九体祭編I:束の間の平穏
異能高専東京校襲撃から一週間後の昼休み。
「「「エキシビジョン?」」」
音霊 勇牙、氷川 七姫、櫻井 紡理が息ぴったりに聞いてくる。
「そう、姉さんに勧誘が来てた。なんでも毎年行われてるランクEXの順位付けを九体祭のエキシビジョンとして一般公開するんだって。」
早坂 零斗のその発言に長崎 勝也が口を開く。
「九体祭、異能高専、九校合同体育祭。毎年テレビでもやってる異能高専の一大イベントだな。」
「でもなんでそんなことを?だいたい高専関係者じゃないランクEXはどうするんだ?」
「勇牙、その点は大丈夫だ。ランクEXの七人はいずれも高専関係者、それもそのほとんどが生徒。生徒じゃないのは巡戸先生と長崎校の先生の二人だけ。どちらも九体祭には必然的に参加することになる。」
「・・・・・え、待って勝也。」
「なんだ?零斗。」
「巡戸先生ってランクEXなの!?」
零斗は自分のクラスの担任である巡戸 進次郎がランクEXとして名前が上がったことに驚く。
「ああ、そういえば零斗は入学式の時に遅刻してきたから知らないんだったな。巡戸先生が自己紹介の時に言ってたぞ。『ランクは一応EXだ。最下位だがな。』って。」
入学式の日の零斗が来るまでのことを勇牙が話す。
「そうなんだ、知らなかった。」
「それで、『なんで急にこんな事をする事になったか』だが、俺の予測になるが多分一週間前のテロに対する物だと思う。」
「なんで?」
「ランクEXの力を国外に示せば、海外勢力に対する抑止力になるし、国内に対しても異能高専に手を出すのはまずいと思わせる事が出来れば、あの時の様な事件を減らせるからね。」
「なるほど、確かにそうですね。」
「紡理、納得してるところ悪いんだけど、俺はこの処置に賛成しないな。」
「なんで?勝也くんはランクEX同士の戦い、見たくないの!?」
七姫が勝也に聞く。
「これまでの様に日本のランクEXの保有人数だけを公表すれば、敵国からすればどんな異能かわからないから踏み込みにくい。でも、実際に異能まで公表してしまうと対策されてしまう可能性がある。」
「あっ、そっか!・・・・・大丈夫かな、それ」
「まあ、その辺りのリスクも考慮しているとは思うが。」
「エキシビジョンも楽しみですが、競技の方も忘れては行けません。一、二年生は新人戦の出場メンバーに選ばれるかもしれません。」
「やっぱり、有力候補は勝也くんかな〜!今年じゃ唯一の入学時点でのランクC、120人の頂点に立つ分解だもんね!」
「大袈裟だな、七姫。新人戦は二年生も選ばれる。他の一年生より可能性が高いだけだ。それに選抜種目以外もある。」
「えー、一般種目なんてほとんどオマケじゃん。学年別男女別100m走と男子は綱引き、女子は二人三脚リレー。しかも異能高専なのに異能禁止だし。」
「そう言う言い方は良くありませんよ。一般種目でも得点が入る以上、手は抜けません。それに異能競技でない以上、異能使用禁止は当然です。七姫はどっちに出ますか?」
「選抜されない前提なのね・・・走るの得意だし、100m走かな。紡理は?」
「私は走るのは自信がないので二人三脚リレーに出場しようかと。零斗さんは・・・」
紡理の言葉を遮り、昼休み終了のチャイムがなる。
「あっ、昼休みもここまでですね。」
「次の授業なんだっけ?」
「次は化学だから、化学室まで移動だ。」
「あ、そっか。」
午後の授業が始まる。
「ヤッホー、零斗居る?」
「会長、長崎君もです、お忘れ無く。失礼します。」
零斗と勝也、音霊 仁音、兎田 瑞希がいる風紀委員室に早坂 一途と白鳥 雷蔵が来る。
「零斗ーーー!!!」
「うわ、抱きつくな!」
