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偽りのピンクブロンド【商業化予定】  作者: 川崎悠
第四章 公爵家の競い合い
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103 学内カフェで

 文化祭を終えて、翌日。今日は午前で授業が終わりだ。

 生徒会の活動もお休みとなっており、優雅な自由時間といったところ。


 私は『アリス』の姿のまま、ヒューバート扮する『ルーカス』と共に学内カフェの窓際の席に座っていた。

 お気に入りのカフェオレを飲みながら雑談、および今後の方策を練る算段よ。


「昨日はお疲れ様でした、お嬢」

「ううん。ルーカスもね」


 1年生の文化祭イベントが終わった。

 結局、私は文化祭にレイドリック様を誘わなかったの。

 後押しとなったのは意外にもサラザール様の言葉だった。


「理事長は、どういうつもりなんだろう?」

「……理事長ですか?」


 私は、ヒューバートに言われた言葉をそのまま伝える。

 いまいちサラザール様が何をお考えなのか読めないのよね。


「……そうですね。あくまで俺の所感ですが」

「いいわよ。貴方の考えを聞かせて、ルーカス」


 なんたってヒューバートは『王家の影』の見習いだ。

 鋭い意見も言ってくれることだろう。

 乙女ゲームの攻略対象でもあるので有能なのは間違いない。


「サラザール様は、殿下とシェルベル公女を見極めようとされているのではありませんか。

 特に公女は、剣技大会で『騎士爵』を賜りました。ある意味、彼女は既に『独り立ち』が出来る状態です」

「見極め、ね」


 剣技大会で『アリスター』は騎士爵を得た。

 男爵相当の、個人所有の爵位だ。実力面もおそらくそれなりに使えるのだと思う。

 その気になれば家を出て騎士としてやっていく人生もあるのだ。


 ……まぁ、シェルベル公爵家と王家がそれで納得するかは別問題として。


「はい。サラザール様にとっては他人事ではありません。第二王子殿下は、レイドリック殿下と歳も離れていますし。

 滅多なことは言えませんが、場合によってはサラザール様が、というお立場ですから」

「そうね」


 実際、ゲーム上ではサラザール様が王位を継ぐルートもあり、それが彼のグッドエンドなのだ。

 レイドリック様の処遇が現実でどうなるかは定かではないけれど。

 私とレイドリック様が不仲で、どうやら振る舞いも不穏だぞ、となると彼の人生に大きく影響する。

 となれば、私たちの見極めをしたい、というのは納得いく話だろう。



「──お嬢は、これからどうしたいのですか?」

「どうって」

「女騎士として身を立てますか。それとも、政略通りに婚約を?」

「私は……」


 既に決めていることはある。いや、望んでいることか。


「……私は、今の彼との関係を続けたくないわ」


 レイドリック様との婚約破棄、いや、婚約解消を望んでいる。


「では、積極的に『それ』を求めて動きますか? 今までとはすべき事が変わってくるかと思います」


 ヒューバートは、私を止めるでもなく、淡々と『次』に話を進めた。

 正直、それは有難い。

 問答を繰り返しても、今の私の気持ちが納得するとは思えないのだ。


「目標は変わったけれど、方針は変わらないわ」

「と言いますと?」

「これまで通りに『私』は過ごすの」


 そう言いながら私は、ピンクブロンドの『髪の毛』を弄って見せる。

 そう、このまま。

 ピンクブロンドのヒロイン『アリス』として、行動を続けるのよ。


「……それで良いのですか?」

「ええ。考えがあるの。だから、このまま。私は……彼を『攻略』するわ」

「攻略?」


 何故なら私は、乙女ゲームの展開を知っているから。

 2年生の終わりには、すべての決着が着くはずなのだ。

 そして上手く行けば、私が言わずとも彼の方から……『アリスター』へ婚約破棄が告げられるだろう。


 だから、今の段階で『私』が積極的に働きかけることはない。

 でも、その後のことについては考えていくつもり。


「女騎士になるのもいいかなぁ。『セイベル子爵』を継いで、女騎士か法衣貴族を目指すの」

「それはまた……」


 私は、小声で他の人に聞こえないように続けた。


「或いは『女公爵』を目指すわ」

「……そうですか。では、例の勝負に勝ちませんとね」

「そうね!」


 今現在、『アリスター』は、シェルベル家の公爵位を懸けて、義弟ジーク・シェルベルと『競い合い』をする予定だ。

 お父様から出される競い合いの課題は3つ。

 一つ目は『商会の運営』。二つ目は『ダンジョン踏破』よ。

 まだ、双方の商会が本格始動していないため、どちらの課題も先送りとなっている準備段階だ。


「3つ目の課題は、まだ提示されていないのですか?」

「そうね。まぁ、予想は出来るけど……」

「それは?」

「うーん。商会の運営は、経営能力。ダンジョン踏破は、高位貴族としての矜持と義務をなせるかどうか。つまり、どちらが勝つにせよ、今後の公爵に必要な能力を問うているのよ」

