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4 麗しのアロイス先輩

 サイラと姑が宝石デザイナーのパーティに向かった昼下がり、私はガブリエルに夜の食材を買ってくると告げて家を出た。大事なものだけをバッグに詰めると、笑ってしまうほど少なかった。宝石店を経営しているのに、夫からプレゼントされた宝石はひとつもないし、服もそれほど多くはない。結婚生活は四年以上も続いていたのに、大事な物は大きめのショッピングバッグの中に全て収まった。


(なんて薄っぺらい結婚生活だったのかしら・・・・・・)


「早く帰って来てくれよ。エルネは泣きぐずるし、ティアはお転婆で言うことを聞かなさすぎる。もっと行儀の良い子だと思っていたのに」

「だったら、きっちり叱れば良いでしょう?」

「嫌だよ。叱ったりしたら僕がティアから嫌われて、サイラさんから恨まれてしまうよ。その点、君なら大丈夫なんじゃないかな? 君が躾けてくれたら一番良いと思う」

 私は首を振りながらその場を後にした。向かった先はサイラの夫の勤め先である王宮だった。彼は文官としてそこそこ出世をしており、平民とすればエリート中のエリートだ。


 私は王宮に向かいながら昔のことを思い出していた。サイラの夫アロイス先輩は一緒の学園でとても優秀だった。一時期は私の方が彼と親しかったこともあり、サイラに何度も注意されたっけ。


「私がアロイス先輩を好きだってわかっているでしょう? 三人で遊びに行こうと誘われても絶対に用事があるふりをして断ってね。本当はアロイス先輩だって私だけを誘いたいのよ。でも、恥ずかしがり屋だからそれができないの。わかるでしょう?」

 アロイス先輩は成績優秀で背の高い美青年だった。水色の髪と瞳には透明感があり顔立ちも綺麗で、少し中性的な魅力があった。学園でもかなりモテたし、平凡な風貌の私からすれば恐れ多い存在だった。私の髪と瞳はありふれた茶色で、特に美人でも可愛くもない女の子だったから。


 でも、あの当時は図書館にいる私によく声をかけてくれたり、学園内のカフェテリアではいつも近くの席に座っていたと思う。お互い本が好きだったり話しもあったから一緒にいると楽しかったけれど、必ずサイラが途中から現れて私を遠ざけた。


❁.。.:*:.。.✽.


「やぁ、久しぶりだね。元気にしていたかい?」

「はい、お仕事中にお呼び出ししてすみません」

「いや、ちょうど休憩しようとしていたところだから大丈夫さ。ところで話があるというのは、きっとサイラのことだよね? やはりロレーヌの所に行ったんだね? ところでガブリエル君とサイラはいつから付き合っていたのかな? ロレーヌは気づいていたかい?」


 手の痣のことを聞こうとしたのに、全く予想外の問いを投げかけられて戸惑った。それになにより、アロイス先輩の風貌が昔と違い過ぎた。学園卒業式以来、私達が会うのは4年半ぶりぐらいになる。


「先輩・・・・・・ずいぶんと・・・・・・そのぉ、逞しくなりましたね?」

「あぁ、うん。好きだった子に振られた原因が『男らしくないから好みじゃない』ってことだったから、あれから鍛えてみることにしたんだよ」


(誰に振られたんだろう? 両想いのサイラとは結婚できて子供が二人までいるのに? もしかしてアロイス先輩は浮気をしていたの? ・・・・・・心が他の女性に移ってしまい、邪魔になったサイラに暴力を振るったのかしら?)


「アロイス先輩、サイラと結婚していながら他に好きな子を作るって感心しませんよ。振られて当然です」

 私は思わずアロイス先輩を責めたら、心底びっくりした顔で呆れられた。


「学園卒業式のあの日、ロレーヌがサイラに言ったんだよね? 『アロイス先輩はなよっとしていて好みじゃないわ。私は騎士団にいる男性のように鍛えた身体の人が好きだから、お付き合いなんて考えられない』って。女っぽい顔もタイプじゃない、とまで言われたのは悲しかったけどね」


「はい? そんなことサイラにはひと言も言っていませんよ?」


 初めて聞く話で気が動転する。いったい、なにがどうなっているのだろう? 腕の痣もアロイス先輩は「知らないよ。わたしがそんな乱暴なことをすると思うかい?」と憂色を浮かべ、私とアロイス先輩はお互い気まずい空気のなかで、どちらからともなくため息をこぼしたのだった。


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