入学編II:零斗の異能
異能力者は自身の異能をどの程度使いこなしているかによってランク分けされる。
ランクはE〜Aのアルファベットで表され入学生のほとんどはランクE、卒業生上位クラスの半数程度はランクAに到達する。
しかし、そんな小さい枠組みでは到底測れない、規格外の異能力者も存在する。
『ランクEX』。
大規模艦隊、または人口25万人規模の都市を単独で滅ぼせるほどの戦闘力を持つとされる異能力者だ。
日本は世界最多の七人のランクEXを保有している。
「風紀委員の音霊 仁音です!戦闘体制を解きなさい!」
「姉ちゃん!?」
「勇牙!?それに零斗君も!」
「お、お久しぶりです、仁音さん。」
「・・・・・つまり、二年男子生徒が二年女子生徒に対して暴力を振るおうとしたために零斗君が間に入り、今度はその零斗を、しかも氷結系の異能を使って殴ろうとしたために炎熱系を使って安全に受け止めた、と。」
「だいたいそんな感じだ、姉ちゃん。」
「そうですね。間違いありません。」
仁音が簡潔に纏めた一連の出来事を早坂 零斗と音霊 勇牙は肯定する。
「勇牙が異能を使用した事については不問にしておくよ。たださー、えーと・・・五十嵐 楓太君?が私を呼びに来てくれなかったら普通にやばかったからね!なんで入学初日から騒ぎを起こすかなぁ?」
あの時、仁音が駆け付けたのは、楓太が風紀委員会室まで人を呼びに行ったからだった。
「ありがとう、楓太。」
「本当、サンキューな!」
「あんたはもっとちゃんと言いなさい!何が「サンキューな!」よ。」
弟の適当な感謝の言葉を仁音は注意する。
「まあまあ、音霊先輩。誰も怪我しなかったんですから良かったじゃないですか。僕も二人がすぐに動いたのに一人だけ何もできなくて、ただ誰かを呼びにいくことしかできなかったし、そんなお礼を言われる様な事はしてないよ。」
「それよりここはもう良いからそろそろ行きなさい。お友達と待ち合わせしてるんでしょ?」
仁音の言葉に三人は時間を確認する。
「そうだな、そろそろ行くか!じゃあな姉ちゃん!」
「失礼しました。」
「ご迷惑をおかけしました。あと、このことは姉さんには秘密でお願いします。色々面倒になるので。」
「OK、わかった。行っておいで零斗君。それと、うちの弟と仲良くしてくれてありがとう。やっぱり音霊の血とと早坂の血は相性がいいのかねー。」
「どうでしょう?では、失礼します。」
零斗はファミレスで勇牙、楓太、長崎 勝也、氷川 七姫、司馬 一歌、櫻井 紡理と夕食を取り寮に帰宅する。
「ただいま。」
「おかえりー。どうだった?初日から遅刻しなかった?」
一見どこにでも居る、ちょっと美人でブラコンが過ぎるだけの普通の女子高生、早坂 一途は、その実ランクEXであり、それも第一位、日本が保有する全ての異能力者の中で一番強い存在だ。
「あの時間まで迷子になってたんだから間に合う訳ないだろ!」
「あーあ・・・他は?友達できた?」
「できたよ。仁音さんの弟とも仲良くなった。」
「おー、やっぱり音霊家と早坂家は相性がいいのかねー。」
「それ、仁音さんも言ってたよ。」
「え?仁音と会ったの?」
一途のその返しに零斗はしまったと思った。
「姉さんには関係ないだろ!」
零斗はそう言うとシャワールームに向かう。
「あれ?ご飯食べないの?」
普段なら一緒にご飯を食べるが、今日は皆んなと夕食を食べている。
「外で食べてきた。」
「えー、要らないの!?せっかく零斗の好きなハンバーグ作ったのに!」
零斗は着替えながら答える。
「明日の朝に食べれば良い。」
「はーい。出来ればお姉ちゃんで片手を食べて欲しかったなー。」
二人ともシャワーを浴びて、寝る準備に入る。
「ねえ、零斗。今日は一緒に寝ない?」
「三年にもなって何言ってるんだよ・・・別々に決まってるだろ。」
