第36話 名無しの武器
あれ……なんででしょう。
どうも笑いが入らない……
「おお、いやまさか本当に持ってくるとは……ってなんだこの量は!?」
坂神が依頼の品――ワイバーンの爪及び牙――を渡すと同時に、それを渡された依頼主である武器屋のおじさんが驚嘆の声を上げる。
依頼では一体分持って来てくれればOK(もしくは、一欠けらでもあればまぁOK)のはずだった。
「え?」
「あ、いや、すまない。これ、一体から取れたのか?」
店内には数々の武器や防具が――というわけではなく、入口に両刃で細身の剣が二本あるだけだ。もう一つ言えば、防具は売っていない。
所謂、高級店というやつだ。
「いえ、三体――」
「成る程三体か。それなら納得が………いくかよオイ」
「?」
なんともダンディズムを纏ったおじさんが、驚愕に目を見張っている。いやぁ、うっすらおひげが雰囲気を出してるなぁ。
「いやはや……まさかここまで出来るとは……俺の目も衰えてきたのか」
感慨深げに呟いているおじさんをほっといて、坂神は渡された金貨を眺める。
この世界では金銭に紙幣等という概念は存在しない。
そんなものがあっても、この世界じゃすぐに使い物にならなくなるためである。燃えたり裂けたり、主に交戦中に。
よって必然的に硬貨になるのだが、硬貨には金貨、銀貨、銅貨があり、それぞれに二種類存在する。マリス硬貨とイリス硬貨。つまりは六種類。
坂神は未だ(というか使ったことが無いので当たり前だが)硬貨を円に脳内変換することができないが。
ちなみにマリス銅貨十枚でイリス銅貨、イリス銅貨十枚でマリス銀貨、マリス銀貨五枚でイリス銀貨、イリス銀貨二枚でマリス金貨、マリス金貨十枚でイリス金貨である。
ややこしい?見づらい?
すいません勘弁して下さい。
とにかく坂神は、手の平にあるイリス金貨五枚とマリス金貨五枚を『うぉい金一色じゃまいか』等と思っていたりする。
後ろではフィリスが目を輝かせているのには気付いていない。
「あぁ、そうだ。予定以上貰ったんだ、何かやろう。何がいい。短剣二本か?長剣か?」
そういえばあの後、無事にフィリス達と合流できた。
そりゃあ木がポンポン飛んでるんだ、不審に思わないほうがおかしいよな。
それとフィリス達は竜に遭遇しなかったみたいだった。
ファウストを見やる。
彼女は右手を挙げて、その手を左手で指差す。
手刀で十分だと言いたいのだろうか、それとも血が固まって凄く痛いことをアピールしているのか、多分前者だろう。
「ネイスは?」
「あたしは剣は使わないからいいや。あんたは要らないの?」
「いや、オレに良い剣は早過ぎると思うし……フィリスは?」
「私は剣を使ったことがありませんから」
「そうか?それじゃあ……」
あれ?うちのパーティー剣要らない?そんな馬鹿な。
「あ。……おい坂神」
ファウストに呼ばれる。なんだか嫌な予感がした。
「……何?」
「お前、勇者なんだろう?」
「っ!!」
やめてオレに恥をかかせないでお願いします本当にお願い。
弱い部分を突かれて、坂神には選択肢が一つしかなくなった。
「んで、どうするんだい?」
「あー…それじゃあ、に、日本刀ってありますかね?」
「ニホントウ?なんだそりゃ」
「………」
いやぁ、まさか無いとは。
ここはある流れだろうがよ。
しばし考える。
日本人だから日本刀にしようとかふざけすぎたのかもしれない。
とにかく……あー…短剣…双剣……長剣…太刀……やっぱどっちでもいいや。
「じゃあ長剣お願いします」
「あいよ、ちょっと待ってな」
そうして、おじさんが店の奥から取り出してきたのは二本の長剣。
片方は西洋の両刃の剣、もう片方は峰があり、和風の剣――所謂、日本刀。
どちらにも何やら文字が彫られている。
「さぁ、どっちがいい?」
「……え、いや、それって日本刀じゃ……?」
日本刀に見えるものを指して言う。
するとおじさんは少し驚いたような顔をした。
「お前さん、お目は高いほうかい?」
「多分ダメだと思います」
「そうか……コイツをニホントウと呼ぶのかは知らねぇが、とにかくわけの分からん代物なんだよ。何の魔術が施されているのか全く分からん、剣としての性能の高さは保障するが」
「おい坂神、お前にはそっちのほうが良いんじゃないか?」
ファウストの言う通り、魔力が必要なものはオレには使えない。
どうやらオレの身体からは魔力といえるものが微塵も感じられないらしい、ファウストから聞いた。
「それじゃ、それでお願いします」
「はいよ。またよろしく頼むぜ」
「暇でしたらね」
まぁ二度と行かないと思うけど。
「ねぇ坂神ー。終わったんならもう自由行動でいいのかー?」
店を出てすぐネイスが聞く。
「ん?いいよ。あぁでもファウスト、今からその髪隠すもん買いに行くぞ」
さっきのおじさんめっちゃ驚いてたしな……
「それじゃ私は……久々に戻ってみますかね……」
そうして今日はこんな感じ。
でもまだ終わらないのです