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1 突然の来訪者

 私はロレーヌ・アサート。アサート宝石店を営む夫を持ち、彼の両親と同居しながら店を手伝う日々を送っていた。アサート宝石店は宝石を売るばかりではなく、お客様の要望にそった宝石もデザインする。姑は宝石デザイナーで、夫のガブリエルと舅のロレンスは宝飾師だった。私は宝石の販売全般を任されており、店先に立っての接客もしている。


 私の親友の名前はサイラ・トスカーナ。彼女はピンクの髪と瞳を持つ小柄な愛らしい女性だった。守ってあげたくなるような儚げな風貌で4歳と2歳の子供がいる。どちらも彼女に似て可愛らしい女の子だった。


「ロレーヌ。私、夫と離婚したいの。あの人とはもうやっていけないわ。だって私の腕を折ろうとしたのよ」

 ある日、突然サイラが店にやって来た。私は話しを聞く為に店の奥に通す。そこは私達夫婦の居住スペースだった。ちなみに二階には夫の両親が住んでいる。


「アロイス先輩がそんなことをするかしら? 温厚な男性だと思っていたけど・・・・・・」

 アロイスというのはサイラの夫で王宮勤めの文官だった。


「結婚した当時は優しかったわ。でも今は別人よ」

 サイラはワンピースの袖をめくって腕の痣を見せた。くっきりと赤紫色になったそれは痛々しかった。


「これは酷いね。暴力夫からは一刻も早く逃れるべきだよ。可哀想に」

 ガブリエルは気の毒そうな顔をした。彼は離れのアトリエで舅といつも作業をしているのだが、たまたま休憩中で居間にいて、もちろんここには舅もいた。


「暴力を振るう男は『もうしない』と言っても絶対にするからな。しかし、離婚したら仕事や住む場所はどうするのだね?」

 舅は離婚をするにしても慎重に考える必要があると言った。サイラは仕事をしたことがないし、両親もすでに他界している。


「近くにアパートがあるから、少しぐらいならお金を貸してあげられるわよ」

 私は自分の貯金を貸すつもりでそう言った。大金は貸せないけれどサイラを助けたい。


「ううん、いいの。お金なんて申し訳なくて借りられないわ。それより、ここにしばらく置いてくれないかしら? ロレーヌには子供がいないでしょう? だから、いつでも子供が抱けたら嬉しいわよね?」

 

(子供を抱く喜び? 自分の子供ならきっと嬉しいだろうな、とは思う。でも、他人の子供を抱いてそれほど嬉しい気持ちになれるの?)

 そんな疑問がふと頭をよぎった。私の性格はあまり良くないかもしれない。


「まぁまぁ、それは良いことだわね。なかなか孫ができないから困っていましたのよ。昔から人の子を預かったり面倒を見ると、子供が授かると言いますからね」


 階下での私達の会話を聞いていたのだろう。姑がうきうきとした声をだしながら二階から降りてきた。子供が大好きだと言いながら2歳の子に手を伸ばし抱き上げると、雑に扱いすぎてすぐに勢いよく泣かせてしまう。


「ほら、将来の為に練習した方が良いわ。この子の面倒を見たらきっと子供に恵まれますよ」

 姑はすっかりぐずりだした2歳の子を私に押しつけた。サイラは姑を肯定するように、うんうんとしきりに頷く。


「他人の子供を面倒見たら子供が授かるですって? 私はそんな話など一度も聞いたことはありません」

「これだから宝石のデザインも出来ない女は駄目なのよ。一般常識ですよ」


 私が反論すると途端に姑は顔をしかめ私を責めだした。嫁いだ頃に宝石デザインのいろいろを姑から教わったけれど、全く才能がないと言われそれっきりになっていた。


「まぁ、それなら私ができるかもしれません。昔からデザイン関係には興味があったので、きっとロレーヌを助けてあげられます。ガブリエルさんのお母様のお役に立つことができるなんて嬉しいです! ここに少しだけ住まわせていただいてよろしいでしょうか?」


「良いですとも。サイラさんとは気が合いそうね。そうだ! 明日なんだけれど、宝石デザイナー達の集いがあるのよ。一緒に参加しない?」

「まぁ、素敵! 行きたいです」

「あぁ、それは良いかもしれないね。母さんと気が合うなら二人で行ってくれば良いよ」

 なぜか三人で一方的に話が進んでいく。


「子供はどうするの? 誰が面倒を見るのですか?」

「あなたがいるでしょう? 明日はこの店も休みだし、子供の面倒は充分見られますよ」

「あぁ、僕もいるしね。子供は好きだから一緒に世話をするとしよう」


 サイラを助けられるのは嬉しいけれど、こんな展開には釈然としない。私だけがいきなり部外者になったよう。舅は見ない振りを決め込んでさっさとアトリエに戻って行った。舅はいつも姑のすることを黙って見ているだけだ。ガブリエルは姑の言いなりで・・・・・・離婚したいのは、本当は私の方かもしれない・・・・・・

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