第38話 住む者
とっても遅く……なりました(汗
――自由とは何か。
――ただ拘束されていない状況を指すのか。選択肢を複数持っている状態を指すのか。ならばそれは二つあれば自由なのか、あるいはどこかに線引きがあるのか。やりたいことが出来る状態を指すのか。
―――それとも、『何でも』出来る状態を指すのか。
――私は今、自由なのだろうか?
――拘束などされていない。
――選択肢は、ある。生きることも死ぬことも出来る。食べることも動くことも飛ぶことも出来る。
――やりたいことは……ふむ……腹が減ったので飯を食いたい。そしてそれは可能だ。
――……『何でも』とは何だ?
――どこまでが範囲だ?
――未来を知ることは出来ないし、過去を変えることも出来ない。
――だけど大体のことは出来る。
「むぅ……」
何の変哲も無い森の中、いくら考えても詮無きことを彼女は思案する。
それは思案『してしまう』のではなく、『してみている』だけではあるが。
そして終わりの無い一人問答に飽きたころ、次の命題を口に出す。
口に出したのは、ただ単に喋らないと言葉を忘れてしまう気がしたからで、大した意味は無い。
「そういえば、最近『魔』が増えてきたな。この前は人間を襲ったようだったし……むぅ……今度はこれを考えるか」
しかし、先程の『自由』について思案していたせいか、頭を回すのが億劫になった。
そして頭を使っていた間に身体が鈍ったような気がするので、大きく背伸びしてみる。
爽快感が回復した。
「くぁ……」
ついでに背伸びに感化されたのか欠伸を一つ。
相乗効果で爽快感がメーターを超えた。うぇっぷ。
爽快感を減らすために歩く。
食糧を捕るという選択肢が浮上したが、それはもう少し気分が高揚したらでいいだろう。今は暇な状態の気分でいたいのだ。
――もういっそのこと、飯が転がっているといいんだけど。
「……………おぉう?」
少し歩くと思わぬ収穫があった。
それを見て覚醒した頭で周りの情景を処理する。
視界に重点をおいてみると、辺りには灰と化した部分がちらほら、それと根っこから抜かれてあちこちに転がっている木が存在している。
「なんだ?鬼でも出たか?」
あまりに常軌を逸した光景にしばらく魅入ってしまう。
これが形成される場面を想像できなくて、でもしようとして、頭がフリーズしているのかもしれない。
というか鬼なんていたら間違いなく気付くし、そもそもこんな有様にはならない。
とにかく、その中で彼女に物理的に(?)関係があるのは、倒れている竜の一種。
見れば牙と爪が無い。
――確か、最下の位の竜だったはず。
息絶えているので、毒が無ければなんでもいいが。
「まぁいっか。それにしても始めてだなぁ、竜なんて始めてだなぁ。うわ凄い楽しみ」
見た感じだと繊維が硬そうだけど、まぁ柔らかいとこはあるだろう。
と、ワクワクしながら歩みよる。
少し小走りになっていたかもしれない。もしかしたらスキップしていたかも。
「さぁて♪」
皮に手を伸ばす。
それは予想以上に、予想以上に、予想以上に。
「……堅い…………」
これは骨が折れそうだ。
……なんだか、楽しくなってきたでゴザル。
その後も四苦八苦し続けて、その竜に丸一日程かけた。
暇を持て余す彼女にとって、それは至高の時間だったそうな。
暇な時間こそ至福の一時である?