覚醒編Ⅰ:Restart
「んっ、桜さん・・・・・」
早坂 零斗が目を覚ますと、涙が頬を伝う。
零斗が濡れた頬に触れる。
「零斗?・・・・・零斗!!!」
もう片方の手を握る早坂 一途が目に涙を溜めながらこちらを覗き込む。
「お姉、ちゃん?」
「良かったっ、本当にっ・・・もう、一生起きないんじゃないかって、本気で思ってっ!良かった!零斗!零斗!」
ベッドで横になる零斗に覆い被さるように零斗に抱きつく一途。
「ちょ、ちょっと姉さん!・・・・・ここは、病院?」
覆い被さる一途の頭を撫でながら当たりを見回す。
「は!?雪!?」
窓の外を見ると雪が降っている。
「零斗、2ヶ月も眠ってたんだよ?」
「2ヶ月!!!?ど、どうしよう!学校の出席とかテストとか!!!」
「零斗・・・」
一途は、腕を立てて身体を零斗から離す。
「・・・ずっと寂しかった。」
ボロボロと零斗の顔に涙を溢す一途。
「うん、ごめん・・・」
零斗は仰向けのまま泣きじゃくる一途を抱きしめ、頭を撫でる。
「ぐっ、身体が!こんなにも動かないなんて・・・」
1週間の寝たきりで、筋肉は10%〜15%低下すると言われている。
固定硬化(仮)で肉体保存していた期間があったとは言え、2ヶ月ともなると、まともに歩く事すら難しい。
「姉さんが居る間は普通に過ごせるけど、流石に2ヶ月も学校行ってなかったなら行かせないと。」
超越級万有引力操作で零斗の低下した筋力を補助すれば、日常生活程度なら普通に過ごせる。
だが、零斗の側から離れない為に、零斗の意識が戻らなかった間、学校を休んでいた一途を流石にこれ以上休ませるわけにはいかない。
「ぐっ!っ!っ!・・・ああああああああ!!!」
零斗は一人リハビリに励む。
「零斗・・・」
学校の帰りの一途と、長崎 勝也が零斗の病室を訪れる。
「勝也・・・」
「すまなかった。」
そう言って勝也は頭を下げる。
「お前の望む罰を受ける。死ねと言うなら死ぬ。絶交と言うなら二度と関わらない。」
───長崎 真冬のことは言わないんだ・・・
一途が心の中でそう呟くと、零斗は少し黙ってから口を開く。
「妹、殺されたんだってな・・・」
「っ!!!なぜそれを!」
「姉さんから聞いたよ・・・・・・・気の毒だったな。」
「・・・同情か?」
「ああ。」
「・・・そうか。」
「俺は、別に死んだわけじゃないし・・・姉さんが融通してくれたお陰で、2学の期末テストも、出席日数も、なんとかったらしい。学年末も病院で受けれるようにしてもらった。」
手を握って開いてを繰り返し始める零斗。
「今のところ、特に後遺症も無さそうだしな・・・そりゃ、2ヶ月も意識が戻らなかったのは損害だが、今の所それ以上の不利益は無い。
別に、俺はお前を恨んではいない。
まあ、だからっていつでも裏切っていいってわけじゃないけどな?もう一度2ヶ月後の病室にタイムスリップは流石に勘弁してくれ。」
「・・・・・そうか。」
「ああ。」
「安心しろ。次なんてあった時には、今度こそ早坂特尉の手で地獄送りだ。」
「安心できねえよ!それ下手したら冗談抜きで世界滅ぶわ!」
『収束虚空:黒』、『発散虚空:白』。どちらも、その気になれば簡単に地球を滅ぼせる力だ。
一途が感情のままに使えば、その日が地球最後の日になる。
「そうだな・・・心掛けとくよ。」
「七姫ちゃんも言ってたけど
・・・次はないから、ね。」
一途は勝也の肩に手を置く。
顔は笑っているが、声はひどく冷たい。
勝也は帰り、病室は零斗と一途の二人っきりになる。
「はい、チョコ。」
「は?」
「今日、2月の14だよ?」
「・・・・・・・・・バレンタインか!」
特に好きな人もいないはずなのに毎年手作りチョコを渡して来る一途も、流石に今年は市販の商品だ。
「ありがとう・・・。」
2週間後。
「凄まじい回復速度です。これなら後一週間ほどで退院出来ますよ!」
医師は零斗の回復の速さに驚く。
リハビリに励んだ成果か、若さか、はたまた固定硬化(仮)のせいか、何ヶ月もかかるはずだったリハビリは、合計3週間で終わった。
「零斗、誕生日おめでとう!」
「ありがとう、姉さん。」
学校は明日からのなので、みんなはいない。得木 律神も零斗が入院している間は自分の寮で過ごしているため、この場には不在だ。
2人っきりの誕生日になったが、それでも零斗は嬉しそうだ。
───いつか零斗が、私の前以外でも、笑えるようになったら・・・
早坂 桜の死。二人の心に深い傷として、今も残り続ける思い出。
だが、二人で一緒に居る間なら、乗り越えられる。笑顔を失った零斗も、嘘の笑顔を貼り付け続ける一途も、この時間だけは、二人で居る時間だけは本当の笑顔になれる。
「姉さん・・・」
「ん、何?」
「・・・なんでもない。食べよ?」
ひさびさの登校。
既に卒業式を終え、5年生が去ってから3日がたった2024年3月4日。
「お、おはよう。」
体感でも1ヶ月弱、意識が戻らなかった期間も含めればおよそ3ヶ月。
久々の登校に少しぎこちなくなる零斗。
「おう!来たな、零斗。」
音霊 勇牙が話しかける。
「ああ、心配かけたな。」
「別にお前のせいじゃないからな、気に・・・いや、こう言う言い方は良くねえな。」
勇牙なりに勝也を傷つけないようにしているようだが、言葉にしてから訂正するあたりが勇牙らしい。
勇牙を見つめる零斗。
「なんだよ。」
「いや、日常に戻ってきたなって。」
「おはよー零斗くん!」
「やあ、零斗。」
「おはよう、零斗君。」
「おはようございます、早坂君」
「おはよう、零斗。」
みんなが続々と登校してくる。
そして、
「お、おはよう・・・」
やはりまだ、勝也との距離はぎこちないが、また零斗の異能高専での学校生活が始まる!!!
「やべ!次の授業、移動教室だった!!!」
登場キャラクター紹介
早坂一途
性別女身長171cm体重49kg誕生日4/2年齢15歳
中学三年の頃の一途。Aカップ。まだ髪は染めていない為、零斗と同じ茶髪になっている。
現在と変わらずスレンダーな体型だが、まだ軍属していない為、筋肉はあまり無い。
この頃は桜にべったりで、桜が守ってくれると考えていたため零斗に対しての過保護さが無く、普通の姉弟よりはよく抱きつく程度である。
まだ処女。
好きなものはスイーツ、零斗、桜さん、桜さんの作った料理、冬、雪、零斗と一緒に見るホラー。
嫌いなものは苦いもの、辛いもの、脂っこいもの。
特技は情報処理、人を殺す事、数学。
苦手なことは家事全般。
異能は万有引力操作。最大範囲15m以内の二つの座標の間にある万有引力を増減することができる。