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勇者になろう  作者: パラヂン
33/42

第33話 これはいわゆるおとり

…長いです。

どうしてこうなった。

眼前に広がるのは緑ばかり。

空を仰ぐと、その空の青よりも木の荘厳さばかりが目にとまる。そのくらい緑。


そう、今オレ達がいる場所は『森』。

通称『迷いの森』――この呼び名は、入った者が森を出る確率があまりに少ないため、らしい。

とりあえず、どこまで行けば森に『入った』ことになるのかは甚だ疑問ではあるが、そこを考えると止まらなくなりそうなので割愛する。


とにかく、今坂神は若干後悔していた。

いくら世界最強クラスが味方にいるといえど、いきなり難しい依頼に挑戦するのは無謀だった。

何せ魔物に出くわせば、選べるライフカードは『喰われる』又は『逃げきれずに喰われる』しかなく、流れ弾が当たれば風穴が開いてしまうのだから。


「やっぱオレは帰ったほうが良かったかな……」


ちなみに、今喋っていた間にも竜の吐いた火球が身を掠めたのだが、いい加減リアクションもし飽きた。


その火球はヒットすると周りに燃え移る前に対象を灰にし、すぐに消える。

まともに当たればどうなるか想像もできない。


「まさか、竜の種族がこんなにいるとはな……私達は今どこにいるんだ?」


ファウストが不機嫌全開でぼやく。

彼女は坂神に四方八方より向かう火球をことごとく弾き返しながら、反撃にその辺の木を投げている。


彼女いわく『空中に有効な魔法だと森が焼ける』だそうだ。


「まったく……あの二人とははぐれてしまったし……あっ」


直撃する軌道。坂神に。

これまで彼女は坂神が躱すことが出来ないものを弾いていたのだが、一つ逃してしまった。


「あん?」


坂神の視界にその火球が映る。

そこへ天より飛来した一本の木がその火球を踏み潰す。


呆然としたまま、理解するのに数秒を要した。


「いやさ……なんで木が降って来てんだよ……」


分かっていたけどね。

ファウストが投げていたヤツだってことぐらい。


そして死にかけたことは見事にスルー。

いちいち突っ込んでたらキリが無い。


「………――計算通り!」


「嘘つけぇ!」


補足しておくと、直撃するようなものは全てファウストが弾いて掠るのは見逃していたので、本当に死にかけたのはこれが初めてである。


だが、坂神にしてみれば全て奇跡的に避けているように感じるので、そんなことは心底どうでもいい。


空から坂神達を肉片一つ残さず消し炭にしようとする竜は見る限り三体。

ちなみに、依頼内容は『ワイバーンを倒し、その牙と爪を持ってきて欲しい』だ。

ワイバーンと竜ってどう違うのか、そもそも違うのか、それは些事だろうか。


とにかく、予定では一体しかいないはずのその竜(ワイバーンは字数が長い)が三体もいるのがおかしいよな。


そう脳内で愚痴を吐いていると、またバスケットボール大の火球がテニスのサーブ並のスピードで飛んでくる。

ぶっちゃけ、相手が一体だけだったら余裕(?)で躱せる。火球はね。爪は別だけど。


「あのさ、ファウスト」


一度ファウストに聞いたけど、あの爪の攻撃をまともに食らったら穴が空くらしい。くわばらくわばら。


「なんだ?――ふんっ」


ファウストの放った緑いっぱいの木が宙を舞う。

ただ、一回も当たってないが。


「ファウストが苦戦するなんて考えてなかったんだけど」


正直、勝ち目がなさそうだ。

というかファウストが瞬殺するものとばかり思っていた。


「お前の世界で一番強い人間は野生の一番強い動物に勝てるのか?」


つまり、オリンピックとかで優勝するような、もしくはアフリカやらで強靭そうな肉体を持った人間が、ライオンやトラかける3に勝てるのか。


………いや、普通に無理じゃね?


「……何となく、理解したよ」


「それと坂神、私も聞きたいことがある。今更だが…」


ファウストの手刀と竜の爪が交差する。

そのファウストの手刀はなにやら黒いものに覆われている。何かしらの魔法でも使っているのだろう。


「ん?なんだ?」


「なんでお前も来たんだ?」


「………」


沈黙。沈黙。沈黙。

沈黙の果てに見えたのは沈黙で、その果てに見えたのも沈黙。

さて、次は何黙?


