真世界反乱編XIV:再会
「久しぶりだな。あんなによくしてやってたのに、裏切りやがって。」
水の真アックア。いや、ジョーカー・ジョーダンは、言葉に反して口調と表情は穏やかだ。
「ジョーカーさんこそ、魔術連合上層部の改革派の若きエースが、今やテロ組織のリーダーですか?」
逆に得木 律神の表情には緊張が読み取れる。面接中の就活生に似た強張った笑みが張り付いている。
「・・・上層部の、特に保守派はほとんど腐っててな。保身、世襲、利権に賄賂の温床。特に、魔術の秘匿価値に関しては、どうしても撤廃させない感じだったからな。」
魔術連合では、その魔術の詳細を知るものが少ないほど、価値のある魔術として扱われる。これを秘匿価値と言う。
この秘匿価値によって、魔術師の家系の貴族化と、一般に魔術が普及しない魔術師達の魔術の独占が起きる。
これを良しとする貴族主義の保守派。
民主主義的な思想を持って、これを問題視し改善を目指す改革派。
そして、中立派の三派閥が醜い権力争いを繰り広げるのが魔術連合の上層部だ。
ジョーカーは改革派の先頭に立ち、保守派と戦っていた。
「でも、それは個人・・・いや、家計単位で見れば、寧ろライバルを増やすことになる。」
律神は振り返らなかった。いや、その必要は無かった。その声の主・・・忘れられるわけがない。アルトリウス・レイバーのものだ。
「律神ちゃん久しぶりー!まーだ男子の制服着てるの?」
「アルト、リウスっ!」
「おー!怖い怖い!」
絵に描いたような軽薄さで、おちゃらけて見せるハゲを、律神は恐れず真っ直ぐ睨み付ける。
「でも、良い目になったねー。半ば諦観を孕んでた、以前の目付きとは違う・・・生まれ持った家、性別、組織。それらに抗う覚悟がちゃんと宿ってる・・・・・これは、台無しにしがいがありそうだ。」
舌なめずりをするアルトリウスに、目の前の男に強姦を受けた時の、最も悍ましい記憶が蘇る。
恐怖や嫌悪感に呑み込まれ、少し後ずさる律神。
「アルトリウス!」
興奮するアルトリウスを諌める声。その声の方に目線を向ける。
赤紫の髪かきあげるスーツの女、バルリア・アンラ・トシティが、拳を握りながらこちらに歩みを進める。
「魔術連合執行部の、それも一級執行官が二人か・・・」
「今はソイツに構っている場合じゃない。ジョーカー・ジョーダンを捕らえることが先決だ。」
「ソイツね・・・」
零斗が意識不明だった4ヶ月間で、死に物狂いで強くなった律神だが、それでも一級にとってはただの脱走者。脅威には成れていないのだ。
───とはいえ、一途さんが捕らえられている状況だ。零斗の為にも、日本の国防の観点でも、今、一級執行官とやり合うより、協力してジョーカーさんから一途さんを取り戻すべきだ。
───と、律神ちゃんも思ってるはず。ここは律神ちゃんにタイミングを合わせて・・・
アルトリウスの気味の悪いニヤケ顔を横目に、ジョーカーに向かって手を翳す。瞬間、左右の壁を突き破り、それぞれ10ほどの土の剣がジョーカーを挟むように襲いかかる。
呪われし井戸に、水は溢れ!
