入学編F:超越級万有引力操作
「零斗の身の安全を脅かす者は、例外無く削除する。」
言い表せない凄みを含んで早坂 一途はその場の全ての人間に言い放つ。
「・・・・・・・はあ、わかった。白鳥副会長と校内の指示に回ります。」
「うん、それでこそ仁音!わかってくれて助か・・・」
「ただし!これはランクEX第一位の早坂一途としての犯罪シンジケートの取り締まり。間違っても個人的な報復じゃない!いい?」
「・・・・・うん。じゃ学校はお願い。」
「今度ジュース奢らせるから。」
「わかった・・・・・・・じゃ、牧原くん借りて行くから。」
「は!?いや、ちょっと・・・」
「『アークの世界』はネット上で展開されてる宗教、現実世界のアジトは信徒に聞かなきゃでしょ?」
「ねえ、なんで着いて来たの?」
一途は早坂 零斗が同行することを不満そうにしている。
「姉さんのストッパーが要るでだろ?普通に逮捕するべき犯人を殺しちゃうかもしれないし。」
「えー、やだなぁ!私が人殺してる所とか、零斗に見られたくなかったんだけど!」
「殺す気だったのかよ、会長・・・」
あたかも当然のように、これから人を殺すつもりだったことを話す一途に牧原 拳は若干引く。
「ほらやっぱり・・・皆殺しはダメ!ちゃんと捕らえるまでにして法で裁かないと。それに、別に姉さんが人殺すとこなんて見慣れてるよ。」
「なんで見慣れてるんだよ!?」
牧原先輩からすれば、常規を逸した会話が繰り広げられてる。
「やっぱり、なるべく見せたくないじゃん。零斗の親代わりとしてはさあ・・・」
「ちょっと待て、お前ら!なんで平然とそんな話してるんだよ!」
「あ、そう言えば牧原先輩、居たんでしたね。」
「お前ら・・・・・俺がいなきゃアークの世界のアジトもわからなかっただろ!扱い酷すぎないか!」
「牧原くん。君、怪我とかしなかったとは言え零斗のこと襲ってるんだよ?それを踏まえてアジトを教えれば全部チャラ
って、むしろ優しいと思うんだけど、違う?」
笑顔だが、隠しきれない圧もあって、牧原先輩は萎縮する。
「ごめんなさい、なんでもないです。」
「へー、こんな廃工場がアジト?」
「ああ、そうだ。学校襲撃したとこから考えると、中には武装兵とかも居ると思うが・・・」
「武装した程度で姉さんを止められるわけないだろ。ランクEX第一位だぞ?」
「あー、そうだな・・・」
「じゃ、行こう!」
「なんだ貴さ、ぐあああああああああ」
「あああああああああああああ痛い痛い痛い」
一途が見張りの二人を空中に浮かせながらアジトに入ってくる。
「こんにちはー!日本防衛軍、陸軍第一異能戦闘部隊、特尉、早坂一途でーす。えーっと、あ!さっきあった人だ!うんやっぱりあなた達が学校を襲ったテロリストで間違い無いね!」
武装兵士の中の一人を見てテロリストとアークの世界の繋がりを確信する。ついでにその兵士に手を振る。
「うん、わざと逃して良かったよ!・・・・・私怨も色々あるけど、異能高専東京校を襲撃したことでアークの世界の関係者を捕縛しに来ました。一応、降伏する?」
神父服を纏ったリーダーと思われる人物が指示を出す。
「そ、その女を潰せ!」
「じゃ、敵だね・・・」
威圧混じりの笑顔でそう言うと兵士の一人が発砲する。だが弾丸は途中で反射し、兵士に命中する。
「な、何をした!」
「私の異能は、超越級万有引力操作。万有引力の大きさを操作する・・・簡単に言えば二つの物体を指定して、その二つが互いに引き合う力を自在に増減できるって事。」
先程の弾丸が兵士に命中した攻撃は、兵士が発砲した弾丸と兵士の間の万有引力を大幅に増幅した事で、弾丸が兵士に引き寄せられた。
引き寄せられたと言っても、着弾時の速度が発砲した瞬間の速度と同等なので、客観的に見ると反射したように見える。
「姉さんの異能は異能演算自体はそこまで難しく無いけど、その汎用性を使いこなすには膨大な量の演算を演算を同時にこなす必要がある。生体プログラムで簡略化されてるとはいえ、100から200の演算を同時にってなると流石に姉さんにしか出来ない。でも、それを使いこなせれば怪我の止血や擬似的なブラックホール、万有引力をマイナス値にすることで『斥力』に変換することもできる。」