零斗は冷たく言い捨てる。
「えー!お姉ちゃん、寂しい!」
一途が駄々をこねている間に零斗はベッドに入る。
「ねえ、一緒に寝よーよー!!!」
「寝ろ!!!」
翌朝、昨晩のハンバーグを食べる。
「どう?美味しい?」
「まあ上達したけど。」
「あっそ!・・・んー!!!零斗のスクランブルエッグ美味しい!!!」
「ご馳走様。じゃ、着替えてくる。」
「零斗!昨日は私、入学式の準備で早く行かなきゃだったけど、今日は何も無いから一緒に行こう?」
「おはようございます、零斗さん。」
「おはよう、紡理、七姫。」
零斗が教室に入ると紡理と七姫が喋っていた。
「うん、おはよう。なんか昨日やらかしたらしいじゃん。」
「やらかしてないよ!むしろやらかしてる先輩を止めた側なんだけど?・・・って言うか誰から聞いたの?」
「姉さんだけど?昨日助けてくれたでしょ?うちの姉さん。」
「???」
確かに、昨日助けた先輩と七姫、思い出すと似てる様な気がする。
「氷川 六美。昨日、零斗くんと勇牙くんが助けてくれたって言ってたよ。」
「おはよう、七姫。何やら興味深い話をしていた様だけど?」
「あ、おはよう勝也くん、勇牙くん」
「おう、おはよう。なぁ、氷川ってもしかして七人兄弟なのか?」
「勇牙、何を藪から棒・・・」
「すごい、よくわかったね!」
「合ってるの!?」
「いや、だって七姫の姉ちゃんが六美だろ?名前に数字が入ってるから一番上の兄弟から順に一、ニ、三と名前に数字が入ってるんじゃないかって思ってな!」
「でもそれなら、妹がいる可能性があるけど?それに名前に数字が入ってるってだけなら一歌や零斗だって。」
「いやいや名字違えば関係ないだろ。」
午前中は学校内の案内。
午前中の四時間かけてようやく一通り見て回れるほどにこの学校は広い。
五つの学年にそれぞれの校舎があり基本的な学校の設備は運動場、体育館、プールを除き、各校舎ごとに一つづつある。
ただし、異能高専特有の設備はその限りでは無く、移動教室の距離が凄まじくなりそうだ。
午後からはようやく授業が始まる。
「では、記念すべきお前たちの最初の授業、異能実技を始める。礼!」
「お願いします!」
巡戸先生の号令でクラス全員が授業開始の挨拶をする。
「まずはこの科目の目的等を説明していく。」
巡戸先生が説明を始め、生徒達は真剣に話を聞く。
「この異能実技は自分の異能を理解し、それを生かした白兵戦や医療行為、緊急時の異能の使い方などを実践しながらま学んでいく事を目的とした科目だ。」
巡戸先生がファイルを取り出す。
「まず、入学試験の時の異能測定の結果を渡していく。出席番号順に取りに来てくれ。一番、相羽・・・」
クラスメイトに異能測定の結果が配られる。
「勇牙くんどうだった?」
「俺は予想通り炎熱系だった。ランクE。」
「へー、暑苦しいあんたにはお似合いね。」
「は?なんだよ。そう言う氷川は?」
「私は氷結系、ランクD。六美姉さんが透視能力だったからそっち方面かと思ったけど、違うんだね。」
「生体プログラム『BASIC』は被験者の肉体的成長に伴って被験者に異能を付与する。家族とは言っても肉体的な成長に大きな違いが有れば異能も変わってくる。」
勝也が説明しながら二人の元に来る。
「勝也くん、それどう言う意味(怒)?私の胸が六美姉さんより小さいって言いたいの?」
「俺は六美さんに会ったことは無い。コンプレックスを刺激した様なら謝るが、そう言った意図は無かった。」
「あっそう、勝也くんはどう言う異能だったの?」
「俺は分解、ランクCだ。」
「ランクC!?」
「まあ、そうだな。あ、零斗。結果はどうだった?」
勝也の呼び掛けで零斗がこちらに来る。
「それが・・・・・」
「ん、どうした?」
「『異能、不明。ランク、測定不能』・・・だって。」