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偽りのピンクブロンド【商業化予定】  作者: 川崎悠
第四章 公爵家の競い合い
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103 討論会への参加要請

 『討論会』とは学園の行事の一つで、2学期の11月、この時期にある。

 乙女ゲームにおいては今、目の前に居る男。

 攻略対象の一人、『宰相の子』ジャミル・メイソン侯爵令息の個別イベントだ。


「私が、討論会に参加、ですか?」


 当然、私はジャミルのイベントを進める気はない。

 なので討論会はスルーする予定だった。それにだ。


「たしか討論会の議題は『ダンジョンの有効利用について』でしたよね?

 私では、あまり参加しても意味がないと思いますけど」


 子爵令嬢『アリス』では、各方面で関わりがない。

 『アリスター』であれば別なのだが。


「いや、その議題は今回は見送りになったんだ」

「見送り?」

「どこの領地もまだ、ダンジョンについての情報が出揃っていなくてね。

 幸い、大きな被害の報告は出ていないけど……有益な情報も特に、という感じだ」

「そうなんですね……」


 私もミランダ様と共にファムステルのダンジョンへ潜ったけれど。

 早々に行き止まりに当たった。

 先に進むための条件が何かしらありそうだというぐらいが分かった事だ。

 どこのダンジョンも似たようなものなのかもしれない。


「では、討論会の議題は一体、何になったんです?」

「議題は……『アリスター・シェルベル公爵令嬢』だ」


 ……は?


 私は、予想していなかった言葉に驚いて表情を固める。


「一体、何を」

「彼女、剣技大会で優勝して見せたんだろう? あのロバートに勝って」

「え、ええ。そうみたいですけど」

「それに一学期は学年首席を取ったし」

「……いい事なのでは?」

「たしかにね。評価が高いことは否めないよ」

「では、なぜ議題などにするのでしょう」

「知らないかい? シェルベル嬢って学園には、まったく顔を見せていない。登校していないんだよ」


 知ってまーす。


「というか、本当はアリス嬢たちのクラスのはずなんだよね、シェルベル嬢」

「ああ……」


 それも知ってます。


「一躍、時の人となった彼女だけど。お世辞にも、その素行が良いとは言えない」

「素行って。学園に来ていないだけじゃないですか?」

「その理由は? ファムステル公女や、ロッテバルク公女だって、きちんと学園に登校している」

「う……」


 そう言われてもね。『アリス』の状態では反論もし難い。


「そんな彼女の謎に包まれた行動。そして評価。彼女はさ。あれで未来の王妃なんだよ。

 それが、ああいう態度でいいのか、というね」

「……個人のことを、そんな公然の討論会の議題に据えると?」

「個人のことだが、僕ら全員に関係する事でもあるんだ。未来の王妃だからね。

 この辺りで、そういう話がまとまっている方が……生徒会長も色々と動き易いのさ。

 生徒たちも彼女について話したい事は沢山あるようだし。丁度いい議題だと思ってね」

「そうですか……」


 生徒たちの関心があるというのは、確かにそうなのだろう。


「議題については分かりましたが、だとしても何故、私なのですか?」


 『アリス』と『アリスター』の繋がりを知っているのは、ヒューバートとミランダ様だけのはずだ。

 サラザール様は、どちらなのか定かではない。


「つべこべ言わずにさぁ。『はい』って頷けばいいじゃん。めんどうくさいなぁ!」


 と、横からクルスがそう言ってきた。私にだ。

 堪え性のないガキみたい。まぁ、実際に年下なのだけど。

 私は、彼に対しては反応をせず、ジャミルと隣ににこやかに立っている『ヒロイン』レーミルに目を向けた。


「ふふっ」


 そうすると、なにか小さく笑われた。何その笑い……あ、怪し過ぎる。

 何かの企みということ?


