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偽りのピンクブロンド【商業化予定】  作者: 川崎悠
第四章 公爵家の競い合い
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109 アリスの『奇跡』

 その日、私は、何やら良くない『夢』を見た。


 レーミルに絆され始めているクルス。彼女に何事かを焚き付けられている様子だ。

 ゲームの映像ではない。現実の彼らに見えた。


『アリスター様ねー。この前の大会でのアレは……魔法技術での戦い方だよ』


 クルスの声で、そう分析している事を告げている。


『僕なら、あんなのどうとでもなったね。……うん? ああ、いいよ。証明してあげる』


 彼は、レーミルに対して自信ありげに笑った。

 まんまと挑発に乗ったような様子だ。


『あんな人、僕の敵じゃないからさ』


 どうやら魔術対抗戦に向けての話のようだ。

 そして、私が見ている夢の映像は、次の場面へと切り替わる。


『調子に乗ってさぁ! いつまでも粘るの、やめてくれない!?』


 私は、クルスと戦っている? 試合をしているみたいだ。

 どうも私は追い詰められているらしい。

 彼用に事前に組み立てていた作戦もあったのだけど。

 そんな私の打つ手は、ことごとく彼の魔術の才能を前に蹴散らされたようだ。


 だとすると、私は諦めるだろうか? 潔く降参するだろうか?

 ……しない、だろうな。まだ、私は諦める必要がなかった。


 クルスの才能を信じているからこそ。私には打つ手が残っている。

 さぁ、貴方なら出来るでしょう? そう思いながら。

 私は、馬鹿の一つ覚えのように雷魔法を使っていた。


『その魔法、よっぽど自信があるみたいだねぇ!』


 ミランダ様やヒューバート以外に、初めて人前で披露した雷魔法。

 私は、それを武器にして魔術対抗戦を勝ち上がってきた。

 それをクルスもずっと見ていた。私が見せていた。


 興味深かったでしょう? 初めて見る魔法は。

 だから。貴方も使いたいでしょう?


『はは! こうかなぁ!』


 上空。複数の浮遊魔法を駆使して、空に浮かんだ彼の飛翔魔法。

 その場所から……模倣された雷魔法が帯電するのを見た。


『僕が使った方が……ずっと強い!』


 そして、落雷。私には対抗する術がある。あるのよ。

 だから、その魔法は私には効かない……それが私の勝機。

 私は防ぐ準備と反撃の準備をして。


 ガッシャアアアアアアアン!!


 ……え。


 直撃した雷が、私の身体を貫いた。

 私のように、殺傷性を落として、対人用に調整した雷魔法ではない。

 ただ、見た目だけを模倣した、高威力の……殺人魔法。


『────』


 崩れ落ちていく私の身体。異臭がする。肉が、内臓が焼けた異臭……。


『……え』


 痙攣し、喋る事すらも出来ず、ただ焼け焦げた肉体で、ぼんやりとクルスを見つめた。

 ゴフリ、と私の口から血が吐き出される。


 たしかにクルスの魔法は威力が絶大だった。

 だけど、そこには対人戦だという気遣いなどはなく。

 どのように運用され、どのように使うかという意思などない。


 ただ、ただ、高い魔法技術を見せびらかすため、だけに。


『え、嘘。だって……なんで』


 驚愕するクルスの声。ああ、彼はまだ幼い。知っている。

 そういうところが魅力的なヒーローだった。

 その幼さと、アンバランスな誰にも負けない才能が、彼の魅力。


 モンスターを飼い慣らすようなものなのだ。

 強過ぎる力を持つ少年に、愛という名の餌を与えて。

 そして、『ヒロイン』の絶対的な味方となり、倫理観はヒロインの価値観こそを指標とする。


 さぞかし、ヒロインからすれば……危険ながらも、魅力的な少年なのだろう。

 だけど、私は。……ヒロイン以外の人間にとって、彼は。


『…………』

『ひっ!? し、死……僕、殺し……!』


 私の身体の機能が、致命的に終わっていく。

 目が辛うじて見えていたのが不思議なくらい。

 呼吸が出来ていないのに、もはや苦しいとすら感じられなくなり、やがて私は──



◇◆◇



「はぁっ!! ……はっ、はっ……!」


 私は、何とか目を覚ました。

 場所は、学生寮、『アリス』の個室の中、ベッドの上だった。


「はっ……! はっ……!」


 拭い切れない死の予感、確信。そんなおぞましいものを感じる、夢、を見ていた。


「ゆ、夢……?」


 あんなにもリアルだったのに?

 それに酷くありえそうな未来だ。特にクルス対策なんて、そのままアレを考えていた。


「え、何、光……?」


 ふと、気付くと。私の身体を光が覆っている。

 これは魔法の、ではないわ。この光、もしかして……『奇跡』?


「まさか」


 私は、あの『聖霊のロザリオ』によって、何らかの奇跡を賜った。

 魔法技術とは異なる異能。

 敬虔な祈りや、それに類する行為によって、ようやく力を使えるはずのもの。


「……予知夢の、『奇跡』?」


 あのロザリオ。先代教皇が遺した遺物だという。それによって賜った『奇跡』だった。

 普通の治癒とか解毒の奇跡などであるはずもない。


 だけど『予知夢』というのなら……如何にも教皇が託せそうなシロモノだ。

 教皇猊下は『神託』というものが出来る。それが教皇になる条件だとも。


 予知夢なんて……まさに似たようなもの、では?


「……嘘でしょう」


 ということは。つまり、私は魔術対抗戦で、クルスに殺されてしまう、と?

 普段から祈っているわけではないから、すぐに同じ『奇跡』は使えないはず。

 それでも、物凄い情報が、私にもたらされてしまった。


「クソヒーロー……」


 生意気・天才系・魔法使いショタ! 定番だけどね。

 ヒロイン以外にとっては、本当に迷惑以外の何者でもない!

 私が『悪役令嬢』なのもあると思うけど……。

 まさか、こんな1年生のイベント途中で殺すとか。


「たしかにヒロイン側にもバッドエンドはあるけど……」


 まさか、そんなところにデッドエンドが隠されているとは。

 ていうか、その事前の段階でレーミルに焚き付けられていたわよね?

 こんなタイミングで『私』が死んだら、それはそれでルートなんか滅茶苦茶じゃないの。


 『ヒロイン』の目的が、まったく分からなくなってきた。

 討論会といい、どういうつもりなのだろう。

 レイドリック様狙いなのかと思ったけど、どうにも違う雰囲気だし。

 逆ハーレムするにしても、やり方とか……謎過ぎる。


「はぁ……」


 それにしても。予知夢の『奇跡』とか……。

 まだ確かじゃないけど。バレたら、それこそ人生が変わってしまうんじゃないの?


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― 新着の感想 ―
[一言] ああ、調子に乗った殺人ショタが幽閉されるバッドエンドか。ありそー。
[良い点] アリスの得られる『奇跡』は絶対普通の『奇跡』じゃない、と思っていましたがまさかの予知夢!まさに聖女が持ちそうな『奇跡』ですがゲームではレーミルが得るはずのものを取っちゃいましたかね。しかし…
[一言] クルスを過大評価していたってことか 初見の魔法をきちんと理解して相手を殺さない程度に威力を調整できるだけの腕があると思っていたら、 自分の魔法の威力も把握できずに最大威力出すだけの素人だった…
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