表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偽りのピンクブロンド【商業化予定】【全体改稿予定】  作者: 川崎悠
第8章 ダンジョン攻略と文化祭
100/115

100 第三部・エピローグ ~文化祭~

「かき氷、お待たせしました!」


 1年Aクラスの出し物は、『かき氷の屋台』だ。

 アリス・セイベルは自身の店番になると制服にエプロンを身に付け、接客をしていた。

 綺麗に整った容姿を持つ彼女が、明るく笑顔を浮かべる。

 ただ、それだけで心惹かれる者は多かった。

 男子生徒だけではなく、女子生徒も、だ。

 そこに居るのは、明るく快活なアリス・セイベル子爵令嬢だった。


 ピンクブロンドの髪をした彼女を、かのアリスター・シェルベル公爵令嬢だとは誰も思わないだろう。

 『アリスター』が持つイメージと『アリス』は大きくかけ離れていた。


 アリス・セイベルには、婚約者候補(・・)が居る。

 常日頃から彼女のそばにいる、ルーカス・フェルク伯爵令息だ。

 二人の仲が良いだろうことは、周囲の人々も認めている。

 だが、それでもまだ二人の婚約は決まっていないという。


 セイベル子爵家もフェルク伯爵家も、その名を聞いても、どういう人物か思い至らないような貴族家だった。

 二人が結ばれるには、困難が待ち受けているのだろう。


 店番をして笑顔で過ごしているアリスのそばにはルーカスが居る。

 ルーカスは接客ではなく、調理側の担当のようだ。


「……アリス嬢」


 そんな彼女たちを、少し離れた場所から見ている人物が居た。


「殿下? ああ、アリス嬢ですね。1-Aは『かき氷』の屋台ですか。寄りますか?」

「……いや」


 レイドリック・ウィクター。学園2年生、そしてウィクトリア王国の王太子。

 彼は、当然のように女子生徒たちと文化祭を回る約束をしていた。

 側近であるジャミル・メイソンや、ロバート・ディックを引き連れ、また複数の女子生徒たちと共に。


 彼が1年生の時もそうしたのだ。

 だから今年もそうするつもりでいた。

 だけれど。レイドリックは、今年は少し去年と違うことを期待していたことに気付く。


(もしも『彼女』から文化祭に行かないかと誘われていたら……私は)


 今日は、彼女と二人でこの文化祭を回っていただろう、と。

 そこまで思い至って、レイドリックは自身の胸の内に渦巻いていた心を自覚した。


「私は……」


 既にあのピンクブロンドの少女、アリス・セイベルに……惹かれている。

 レイドリックは、どうしてか彼女に心惹かれてしまうのだ。

 それは、まるで。


(……まるで。かつてのアリスターと出会った頃のように)


 レイドリックが異性を意識したのは、アリスター・シェルベル公爵令嬢が初めてだった。

 彼の初恋がアリスターなのだ。


 王子教育が進むにつれてアリスターと己を比較される窮屈な生活が続いた後の、自由な学園生活。

 正当な(・・・)評価を受けるようになった学園1年生の頃。

 その立場を、その優雅な生活を失いたくない、と。

 アリスターに『奪われ』たくはない、(おびや)かされたくない、と。そう考えて。

 様々な要因からレイドリックは、アリスターを疎むようになっていた。


 そうして、彼女を好きでいた自身の感情をどこかに見失って。


(……そうか。私は)


 今、レイドリックは。改めて『恋』をしている。

 その事に気付いた。自覚をした。


 所詮、アリスターへの気持ちは、幼い頃の気の迷いだったに違いない。

 成長し、身体付きも大人びてきた今。

 改めて恋をした、この感情こそが……真実の恋愛感情。


「殿下? ……レイ?」

「ああ、いや」


 己の気持ちに気付いたならば。

 そして、そうなると今や、好きでもなくなったはずの婚約者よりも。


「……どうすべきかな」


 思い浮かぶのは、婚約関係の見直しだ。

 だが、それは容易ではないことだろう。

 何より、アリスの気持ちを確かめる必要が……彼女の心を手に入れる必要がある。

 それに未だ婚約者が定まっていないといえども、あれだけ仲睦まじそうな別の男が居る。


 だから大きく動き出すことは出来ない。

 だが。


(いずれは……)


 そんな風に。レイドリックは、彼女との『未来』を思い描いた。

 己の恋愛感情を自覚し、そして意識し始める。


「ありがとうございましたー!」


 元気に声を上げて、明るく笑うアリスの心を……いつか手に入れたい。

 レイドリックは、そう思うのだった。


100話!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 前の話と合わせての2話でアリスターとレイドリックの心情的な決別が明確になっていて秀逸でした。 しかしアリスターの近くにいた男どもは(ヒューバートを除く)勝手に彼女に恋して彼女が至極当然の…
[一言] 承認欲求は誰にでもあるものだけれど、忖度された上でちやほやされることを正しいと思う時点で終わってる。優秀な王弟殿下の存在も意識しないと! アナタの後ろに破滅の影が。 正ヒロイン(レーミエ)が…
[良い点]  わーお何という身勝手w  そもそも現在の婚約者と誠実に向き合いもせずに「真実の愛」ですかw  そんなに変テコな人格に書かれていないだけにこの一連の認識は同性から見ても無いわー。  書き方…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