入学編I:異能高等専門学校入学式
「はあ、はあっ、はあ・・・・・・
すみません遅れました。」
早坂 零斗は勢いよく教室の扉を開く。
「初日から遅刻とは・・・感心しないな。」
「い、いえ!正確には迷子になってて。」
「ああ、そうか。異能高専は広い。以降、気を付けるように・・・私はこのクラスの担任、巡戸 進次郎だ。」
「は、はい!早坂 零斗です!よろしくお願いします!」
「よろしく。では、席に着け。」
巡戸先生が零斗に着席を指示する。零斗は返事をして着席する。
「早坂、全体の自己紹介はつい先ほど終わった。生徒用のデジタルクラス名簿に目を通しておけ。
入学式まであと三十分!五分前には戻ってくるので、それまでは休み時間とする!これから一年同じクラスの仲間だ!交流を深めておけ!私が戻ってくるまでには、出席番号順二列で廊下に並んでおくように!」
巡戸先生が教室から出る。
それと同時に生徒は立ち上がり、各々友達作りを再開する。
「よう遅刻!お前、『早坂』って言ったよな!」
零斗より背の高い筋肉質な男子生徒が話しかけてくる。既に友達になったと思われる、生徒五人も一緒だ。
「俺は音霊 勇牙!音霊 仁音の弟って言えばわかるか?」
「仁音さんの弟、なるほど。確かに、俺は早坂 一途の弟で間違いないよ。」
「やっぱりか!一途さんに似てて早坂だからもしかしてって思ったけど間違い無かったな!早坂!」
「零斗でいいよ。」
「おう、じゃあ俺も勇牙でいいぜ!こいつ等は朝の時間に仲良くなったんだ。」
勇牙がそういうと先ほどの生徒五人が自己紹介する。
「俺は長崎 勝也、俺も勝也で構わない。よろしく。」
「氷川 七姫よ。よろしくね。」
「司馬 一歌。」
「五十嵐 楓太。よろしく、零斗。」
「桜井 紡理。よろしくお願いしますね。」
最後の一人が自己紹介を終えてから零斗は挨拶する。
「よろしく、みんな。改めて俺は早坂 零斗。みんなも下の名前で呼んでくれ。」
入学式が始まる。校長挨拶や来賓祝辞を終え、生徒会長あいさつに入る。
「新入生の皆!入学おめでとう!私が東京校の生徒会長、早坂 一途です!
これから五年間、人によってはもう二年、この学校で過ごすわけだけど、新入生の皆にはまず校舎で迷わないようになってもらいます。今朝も私が把握してるだけで、九人の迷子がいました。ここは広いから、迷子になると大変だからね!遠慮せずに先輩達に道を聞いてください!」
もちろん冗談なのだが、実際に迷ったが故に、零斗は笑えない。
「それからこの学校は企業や研究職に就くことがほとんどだけど、軍に入る人も多いからそれを想定した科目が必修になってる。『命大事に』で学業に励んでください!改めて、入学おめでとう!生徒会長、早坂 一途。」
一途が降壇、アナウンスが流れる。
「続きまして、異能高専統一教育理事委員会より、会長の神宮寺様よりご挨拶いただきます。」
壇上には白衣を羽織った『人間』が登壇する。
『人間』と言う表現になるのは、紹介された神宮寺会長があまりにも中性的な見た目をしていて男性か女性か判別できないからだ。お年寄りといった感じではないが、若いとも言いずらい。目測で三十代前半だろうか?