「ランクEX第一位は伊達じゃ無いってことか。ってか会長、軍属してたのかよ。」
零斗の解説に牧原先輩は納得する。
「残念だけど、君たちを殺しちゃダメってことだから、全員拘束するね!」
一途は、武装兵や神父服の男をまとめて床に貼り付ける。
しばらくして警察が到着し、アークの世界の関係者は逮捕された。
後日の報道によると、彼等は『アークの世界』の東日本支部に過ぎず、ネット上で名を広がる『アークの世界』の教祖である世界はこの一件を東日本支部の独断によるものだとした事で『アークの世界』絡みの事件は東日本支部の壊滅をもって一旦終息した。
「んーーー!!!幸せ!!!!!」
「あんまり大きい声出すな!」
アークの世界、東日本支部を壊滅させた帰り、早坂姉弟はスイーツバイキングに立ち寄った。
「やっぱり頭使った後は甘いものだよね!ほら零斗ももっと食べて!」
一途の異能の最大効果範囲は半径25m。異能を使っている間は地中空中問わず無数の万有引力の情報が流れ込んでくる。もちろん、生体プログラムによって簡略化されてはいるが、それでも常人の脳には耐えられない量だ。
その膨大な情報から必要な情報だけを取捨選択し、異能演算によって万有引力の大きさを書き換える。
万有引力操作は異能演算自体は簡単だが、PC並の情報処理ができなければ一途ほど効果範囲を広げられない。
他の万有引力操作系異能力者が一途の様に効果範囲を広げると情報量に脳を潰されてしまう。
だが、一途もなんのデメリットも無くその情報を処理出来るわけでは無い。その情報処理は脳に相当な負担が掛かっているのだ。
そのため、異能を使用した後の一途は無性に甘いものが食べたくなる。この辺一帯で一途は『スイーツ暴食JK』として有名だったりする。
「食べ過ぎ、太るぞ。」
一途に付き合って零斗もスイーツバイキングを堪能するが、毎度一途の食べる量にこの言葉を使う。
「食べ過ぎた分は軍での訓練で消費するから大丈夫!」
この返しも定番だ。
「そういえばさ・・・」
「何?」
「長崎、勝也君?あの子、アークの世界が犯罪組織だって知ってたんでしょ?私でも知らなかったのに。」
異能高専札幌校、特別寮。
「どうでしょう?ご検討頂けましたか?」
スーツの老人が白髪で赤いTシャツの男子に問う。
「下らねえ、俺を見せ物に使うだと?国も理事会も必死だなぁ、おい!そんなに海外勢力が怖いか?・・・どう足掻こうと結果は変わらねえ。」
「前回は惜しいところまで行っておられましたのに。」
「わかってねぇな、早坂一途と戦うなら試合形式にした時点で負け確なんだよ!あいつを倒すなら一撃必殺の奇襲だ。それしかねえ・・・」
「奇襲、ですか?」
「これまでの『EXリーグ』であいつとの試合がまともに見れるもんだったのは、あいつ自身が試合を楽しんでるからだ。」
白髪の少年はため息をついて話を続ける。
「考えてみろ、万有引力の大きさを上限も下限も無く操れるなら、床に貼り付けて相手がギブるまでその力を強くしていくとか、マイナスの万有引力で相手を場外まで吹き飛ばすとか完封する手段はいくらでもある。」
「ですが、彼女はあえてそれをしない。なるほど・・・」
「万が一負けそうになればさっき言った見たいな方法で相手を詰ませる。勝てねえ様に出来てんだよ。」
「・・・でしたら奇襲と言うのは?」
「簡単だ。あいつが異能を使う前に殺る。あいつが生体プログラムを起動する前に必殺の一撃を喰らわせれば勝てる。」
「ふむ、確かにそれだと試合形式では出来ませんな・・・では出場なさらないので?」
「いや出る。じゃなきゃ、あの王様気取りの七光りが「俺に負けるのが怖くて逃げた!」とかぬかしかねない。」
「ありがとうございます・・・では九体祭でお待ちしております。ランクEX第二位、朝日 焔様。」
「ああ。」