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死にたがりな僕らの一か月  作者: 海瀬幸
7/11

誰かの罪


 翌日、枝元は学校に来なかった。




 僕は校長室を退室した時に担任に放課後にまた来るように言われていた。




 人は本当に意味が分からなくなると思考を停止させる。


 


 起こっていることは至ってシンプルであるはずなのに、その事実を受け入れられない。




 夜は一睡もできずに朝を迎えて、枝元さんの発言を何度も思い返す。




 そして、何度考えても意味が分からない。




 学校に向かっている登校中も、授業中も、いつも楽しく聞いていたラジオの時間も、頭から離れずに胸が痛む。心が少しずつ淀んでいっている気がする。




【頑張れ!】




 ここまでの会話全てが、遠くで話してる人たちの様に聞き流れていったのに、その言葉は響くものがあった。




 トクンッ、心臓が鼓動する。




  淀み始めた心に抵抗する力が生まれる。




  両手を伸ばして、背中を床につけて大の字で大きく息をした。




 今まで気づかなかった空は晴天で、どこまでも続く空の高さに圧倒される。




「頑張ろうか」




  諦めに近い状態で気持ちを前に向ける。




  一度事実を認めて状況を整理してみる。




「枝元さんは僕と付き合っていると嘘をついた。……なぜ? 赤ちゃんがお腹の中にいるから? ……僕じゃない本当の相手がいる」




 いつも聞くラジオ番組が終わってもヘッドホンを取らなかった。




 大の字の状態から立ち上がられずに空を眺めて、放課後までの時間を屋上にて過ごした。




「わけがわからないよ……」


 




 いつも聞くラジオ番組が終わってから何時間が立ったかわからない。




 時よりある時間を伝えてくれるラジオパーソナリティのおかげで放課後だと把握する。




 腰は重くて、気持ちが下がっているが行くと決めたから、立ち上がって屋上を出る。




 一度教室へと向かった。




 放課後の騒音に呑まれながらに教室にある鞄を取りにいった。




「野々山くん?」




 後ろの扉から入室したあたりで、話しかけられた。




 話したことがない、クラスメイトの女の子だった。




「先生が心配してたよ、見たら職員室に来るようにって言ってた」




 軽く頷いて答える。




 担任の先生はきっと、僕自身を心配しているのではなくて、放課後の話し合いに来ないかもしれない方の心配をしたのだと直感で思う。




 鞄を取って、職員室へと向かった。




「野々山!」




 聞き覚えのある声。




 今まで感じていなかったはずの不快感を強烈に感じた。




 背後から聞こえる声に対して反応はしないで歩く。




 どうせ向かう先は同じなのだから。




「おい、先生を無視するな、野々山」




 僕よりも早い足取りで並走して、追い越して、目の前で立ちはだかる。




 先生は返事をしなかったからか、睨みをきかせた表情をしている。そんな厳つい顔に戸惑うことなく睨み返せたのは、余裕のなさからなのか不思議だった。




「行くぞ野々山」 




  数秒の睨み合いの後に校長室へと案内される。




 職員室前もある程度は騒がしいのに、校長室の前はここが学校の中であることを忘れさせるほどに静かだ。




「入れ」




 昨日の光景がこの扉の先にあると思うと、分かっていながらも身体が固まる。




 ドアノブに手を掛けるが力が入らない。




 ここから逃げ出したい気持ちが高まって、ドアノブを持つ手に汗が滲み出る。




 背後からの圧を感じて、瞼を閉じてラジオで聞いた言葉を思い出す。




「頑張る……」




 すぐ近くにいる担任にすら聞こえない小声で言う。




 ドアノブを持つ手に力を入れて中へと入る。




 左側に校長先生と学年主任。




 長机を挟んで右側に。




「お待たさせて申し訳ございません」




 担任の丁寧な言葉遣い。腰を低くした対応。




 先ほどまでの表情はどこへいったのだろうか。




 理由は明白だが、態度と声色の変わりようが気になってしまった。




 目の前にいる人を意識したくないからなのか、そういう気にしなくてもいいことに敏感に反応する。




「どうして?」




 僕の疑問の声は、独り言として消える。

ブックマークをいただいてる表示がされたのですが、これは誰かが読んでくれていると思ってとても嬉しく思いました。


ご意見、ご指摘、ご質問、反応なんでもしてくれるのとても喜びます、

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