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死にたがりな僕らの一か月  作者: 海瀬幸
9/11

期待なんてしないで

 何にも考えずに冷蔵庫から、ゼリー飲料を二つ取り出して部屋へと向かう。


 ガチャガチャ、廊下にて玄関扉が開く音がした。


 靴を脱ぐ音に、廊下を踏む音。背後で聞こえる音に反応しないで自室へと入った。


 部屋に入るなり全体重を預けるようにベットに倒れ込む。


 たぶん父だった。


 革靴の足音、ネクタイを緩くする音。


「なんで? お昼に帰ってきたんだろ?」


 いつもなら気にしない。


 けど、家に帰ってきてもすることのない僕には、そんな些細なことまで声として漏れてしまうほどに退屈だった。


 いつの日から父は僕と言葉を交わさなくなった。


 それは、きっと期待に応えられなかった僕に原因があった。


 英会話教室、そろばん教室、中学受験に合格するための塾。


 僕は英才教育を受けても結果は出せずに、受験は失敗。


 母が弱音を吐くと言う「貴方がやりたいって言ったんでしょ?」という言葉が嫌だった。


 僕は期待されて、それにただ答えようと努力していたつもりだった。


 自ら発言して「やりたい」と言った記憶なんてなかった。


 母は僕を焦らせて強要して、父はいつも近くにいてくれたが何も言わない。


 ただ、習い事で褒められた時、テストの点数が良かった時、豹変したように優しくなるのだ。母はいつもより豪華な料理を作り、父は頭をよしよしと撫でるといったスキンシップをしてくれる。その瞬間が僕は好きだった。


 けれど、そういった時間は中学受験を失敗したタイミングで一気に冷める。


 優しい時間は減って、期待に応えることに限界を感じた。


 僕の精神はボロボロになりながらも、母の言う頭の悪い子が行く学校では、みんな普通に楽しそうにしていて、自分が馬鹿みたいだと思って他の子の考え方を学んだ。


 親の言う通りではなく、自分自身で考えるということに挑戦してみた。


 そうして、いつしか僕はどう親のプレッシャーを気にしないか、どう避けるかという精神で親の言う言葉を右から左へと受け流す人間へとなった。


 高校受験を迎えたタイミングでもう一度、学校を指定されて入るようにせがまれた。


 拒否なんてしない、けれどそれはフリであり演技だ。


 指定された学校は二つで、僕は第三希望欄に自分の中の第一希望を書いた。


 結果として、親の言う学校は落ちた。受かる気なんて元々無かったしね。


 僕は自分の成績に合った、書類上での第三希望の学校に受かる。


 嬉しかった。


 親は憐れみと呆れの表情をしていた。僕は外面では悲しい素振りはした。


 その日を境に会話どころか僕に対する言葉がなくなったことは忘れない。


 原因は僕にあって、けれど不思議と罪悪感はない。


 自ら選んだ道を進めているのが楽しかった。

ご意見、ご指摘、ご質問、なんでも反応、とても嬉しいです。

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