入学編Ⅵ:東京校襲撃
「・・・・・勝也は、何者なの?」
「ただの高専生だ。」
「・・・そっ、か。じゃ、俺こっちだから。」
「零斗。」
「何?」
長崎 勝也は早坂 零斗の耳元で囁く。
「あまり詮索するな・・・」
「!」
「じゃ、また明日。」
「また、あし、た・・・」
勝也と別れる。
「ただいま・・・まだ帰ってきてないか。」
零斗が帰宅すると、早坂 一途が帰ってきた時のために夕食を作り始める。
しばらくすると一途が帰って来た。
「零斗!零斗!」
「お帰り、姉さん。ごはん出来てるよ。」
「そんな事より!犯罪集団の倅に襲われたって!大丈夫!?怪我とか・・・」
「大丈夫だよ!ただの犯罪者が俺に勝てるわけないだろ?落ち着けって。」
「・・・そう、何も無いなら良かった。」
「ほら、手洗って来て。ご飯食べよう?」
「うん。」
翌日の放課後、風紀委員室。
「昼休みに全校生徒に対して持ち物検査を実施した所、35名の生徒が牧原君の物と同様のデバイスを所持していました。」
「とりあえず、所持者を集めて人体ハッキングの事は伝え、デバイスを没収したが、アークの世界が犯罪シンジケートであると言うのはまだだ。」
音霊 仁音と兎田 瑞希は放課後までに行ったアークの世界に対する対応を風紀委員達に報告する。
「そもそも、私も犯罪シンジケートという情報を半分ぐらいしか信じ切れていないからな。何しろ話が飛躍しすぎている。」
「情報の信憑性はともかくとして。得体の知れない新興宗教に手を出してしまった理由は学年が上がる事に広まるランク差から来る劣等感がほとんどね。」
仁音は話を続ける。
「進級しても上がらないランクに対する不安と周りから感じる劣等感。特に後者に関しては、実際に高いランクを持つ生徒から見下されるような発言を受けた生徒も多くいます。そこに宗教と言う形で漬け込まれてしまっている。」
「ランクは普通の高校などで言う偏差値みたいな物だ。偏差値の良い生徒が芳しく無い生徒を馬鹿にする、よくある事だが・・・なまじ、ランクが偏差値よりも頻繁に計測されるから劣等感が強くなっているのが問題か。」
風紀委員室での会議が行われている中、
突如校門の方から爆発が起こる。
校門の爆発の後、武装した軍隊が校内に侵入する。
「目標はこの学校のどこかに隠された信者達から没収したデバイスの回収、何人殺そうとかまわない、必ず回収しろ。」
武装集団による異能高専東京校の襲撃が始まった。
放送によって襲撃のことは全校生徒に伝えられ、避難する者、応戦する者、ただパニックになる者がいる。
零斗と勝也は図書室に向かったテロリストを追跡する。
「連中はよっぽど人体ハッキングの事を知られたく無いと見える。」
「勝也はこのテロリスト達がアークの世界と繋がってるって言いたいの?」
「ああ、それを証明するのは簡単そうだ。奴らが校内のマップデータを持っていれば黒だ。」
「なんで?」
「マップデータは学校関係者と生徒しか持っていない。ネットにアップロードする事も学校に無関係の者に公開する事も禁止。だが、学校関係者ならともかく生徒は校則なんて簡単に破る。それが宗教に改宗された生徒なら尚更だ。」
「マップデータの入手先を特定してリストアップしたデバイス所持者と照らし合わせれば良いって事か。」
テロリスト二人と女子生徒が図書室のPCから校内サーバーにアクセスを試みる。
「クッソ、どこだ!?デバイスの没収は今日中の事だ。履歴を遡ればデバイスの保管場所の特定なんてすぐ見つかると思ったのに!」
「おい、お前!他にこの学校のサーバーにアクセスできる場所はどこだ!」
