第25話 全力抵抗
自惚れていたことが発覚してしまいました。むぅ。
あ今回も長めです。やったー。
今の構図を説明しよう。
まずオレこと坂神裕也は足が笑っていて、横になって『それ』を見ながら状況確認。
我ながら肝が据わっているなぁ。
んでフィリスはただ呆然と『それ』を見ている。よく見ると歯をガチガチ鳴らして震えている。
確かに秋の夜にこんな高台にいれば寒がるのも当然だろう。
だがその身に纏っている修道服はなんとも暖かそうだ。
…やはり『それ』に恐怖しているのだろう。
ファウストはフィリスと違って恐怖を感じているようには見えないが、なんというか、達観?
全てを諦めたような感じだ。
石像は変化無し。
反抗期じゃないか?コイツ。
最後に『それ』。
『それ』は巨大な剣だ。
なんかもう超絶ウルトラハイパービッグだ。
分かりやすく言うと、あれだ、ビルよりでかい。
それがここに向かって飛んでくる。
オレ達は『それ』をどうにかしないといけないらしい。
「ガチガチブルブルガチブルブルガチ―――」
「いやいやいくらなんでも慌てすぎだろ、フィリス」
「い、いや、でででもあんなの、どうすれば」
「えーっと……ファウストさん?」
「なんだ?何か名案でも思いついたのか?」
「あれ、この世界にない物質に当たるとなんか色んな偶然が重なって破裂する。とか無いですかね?」
「現実逃避はやめて真面目に考えろ」
だってそれしか無いんだもんよ。
一か八かで巨大ダイヤでも創造するか?
………左手で触れて、もっとでかいやつ創造して反撃?いや無理だから。
………。
「おいファウスト」
「なんだ?」
「その石像増やしてみたりするのは?」
「できるのか?命を作り出すようなことが。そんな神ですら難しいことが」
「あー…多分無理ですね…」
神すらに難しいことを今のオレにできるはずが無い。
となると……うーん…。
「そろそろ直撃するな。おいフィリス、震えてないで自分の全てを吐き出せる状態にしろ。坂神、立て」
「は、はい!すーっ…はーっ…」
「そこは『立てるか?』って言って欲しかったなー」
フィリスは深く深呼吸して精神を落ち着かせる。
オレはもうさすがに普通に立てるので普通に立つ。
「本当に、お前は冷静だな」
「そういう性格なんだって」
「……まぁいいか。とにかく、二人とも全力だ。全力で向かえ。万が一があるやもしれん」
「すーっ、はーっ………はい」
「分かった」
フィリスの目に炎が灯ったように見えた。
なんだろう、自分の心をコントロールするのに長けているんだろうか。
だがしかし…どうしたものかね。
とりあえず、一縷の望みにかけてダイヤでも創造しますか。
『困ったときは、がむしゃらではなく、ひらめきが―――』
突然あの占い師の言葉を思い出した。
………ひらめき、かぁ。
なんだ?あのア○ー…じゃなくてマジメデでも使えと?どうやって?
