第37話 元剣士
この小説を読み返してみて、序盤は書き換えたほうがいいのでは、と思いました。
序盤で読むのを止められてはどうしようも無いことに気付きまして……
……どうしますかねぇ。
真っ白な床、真っ白な壁、真っ白な天井。気を抜けばその三つを混同させてしまいそうな空間で彼女――フィリスはそこにいた。
「ああ、全く。どうしてここはいつもこんなにキレイなんでしょうか」
このぼやきは、建物に対して高揚したためではなく、単に居心地の悪さからきている。
教会であるこの建物には聖水やら聖石やらなんやらかんやら使われており、床、壁、天井はもちろん空気さえ清浄に保たれている。それゆえに身体に抗体が全くできず、長い時間いると必然と病弱になるのだが。
「こんなとこに住む人間の気がしれないです、全く……」
とにかく、早くボロボロになった服の替えを取りにいかないと……あの人に見つかる前に
「呼ばれて飛び出て」
「死にさらせぇぇえ!!」
「ちょっ!待っ!今フィリスの姿が見えた気が」
「同じ手が五回も効くかぁ!」
「十回は効くんじゃないかと本気で思ってたりする。てかプリン食ったくらいでそんなに」
「その台詞これで何回目だぁぁあ!?」
「……………」
やっぱりボロボロでもいいかな……
これでも滅多なことが無い限り防御性はバッチリだし。
ちなみに服がボロボロの理由の十割はネイスの流れ弾である。
「はぁ……気が重いなぁ」
とにかく自室まで駆け足で向かうことにした。
無論、足音を消しながら。
なんの捻りもないただの変哲なノブを回す。
自室に入ると、そこは悪夢だった。
「うわぁ……」
机の上に山ほどの書き置き。
――書き置きって普通、出て行く人が書くんじゃ?
どう処分するかしばし悩み、処分すること自体を諦めた。
処分しても、増えますし?
「やあ」
「キャア!!」
突然肩に手を置かれ焦るフィリス。
「いや、そんなに驚くんですか?」
「驚きますよ……ああ、そうでしたね。元剣士でしたっけ」
「おお!もう忘れるとこまで来ましたか!脱剣士も近いっ!」
そういえばこの人は元凄腕剣士だった。気配を消しきるなんて出来るはずもない。
「いやいやバレたことを悲観する必要は無いですよ、フィリスは魔法使いですからね」
「はあ……」
この爽やかな感じの青年の名はクリス・リーティン。
元は名のある剣士だったのだが、今は剣を捨て、僧侶となっている。
「それで今日はどうしたんです?その服がボロボロになるなんて、あまり考えられないのですが」
「いや……ちょっと連れの流れ弾が」
「連れですか?……ということはやはり、修業に帰ってきたわけじゃ無いんですね?」
……あれ?
どうしてか、気付けばあの場所が自分の居場所になっている。
そんなに長い時間一緒にいたわけじゃないのに。
今日もあの家に帰ろうとしている。別にまたここで寝れば、暮らせばいいのに。
……何故?
……………あ、そうかな?
「まぁ、まだ仲間、というわけでは無いですけど」
「あれ、読みが外れましたかね?」
「――今日は初収入のパーティーがありますから」
そういうことにしておこう。
「……成る程、そうでしたか。まぁ彼女には黙っておいてあげますよ。」
「おお、クリスさんが仏に見えます」
「僧侶ですからね。とはいえ、仏の顔も三度までですよ?」
どうやら、脱剣士が近いのも案外気のせいじゃないのかもしれない。
「あ、そうです。プリンの奪取も程々にしたほうがいいですよ」
「隣の芝は青いと言うじゃありませんか。美味しいんですよ、他人のプリン」
「僧侶は欲望に従うのは良くないのではないですか?」
「欲は人間の行動原理の基ですよ。例え僧侶でも仏でも、人間であるならば欲を消すなど不可能です。ですから、プリンは食べる」
「まぁ私も欲望を消すつもりはありませんけど……」
一度かもしれない人生、そりゃ楽しみたいから。
「ですから、やりたいことはやってもいいんですよ。大体は」
「そうですね、多いに賛成です。やりたいことはやるべきですよね。大体は」
「ハッハッハ」
「フフフフッ」
「さぁ、着替えなさい」
「部屋出て下さい煩悩僧侶」
さぁ、着替えたら楽しみなパーティーに行こう。
一日、何故か閲覧数が急増したのです……
何故?