第26話 再来
そういえば、「BEYOND MAX」の補足をば。
芯がゴムのバットです。
飛びます。
目茶苦茶飛びます。
…以上っ
足の爪先から手の指先、ついでに頭のてっぺんまで震えているような気がする。
全力疾走した分の熱は既に奪われてしまっていて、秋の夜空の下で塔の頂上というこのシチュエーション、寒くないわけがない。
おや、フィリスが倒れている。この寒さにやられてしまったのだろうか。
それとも、この冷たく強い風をしのごうとしているのか。
それはそれで可愛い気がする。
ファウストは何やら呆然としている。
てか手から血が流れているのが見える。それはまずい。
濡れた手をこんな風に晒してみろ。あっという間にかじかんで痛覚が顔を出す。
それなのに風にもマケズ、雨にもマケズ、いや雨は降ってないけども。
とにかくそんな状態で直立不動を保っている。理解不能だ。
あ、それともう一つ。
全身が震える。
んで身体に少しの負担がかかる。
激痛。
「あー…、倒れたら死にそイテェ」
どうやら言語による表現の自由に制限がかけられたようだ。
人権侵害だー。
…そういやここ異世界じゃん。
保障されてないじゃん。
……現実逃避終了。
どうやら成功したようだ。
まだ世界は終わっていない。
背後の石像も無事だ。
それよりもフィリスだ。
あの反動で倒れてるんだろうし、この寒さで倒れてたら生きてても風邪をひくだろう。
痛む身体に喝を入れてフィリスの元へ歩み寄る。
そしてフィリスを担ごうとしたとき、金属音。
……あの、もう寝ちゃってもいいかな?
音のした方を見るといつぞやの黒マントとファウストがいた。
石像を壊そうとする黒マントから石像を守るようにファウストがいる。
そして黒マントの黒い剣をファウストが手刀で止めている。
……?
黒マントって剣持ってたか?
それによく見ると鎧まで……換装したのか?
手刀には触れない。
「ファウスト!加勢いるか!?」
「いらん!逃げてろ!」
「了解!」
背後の多数の金属音を聞きながら、とりあえずフィリスを塔の中へ避難させる。
階段で下ろすとなんかダメみたいだから広間に。
少し、思案する。
上に行ってもただの邪魔にしかならないのだろうか。
それとも少しは役に立てるのだろうか。
……無理だろうな…
今のオレは満身創痍だし、てか元々強くない。
そんなオレが行ってもファウストの守る物が増えるか、犬死にするだけだ。
「ちぇ……アニメだとここは行くべきなんだろうけど…けどなぁ……だってそういう主人公ってみんな強い、もしくは何か秘策があるじゃん。オレは弱い上にボロボロだぜ?確かに神さんからの力はあるけど、今強いの使ったら死ねそうだもんよ―――」
上から聞こえる金属音が増えた。ほぼ二倍に。
……もしかして、もう一人来た?
「――――しまっ―!」
ファウストの声とともに剣を持った一体が階段を下りようとしている。
が、その足がぐらつく。おそらくフィリスのときと同じ現象――
パニクった脳で左手に持った四次元袋に右手を突っ込み、『BEYOND MAX』を取り出す。
そして、打席に立つように構え、つんのめった黒マントにタイミングを合わせる。
「ビヨンドー……マーーックス!!」
胸部のプレートに芯がめり込む感触。腕が破裂したかのような激痛。独特の鈍い音。
それら全てを噛み締めて全力で振りぬく。
きた、ホームランっ。
黒マントは入ってきた場所から綺麗に飛んでいった。
「うおっ!?」
ファウストの驚いた声を聞く。そして大きい金属音が三つ。
何となく、塔から落としたんだろうと思う。
オレは興奮した頭で勢いのままに階段を駆け上がった。
メリークリス……あり?
もう過ぎてる?
何も無さすぎてわかんなかったよアハハー
…メリークリスマス…