対抗戦に限らず、いつでも起こり得る事よ。


「クルスの場合、『アリス』で懐柔しても意味が無い。『アリスター』を標的にしているんだもの」


 では、アリスターとして彼をヒロインのように懐柔できるか?

 ……もちろん、無理だ。そんなフラグが立つ事はないし、立てる気もない。

 アリスターとして、彼の対処をしなければデッドエンドが付きまとう。

 そうなると結局は……。


「魔術対抗戦で、実力差を示して、クルスを叩きのめすしかない」


 クルスは、実力主義というか、男性のルールで動く人物だ。

 つまり、アレ。喧嘩で負けた相手には従う。下に見ている相手の言う事は聞かない。

 実力者には舎弟みたいに敬意を払う……。男性社会的というか、なんというか。


 その際、卑怯な手での勝利では基本、意味がない。

 あれよ、あれ。前世で言うと『シャバい』……それは偏り過ぎた表現ね。

 うふふ。不良な漫画は、私も知ってるのね。


 じゃなくて。とにかく実力を突きつけるような倒し方で、クルスを倒す。

 そうしたら彼も大人しくなるわ。


 それに最後。予知夢の中で私が死に掛けていたから、はっきりしないけど。

 クルスは自身が人を殺してしまった事に動揺を見せていた。

 故意に殺したワケではないのだ。

 ただ、有り余る力のコントロールと、その結果を想像できなかった。子供ってことよ。


「彼の成長のための生贄になる気はないわ」


 その力で人を殺めてしまった過去があるんだ、というヒーローの深掘りに使われる義理はない。

 なのだけど。この件について、一人で悩むのが最良なのか? ってところよね。


 なにせ、私は死ぬのよ。一歩間違ってしまったら。

 いくら慎重になっても足りないぐらいだろう。

 でも、予知夢の『奇跡』について人に話すと……ねぇ?

 王家に知られたら、手放したくなくなるのが道理だ。

 そうすると、婚約破棄を目指している私にとって足枷となる。


 だから、ヒューバートにも予知夢の件は明かせない……わよね、やっぱり。

 彼の立場は、王家からの私の監視と護衛のはずだもの。

 流石に、予知夢については報告するでしょう。しなかった方が問題だ。


「……はぁ」


 私はフラフラと悩みながら時間を過ごした。

 午後になってから学生寮を出て行き、なんとなく、いつもの学内カフェへと足を運ぶ。


「……お嬢」

「あっ」


 別に約束したワケではなかったのだけど。ヒューバートがカフェに顔を見せたの。

 え、学生寮から監視しているのじゃないわよね?


「ルーカス、よく分かったわね、私が来ること」

「はい? ……ああ、いえ。違います。自分は気まぐれに、このカフェに来ただけです」

「そうなの?」

「はい。まぁ、休日も、お嬢と一緒に居るべきと言えばそうなのですが」

「まぁ、それはそうよね」


 なんたって私の監視なのだし。正直、緩い監視だとは思う。

 よくある『王子の婚約者の私には、ずっと監視が付いていましたのよ、ですから無罪ですわ!』とか。

 ないわよね、あれ。もちろん、王家に願い出れば、やってくれなくはないだろう。


 でも正直言って人員リソースの無駄遣い。

 いえ、要人・王族の護衛が付くのは分かるのよ? 暗殺だって警戒すべき。

 ただ、常に見張っている必要性があるかと言うとね。


 不貞がどうこうと言った懸念があるのは分かる。

 でも、それは遅かれ早かれ分かることなのよ。

 だって現代とは違う。学生の内に自由恋愛して、純潔を失って、なんてありえない。

 つまり、初夜には不貞がどうこうなんてことは嫌でも分かる。

 四六時中の監視を女性に付けるとすれば、婚姻する少し前から、した後の数か月でしょう。

 最も警戒すべきなのは、王族以外の血が王家に入る事だから。

 まぁ、そういう事は置いておいて。


「じゃあ、ルーカスもなんとなく来ちゃったんだ」

「はい、そうですね」

「ふふ。そうよね、いつもここで過ごしているのだもの」


 ただの偶然。気まぐれが重なった程度の話だけど。私は、なんとなく嬉しかったわ。


「ルーカス、あのね? 私、少し悩んでいるのよ」

「悩みですか」

「ええ。相変わらず、貴方には『何のことやら』だと思うのだけど」

「いつもの事ですね」

「言うわね。まぁ、いいわ」


 そうだ。いつも彼にしている『原作知識を元にした話』と予知夢に大した差はない。

 なら、そのまま相談して問題ないわよね。


「私、死ぬかもしれないの」

「……病んでいるんですか?」

「そういうのじゃなくて。今度の魔術対抗戦に出たらね。うっかり死んじゃうかも」

「それは誰かの陰謀ということですか」

「陰謀ってほどじゃないんだけど。普通にクルス少年がねー」

「彼に殺されると?」

「可能性があると思うの」

「……では、対抗戦に出なければ?」

「ううん。それは問題の先送りだと思って」


 あら。渋い顔をするわね、ヒューバート。

 命がどうこうという相談の割に、私の態度が軽いのかも。


「そうですか。では、自分に出来ることは何でしょう?」

「ん? うん。そうね」


 ヒューバートにして貰うこと。何を頼めるだろう。

 彼だって『ヒーロー』の一人だ。一人ずつの問題なら同格の対処能力があるはずで。

 私に今、迫っている問題と、その対処は?


「……魔術対抗戦に向けた対策に付き合って欲しい、かな」

「そんな事ですか」

「うん。そんな事」

「もちろん、喜んで付き合いますよ、お嬢」

「……ふふ、ありがとう。ルーカス」


 ヒューバートって意外と何でも付き合ってくれるわよね。

 バザーも文化祭もそう。『アリス』の私に付いてきてくれた。

 それでも、彼もまた『攻略対象』である事に不安はある。

 いつか、ヒューバートも『ヒロイン』に絆され、私の前から居なくなってしまうかもって。


「ねぇ、ルーカス。もしも、未来で私がすべてを失ったとしても。それでも貴方は、私に付いて来てくれる?」

「……すべてを失う予定があるのですか?」

「まぁ、一応?」


 レイドリック様に婚約破棄されて。

 ジークとの競い合いに負けて公爵家を追い出されて。

 公爵令嬢としての評判が地に落ちて、貴族社会に居られなくなって。

 色々と上手くいかなくて、破滅する。

 そんな未来は、常にあり得るの。だって私は『悪役令嬢』だもの。


「……もし、貴方がすべてを失ったとしても」

「うん」

「それでも、俺は、貴方のそばに居ますよ。……アリス(・・・)

「っ!」


 ちょっとドキリとした。いつも『お嬢』呼びされているからか。

 中々の破壊力がある。不覚だわ。


「……急に『アリス』呼びされると、恥ずかしいわね」

「恥ずかしいのですか?」

「いえ、なんか……」


 そもそも『アリス』って偽名じゃないのよ。私の愛称よ、愛称。

 だって、元の名前が『アリスター』なんだもの。

 『アリス・セイベル』は偽名に近いと言えば、そうなんだけど!


「ふふ。でも」

「はい」

「なんだか安心したわ。信じているわね。……ヒューバート」


 周りに聞こえないように。私は、彼の本当の名を呼んだ。

 アリス呼びされたお返しといったところ。


 そんな風にして過ごして。色々と今後の対策を練って。

 あれよ、という間に私は、魔術対抗戦の日を迎えた。


 私は、再び『アリスター』へと戻る。剣技大会に続けて、狙うは優勝。

 そして、『魔塔の天才児』クルスの打倒が目標だ。


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