「そうですね」

「だから……3つ目の課題で出されるとすれば『人脈作り』じゃないかなって」

「なるほど?」


 でも、それには問題がある。それは。


「人脈作りは、どうやって『課題』に落とし込むのでしょう?」

「そこなのよね。たぶん、お父様もその点でお悩みなのではないかしら?」

「ああ、だからまだ提示されていないと」

「ええ」


 3つの競い合いって、それっぽく言われたけど、でもここなのよね。

 人脈を無視するのも変な話でしょうし。


「人脈作りが、3つ目の課題と想定して、これからどう動かれるのですか?」

「そうねぇ……」


 求められるのは今の下位貴族との繋がりというよりは、おそらく高位貴族間での繋がりだろう。

 もちろん、下位貴族を無下にするワケにはいかないけれど。


「ミランダ様と、それから……シャーリー様と交流をしよう、って思ってる」

「ロッテバルク公爵令嬢と、ですか」

「ええ」


 ファムステル公爵令嬢、ミランダ様とは仲良くする事が出来ている。

 出来ればシャーリー様とも交流を取っておきたい。

 そうすれば、公爵令嬢としての面目は立つ。


「……これから1年と、ちょっと。たぶん学園も王国も忙しくなると思うの」


 乙女ゲームのシナリオが終わる時まで。

 具体的に言うと、私が2年生の終わり頃を迎えるまで。

 様々な出来事(イベント)が生じる事だろう。


 何より乙女ゲームの『ヒロイン』レーミル・ケーニッヒが、何かしら行動を起こすはずだと思っている。

 それに『魔王』に関する何かも、きっとこの期間に起きるはず。


「……あの、黒いローブの男たち。異教徒? が動くかも。魔王関連で」

「連中ですか。憲兵が調べているそうですが……」

「新しい情報は?」

「私まで来ていませんね」

「そう」


 まぁ、そこは今はどうしようもないわよね。

 正体が掴めないし。あの人たちについて『ヒロイン』レーミルは知っているのかしら?


「ロッテバルク公女もそうですが。例の魔塔の少年と共に、シェルベル公女に絡んできそうですね。

 狙いは今度の『魔術対抗戦』でしょうか。二人共、そちら方面が得意なようですし」

「それは……そうね。魔塔の彼については業腹だけど」


 シャーリー様は、ミランダ様曰く魔術が得意らしい。

 かつ『アリスター』に何やら思うところがあるご様子。

 なので魔術対抗戦で絡んでくるだろう、と。


 そして『魔塔の天才児』クルス・ハミルトン。

 彼も何か……キナ臭いところがある。


「対抗戦もそうですが、ダンジョン踏破に向けての鍛錬も必要ですね」

「そうね」


 私の最終目的は、もちろん『破滅の回避』だけど。

 今後に向けては、まず人脈作りのためにシャーリー・ロッテバルク公爵令嬢と交流する。

 魔術対抗戦とダンジョン踏破に向けて、魔術の鍛錬を続け、調整する。

 それから『アリスター商会』の本格始動と運営、商品開発をする。


 不安なのは魔王について正確な知識が、私には『ない』ことね。

 この点で『ヒロイン』レーミルに出し抜かれる危険性が常にある。


 そして……レイドリック様との婚約関係の解消を目指す。


「今後の大まかな方針としては、その辺りですね」

「ええ。そうね」


 私が将来、女公爵になるにせよ、女騎士になるにせよ。或いはセイベル子爵になるにせよ。

 レイドリック様との婚約解消を目指すのならば。


 『新しいパートナー』を探すことも、今後の目的の一つになる。

 でも、そのことについてはヒューバートには言わなかったわ。

 だって、今は、ね。


 私は、ヒューバートの目をじっと見つめた。


「どうしました、お嬢」

「ううん。なんでもないわ」


 こうして彼と落ち着いて話す一時も、悪くない。

 そんな風に思ったの。


 ……でも、そこに『邪魔』が入ったわ。


「あ、居た居た。ルーカス。アリス嬢」


 学内カフェは、普通にオープンな場所だ。

 聞かれたくない会話は小声で話して対応する。

 なので、人が寄って来ても不思議はないのだけれど。


 私たちに近寄って来た3人の顔ぶれを見て、思わず『げっ』と思ってしまった。


「……ジャミル副会長。それから、ケーニッヒ嬢に、特級魔術師殿?」


 『ヒロイン』レーミル。

 攻略対象、『宰相の子』ジャミル・メイソン。

 そして『魔塔の天才児』クルス・ハミルトン。


 ……この3人が、何故か学内カフェに現れたのだ。

 それもどうやら私たちに用事がある様子で。


「どうかしたんですか、副会長」


 私は、引き攣りそうになる顔を抑えて、表情を作る。


「ああ、アリス嬢。君に用事があって来たんだ」

「私に用事、ですか?」


 なんで、そのメンバーで来るのよ。


「ああ。アリス嬢。今度の『討論会』にさ。君に参加して欲しいんだ」


 ジャミル・メイソンは私にそう告げた。


 断っておくけれど、今の『私』は、きちんとピンクブロンドのウィッグを被っている。

 つまり彼は『アリス』にそう告げているのだ。

 公爵令嬢である『アリスター』にではなく、子爵令嬢アリス・セイベルに。


 ……なんで?


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― 新着の感想 ―
[良い点] これはレーミルが「アリス」を「アリスター」代わりにしようとしてジャミルに働きかけましたね。討論会とアリスとレーミル、彼女達の攻防戦が楽しみです。
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