四次元袋からマジメデを取り出す。
「……………あ。」
とても、馬鹿らしいひらめきだった。
「どうした?坂神?」
「い、いや、なんでも無いです…」
「?おかしなヤツだな……あ、フィリス、そろそろ始めるぞ。詠唱を」
「はい」
そう言うとファウストは両の手を胸の前で合わせ、フィリスは両の腕を胸の前でクロスさせる。
「《主は無属なれ。主の性は乙女なれ。主の身は常に清められし身なれ。主は主であれ。汝は汝なり。その理、決して破ること勿れ。そして、主は汝の気に召す者であれ》
《我は条件を満たせし者。よって汝、此処に降臨せよ。ワルキューレ》」
フィリスの口が聞いたことがあるような詠唱をする。
するとフィリスの周りが白く染まり、純白の戦女神、ワルキューレが降臨する。
「《予感、兆し。宿命、運命。この世の理、決まり事。その全てを掌握、吟味し、我が決議する、その未来。――予兆》」
ファウストがそれを口にすると、途端にどす黒い障気が辺りに立ち込める。
これが二人の最強の術なのかと思っていると、フィリスが詠唱を再開する。
「《我が白の戦女神。今ここでその真価の発揮を求む》……ありがとうございます。《では、仮初の名、剣、盾、兜、鎧、姿、心を封印。今、真の汝を解き放つ。銀の猛き戦女神――アテネ》」
ワルキューレがその姿を変える。
身につけていた物が剥がれ落ち、背中から三対の翼が生え、どこからともなく現れた兜、鎧が装備される。
しかし、武器も盾も持っていない。
結果。眩しすぎて直視できない、けれど見るものを捉えて離さない、矛盾した存在が誕生した。
そしてファウストも詠唱している。
「《―――我が道は暗黒、非道。それでも我は欲する、未来を掌握する力を。全てを塗り潰し、全てに塗り潰される力を。予兆よ全てを、解き放て。――滅びの、未来》」
その瞬間周りの障気が始めから何も無かったかのように消え、次の瞬間、ファウストを中心に『黒』が広がる。
アテネの銀をも一瞬のみこんだそれは、力の調整でもしたのか密度を増してファウストの周りだけに留まる。
「ファウストさん…やはり、凄いですね…」
「お前こそ…正直、想像以上だ」
「光栄です…」
銀と黒のツーショットは正直、冥土の土産に最適だと思った。
けれどオレもやることはやらなきゃなので、手をかざし、巨大なダイヤをイメージしている。
既に巨大な剣は眼前に迫っている。
てかこれ、思ったよりでかい。
ビル二本は下らんのではなかろうか。
とにかく、二人の邪魔にならないように一番に攻撃する。
―――『創造』
とてつもない痛みが身体を襲ったが、痛すぎる痛みで気絶しなかった。
良かった、気絶したら最終兵器を試さずに終わるとこだった。
そして剣の前に創造したダイヤは―――
無惨に粉々に破壊された。
どうやら全くの無意味だったようだ。
……ちょっとショック。
だけどあまり凹む時間がなさそうなのでゴロゴロ転がって石像のところまで移動する。
次にフィリス。
「《――――。純粋なる無の力。沈黙の光線!》」
フィリスの右手が剣に向けられ、アテネの右手もそれと同時に剣へ向けられる。
そして即座にその右手から真っ白なレーザーが放たれる。
巨大な剣はそれを真正面から受け止め、それでも失速すらする気配がない。
次、ファウスト。
「《―――。完全なる力。其の前で無力でないものなど存在しえない。》塵と成せ、崩壊!」
ファウストの周りの『黒』の気配があの剣に移る。
するとその剣が真っ黒に染まり、『ギイィーーーー……!!』と謎の音が聞こえる。
が、剣が壊れる気配は微塵も感じない。
「ちぃっ!やはりダメか!?」
「まだ……ですっ!」
アテネがレーザーをやめ、フィリスがあの老人の札を取り出す。
そして何やら印をきると、その札はフィリス手の平で霧散した。
見るとアテネがバカみたいなでかさの槍を二本構えている。
「グングニル!アンド……ロンギニス!」
アテネが思い切りぶん投げる。
それは投げる腕の速さを関係なしに一瞬で目標に直撃する。
いくつもの空間を切り裂く音が連続的に響いて、鳴りやむ。
が、その剣にはダメージが無いように見える。
「くっ!なら……最後!」
言葉通りおそらく最後の一枚であろう札を取り出し、印を結ぶ。
札が霧散し、アテネに装備されたのはなんとも神々しい剣だった。
「―――エクスカリバー!」
もうあの剣は目と鼻の先にある。
その切っ先目掛けて振り下ろす。
ファウストもそこで可能な限りの力を振り絞る。
一瞬、均衡する。
「「はぁぁぁぁぁああああああああああああああ!!!」」
バキンと
アテネのエクスカリバーが折れ、フィリス達が絶望し、また剣は目標目掛けて前進する。
目標――則ち石像の額。
しかし、その切っ先と石像の額との間にはあと一つの存在、オレがいる。
額からの視点で、切っ先の正確な軌道は捉えたつもりだ。
あとはその軌道を信じて、緊張で震える指を使って、そのライン上にあるものを構える。
―――四次元袋を―――
あとは、この小さな入口に、あのでたらめな速度の切っ先が入ることを祈るのみ。
「こ、こ、こ、来いやーー!!」
う~む…。