……ああ、こういうのを『頭が真っ白になる』って言うんだな。


「………ノリとしか…」


「だからよく考えて行動しろと」


ファウストが溜息する。

がっくりと肩を落としながら竜と格闘している。なんと器用な。

坂神の目にはそれは余裕で捌いているように見えているのだが、やはりそうではないのだろう、そうだったらもうケリはついている。


おっと、少し肩に掠った。


「坂神」


「ん?」


ファウストは三体の竜を交互(交互?)に見ながら坂神に声をかける。

もちろん両手は眼前の竜を捌いている。


「二体に集中したい。お前にそこの一体の注意を集めれるか?」


そこ、というのはおそらく目の前の竜のことだろう。

うん、無理だとは言えない。

何故だって?お荷物だからさ。


「まかせろ。ただ、助けを呼んだらヘルプミー」


「ああ、……任せた!」


ファウストが彼女と格闘している竜を渾身の力で殴る。

それを羽で受け止めたその竜は、あろうことか何メートルか吹っ飛んだ。

その竜に向かって木を投げつける。

そして後ろへ跳躍。

身を焼こうとした火球は地面に突き刺さり、一部分を灰にする。

その火球を吐いた竜は、次に坂神に向かって吐く。

それに木を投げつけて相殺させる。

直ぐに肉薄し、その一体と本気で一回の攻防。拳が竜の顎を捉える。

しかしすぐにもう一体へ意識を戻し、目の前の竜をもう一体のほうへ投げ飛ばす。


「―――ぐっ!」


投げ飛ばす際に竜の爪が背中をえぐる。

が、そのくらいの犠牲は覚悟していた。

これで二体が、一箇所に纏まった!


木を抜き取り、二体に向かって跳躍する。

火球が襲い掛かるが、それは木で防ぐ。

三発で切り株みたいになった。

可哀相な木のおかげで一体にしがみつくことが出来た。

もう一体の火球をこの一体に受けさせる。悲鳴。


それで火球を放った竜が動揺した一瞬を狙って跳び移る。

首に一撃、息の根を止める。


未だ悲鳴を上げている竜にもう一度跳び移り、また首に一撃、息の根を以下略。


終わったあと、本当に残りの一体の存在を忘れていたことに気付いて顔を青ざめる。




一方、坂神SIDE。


とにかく注意を逸らさないといけないので、とりあえず投石してみた。

全力で投げたにも関わらず、その石は火球と交差して偶然竜の頭にヒット。

火球は紙一重で躱す。

本当に紙一重、もはや躱したというより当たらなかったといったほうが正しいくらいだ。


『グギャァァア!!!』


咆哮。

音圧か緊張か、はたまた恐怖か、心臓が早鐘を打つのが分かる。

どうやらキレたようだ。全く、今時の竜はキレやすくて困るなハハハ…


火球を乱発してくる。

実際、先述したように一体ならば避けられないことは無い。

他二体が撃ってきたら別だが、ファウストに任せたので完全に無視。これは信頼?


周りの足場が炭やら灰やらで真っ黒と真っ白がマーブル状に気持ち悪いことになった頃、竜が滑空してきた。

実際ファウストに火球を吐かれると坂神にはどうもできないので、そういう意味では僥倖。

しかし、竜の爪を防ぐ手段が無いことを考えると空前絶後の一大ピンチ。


とにかく石を左手に持ち、石の剣を即席で『創造』する。

こんなもの、腕力的にも強度的にも無謀の極みでしかない。


竜の爪の前では。


「うおぉぉぉおお!」


気を奮いたたせる。

タイミングが命だ、失敗させるわけにはいかない。


竜が爪を前面に突き出す、おそらくは坂神の身体を切り裂くつもりで。


――しまった!頭に当てるつもりなのにこれじゃあダメだ!

……やむを得まい!