「……シェルベル公女が議題、というのは副会長の提案なんですか?」

「ん? まぁ、俺が議題を提出したね。でも、実は、レーミル(・・・・)のアイデアなんだよ。素晴らしいだろう?」

「もう! ジャミル君ったら、そんなことないよぅ」


 と、媚び媚びフィールドを展開するレーミル。

 本家ヒロインの媚びムーブ! 可愛いけど、同性の私からすると『うわ……』という声が出る。

 ……うん。偶に私も『アリス』としてヒロインムーブするけど。媚びモードは控え目にしよ。

 人の振り見て我が振り直せ、ね。


 それからジャミルはどうやら、かなりレーミルに熱を上げている様子だ。まぁ、順当かもしれない。

 こうして一緒に行動している時点でクルスもだろう。

 うーん。近寄りたくない。私、『悪役令嬢』だもの。


「それに、この議題についてはレイも乗り気なんだ」

「レイドリック様もですか?」

「ええ! そうなの! レイドリック様も私の意見を褒めてくれたのよ!」


 うーん。マウント。

 レーミルの認識だと『アリス』ってどうなっているのかしら。

 今までの彼女の言葉や態度からすると、やっぱり『モブ』かな。

 レイドリック様に近付く有象無象の女の一人、という扱いかもしれない。


 まぁ、よく考えてみると、レイドリック様に近寄る女なんて『アリス』一人ではない。

 普段から女子生徒たちを侍らせているのが彼なのだ。

 生徒会に居るからと言って、ゲームでは名も出てこない人物なんて『ヒロイン」様からすればモブも同然か。


「それに安心してくれ」

「安心ですか?」

「ああ。討論会にはレーミルも一緒に参加するからさ。もちろん僕も一緒だ。だから心配しなくていいよ」


 いや、心配しかないけど? 何その嬉しくない人選は。

 私は思わずヒューバートを見てしまった。


「……ルーカスは一緒じゃないんですか?」

「生徒会からは私たち3人だけだよ!」


 と、ジャミルが答える前にレーミルが遮る。


「何故?」

「生徒会メンバーばっかりだと、他の参加者にも迷惑じゃない? 皆のための討論会なんだもの!」


 ぐっ。正論。討論会の参加者が偏らないようにするのは当然だ。

 そして参加者は当然、全生徒からすれば少人数となる。

 そこに何人も生徒会からのメンバーを入れるのはダメだろう。理屈は分かる。


 しかし、それにしてもレーミル発案で、議題が『私』の討論会への参加とか。

 嫌な予感しかしないんですけど。


 だからと言って、議題が『アリスター』と分かっていて無視すべきか。

 そこに『ヒロイン』レーミルも参加するというのに?


 ……無視なんて出来るワケがないわね。

 むしろ、参加する権利があるなら積極的に参加して、上手く『アリスター』の評判を良いものに変えなければ。


「分かりました。私、討論会に参加させていただきます!」

「そうか。良かった。じゃあ、よろしく頼むよ、アリス嬢」

「はい! 精一杯頑張りますね!」


 レーミルは、きっと『アリスター』を貶めるために、この討論会の議題に選んだのだろう。

 だが、そうはさせないわ。


「ふふっ……」


 ジャミルやクルスに気付かれないように浮かべる、その性悪な微笑みを私は見逃さなかった。

 ただ、その笑みの『対象』が誰なのかは分かっていなかったかもしれない。



 それから。カフェでのレーミルたちの突撃を受けて、討論会の参加を決めてから、翌日。


「ロッテバルク公女は、いつもこの先にいらっしゃるそうです」

「ええ」


 私はヒューバートと共にシャーリー様に会おうとしていた。

 『アリス』のままでだ。

 まだ彼女は生徒会入りを果たしていないので、その意向を確認するという名目で。


 子爵令嬢のままでは、上手く取り入れないかもしれないので、まずは様子見ね。

 アリスとして接触してから、改めて別の場所で『アリスター』として彼女に連絡を取る。

 ミランダ様を経由してもいいわね。


 シャーリー様も討論会には参加する予定だと聞いた。

 出来れば、討論会の前に彼女の考えを聞ければいい、と考えていた。


 ……なのだが。


「お嬢。あれは」

「……ええ」


 視線の先には水色の髪と瞳をした令嬢。シャーリー・ロッテバルク公爵令嬢が、友人たちと共に居る。

 だが、それだけではなかった。


 そこには黒髪に黒い瞳をした女子生徒が居た。

 シャーリー様への先客というワケだ。


 そう。シャーリー様は、私たちより先に、『ヒロイン』レーミル・ケーニッヒと接触していたのだった。


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