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異能戦線-Chronos or BASIC-  作者: 崇詞
真世界反乱編
103/103

真世界反乱編XV:瞳

 21:31。 

「あ?」

「えっ?」

 一途が囚われている地下へ急ぐ、朝日 焔(あさひ ほむら)の目の前に、真世界の一般構成員のローブを纏った茶髪の男が横切る。

「チッ!どけッ!」

「ちょ!ちょっと待て!俺は・・・」

 弁明の暇さえ無く、問答無用で放たれた地獄級炎熱(ヘルフレイム)。その灼熱の豪華な中から、早坂 零斗(はやさか れいと)が現れる。


───効いてねえ!?燃やせたのはローブだけか?




 遡ること数分前。

「・・・いいこと思いついた!」

 フィンガースナップの後、そう呟く零斗。

 先ほど倒した一般兵からローブを剥ぎ取る。

「これなら、余計な戦闘をせずに先に進めるだろ。」

 この時の零斗は想定していなかった。自分を知らない、高専側の人間と鉢合わせる可能性を。




「ちょっと、話を聞いてくれ!」

「ウチは宗教勧誘お断りなんだよ!」

「違うから!」

 焔が放つ炎を、不可視の壁が阻み、地獄級炎熱と呼ばれた炎は、零斗には届かない。

「まっ!ちょっと待て!俺は高専生だ!」

「ハッ!学生のうちから変な宗教にどハマりとは!感心しねえなあ!」

 ボクシングのミット打ちのように、豪炎の拳をその壁に打ちつける焔。ミット打ちと違うところは、殴る側に明確な殺意があることだろう。

「違うから!話を聞いてくれ!」

「だから!聞く耳持たねえって言ってんだろッ!」


「俺は早坂一途の弟だ!」


「・・・・・は?」

 その言葉の刹那、まるで、時が止まったように、苛烈だった攻撃が止む。

「お前が?そ、そんなわけ・・・が、IDパス(学生手帳)見せろ!」

 手渡されたIDパスを開くと、早坂零斗の文字と、目の前の男と全く同じ顔の証明写真、そして・・・

「ランクX?なんだそれ。」

「ああ、俺の異能って、生体プログラムを解析しても原理不明らしくて・・・未知数って意味で。」

「は?なんだそれ。異能じゃねぇんじゃねえのか?・・・いや、とりあえず、お前があいつと同じ早坂って苗字で、東京校の生徒なのはわかった。だが、別に早坂って、特別珍しい苗字でもねえしな・・・」


───だが、目鼻立ちは確かに似てる。特に、青い瞳。そういや、銀髪は染めてるだけで、早坂一途(アイツ)も昔は茶髪だったか・・・


「チッ、わかったよ!攻撃して悪かった。」

「いや、紛らわしいことしてたのは・・・そうなので。」

 気まずい空気が流れる。だが、そんなことをしている暇は無い。

「い、行くぞッ!一刻も早くお前の姉貴を取り返さないと、国防的にもマズイ。」

「はい・・・」




 21:42。瓦礫が崩れる音を合図に、水の真と一級執行官、風の真とランクEXの二人が切り結ぶ。


───どっちの真も、こっちには攻撃してこない。風の真は明るい場所に出てきたことが不利に働いてる様子だし、ジョーカーさんも流石に一級執行官を二人も相手にしたら、僕まで狙う余裕無いか。


 地下。土に囲まれた地形ではあるが、土がそのまま露出しているわけではない。

 やはり、壁に阻まれる為、初撃の射出速度低下は仕方ないだろうが、とは言え、ここならば地上と違い、四方八方から土の剣を射出できる。


───少しでも隙ができれば、撃つ。


 どちらの真からも狙われていない為、どちらの真も狙い撃ちできる。

 そう思っていた矢先。風の真の詠唱が、律神の耳に届く。


 影の(Shadow)軍隊(Army)


「!?」

 周囲の影から、半透明な黒い人型が現れる。それこそ、影のようだ。

 その人型は、自身の身体と同質の剣を握っている。

「剣・・・なら。」

 自身の魔術で、土の剣を一振り作り出し、手に取る。


───剣比べは正直自信がない。人間や、哺乳類、鳥類、蜂中類なんかの動物相手なら、僕の精神感応(異能)で、動きを読めるけど・・・


 なんの脳波も読み取れない。と言うより、そもそも脳波が存在しないようだ。


───完全自立思考型の遠隔戦闘端末。どう出てく・・・


 思考が止まる。違和感の正体に目を向けると、影の剣が律神の腹部を貫いている。


「痛っ!」


───痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い


「Stay away. You're no match for a device like this.」


 片手で傷口を抑えながら、律神は悔しさをもう片方の拳の中に握り潰す。

 先ほど、この人型が発した英文。

 Stay away.(引っ込んでいろ。 )You're(お前は ) no match(所詮、) for a(この程度の) device(端末にすら)like this.(及ばない。)

