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8 ガブリエル視点ー末路

 僕とサイラは別の牢屋に拘留された。特に酷いことはされず、普通に食事も与えられる。けれど、夕暮れになると外からムチを振るう音とうめき声が聞こえてきた。

 この国では不敬罪のムチ打ちは夕方に行われるのだ。打たれるのは三回。僕は生きていられるだろうか? 刑の執行日がいつか知らせてくれないのも、心の準備ができず不安だけが募る。



 拘留されてから四日目のことだ。

「さぁ、刑の執行をするから出て来い」

 いきなり言われて身体の震えがとまらない。外に連れ出されるまでの移動の時間は心臓が締め付けられ、喉になにかつかえた感じで息苦しい。おそらくそれは恐怖心からだろう。

 

 シャツを脱がされ、大柄な執行人がムチを持って構えはじめる。一本ムチと呼ばれるもので、グリップよりも振る部分のほうが長いので、どうしても遠心力が必要になり威力は相当強くなってしまう。


「さぁ、覚悟は良いかな? 歯を食いしばれ。このムチは半端な痛さじゃないぞ」

「お願いだよ、許して・・・・・・許してくれよぉーー」

 声の限り叫んでも逃れることはできない。ムチがヒュンッと音を立てて僕の背中を打ちつける。痛いというより熱い。ヒリヒリと焼けるようだ。一回目で薄い皮膚が裂け、二回目で血が滲み、三回目には肉がこそげる。ズキズキと痛み、もう二度と服は着れないのではないか、というぐらい背中が腫れあがってくるんだ。


 それでも、よろけながらも家に帰ろうとすると、

「化膿止めだ。これを背中に毎日塗るように。飛びあがるほどしみるがよく効くぞ。特別な薬草で作られているから、ちゃんと治るよ。心配するな」

 執行人がニヤリと笑った。


 数日ぶりにアサート宝石店に戻ると、店内はめちゃくちゃだった。宝石が飾ってあったショーケースは割られ、金庫に保管していた原石も全て無くなっている。父さんと母さんは猿ぐつわをされ、手足も縛られ、床に転がされていた。


「いったいなにがあったんだい? そう言えば、サイラはどこだ?」

 自分も酷い傷で泣きたいのに、店が強盗に襲われたなんて不運過ぎる。しかし、二人の猿ぐつわをはずすと、思いがけない事実が僕を打ちのめした。


「サイラさんが若い男を連れて来て宝石を持ち逃げしたわ。あの女はとんでもない性悪女だったのよ。しかも子供達は連れて行かなかったの」

 母さんは青ざめた顔で震えていた。サイラは行方不明となり、請求された二人分の慰謝料は、全て僕の肩に重くのしかかったのだった。


 

☆彡 ★彡



 それから二年経った今も、サイラは見つからない。今日もティアが我が儘を言い、いつもイライラしている母さんに叱られ、エルネと一緒に泣きわめく。家の中はなお一層荒れ果て、事情を知った街の人々からは白い目で睨まれるんだ。莫大な慰謝料を払う為に、結局のところ宝石店兼自宅も売り、狭い部屋に移り住んだ。

 僕は今現在、両親と二人の子供を抱え、建設現場で働く日々だ。重度の高所恐怖症なのにだ。

 

 落ちたら間違いなく死ぬ。そう思いながら働く日々だ。おまけに、僕の働く現場はアロイスさんの屋敷の近くで、彼と再婚しているロレーヌが毎日幸せそうな顔をして、ウィドリントン宝石店に出勤するのを見なければならない。夫婦揃って手を繋ぎながら仕事に行く様子は新婚夫婦の甘さを漂わせていた。やがて、彼女のお腹が膨らんでいくのに気がつき嫌な予感がした。


(ロレーヌは子供が産めないのではないのか?)


 不安に駆られエルネと自分が親子かどうかを検査しに病院を訪れると、

「あなたにはどうやら生殖能力はないようです」

 医者が言いにくそうに目を逸らした。エルネは僕の子ではなかったのだ。僕はサイラにすっかり騙されていたことに愕然とした。


(お願いです、神様。僕が悪かったから時間を巻き戻してください。そうしたら今度こそロレーヌを大事にしますから)


 しかし、そんな奇跡は起きない。ただ毎日が辛い。ロレーヌといた頃がどれだけ幸せだったか、今更ながらに気がついても、全ては遅すぎるのだった。






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