第5話 大蛇
………シリアスは入れるつもりでないのに…
「…う……」
うー、頭痛い
ん?あれ、全身が痛い
寝違えたのか
…そりゃそうだ
こんな硬いとこで寝たんだ、当然か
「あー…ボーっとする」
低血圧ってやだなぁ…
あ、もう夕方なのか
「………ん?」
一つの家から何か呻き声がする
いや、泣き声か?
「…入ってどうしたんですかって聞くのはNGだとして。」
どうするかね
「レオンとか何か知らないかな?」
この村の入り口まで歩く
「おーい」
相変わらず重そうな甲冑を身につけているな
「ん?どうしました?」
………レオンがきしょい
「あの…レオンさん?ちょいと気持ち悪くありませんか?」
我ながら失礼だな
「あ、いえ。僕はレオンさんじゃないですよ」
…そうだったのか
そりゃ毎日一人で門番やってるわけじゃないだろうしな
「ああ、レオンさんならそこの小屋にいますよ」
「そっか。ありがとう、今日の門番さん」
「いえいえ」
なんか…兵士っていってもお堅いやつってわけじゃないんだな
そりゃ人間だし、当然か
そして教えてもらった小屋に向かう
「おーい、レオンー。」
扉を開けるなり呼んでみた
すると小屋にいた5、6人の兵士っぽい人がこっちを凝視する
…気まずっ
「おお、どうしたんだユウヤ」
ここじゃ話しづらすぎる
あとレオン、仮面で分からなかったが、お前って美形だったんだな
「そういえば…ありがとな、お前のおかげであの魔物を退治できた」
「へ?………ああ、あの黄色い化け物か」
そういやあの化け物、そんなに危険なやつだったのだろうか?
もちろんオレにとっては危険極まりないやつだったけど
「あいつは魔法が効かない特殊な体質でな、おかげで自分も魔力が使えないらしいが」
妙なやつだな?
てか魔法て…使われたら絶対勝てないし…運が良かったな
「でもそれならレオン達で叩けばよくないか?多勢に無勢だろ」
オレ一人で勝てたんだから
「それじゃあリスクが大きいんだ。ヤツの襲撃からこの村を守るために戦力が分散されてな。それに何分、気性が荒い上にこういう甲冑も意味が無い程に一撃が重いんだよ」
やれやれ、といった風にレオンが首を竦める
…マジ死ぬとこだったんだな
「それで、話ってなんだ?」
「そうだそうだ。さっきあの家から物凄く気まずい声がするんだが…何かあったのか?」
誰かが死んだのだろうか
そういうのはあまり好きじゃないんだが
すると、ちょっと予想外の返事が返ってきた
「あったというか…これからある、が正しいな」
レオンの表情が辛辣になった
やはりどのような形にせよ、嫌なことなんだろうな
「何があるんだ?」
「それはな…」
かい摘まんで説明すると
半年前、突然山からバカみたいにでかい大蛇が現れた。
その大蛇は不定期に村を襲い、その村で一番魔力の素質のある美女を攫うのだそうだ
始めの内は村人達も応戦していたが、王宮から派遣された兵士でも全く歯が立たないために
やがて村人が周期的に娘を差し出し始めたという
そしてちょうど今日の深夜が、その娘を差し出す日らしい
全く、ふざけた話だ
「今回は何故か白い髪を持っているのが気掛かりなんだが………ユウヤも行ってやるといい」
ちなみに、レオンも王宮の兵士らしい
下っ端のようだが
「…連れ去られた人が生きている可能性は?」
実はいいヤツだったとかじゃ洒落になんねーしな
「無い。仲間が連れ出そうと後を追うと、既に村人は干からびて死んでいたそうだ」
「そうか」
連れ出そうとした…か
そんな勇者もいたんだな
「分かった。それじゃあその娘のところに行ってみるわ」
行って喜ぶわけでもなさそうだがな
悲しむくらいはさせてもらおう
家の中に入ると村人達が道を譲ってくれた
みんなもう話は済んでいるんだろうか
そして、悲しい運命にある無力な娘を見た
長く、白い髪の美しい人だった
その頬には涙こそ流れていないが、涙の跡はくっきりと残っている
何より、まだ幼いのだ。
自分と同い年なのか、年端もいかないのか皆目見当もつかないが
気付けば、声を出していた
「…名前は?」
すると、少女は少し迷ってから
「…ミラ……」
と、こちらを見つめながら言う
続けて
「…あなたは……?」
何故か驚いた
オレの名前など、取るに足らないものだろうに
「…坂神裕也。呼び方は坂神でも裕也でも」
「…ユウ…ヤ」
なんでレオンといいこの子といい、ファーストネームで呼ぶのだろうか
まぁどうでもいいが
「じゃあ、独占しちゃ悪いからな。オレはそろそろ…」
ここにいると、泣きそうだ
そのまま立ち上がり、出口に向かうと
「じゃあね…ユウヤ」
さよならの挨拶をされた
だけど、何故かそれがあまりにも癪だったので
「ああ…またな、ミラ」
『またな』と答えた
ちょっと涙が出てきたので振り返らずに出ていった
外のもう冷たい空気を感じて考える
例えば、オレがその大蛇に立ち向かったとして
かなりの確率で勝てないだろう
そして、村の中に出てきた大蛇にオレが牙を剥けば大蛇は村を襲うだろう
だから、身勝手な行為はいけない
だから、戦ってはダメなんだ
村に迷惑がかかるから
だから、一人で戦おう
シリアスですね…
坂神「このときはまだパジャマだけどな」
それはあんたが面倒臭がりだから
坂神「………」