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偽りのピンクブロンド【商業化予定】  作者: 川崎悠
第四章 公爵家の競い合い
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105 シャーリー・ロッテバルク

 シャーリーは、ウィクトリア王国ロッテバルク公爵家の長女だ。

 歳が離れた、既に成人している兄がおり、公爵位はその兄が継ぐことになっている。


 年齢が第一王子レイドリックと同じ事もあり、真っ先に彼の婚約者候補として名も挙がった。

 王家と三公爵家、そして王国中枢の貴族や大臣たちとの話し合いの結果、シェルベル公女にその座を譲っている。


 では、彼女の『心』は、レイドリックに向けられていたかというと、それは『否』だった。

 シャーリーは、特にレイドリックとの婚約を望んでいるわけではない。


 現在、シャーリーには正式な婚約者がおらず、候補の令息が居るだけとなっている。

 その令息との縁が結ばれることを望んでいるのか?

 その答えもまた『否』だった。


「はぁ……。アリスター様には困ったものね」


 レイドリックとも、婚約者候補の令息とも縁を結びたいと思っていないシャーリー。

 嫡男が問題なく家を継ぐ予定で、また両親の方針もあって、ある程度は彼女の心情が婚約関係に影響する。


 そのような状況で、シャーリー・ロッテバルクは、アリスターがレイドリックと結ばれることを望んでいた。

 何故なら二人が破談となれば、レイドリックとの婚約が己に回ってきてしまうからだ。

 シャーリーは、それを避けたかった。


 そもそも公爵令嬢の自分に未だ正式な婚約者が居ない現状が、自分が『アリスターの予備』だと示している。

 それ自体は、実はシャーリーも望むことだったのだ。

 その理由は、彼女の『想い人』にある。


「……サラザール様」


 王弟、サラザール・ウィクター。

 未だ王位継承権を有する、王の弟。

 まだ年若く、現時点で20代。国王とは歳が離れている。

 レイドリックと兄弟と言っても通じそうな見た目をしている、美形の男性。

 王太子であるレイドリックが学園に入るため、責任者として今は王立学園の理事長になっている。


 シャーリー・ロッテバルクの想い人は、昔からサラザールだったのだ。


「はぁ」


 シャーリーは今、学園2年生で17歳になっている。

 対するサラザールは、20代も半ばに差し掛かろうというところ。

 年齢差は確かにある。だが、それでもシャーリーにとっては、問題のない年齢だった。

 むしろ同年代の令息たちよりも素敵だと思える。


 サラザールには婚約者、そして妻は居ない。

 もちろん縁談はあったそうだが、国内外の状況を見ながら動いていて婚期が遅れたようだ。


 国王の地盤が固まるまで大人しくする意味合いもあったのだろう。

 或いは下位貴族の令嬢でも迎えていれば、王位争いなども懸念せずに済んだかもしれないが。

 サラザールの絶妙な年齢もあって、どちらかと言えば『国王の予備』というよりも『王太子の予備』のような立ち位置となった。

 彼が王位継承権を放棄せず、現状に甘んじているのも、そういう事情だ。


 そして、シャーリー・ロッテバルクは公爵令嬢だった。

 ……つまり、シャーリーとサラザールは結ばれるには相応しい身分だが、この二人が結ばれてしまった場合。

 国内の勢力図に大きく影響を与えてしまう。


 ともすれば、ロッテバルク家の後ろ盾を得た王弟サラザールによる王位簒奪も視野に入ってしまうぐらいに。

 そうなってしまえば国内が王位争いで荒れてしまうだろう。それは避けなければならない。


 そのため、シャーリーは、長年の思慕の念を抑え込んでいるしか出来なかった。

 『アリスターの予備』扱いの、婚約者の居ない現状だが、そういう理由もあって受け入れていた。


 アリスターとレイドリックが結ばれ、滞りなく王位に就けば。

 ……己の恋も許されるまで、国内は落ち着くだろう。


 正統な王位継承権を持つ国王の息子が、公爵令嬢を娶って王位に就くのだ。

 いくら王弟と公爵家と言えども、その盤石な玉座を脅かすには足りないはず。

 国内に大きな争いを生むことなく、シャーリーがサラザールと結ばれる道筋が、それだった。


 だから、アリスターにはレイドリックと結ばれて貰わなければならなかった。

 シャーリー・ロッテバルクの昔からの恋心を叶えるために。



 だというのに最近のアリスター・シェルベルは目に余る。

 確かに学年首席を取り、剣技大会にも優勝して見せ、能力を示すことには成功しているだろう。