「あとは、その、職員室と校長室ぐらいでしょうか?」
「そこまでだ!」
零斗と勝也は図書室に突入する。
「まさか生徒に直接案内させるとは・・・」
「2年の三輪 柘榴先輩ですね、テロリストを誘導するなんて!」
リストアップされていた生徒の中でも特にランクが低かったため、零斗の記憶にも残っている。
「うるさい!私は・・・私はただ、アークのお導きに従っただけよ!」
三輪先輩は震えている。怯えているようだ。
「勝也、とりあえずテロリストの無力化を・・・」
「三輪先輩、あなたは自分が何をしているのか、わかってるんですか?」
「勝也!?」
「わかってるわよ!・・・それでも、それでもアークに縋りたい!こんなこと許されないってわかってる。でも今更どうしろって言うの!学校に武装兵力を手引きした・・・もう、後には引けない!」
逆上する三輪先輩にテロリストのうちの一人が語りかける。
「そうだ、アークのお導きを信じろ!」
もう一人のテロリストも口を開く。
「・・・見せ物じゃ無いんだ。そろそろ出て行ってくれるかね!」
そう言うとテロリスト二人は突撃銃を向ける。その瞬間、
「俺を相手にするなら銃より刃物を装備するべきだったな。」
勝也の分解がテロリストの突撃銃を分解する。
「ば、化け物が!!!」
テロリストの一人が隠し持っていたピストルを引き抜き発砲する。
だが、
「はっ!」
零斗の"壁"に阻まれる。
そして、すかさず勝也がピストルを分解する。
「聞いたでしょう、三輪先輩。口ではあなたのように劣等感を抱く異能力者に甘い事を言っておいて、素が出れば化け物扱い。これが現実です。」
「そんな・・・」
零斗と勝也はテロリストを捕える。
「多分こいつらが、没収したデバイスの保管場所を特定する係だ。勝也、これでデバイスを奪還されることはないかな?」
「特定担当が複数いる可能性もある。だが、職員室には森崎先輩と中村先輩が、校長室には源先輩と柴田先輩、あと兎田先輩が向かってる。それに職員室なら、巡戸先生も居る。大丈夫だろう。」
「そっか!じゃ、風紀委員室まで戻ろう・・・三輪先輩、ご同行願います。」
「早坂、戻りました。」
「長崎、戻りました。」
風紀委員室に戻ると、風紀委員の面々の他に一途と生徒会副会長の白鳥 雷蔵も居る。
「お疲れ様、校内に侵入したテロリストは生徒の助けもあって粗方、鎮圧しました。」
仁音が状況を説明する。
「しかし、これはあくまで一時的な者です。増援が来るか、アプローチを変えてくるかは分かりませんが、アークの世界は異能高専東京校に対して引き続き干渉してくるでしょう。その対策を話し合います。」
「仁音。」
「一途?何か案があるの?」
「ごめん、しばらく白鳥副会長と一緒に校内の指揮を頼んでいい?」
「いいけど一途、何する気?」
「『アークの世界』を殲滅する。」
「!!!」
周囲が騒然とする。
「何言ってるの!相手はテロリストよ!?勝也君の情報を信じるなら犯罪集団でもある。一介の高校生が深く関わるべきじゃ無いわ!」
「だから、今後の対策に留めるの?」
「そうよ、それは警察の仕事、私たちの仕事じゃない。第一、一途は生徒会長でしょう?学校ほったらかしってどうなの?」
「ほったらかしにしない為にお願いしてる。仁音、零斗が犯罪集団の関係者に襲われた上に、学校を襲撃された。これじゃ、零斗は安心して学校生活を送れない。」
「そうだけど、だからって・・・」
「これは生徒会長としてでは無く、早坂一途個人としての最優先事項よ。」
一途は零斗の手を取り、続ける。
「零斗の身の安全を脅かす者は、例外無く排除する。」