真世界反乱編XV:瞳
21:31。
「あ?」
「えっ?」
一途が囚われている地下へ急ぐ、朝日 焔の目の前に、真世界の一般構成員のローブを纏った茶髪の男が横切る。
「チッ!どけッ!」
「ちょ!ちょっと待て!俺は・・・」
弁明の暇さえ無く、問答無用で放たれた地獄級炎熱。その灼熱の豪華な中から、早坂 零斗が現れる。
───効いてねえ!?燃やせたのはローブだけか?
遡ること数分前。
「・・・いいこと思いついた!」
フィンガースナップの後、そう呟く零斗。
先ほど倒した一般兵からローブを剥ぎ取る。
「これなら、余計な戦闘をせずに先に進めるだろ。」
この時の零斗は想定していなかった。自分を知らない、高専側の人間と鉢合わせる可能性を。
「ちょっと、話を聞いてくれ!」
「ウチは宗教勧誘お断りなんだよ!」
「違うから!」
焔が放つ炎を、不可視の壁が阻み、地獄級炎熱と呼ばれた炎は、零斗には届かない。
「まっ!ちょっと待て!俺は高専生だ!」
「ハッ!学生のうちから変な宗教にどハマりとは!感心しねえなあ!」
ボクシングのミット打ちのように、豪炎の拳をその壁に打ちつける焔。ミット打ちと違うところは、殴る側に明確な殺意があることだろう。
「違うから!話を聞いてくれ!」
「だから!聞く耳持たねえって言ってんだろッ!」
「俺は早坂一途の弟だ!」
「・・・・・は?」
その言葉の刹那、まるで、時が止まったように、苛烈だった攻撃が止む。
「お前が?そ、そんなわけ・・・が、IDパス見せろ!」
手渡されたIDパスを開くと、早坂零斗の文字と、目の前の男と全く同じ顔の証明写真、そして・・・
「ランクX?なんだそれ。」
「ああ、俺の異能って、生体プログラムを解析しても原理不明らしくて・・・未知数って意味で。」
「は?なんだそれ。異能じゃねぇんじゃねえのか?・・・いや、とりあえず、お前があいつと同じ早坂って苗字で、東京校の生徒なのはわかった。だが、別に早坂って、特別珍しい苗字でもねえしな・・・」
───だが、目鼻立ちは確かに似てる。特に、青い瞳。そういや、銀髪は染めてるだけで、早坂一途も昔は茶髪だったか・・・
「チッ、わかったよ!攻撃して悪かった。」
「いや、紛らわしいことしてたのは・・・そうなので。」
気まずい空気が流れる。だが、そんなことをしている暇は無い。
「い、行くぞッ!一刻も早くお前の姉貴を取り返さないと、国防的にもマズイ。」
「はい・・・」
21:42。瓦礫が崩れる音を合図に、水の真と一級執行官、風の真とランクEXの二人が切り結ぶ。
───どっちの真も、こっちには攻撃してこない。風の真は明るい場所に出てきたことが不利に働いてる様子だし、ジョーカーさんも流石に一級執行官を二人も相手にしたら、僕まで狙う余裕無いか。
地下。土に囲まれた地形ではあるが、土がそのまま露出しているわけではない。
やはり、壁に阻まれる為、初撃の射出速度低下は仕方ないだろうが、とは言え、ここならば地上と違い、四方八方から土の剣を射出できる。
───少しでも隙ができれば、撃つ。
どちらの真からも狙われていない為、どちらの真も狙い撃ちできる。
そう思っていた矢先。風の真の詠唱が、律神の耳に届く。
影の軍隊。
「!?」
周囲の影から、半透明な黒い人型が現れる。それこそ、影のようだ。
その人型は、自身の身体と同質の剣を握っている。
「剣・・・なら。」
自身の魔術で、土の剣を一振り作り出し、手に取る。
───剣比べは正直自信がない。人間や、哺乳類、鳥類、蜂中類なんかの動物相手なら、僕の精神感応で、動きを読めるけど・・・
なんの脳波も読み取れない。と言うより、そもそも脳波が存在しないようだ。
───完全自立思考型の遠隔戦闘端末。どう出てく・・・
思考が止まる。違和感の正体に目を向けると、影の剣が律神の腹部を貫いている。
「痛っ!」
───痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
「Stay away. You're no match for a device like this.」
片手で傷口を抑えながら、律神は悔しさをもう片方の拳の中に握り潰す。
先ほど、この人型が発した英文。
Stay away.You're no match for a devicelike this.