竜が両足を振り上げる。

それに合わせて『創造』――振り上げた両足と坂神の間にダイヤを創造する。

本当はフレイにしたように頭にぶつけるつもりだったんだけどなぁ……


ダイヤに左手をそえて竜に突き出す。

振り下ろし始めは力が入らない。

竜の動きがピタリと止まる。動けないのだ。


「ほぁあ!」



無我夢中で奇声を上げながら、左手を離して右手の剣を両手で構える。

そして剣を竜の胴体に突き刺す。この剣は防御ではなく攻撃手段なのだ。


『ギィァアァア!!!』


耳をつんざく悲鳴。

それに威圧されたのか、『創造』の反動か、それともあろうことか油断したのか、坂神はその場を動かない。

炭素の塊は重力に従って地面に落ち、今彼は竜と肉薄している。なにより――


まだ、竜は死んでいないというのに。


竜がその身体を切り刻もうと、上げていた両足をまた少し引く。

その動きを見た坂神はやっと状況を理解し、悟る。


(あ、やべ。死んだ)


人間など鎧ごと切り裂く強靭な凶器が振り下ろされる。



そこに神速で割り込む黒い影一つ。



金属音、次いで竜の血飛沫が舞う。


竜の爪は目標を捉えることは無く、手刀に弾かれて行き場を無くし、その首には腕が突き刺さっている。


その腕の持ち主は、息を荒げて安堵の表情を所持。


「間に……合った」


坂神はただ呆然としている。

死の狂気と生の驚喜が脳内―もしくは胸の奥底で渦を形成している。

有り体に言えば、パニック、混乱、凶器乱舞しているのだ。最後のは漢字も意味も違うなぁ。


「あ?どうした?ショック死でもしたのか?」


「それブラックジョーク」


心臓が働きすぎて逆に止まりそうなくらいだ。もっとサボれ。


「よかった……」


ファウストが本気で安堵する。


……正直、面食らった。

こう……鬼教官がチラリと見せる白い歯というか優しさというかなんというか。


「あの……ファウストさん?」


「っ!」


い、いかん!このままじゃ『あんたの心配なんかしてないんだからね!?』とか言い出しそうだ!


それはアレだ!マズイ!


「ブ、ブラックペッパー………」


「………は?」


やってしまったー!!

空気をどうにかしようと考えた結果がこれだよ!


「いや、と、とりあえず色んなものは棚に上げてそのまま棚ごとひっくり返してですね!」


「あ、あぁ…分かった、分かったから落ち着け」


深呼吸を数回。

落ち着いた頃に『なんでオレが取り乱してるんだ?』と思ったが、盛大に無視した。


「ふぅ……とにかく、これで依頼完遂ってことで」


「そうだな、本当に色々あったが………ありがとう」


「……ん?」


疑問符。


「お前のおかげだ。よくやった」


待て待て。

礼ならこっちがすべきだろう。確実に。

ファウストがいなかったら多分三桁くらいは死んでるぞ、オレ。


「何言ってんだ、頑張ったのはファウストだろ。ほら、オレは無傷だ。お前のおかげでな、ありがとう」


大して筋肉質でもなく、こっちの世界じゃおそらく貧弱であろう身体を見せつける。

『反動』もあまり気にすることは無い。

服はもう人前に出れないレベルまで損傷しているが。


対照的にファウストは背中から血が大量に流れている。

手刀として酷使した両手も血だらけだ。

とても楽観視できるものじゃない。坂神だと失神しているだろう。


「傷じゃない、成果でもないんだ。普通、お前みたいなほぼ非戦闘員は竜とまともに向き合えない。私は戦うのが普通だ。だが、お前はそうじゃない……それでも、お前は戦った」


有無を言わせない何か――プライドのようなものが見えたような気がした。


しかし、坂神にも譲れないものがあった。

これといった理由は無いが、男として、何か、何かがあった。


「つまり、『私は力があるから戦うのは普通で、あんたは力が無いから戦うのは凄いことだ』ってことか?それは自惚れですー」


「…?」


断言しきるのはなんだか恥ずかしいので、少し茶化した喋り方をする。

実を言えばキャラが壊れる不安があったりするが、まぁいいや。


「オレは強くなくちゃいけないんですー。こんな竜くらい小指で弾けなきゃいけないんですー」


「坂神?一体何を――」


茶化す喋り方が面倒になった。

我ながら早い。


「つまり、だから、すなわち!オレは弱者じゃ駄目なんだ!こう…ファウストと同じ土俵に上げなきゃ遅い!そうじゃなきゃ強くなれない!何故なら!その理由は!曖昧で不明瞭だけど!」


なんだかもうノリで喋っている。

勢いに任せて、ここぞとばかりに。

そして締めにカッコイイ台詞が浮かんだ。

よろしい、ならば使うしかあるまい。


「オレは、勇者らしいから」




後に、この台詞は坂神の黒歴史に認定された。


だって、恥ずかしすぎる by坂神 裕也

ノリは大事です……多分。

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