 油断していたわけではない。ただ、人型の見た目に囚われていた。人型の端末ではなく、影の端末が人型をとっていると言う認識をしていれば、予測できる攻撃だった。

 その端末は右手に握られている剣の影を振るわず、胸の辺りを鋭利に、剣型に伸ばして律神を貫いた。

「馬鹿がッ!」

 風の真と戦っていたはずの王里(おうさと)・ゴルドモンキー・天馬(てんま)が、駆け寄ってくる。

「くたばるなら、せめて地上でくたばれッ!邪魔だッ!」

 口調は厳しいが、肉体再生の黒い箱を取り出し、治療してくれている。律神自身も治癒魔術を同時に使用し、なんとか横腹の穴を塞ぐ。


───意外だ。第三位、王里・ゴルドモンキー・天馬。もっと傲慢な人だと思ってたんだけど。僕なんかを助けたりもするんだ。


 その治療の隙をつき、人型と風の真が挟み撃ちを仕掛ける。

「天馬君!」

 姿こそ、女軍人といった風貌に化けているが、九尾 夜留(つずらお よる)が人型と律神の間に入り、天馬は背後を貫かんとする、風の真のナイフを受け太刀する。

 ランクA相当の上質な錬鉄系(メタルキネシス)で作り出された剣すら軋ませる威力。さすがは組織のトップといったところだろう。

 だが、先程までの闇の中に紛れていた頃と比べると、明らかに弱い。それは闇討ちが得意とかそんなレベルではない。もっと根本的に・・・

「闇の中に紛れることで身体を強化する何か・・・魔術ではないな?『加護』と言ったところか?」

「っ!?」

 無表情だったギャルの顔が崩れる。わかりやすく、図星を突かれたと言う表情だ。

「珍しいな。いや、「こんな時代にまだ加護を生まれ持つ人間がいたのか」と言うべきか。加護なぞ、神話の英雄などからしか聞かん。現代にも起きえるのだな。」

 その瞳は、ようやく真相に辿り着いた。

 真理の魔眼。天馬が生まれ持った、真実を見通し、目にした者、あるいは物の本質を知ることができる魔眼。それも、彼の魔眼は最上級の精度を持ち、軽い未来視の域にまで届いている。

 天馬は自らの魔眼を含め、魔術そのものを「所詮は過去の技術」と侮っていたため、その魔眼を意図的に使わないでいたのだが、先の九校戦の裏での追走劇を経て考えを改め、魔術と言う力を「科学が追い越すべき、偉大なる先達の奇跡」と認識したことで、使用するようになった。

 とは言え、魔力器官のない彼に与えられた魔術は、()()、真理を見通す力のみなのだが。

 風の真、ウィンディア・葉山(はやま)・サイクロンの、『宵闇の加護』の秘匿が解け、その本質を見通した天馬は、先程までの焦り顔は何処へやら。今の天馬は笑みを浮かべている。ただし、その笑みは、「笑いかけている」などと言った平和なものではなく、闘争心と強者への興味を併せ持った、恐ろしい笑みだが。


 影の(Shadow)軍隊(Army)


 詠唱に応じて、先程に放った影のような人型が現れる。

「ほう、今度は多いな。20・・・いや、23体か。だが、焦ったな?多対一なら、黒い箱(ブラックボックス)の得意分野だぞ!!!」

 天馬の周囲に展開された無数の黒い箱が開き、その中の数々の異能が待機する。


「伏せろ!」


 その言葉と共に、夜留達が身を屈めるた瞬間、待機していた異能達の一斉掃射によって、影の軍隊を文字通り一掃する。

「ちょっとちょっとー!危ないじゃないの!」

 水の真と戦っていたアルトリウス・レイバーが、こちらに向けて文句を垂れる。共に戦うバルリア・アンラ・トシティのクールさを、少しは見習って欲しいモノだ。

「・・・ッ!王里天馬ああああああああああッ!」

 窮鼠猫を噛むと言わんばかりに、追い詰められた風の真は、周囲の風を纏い、荒ぶり出す。

「なるほど!突風系(エアロキネシス)か!だが、今更異能を出すあたり、そろそろお前も後がないと見えるぞ!」

 黒い箱から突風系(エアロキネシス)を取り出して自身に付与し、風の真の荒ぶる風を支配しにかかる。お互いの異能の干渉力が拮抗し、空間が軋み始める。


 その軋む空間を空気の刃が切り裂く。


「姉さんを、返せ。」

 その声の主、零斗が、焔と共に現れる。


 21:56。運命の時間まで、残り4分。

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