油断していたわけではない。ただ、人型の見た目に囚われていた。人型の端末ではなく、影の端末が人型をとっていると言う認識をしていれば、予測できる攻撃だった。
その端末は右手に握られている剣の影を振るわず、胸の辺りを鋭利に、剣型に伸ばして律神を貫いた。
「馬鹿がッ!」
風の真と戦っていたはずの王里・ゴルドモンキー・天馬が、駆け寄ってくる。
「くたばるなら、せめて地上でくたばれッ!邪魔だッ!」
口調は厳しいが、肉体再生の黒い箱を取り出し、治療してくれている。律神自身も治癒魔術を同時に使用し、なんとか横腹の穴を塞ぐ。
───意外だ。第三位、王里・ゴルドモンキー・天馬。もっと傲慢な人だと思ってたんだけど。僕なんかを助けたりもするんだ。
その治療の隙をつき、人型と風の真が挟み撃ちを仕掛ける。
「天馬君!」
姿こそ、女軍人といった風貌に化けているが、九尾 夜留が人型と律神の間に入り、天馬は背後を貫かんとする、風の真のナイフを受け太刀する。
ランクA相当の上質な錬鉄系で作り出された剣すら軋ませる威力。さすがは組織のトップといったところだろう。
だが、先程までの闇の中に紛れていた頃と比べると、明らかに弱い。それは闇討ちが得意とかそんなレベルではない。もっと根本的に・・・
「闇の中に紛れることで身体を強化する何か・・・魔術ではないな?『加護』と言ったところか?」
「っ!?」
無表情だったギャルの顔が崩れる。わかりやすく、図星を突かれたと言う表情だ。
「珍しいな。いや、「こんな時代にまだ加護を生まれ持つ人間がいたのか」と言うべきか。加護なぞ、神話の英雄などからしか聞かん。現代にも起きえるのだな。」
その瞳は、ようやく真相に辿り着いた。
真理の魔眼。天馬が生まれ持った、真実を見通し、目にした者、あるいは物の本質を知ることができる魔眼。それも、彼の魔眼は最上級の精度を持ち、軽い未来視の域にまで届いている。
天馬は自らの魔眼を含め、魔術そのものを「所詮は過去の技術」と侮っていたため、その魔眼を意図的に使わないでいたのだが、先の九校戦の裏での追走劇を経て考えを改め、魔術と言う力を「科学が追い越すべき、偉大なる先達の奇跡」と認識したことで、使用するようになった。
とは言え、魔力器官のない彼に与えられた魔術は、今は、真理を見通す力のみなのだが。
風の真、ウィンディア・葉山・サイクロンの、『宵闇の加護』の秘匿が解け、その本質を見通した天馬は、先程までの焦り顔は何処へやら。今の天馬は笑みを浮かべている。ただし、その笑みは、「笑いかけている」などと言った平和なものではなく、闘争心と強者への興味を併せ持った、恐ろしい笑みだが。
影の軍隊。
詠唱に応じて、先程に放った影のような人型が現れる。
「ほう、今度は多いな。20・・・いや、23体か。だが、焦ったな?多対一なら、黒い箱の得意分野だぞ!!!」
天馬の周囲に展開された無数の黒い箱が開き、その中の数々の異能が待機する。
「伏せろ!」
その言葉と共に、夜留達が身を屈めるた瞬間、待機していた異能達の一斉掃射によって、影の軍隊を文字通り一掃する。
「ちょっとちょっとー!危ないじゃないの!」
水の真と戦っていたアルトリウス・レイバーが、こちらに向けて文句を垂れる。共に戦うバルリア・アンラ・トシティのクールさを、少しは見習って欲しいモノだ。
「・・・ッ!王里天馬ああああああああああッ!」
窮鼠猫を噛むと言わんばかりに、追い詰められた風の真は、周囲の風を纏い、荒ぶり出す。
「なるほど!突風系か!だが、今更異能を出すあたり、そろそろお前も後がないと見えるぞ!」
黒い箱から突風系を取り出して自身に付与し、風の真の荒ぶる風を支配しにかかる。お互いの異能の干渉力が拮抗し、空間が軋み始める。
その軋む空間を空気の刃が切り裂く。
「姉さんを、返せ。」
その声の主、零斗が、焔と共に現れる。
21:56。運命の時間まで、残り4分。