胸のふくらみがあるような気もしないでもないが、しゃべり始めたその声は男性の様な低い声。だが、女性の声と言われても納得してしまう不思議な声だ。
白衣の下は薄い水色のワイシャツに、今は台で隠れているが、男物のようなズボン。
男か女かがわからないが故にその場の全員が男女問わず、美しいと感じ、魅了されていた。
入学式を終え、教室に戻る。
「改めて、君たちの担任、巡戸進次郎だ。ではホームルームを始めよう。それでは明日の連絡を・・・・」
巡戸先生が話始めると、後ろの席の七姫が話しかけてくる。
「ねえねえ、零斗くん。今日、入学祝に勇牙くんたちとファミレス行くことになってるんだけど、零斗くんも来ない?」
「ファミレスか・・・行く。」
「おいこら、二人共。先生の話を聞かないでしゃべるんじゃ、明日の予定がわからなくなっても知らないぞ。」
隣の席の勝也が注意してくる。
「ごめんごめん。ところでそれ勝也も行くの?」
「ファミレスのことか?それなら俺も行こうと思っている。同級生とは仲良くしておきたいからな。」
「長崎、ミイラ取りがミイラになってどうする!」
巡戸先生が、勝也を注意する。
「申し分けありません。」
「早坂、氷川、お前らもだ!仲良くファミレスに行くのは一向に構わないがそういう話は放課後にしてくれ。」
「「ごめんなさい!」」
続いて零斗と七姫が注意され、謝罪する。
「まあいい・・・以後。気をつけろ。」
放課後の教室。零斗、勇牙、勝也、楓太、七姫、一歌、紡理の七人が集まっている。
「じゃあ俺は予定があるから先に帰る。集合時間には間に合わせるよ。」
「勝也さん、予定ですか?」
紡理が勝也に質問する。
「ああ、とても個人的なことだから聞かないでくれると助かる。」
「ごめんなさい、詮索したつもりは・・・」
「わかってるよ。じゃあ、またあとで合流する。」
勝也は帰る。
「勝也君、大人な感じあるよね。落ち着いてるっていうか。」
「なーに、一歌?気になるのー?」
「別に・・・」
七姫の茶化しに対して、どこまでも無感情な一歌。
「まあ、一歌さんの言いたいこともわかるよ。勝也、大人っぽいよね。僕も憧れるな。」
「確かに楓太も勝也も静かだけど、勝也は落ち着いた感じで、楓太はその、なんて言うか、自信のない感じがするよな。」
「うっ・・・」
「あ、いや・・・悪い。」
「いや、零斗の言う通りではあるから。」
「なんだよ楓太、自分に自信がないのか?それなら筋トレだな!筋肉はすべてを解決する!」
「勇牙、お前は筋肉から離れてくれ。」
「で、まだ集合まで時間があるけど、これからどうする?私と一歌は一旦、私の寮にいこうと思うんだけど。」
「氷川の寮?何するんだ?」
「私今日、財布持ってきてないから、取りに行くついでに一歌に私の寮の場所、教えとこうと思って。紡理も来る?」
「そうですね。特にこの後予定もありませんのでご一緒させてください。」
「俺らはどうする?零斗。」
「うーん、部活見に行こうかな。」
「いいね。僕、部活はあんまり考えてなかったから、どんな部活があるのか知らないし。」
「俺も楓太と一緒だ。部活は中学でやり切ったからな、あんまり考えてなかった。」
「じゃあ決まりだね。」
「6時半にファミレスに集合ってことで一時解散とするか!」
「じゃあまたあとで。」
「バイバーイ。」
「一通り部活見終わったな。」
勇牙がそういうと部活動案内の髪を折りたたむ。
「何か良さそうなのあった?零斗。」
「うーん、特に無いかなぁ。そう言う楓太は?」
「僕も特に。」
「なんかどこもピンと来ないよなぁ。」
三人が歩いていると、女生徒が男子生徒に絡まれている。制服の右腕部の色からしてどちらも二年生だ。
「調子こいてんじゃねえぞ!女の分際で!」
「やめてください!お願いします!」
楓太が現場を指差して、
「なあ、あれヤバいんじゃ無い?」
男子生徒は今にも女子生徒を殴りそうだ。
零斗と勇牙はそれを見るとすぐにその場に介入する。
「何してるんですか!」
零斗が男子生徒と女子生徒の間に入る。
「ああ!?関係ねえだろテメェは!引っ込んでろ新入生!」
男子生徒の拳が冷気を纏う。
「なっ、冷気系!?」
「どけえええええ!!!」
冷気を纏った拳が零斗の顔面を殴ろうとしたその時、
「なぁ、先輩?女や後輩を殴るってのは、ちょっとカッコ悪くねえか?」
勇牙の燃える手が冷気を纏った拳を受け止める。
「それに『女の分際で』などと言う男尊女卑の発言、時代錯誤も甚だしい。それが先輩として正しい姿ですか?」
勇牙の言葉に加えて零斗も男尊女卑の発言に言及する。
「うるせえ!黙って聴いてりゃ、ずべこべとぬかしやがって。粋がるなよ!後輩!」
反対の拳でクリオキネシスを使い男子生徒が零斗を殴ろうとする。
「そこまでよ!」
声のする方には別の女生徒が居た。制服の色からして三年生だろう。
「風紀委員の音霊 仁音です!戦闘体制を解きなさい!」