律神の攻撃に合わせて、アルトリウスの詠唱が生じさせた濁流が正面からジョーカーに襲いかかる。
それぞれの方角からの攻撃が間近に迫った時。
止まれ。
そう聞こえた・・・次の瞬間。
土の剣達も、濁流も、動きを止めた。
「出たな。言霊魔術。」
バルリアがそう呟く。
言霊魔術。第六系統に属する魔術。特殊な言語で発音した言葉によって、極、小範囲の『世界を操る魔術』。
世界に言語が一つしかなかった時代。その言語はそのまま神の言語だとされ、神、『 』の言葉は、世界すら書き換える。すなわち第六権能に繋がると考えられた。
その結果生まれた言霊魔術は、結果的にはそれを極めたジョーカーでさえも、手足の届く範囲しか効果が出ない。そもそも、その「神の言語」が現存していない以上、真にその魔術が完成することは無いのだが、一小節の詠唱で発動できる即時性を備えている点を評価され、ジョーカー・ジョーダンの代名詞になっている。
「さて、22時・・・つまり、午後10時まで、早坂 一途をコールドスリープしたカプセルを守り抜かなければいけない分けだが・・・」
警戒の眼差しをバルリアやアルトリウスに向けるジョーカーは、腰のホルスターから銃を取り出す。 だがそれは、見慣れない銃だった。
銀色の金属で構成されたボディは、軍用火器というよりも、実験装置をそのまま携行武器に落とし込んだような造形をしている。
銃身は短く、だが無駄な装飾は一切ない。
銀色のボディは銃身からグリップに至るまで継ぎ目が少なく、銃口下部にある直方体ユニットもまた、後付けではなく最初から一体として成形されている。
弾倉にしては外せず、冷却装置にしては異様に密閉されている。
「私は、真の席についていながら、異能力者ではなくてね。小道具を使わせてもらう。」
その異形の銃をしっかり構え、引き金を引く。
その瞬間、放たれたのは弾丸ではなく、水流。
それも、後を置き去りにする速度と、焼き鳥の串のような細さ。
それでいて、普通の水鉄砲のように水流は分散せず、串の細さを保ったまま、回避しようとしたアルトリウスの右肩を貫く。
「グウッ!い、今のは・・・!?」
「心臓を狙ったんだが、この速度に反応するか・・・っ!止まれ!」
詠唱に応じて、鉄の剣がジョーカーのこめかみの数寸手前で停止する。
「チッ、第三位と四位もご到着か。」
暗闇の通路から王里・ゴルドモンキー・天馬と、九尾 夜留も現れる。
だが、普段の天馬の余裕ある風格は今の二人にはなく、明らかに焦っている。
「開けた明るい場所に出たな!」
そう、安堵した様な声を漏らす天馬。だが次の瞬間、風を裂く音と共に、黒塗りされたナイフが天馬達が出てきた通路から、天馬の脳天目掛けて迫る。
「ッ!」
なんとか、その手に握られた剣で弾く天馬だったが、すでに息が上がっている。
ランクEX第三位を、しかも、その傍には第四位もらいる状況でこれほど消耗させる様な相手が、その通路から現れ・・・ない?
「後ろだ!緑髪!」
天馬の声がその空間に響く。その言葉を聞き、後ろを振り返える瞬間、律神の軸足を鈍い痛みが襲う。
「ぐっ!」
そのまま体勢を崩す律神の眼前を、黒塗りのナイフが通り過ぎる。
「な、何が起きて・・・」
辺りを見回す律神。天馬の肩の上に開いた黒い箱、そして目の前の黒髪の少女の手に握られたナイフ、床に転がる鉄の棒。
どうやら、この少女に首を切られそうになったところを天馬が助けてくれた様だ。
「ウィンディア!生きてたんだね。まあ、君なら当然か?」
「アックア。あなたもご無事な様で何よりです。」
ジョーカーとウィンディア・葉山・サイクロンもお互いの無事に安堵する。
だが・・・
「まあ、まだ気を抜ける状況じゃないけどね。」
目の前には、一級執行官二人、ランクEX第三位と四位、それと成長した元部下。さらに時が経てば、第二位や早坂一途の弟もここに辿りつくだろう。
「さて、踏ん張りどころだね。」
「斬!」
不可視の刃がその不気味なローブを肉ごと切り裂く。
「クソっ!真世界の一般兵でも、こんだけ会敵してると時間を取られる!
一人一人はそこまで強いわけではないが、殺さないように手加減すると、秒殺できるほどではない。
それに、問題はその数だ。人海戦術とまではいかないが、1フロアに100人近くもいる。
全てとやり合うわけではないが、会敵する度にやり合っていては、いつまで経っても、姉さんの元に辿り着けない。
「・・・いいこと思いついた!」