 だが、肝心のレイドリックとの仲が良くないという噂が立っている。


 シャーリーにとっては、そちらの方が問題だ。

 能力の足りなさなど、それこそ自分やサラザールが支えればいい。

 だが、二人の婚約関係にヒビが入った場合、シャーリーがアリスターの代わりにレイドリックと婚約しなければいけなくなる。

 それはシャーリーの望まないことだった。


 もう一人、公爵令嬢のミランダ・ファムステルが居るけれど、彼女の方は既に婚約者を決めていた。

 この王位に関わる流れとは距離を置きたいのがファムステルの意向なのだろう。


 今まで問題はなかったのだ。

 将来は、シャーリーの望んだようになる希望が十分にあった。


 アリスターだって、レイドリックとは仲睦まじいと聞いていた。

 少なくとも政略であっても、彼女の『心』はレイドリックに向けられていたのだ。


 ……なのに。


「はぁ……」


 レイドリックは学園に入ってから奔放に女子と戯れ、アリスターは学園にすら姿を見せない。

 誰が見たって、二人の仲はよろしくない。

 そして、二人の振る舞いの影響を最も受けるのがシャーリー・ロッテバルクなのだ。


「本当に。これから先、どうなるのかしら」


 何度目かの溜息を吐いて、シャーリーは憂鬱な気持ちで学園の窓の外を見つめた。

 そんな折、生徒会から討論会の参加への打診を受ける。

 以前から生徒会の役員になる事を望まれていたが……。


 シャーリーとしては、まずレイドリックと距離を縮めたくなかった。

 生徒会に入る事自体は、己の評価を高めることに繋がる。

 将来、サラザールとの縁を繋ぐためには優秀さや評判だって、きちんとしていなければならない。

 だからレイドリックが居ないのであれば、二つ返事で生徒会入りを了承もしたのだろうが……。


「討論会への参加、だけ。そして議題がアリスター様?」

「はい! ぜひ、お願いしたいんです!」


 以前、自分のところに来たピンクブロンドの女子生徒と黒髪の男子生徒とは別の生徒会役員。

 黒髪の男爵令嬢が、シャーリーにその話を持ってきた。


「……そう。面白そうね。それなら参加してもいいわよ」

「ありがとうございますぅ!」


 媚びたような甘い声を漏らし、シャーリーに礼を言う男爵令嬢。

 以前のピンクブロンドの少女とそう大差ないな、などとシャーリーは思った。


 下位貴族らしい奔放な振る舞い、言動。

 男性は好きかもしれないが、高位貴族の令嬢としては眉を(ひそ)める。

 幾分か以前のピンクブロンドの少女の方が、この黒髪の令嬢よりも、しっかりしている印象だ。


(……この子や、あの時の子が生徒会役員なのってレイドリック殿下の意向かしら?)


 女子生徒と戯れる王太子の囲い込み? とも疑った。

 ただ、生徒会にはミランダや、女子生徒からも評判のいいドノバン伯爵令嬢が居る。

 風紀に関しては問題はないと思われた。


「レイドリック殿下は見ているだけなのね? それに……理事長も同じように見守る立場で参加される?」

「はぁい! そうです! 来てくれますよ、サラザール、様も!」

「…………」


 名前を呼び捨てにしようとしたのか、と。シャーリーは黒髪の男爵令嬢に苛立ちを覚えた。

 要注意人物だと思う。


「分かったわ。討論会には参加するから。それじゃあね」

「あ……! はぁい……」


 さっさと男爵令嬢からは離れて立ち去るシャーリー・ロッテバルク。


(サラザール様が)


 討論会で想い人と言葉を交わせるかもしれない。

 そう思うとシャーリーの頬は熱を帯びて赤く染まった。


 それに議題のアリスター・シェルベルについてだ。

 妙な世論を作るわけにはいかないだろう。

 シャーリーは、積極的にアリスターとレイドリックの仲を推し進める立場だ。


 妙な勘繰りもされたくない。

 アリスターを追い落とすような行為は、自身の評判も下げてしまうだろう。

 ロッテバルクが、王妃を狙って動く、というような噂も避けたい。


「アリスター様。大人しくレイドリック様と結ばれてくださいね。私のために」


 シャーリーは、誰にともなく、そう呟くのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 微妙に王太子、いやげもの扱いばかりでワロち
[一言] きっと原作の王太子も、公女様方に人気ないから男爵令嬢と結婚できたんやな。
[一言] 割と王太子様引き取り手なさそうですね…
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