「ちょっと、一途!用があるならさっさとして、ここでイチャイチャしない!」
「一途も相変わらずだな。」
一途を叱る仁音と呆れる瑞希。
「・・・・・で、何の用?」
一途は咳払いをして話を始める。
「えーと、九体祭の選抜種目に出場する東京校の選抜メンバーに、二人を加えたいと思います。力を貸してくれる?」
「お受けしましょう。よろしくお願いします。」
勝也は即答する。
「零斗は?」
「・・・・・なぁ、なんでオレも入ってるんだ?」
「零斗が優秀だからだよ?」
即答する一途に怪しさを感じた零斗は白鳥先輩に目線を向ける。
「・・・・・勝也君が決まって、あと二人ほどメンバーが欲しいと言う時に、会長にゴリ押しされたのでな。別に権力に物を言わせた登用ではないからそこは安心してくれ。」
「そうですか。まあ姉さんが無茶苦茶して選ばれたんじゃないならいい・・・・・わかった、やるよ。」
「やったー!これで零斗の活躍が見れる!いやー生徒会の仕事の関係で、一般種目を見に行けない可能性が出てきちゃってさ!」
「そんなことだろうと思ったよ・・・・・」
「いやいや、零斗が優秀じゃなきゃゴリ押ししても弾かれるし、何より零斗が納得しないでしょ?大丈夫、自信を持って?」
そう言うと一途は零斗の頭を撫でる。
「・・・・・人前でやるのやめろよ、恥ずかしい。」
「そう言いつつ、抵抗はしない零斗であった。」
白鳥副会長が咳払いをして零斗に話しかける。
「・・・零斗君、これは君を選抜メンバーに加える条件として、先生方から提示された物なのだが、君の謎の異能を解析したいとのことだ。」
「・・・わかりました。まあ、よくわからない異能の選手を異能競技に出場させるのは、責任問題とかあるでしょうからね。それに俺としても自分の力がいつまでも『よくわからない物』のままなのは怖いですからね。」
「ふー、終わったー!」
異能高専職員からの異能実験を終え、零斗は寮に帰宅する。
「お帰り、お疲れー。どうだった?」
「なんか、『気体分子の相対的な位置を固定する事で、空気の刃や壁を作ってるんじゃないか』だって・・・・・『どうやって相対的な位置を固定しているのか』まではわからなかったけど。」
「ふーん、そっか。まあ、原理がわかったのはそれだけ応用ができるし、いいことじゃない?」
「まあ、そうだけど・・・じゃ、ご飯作るから待ってて。」
「うん、じゃ、その間宿題してるから。」
翌日、教室。
「おはよう!なぁ、二人とも選抜メンバーに選ばれたんだろ!おめでとう!頑張れよ!!!」
「ありがとう、勇牙。頑張らせてもらうよ。」
勇牙の応援に勝也がそう答える。
「なぁ勝也。なんであいつご機嫌斜めなんだ?」
「メンバーに選ばれた時にお姉さんの推薦があった事に若干の不服がある様だ。」
「ああ、なるほどな。一途さんに対するコンプレックスか。まあ、姉ちゃんが最強って弟的には複雑だからな。特に零斗はシスコンだから・・・」
「聞こえてるぞ、勇牙。」
「おっと、悪い悪い。まあ、その、なんだ?・・・まあ気にすんな!自分の実力で選ばれたと思えばいい!」
「ああ、そうだ。あまり気にしても仕方がない。会長が関係あろうと無かろうとと選ばれたことを誇るべきだ。」
「まあ、そうだな・・・」
新生ソビエト社会主義連邦軍、作戦室。司令官が部隊の隊員に作戦を説明する。
「諸君、今回の我々の目標は、近日、日本の異能高専札幌校で開催される異能高専九校合同体育祭に際し、九校統一理事会理事長、神宮寺 世界の抹殺だ。奴が企む計画は社会主義を根本から揺るがすことになる。社会主義国である我が国にとってそれは看過出来ない。何としても神宮寺世界を殺す。」
「ダース。」